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「オンライン投票」にしていたら大量の不正が横行していた…紙で投票する「日本式選挙」が結局最強なワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月17日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/twinsterphoto

選挙におけるオンライン投票の導入はなぜ進まないのか。社会学者の西田亮介さんは「オンライン投票を実現するには、不正投票の防止や安定したシステム運用が必要になる。多大なコストをかけなければ、一定のレベルの選挙ガバナンスを維持できない」という――。

※本稿は、西田亮介、安田洋祐『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■オンライン投票はなぜ解禁されないのか

投票行動、投票率の低下について考えるといったときに、「オンライン投票を解禁すればいい」という議論になりがちです。ITにくわしいという与野党の議員の人たちも、マイナンバーカードを使えばオンライン投票は全然大丈夫だといいます。

しかし、ぼくはリスクがいろいろな形で存在すると考えます。

選挙管理、選挙ガバナンスという分野があって、日本の選挙ガバナンスはかなり厳格だと考えられています。投票所の管理などもそうですし、次の選挙まで紙の票を残しておくとかもそうです。厳封して保管しておいて、もし不正があったら箱を出してきてもう1回見るわけですね。

実際、筆跡が同じような投票用紙がたくさんあって投票不正が露呈したことがありました。それができるのも厳封して紙で残しておいて、不正利用の際にはもう1度開くからです。

■宗教団体が一箇所に人を集めて投票させることも可能に

選挙ガバナンスという点では、海外は案外雑です。投票に立会人を立てたりする国ばかりではないのです。「日本式選挙」はとても日本的というか、きめ細やかで、厳しく運用されています。これはそれほど当たり前のことではないのです。

ですから選挙ガバナンスを一定の基準に保ったままオンライン投票ができるかというと、とても難しいし、極めてコスト高だと考えます。

なぜかといえば、1つ目は選挙ガバナンスを維持するコストが上乗せでいま以上にかかるからです。

たとえばオンライン投票できる人を投票日に宗教団体が1カ所に集めるとします。新興宗教の人が見ていて、「さあ投票してください」となると、選挙の秘密投票の原則を守れません。これは杞憂かというとおそらくそんなことはなく、日本には宗教団体など、利益団体がたくさんあります。あり得そうじゃないですか?

高齢者も同じです。病院などで認知能力が衰えた高齢者の方に対して、「おじいちゃんおばあちゃん、ボタンを押してあげますから」といったことも簡単にできてしまいます。随所でこういう選挙不正が起こる可能性があるときに、マイナンバーカードでは人間が介在する不正は防げません。

ですから、オンライン投票で従来の選挙ガバナンスの厳格さを維持するのは極めてコスト高だと考えられそうです。

■開票作業にかかる時間が伸びてしまう

2つ目は、開票のコストです。

オンライン投票を現行の仕組みで導入する場合、普通に考えればおそらく紙の投票はなくせません。突然保険証をなくしてマイナ保険証にする国ですから、いきなり紙の投票を取りやめてすべて電子投票にする可能性はゼロとはいえませんが、いちじるしく低い。そうすると、多分、投票の種類が4種類になるわけですね。期日前投票と当日投票があって、投票用紙とオンライン。2通り×2通りで4通りになります。

投票結果を出すためには、これらを突合しなければなりません。そうすると、いまのように投開票から数時間とか、翌日までに投票結果を出すのは難しくなるはずです。二重投票や不正を弾く必要もあります。4通りの投票がきちんと統合的かつ横断的に運用されなければなりません。かなり大変そうです。

■各所でシステムダウンが続く社会で安定した運営ができるか

3つ目は運営コストの問題です。いま、投票所などのコストは選挙管理委員会がすごく分散化していて負担しています。要するに都道府県が負担しているんですね。

では、オンライン投票のシステムは誰がコストを負担して設置するのか。

たとえば各都道府県がこうした仕組みをばらばらに用意するとは考えにくい。だから国が行なうと考えるほかありません。そもそもシステムを整備するのに、ものすごいコストがかかります。第一、システムダウンしてはいけないわけです。

だけど最近の日本のシステムはすぐダウンします。新型コロナの特定定額給付金のシステムもろくに使えませんでした。マイナンバーのシステムがほかの人の番号を出すとか、こういうことは、いまの基準における電子投票システムでは決して起きてはいけないわけです。

それに投票日に多分アクセスが集中します。それでもダウンしてはいけません。

そんなシステムを作れるのかということです。

都道府県からすれば、ただでさえ財政難なのに、こんなシステムはとても作れないから国がやってくださいということになるでしょう。実現できそうでしょうかね。

「マイナンバーカードがあればできる」ということをDX推進派の国会議員やネット選挙にくわしいと名乗る人もかなり簡単に言いますが、ぼくは懐疑的です。

また、頑張ってこのシステムを仮に導入したとしてランニングのコストもかかります。

■オンライン投票には経済的メリットがない

これらを総合的に見て、いま選挙管理にかかっているコストを引き下げられるでしょうか。多分ムリで、経済的にはあまりメリットがなさそうです。

これらを踏まえると、オンライン投票は実現が難しそうであることにくわえて、あまり実質がなく、アナログで残しておくのも致し方ないのではないでしょうか。

投票所で投票用紙を投じる人の手
写真=iStock.com/bizoo_n
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bizoo_n

もう1つは、逆にいまの選挙ガバナンスの規範をゆるめるという考え方はあり得るかもしれません。こんなに厳格な選挙管理は必要ないということであれば、オンライン投票もあり得るかもしれません。不正を防ぐために投票立会人がいて、開票時には開票立会人がいます。それを別にいなくてもいいよと考えるのであれば可能です。

それから前述した、分散して生じうるような投票不正、宗教団体が人を集めて投票させるようなものについてリスクを無視するのであれば、オンライン投票を受け入れられるでしょう。とはいえ、前述の理由からあんまりよさそうな感じはしません。

■世界的に見ても先進国での導入事例はごくわずか

ちなみに、日本で選挙制度の改革は基本的に政党で議論して決めます。政党の合意で決めていくことで、政治マターだと考えられています。

ですから、選挙を所掌する総務省は選挙制度の改革について積極的には提案しません。

電子投票も含めて規制改革の文脈でときどき議論が出てきていますが、総務省では近年議論していないので、実務的な検討はほとんどされてないのが現状です。

また、先進国でオンライン投票を導入した国もほとんどありません。そんななかエストニアは電子投票を行なっていますが、それでも期日前投票だけです。ほかにもブラジルなどの地方選挙で行なわれているものの、アメリカや欧州の国政選挙での実施例はほとんどありません。

■機械式投票機をめぐって起きたトラブル

日本ではオンライン投票のはるか手前で、機械式投票が検討されたことはあります。法律上は、地方選挙に限って、ボタン式の投票機の導入が2000年代にできるようになっています。制度上はいまもできます。

西田亮介、安田洋祐『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(日本実業出版社)
西田亮介、安田洋祐『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(日本実業出版社)

でも、ほとんどの方は見たことないはずです。なぜ広まらないかというと、2003年に岐阜県可児市の市議選で機械式投票機を導入しましたが、当日機械が不具合を起こしました。

その結果どうなったかというと、最高裁まで行って選挙無効になりました。投票機が不具合で選挙無効。そんなリスキーなことをやりたくないということになって、制度としてはいまもできるのですが、導入する自治体はその後ほとんど出ませんでした。

しかも、機械式投票機は当然ですが、いろいろなスペックが決まってるわけです。これを作っていた唯一の会社が生産を終了してしまって、いまは機械式投票マシンを製造する業者が日本に存在しないので、事実上、機械式投票はできないという少しおもしろい話があります。

【安田】
ここまでのお話を踏まえると、投票所はある意味安心して投票できる環境を作っているわけですね。いまの選挙の仕組みを我々は当たり前だと思っているから特殊な感じはしないですが、実は結構スゴいことということですね。

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西田 亮介(にしだ・りょうすけ)
日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授
1983年京都生まれ。博士(政策・メディア)。専門は社会学。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)ほか多数。

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安田 洋祐(やすだ・ようすけ)
大阪大学経済学部教授
1980年東京生まれ。専門は経済学。ビジネスに経済学を活用するため2020年に株式会社エコノミクスデザインを共同で創業。メディアを通した情報発信、政府の委員活動にも積極的に取り組む。著書に『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP・共著)、監訳書に『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(東洋経済新報社)など。

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(日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授 西田 亮介、大阪大学経済学部教授 安田 洋祐)

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