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踊る"クラブ街宣"が振りまいたバブルの匂いと強烈な内輪受け感…蓮舫氏が女性・若者にそっぽを向かれたワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月16日 16時15分

2024年7月6日、新宿で最後の訴えをする蓮舫氏 - 写真=共同通信社

7月7日に投開票が行われた東京都知事選挙は、「現職の小池百合子氏と蓮舫氏の一騎打ち」という当初の予想を裏切り、石丸伸二氏が2位に食い込む結果となった。武蔵大学社会学部教授の千田有紀さんは「蓮舫氏は、あきらかに浮動票をつかみ損ねた。政策以前に選挙の『やり方』がまずかったのではないか」という――。

■ネットで知名度を上げた石丸氏

小池百合子都知事が再選されるとは思っていたが、対抗馬は蓮舫氏だと思っていた。2位に石丸伸二氏がつけるとは、まさかの事態である。しかも、24.3%という驚異の得票率である。TikTokなどでの切り取りショート動画を駆使して、瞬く間に知名度をあげた。

若い人に聞くと、「選挙後のインタビューの受け答えの意味がわからないうえに攻撃的で、あまりの印象の違いにびっくりした」という人が多くいた。リアルのやり取りを見て、ショート動画での好印象が覆ったのだという。

確かに言葉の「定義」をめぐって、延々と攻撃的に相手を問い詰める様子を映した動画を見ていると、「この人とともに実務をやっていくのは大変なのではないか」と感じてしまう。とくに女性に対してのあたりがきつく、人によって対応をかなり変える様子が見受けられた。上に立たれたら大変そうだ。男性からの得票率が高く、女性からの投票が少ないのは、女性のほうがそれを敏感に察しているからなのではないかという気がした。

■Xで盛り上がった“石丸構文”vs“進次郎構文”

冗談のような話だが、思わぬところで「漁夫の利」を得たのは、小泉進次郎氏だったようだ。Xでは盛んに、「“石丸構文”と“進次郎構文”の違い」についての投稿がされており、ちょっとした“祭り”状態になっている。

例えば、「朝起きたら何しますか?」という問いに、石丸構文なら「起きるというのは精神の話ですか?……物理の話をされています? その定義も言わずに……」と延々と続くのだが、進次郎構文では「目が覚めると思います」。

典型的な世襲議員のひとりである小泉進次郎氏だが、育ちの良さを感じさせ、誰も傷つけない構文はよきものだと“うっかり”ホッとさせられた。いかにもX的な、ネット上のネタにすぎないのだが。

■浮動票をつかんだ石丸氏、つかみ損ねた蓮舫氏

石丸氏の強さは、新人であることに加え、自民党や公明党の支援を受ける小池氏、離党したとはいえ元は立憲民主党議員で、共産党と連携している蓮舫氏とは違って、政党の色がついていなかった点にもあるだろう。既存の政党に失望している人から見れば、石丸氏のしがらみのなさは、新鮮にうつったのかもしれない。そこでうまく、浮動票をつかんだのだろう。

対して蓮舫氏は、あきらかに浮動票をつかみ損ねたように思う。

今年4月に行われた衆議院東京15区の補欠選挙では、立憲民主党の候補は共産党と組むことで、両党の組織票をもとに、浮動票も獲得して、ダントツの1位で当選した。

しかしそのわずか2カ月余り後、政治と金の問題で自民党には逆風が吹き、政権交代もあり得るのではないかという声さえあったなかで行われた知事選で、まさか蓮舫氏が3位に沈むとは、立憲民主党では誰も想像もしていなかったのではないか。

立憲民主党代表代行の辻元清美氏は、「政党としても私個人としても、やっぱりもう古くなったのかな、もう通用せえへんのかな」とこぼしていたが、偽らざる本音だろう。

■政策以前に選挙の「やり方」に問題

私はここまで政策の話をなにもしていない。辻元氏の言うように、政策以前に選挙の「やり方」がまずかったと思っているからである。

4月の東京15区補選は元区議が候補であり、安定感があった。そういう選挙をすればよかったのである。

ところが都知事選では、共産党と組んだことで、近年の共産党と立憲民主党がもっている「弱点」が前面に出た。とくに取れるはずの女性票、そして若者の票を、ことごとく取り逃したと思われる。

■踊る“クラブ街宣”の「内輪受け」感

私が蓮舫氏の苦戦を確信したのは、新宿駅のバスタ新宿前で、音楽に合わせて踊る“クラブ街宣”動画がXで盛んに出回っているのをみたときである。

「蓮舫さんが昔踊っていた大好きな曲です。だからみんなも踊ってね!」「みんなすごいキレイだよ!」。そして「蓮舫! 蓮舫!」という掛け声とともにスマホの明かりを振り、30年以上前のドラマ「君の瞳に恋してる」の主題歌に合わせて熱狂的に踊るひとたち。

皮肉な話だが、おそらくこれを企画したのは若い人たちだろう。選挙対策本部も、若い層を取り込もうとしたのだと思う。しかし肝心の若者の大部分には、むしろバブルの匂いと「強烈な内輪受け」を感じさせたのではないか。そしてそれは、若者との分断をあぶり出す結果となってしまった。

東京都庁
写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

■動画拡散があらわにした感覚の「ずれ」

ロスジェネ世代の若者たちはそういう匂いに敏感であり、非常に嫌う。そして私たちのような本当のバブル世代からは、カラフルな光と相まって、「言いにくいけど、あのテロを起こした宗教団体の選挙を思い出した。ああいうのは、まっぴらごめん」というささやきを、本当に多く聞いた。

なぜあんな動画を拡散したのか。その「ずれ」が、今回の選挙の「ずれ」の最たるものだったように感じられた。

支持者向けのイベントならまだいいが、選挙は多くのひとから支持をとりつけなければならないのだ。

■「R」シール問題への対応

話題の「R」もそうである。選挙ポスターに「R」の文字が印刷されているのを見たときには、私も首をひねった。選挙前に「蓮舫=R」をしっかり浸透させておかなければ、ポスターを見た人には違和感しか残さない。ここでも“内輪受け感”を醸し出してしまう。

大量の白黒の「R」シールも、その印象を余計に強くしてしまった。知事選の期間中、東京の都心部で、電柱やガードレールなどに黒地に白抜きで「R」の文字が描かれたシールが大量に貼られたというものだ。蓮舫氏陣営は関与を否定しているが、小池氏サイドからは、蓮舫氏の支持者がやったのではないかという指摘があがる。

また「R」シールと一緒に「多民族都市東京」というシールが配布されていたという指摘もあり、その様子を撮った写真もネットには上がっている。実際、「R」と並んで「多民族都市東京」のシールが貼られている様子を写した写真は、SNSで多数投稿されている。海外でよくみるグラフィティアートの手法を、シールでやろうとしたのだろうか。

しかし、選挙は選挙である。一定のルールにのっとってやらねばならない。記者会見で「R」シールについて聞かれたときに、もし蓮舫氏が「私が指示したものではありませんが、皆さん速やかに剥がしてください。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と謝っていれば、どれほど好感度が上がっただろうと思う。こうしたルール破りや無責任さを、若者は過剰なまでに嫌うのだ。

■打ち出しが難しいメッセージ

またこうしたメッセージは、その主張の正誤はさておき、非常に打ち出すことが難しいものである。

「多民族都市東京」のひとつを取ってもそうだ。東京がすでに多民族都市であるというのは事実であるし、多民族と共存していかなければならないことも事実だろう。しかしいま、日本の置かれている経済的状況は、円安とコロナ後のインフレーションと相まって非常に厳しいものになっている。

■「多民族都市東京」が想起させた不安感

アメリカの都市などと比べると、東京は物価も給与も半分、下手をしたら3分の1というのが実感だ。海外旅行もほぼ難しくなってしまった。そんななかで、これまで発展させてきたインフラがあり、さらに格安である日本は、「安くてお得感があるだけ」の旅行先になっている。

押し寄せるインバウンドに対するいらだちがいま、随所で高まっている一方で、日本は安価な労働力として外国人に門戸を開いたばかり。こうして排外主義的な意識がくすぶっているなかで、「多民族都市東京」のステッカーを見て、蓮舫氏を投票先に選ぶ人がいるだろうか。不安を感じる人のほうが多いのではないか。

移民、環境、LGBT問題は、先進国では非常にセンシティブかつ、大きな争点になっている。それを考えれば、やり方としてはあまりに乱暴であった。“正義”と選挙は違うのだ。こうした支持者の暴走を止める必要があったのではないか。

■LGBT街宣の影響

また蓮舫氏自身も、LGBT街宣をおこなっている。

LGBTに対する差別は許されない。それは自明である。それに反対する人も今の東京では、もうすでにいないと信じたい。しかしあらためてLGBTを争点としてとりあげるのであったら、自民党が失速した理由のひとつがLGBT理解増進法の制定過程にあったことに、自覚的であってもよかったのではないか。

アメリカのエマニュエル駐日大使や欧州の大使らが法整備の必要性を訴えたり、G7の広島サミットに向けて議論が加速したこともあり、「外圧」に弱い自民党への反感もあった。実際に、LGBT理解増進法の成立を契機に、作家の百田尚樹氏らが立ち上げた日本保守党は、4月の衆議院東京15区の補選でもかなりの票を得ている。「LGBTフレンドリー」を強調することが、反自民層を取り込むかと言えば、必ずしもそうではないのだ。

とくに制定の過程で、法案の中の「全ての国民が安心して生活できること」という文言に反対して、「マジョリティであるシスジェンダー女性(性自認、身体の性ともに女性である人)に配慮する必要はない」と立民の議員や活動家が強く主張したことは、この問題に関心のある女性に複雑な思いを抱かせる結果となった。

■女性票の離反を招いた「代理母」や「控除」発言

また、2019年に蓮舫氏が、ニュージーランドで男性議員が同性パートナーとの間に代理母出産で子どもを授かり、子連れで議会に出席したことについて「この多様性を当たり前にしたい」とツイートしたことが“発掘”されてSNS上で話題になった。

これが一部では、代理母の肯定だと受け止められて批判を集めたが、蓮舫氏本人は特に否定しなかったことも、女性票を減らすことにつながった。例えばウクライナなどでは、代理母が合法化されており、外貨を稼ぐビジネスとなっている。国民皆保険制度が整備されている日本は、近年円安と物価の安さから、代理母ビジネスの格好の供給先になりえるという指摘もあり、警戒している女性たちもいるのである。

蓮舫氏が選挙中の演説で「現役世代は子どもが産まれれば、控除が増えていく」と発言したことにも、批判が集まった。実際は、子どもが生まれても税金が控除されることはなく、過去にあった、16歳未満の子どもがいる場合に税金が控除される「年少扶養控除」は、民主党政権時代の2011年に廃止されている。少子化担当大臣も経験した蓮舫氏が、年少扶養控除廃止を忘れたかのような発言に、大きな反発を集める結果となった。

控除廃止の代わりに支給が始まった子ども手当は、0歳から中学卒業までの子どもに支援金を支給するものだったが、翌年には廃止され、所得制限のある児童手当が始まっている。つまり、所得制限に引っかかって児童手当が受けられない、年少扶養控除の恩恵を得られたであろう層を、狙い撃ちにしたかのような増税効果をもたらしている。こうした背景から、蓮舫氏の発言は、子持ち世代の離反も招いた。

■「見方に背後から撃たれた」選挙後コメント

そして選挙の後、蓮舫氏を応援する「市民連合」がインスタグラムに「一生懸命に応援した蓮舫さんが、1年後には忘れ去られているのでなければテレビのコメンテーターになってそうな泡まつ候補に抜かれてしまったのは、深く傷つく経験となりました」と投稿しているのを見たときには仰天した。

「泡まつ候補」は、石丸氏を指すとみられている。蓮舫氏を応援するあまりのことだろうが、蓮舫氏にはマイナスにしかならない。これでは味方に後ろから撃たれるようなものではないか。案の定、大きな批判があがり、蓮舫氏への否定的評価に結びついた。

蓮舫氏も応援する人たちも、いまは「結果を受け止めます」と静かにしているべき時だ。選挙が終わってなお、バッシングが止まない蓮舫氏が気の毒になるほどの状況だ。

選挙が政策以前に戦い方で決まってしまうことは、やや残念ではある。がしかし、その戦い方自体から、見えてくるものも多いことを実感させられた都知事選だった。

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千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人

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(武蔵大学社会学部教授 千田 有紀)

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