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石丸氏叩きは"石丸劇場"を盛り上げるだけ…「敵を増やして信者も増やす」トランプ氏との共通点

プレジデントオンライン / 2024年7月18日 9時15分

落選が決まった後、支援者らの前で発言する石丸伸二氏=2024年7月7日、東京都新宿区 - 写真提供=共同通信社

■「燃料」を本人が投下している

東京都知事選で若者から多くの支持を受けて165万票を獲得して一躍、「時の人」となった前広島県安房高田市前市長の石丸伸二氏がメディアでボロカスに叩かれている。

石丸伸二氏に早くも寄せられる「オワコン化」の声「一夫多妻制」発言に「考えが浅いなぁ」批判集中(FLASH7月15日)
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「胸糞悪すぎ」石丸伸二氏 選挙特番での元乃木坂・山崎を“フルボッコ”も違和感噴出(女性自身7月9日)

しかし、ご本人はそんな批判もどこ吹く風で、まるで挑発をするように続々と「燃料」を投下している。例えば、テレビ朝日系「グッド!モーニング」の単独インタビューに応じて、開票速報番組で、質問をしてきた出演者たちと会話がかみ合わなかったことを以下のように振り返った。

「内心、おちょくってました」
「ムキになってる、ムキになってるって」

これを受けてネットやSNSでは「こんな人を政治家にしてはいけない」「確かにピントのズレた質問や誘導も多いけれど、相手を見下す態度は人としてどうか」などと石丸氏を批判する声が溢れている。

■「マスゴミ」による批判は逆効果

ただ、もし本当に石丸氏を政治家にしたくないと思っているのならこのような批判は逆効果だ。やればやるほど「石丸劇場」が盛り上がり、知名度が全国区になって「信者」が増えていくことにしかならない。

これまでの言動を見る限り、石丸氏が意図的に「敵」をつくって世間の注目を集めて、「戦う政治家」というセルフブランディングをしていくという手法をとっているのは明らかだ。なにせご本人がそう言っている。

例えば、安芸高田市長だった今年2月、「産経新聞」からメディアを敵視して執拗に批判をする理由を尋ねられて、「安芸高田市の生き残り戦略として、知名度・認知度を上げる。悪名は無名に勝る」と答えて、その真意をこう説明した。

「粘着質に見えると思うが(首長は)基本、勝ち目はない。(マスコミは)第四の権力と呼ばれているが、実は一番強い。ただ『マスゴミ』という言葉が言われるくらい、マスコミに対する国民の反感があり、(マスコミを批判する)私のスタンスは(世の中に)響くんじゃないかな、と思いました。知名度を上げると同時に、社会に対し効果的な発信になるんじゃないかなと」

(「タイミングを見計らっていたが見事にはまった」 メディア批判続ける安芸高田市長、一問一答 産経新聞24年2月1日)

つまり、石丸氏はただ怒りに任せて攻撃しているわけではなく、知名度アップと「マスゴミ」への不満を感じる層の支持獲得のため、戦略的にメディアを「敵」として位置付けているのだ。

■信者たちは「彼こそ本物の政治家だ」

こういう石丸氏の考え方を理解すれば、開票速報や選挙後で質問をしてきたアイドルや評論家にとった態度もそれほど不思議ではないだろう。

「感じが悪い」「高圧的だ」「質問をはぐらかせている」……マスコミからバッシングを浴びせられればられるほど、ニュースは石丸氏一色になる。ヤフーのランキングを見たら石丸氏の顔ばかりだ。もちろん、このようなニュースがあふれたら不快に感じる人もあらわれる。「よく知らなかったけれど、この石丸ってヤバい人じゃん」「すごい政治家かと思ったらメッキがはがれたな」などとネガティブな印象を抱く人も増えるかもしれない。

しかし、一方で「強烈な石丸信者」も増えていくことも忘れてはいけない。「マスゴミ」への不満や憎悪を抱く層からすれば、石丸氏へ向けられている批判は、「忖度なく本当のことを言う政治家への理不尽なバッシング」という認識だ。

だから、石丸氏が叩かれれば叩かれるほど「なぜ“本物”が潰されなくてはいけないのだ」と怒りが込み上げる。そして、「政治」に目覚める。日本を変えるには、石丸氏のような“本物の政治家”が必要だと熱心な支持者になっていくのだ。

■トランプ氏も「泡沫候補」だった

嘘だと思うのなら、ネットやSNSを見るといい。石丸氏への批判もあふれているが、それを踏まえて「どう見ても石丸氏の言っていることの方が正しい」「マスコミが必死で潰そうとしている」などと応援している人もそれなりにいる。こういう社会のバッシングに左右されない「岩盤支持層」をつくることができた政治家をナメてはいけない。

それは「あんなのが大統領になったらアメリカはおしまいだ」とヤバい泡沫候補扱いをされていた時のドナルド・トランプ氏を見れば明らかだろう。

忘れている人も多いが2016年の大統領選に出馬した当初、ヒラリー・クリントン氏が「本命」と目されていたこともあって、暴言連発でメディア批判も繰り返すトランプ氏は「ヤバい差別主義者のおじさん」くらいの扱いだった。

2016年3月、アリゾナ州で行われた選挙集会で支持者と話すドナルド・トランプ氏
2016年3月、アリゾナ州で行われた選挙集会で支持者と話すドナルド・トランプ氏(写真=Gage Skidmore from Peoria, AZ, USA/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

日本のマスコミも「泡沫候補」と鼻で笑っていたが、筆者はトランプ氏の言動を分析して、かなりクレバーな戦いをしていると思ったので、以下のような記事を書いた。

「単なる「言いたい放題」ではない! トランプ氏の老獪なメディア戦術」(ダイヤモンド・オンライン2016年1月9日)

■「敵を増やして信者も増やす」戦略が結実

トランプ氏はもともとテレビタレントということもあって、メディアの動かし方をよく知っている。単に好き勝手に「放言」「暴言」をしているわけではなく、既存のマスコミや、ホワイトハウスのリベラル層などを明確に「敵」として位置付けることで、「既得権益をぶっ壊す戦う政治家」という自己ブランディングをして、熱烈な支持者を獲得している、という見立てを発表したのである。

その直後、某キー局の情報番組から、「誰もトランプを褒めてくれる人がいないので」とインタビューの依頼があったため、VTR出演して「トランプ大統領」の可能性を示唆した。

すると、反響が大きくめちゃくちゃ怒られた。「レイシストめ!」「そんな与太話をして恥ずかしくないのか」とよく知らない人からさんざん叩かれて、記者時代の先輩からも「あんなバカが大統領になるなんて、あまり適当なことを言うとこの世界で食っていけないぞ」と真面目な顔で説教をされた。

しかし、結果はみなさんもご存じの通りだ。あれから8年が経過して、トランプ氏の「岩盤支持層」というのは、既存マスコミを「フェイクニュース」と批判して、既存マスコミが陰謀論だと批判している「ディープステート」という話を信じている。だから、トランプ氏が裁判で有罪になって、マスコミがボロカスに叩いても離れない。8年間続けてきた「敵を増やして信者も増やす」という戦略がここにきて実を結んでいるわけだ。

■安倍氏、小泉氏、石原氏、橋下氏の系譜

こういう経験のある筆者からすると、今マスコミから「怖い」「パワハラ上司」「政治家失格」などボロカスに叩かれている石丸氏の姿が、8年前に「差別主義者」「アメリカの恥」と罵られていたトランプ氏と妙に重なるのだ。

誤解のないように断っておくが、石丸氏とトランプ氏が人間的に似ているとか言いたいわけではない。「敵を増やして信者も増やす」という明確な戦略をもって、既存のメディアに攻撃を仕掛けているという「戦い方」に共通点があるというだけだ。

しかも、もっと言ってしまうとこの「敵を増やして信者も増やす」という手法を得意とするのは、トランプ氏や石丸氏だけではない。政治家の中には、メディアとはどういうものかということを熟知した人や、世論を操る才能のある人がいるものだ。

わかりやすいのは、安倍晋三元首相や小泉純一郎元首相、小池百合子都知事、さらには故・石原慎太郎氏や政治家時代の橋下徹氏などだろう。

これらの人たちは、政治信条や人間性は大きく異なるが、共通しているのは「戦う政治家」という自己ブランディングに成功している人たちだ。

■「恥を知れ!」発言は王道そのもの

メディアから強烈なネガキャンを仕掛けられ、強烈なアンチから「ヒトラーの再来」「女帝」「独裁者」などボロカスに叩かれる。しかし、それで潰れるどころか、そのような批判を逆手にとって「抵抗勢力」「反日」「既得権益」「勉強不足」などと攻撃することで、既存のマスコミや敵対する政治勢力に不満を抱く人は胸がスカッとする。そういう戦いを繰り返していくうちに、「日本のためにもこの人を支えなくては」という熱烈な信者が増えていくのだ。

そういう意味では、石丸氏がやってきた手法というのは、YouTubeの切り抜き動画くらいがツールとして新しいくらいで、多くは従来の「戦う政治家」がやってきた「王道」ともいうべきものだ。

例えば、石丸氏の名を広めたのは、市長時代の居眠り議員に対して公然の場で「恥を知れ!」と一喝したことだが、あのように「敵」を厳しく罵ると、「歯に衣着せぬ政治家イメージ」がつくというのは、自民党の三原じゅん子参議院議員を見ても明らかだ。

国会で安倍首相の問責決議案を出した野党に対して、「愚か者の所業」「恥を知りなさい」と発言したことが大きな話題となり、自民党支持者に大バズりし、「恥を知りなさい」とプリントされたTシャツまで発売されるほどだ。

また、メディアの質問を「くだらない」と一蹴して相手にしなかったり、逆に鬼ヅメして恥をかかせるというスタイルは、ありし日の石原慎太郎氏もよくやっていたことだ。政治家時代の橋下徹氏も自分とよく似ていると言っていた。

■小池氏も「政治屋の一掃」を掲げていた

そして、何よりも今回、「政治屋の一掃」を掲げたのは、2016年の都知事選での小池百合子氏の戦い方とよく似ている。今や完全に自民党と一体化してゴリゴリの既得権益側にいるが、8年前の小池氏は石丸氏のように「敵を増やして信者を増やす」というやり方をやっていた。

自民党東京都連を「ブラックボックス」だと批判、わかりやすい利権の象徴として内田茂都議(当時)を「都議会のドン」と呼んで、公約にも「利権追及チーム」を掲げた。つまり、「古くてダーティな政治屋を、クリーンな私が一掃しますよ」と訴えたのである。

これによって、自民党支持者からはボロカスに叩かれたが、既存の政治勢力に不信感を抱く人たちが支持に回って、後に都民ファースト結党にもつながる熱心な「小池信者」も生まれてフタを開ければ、290万票の大勝ちをした。「敵を増やして信者も増やす」という戦い方はうまくいけばこれほど効果があるのだ。

■初の都知事選で165万票も納得

このように歴代の「戦う政治家」がやってきた手法を、今回の都知事選で最も忠実に実行に移した候補者が石丸氏だった。165万票獲得したのはなんの不思議もない。

ちなみに、蓮舫氏だって熱心に自民・小池批判を展開していたのだから「敵」をつくっていたじゃないかと思うかもしれないが、そういう話ではない。

立憲民主党や日本共産党という政党色を前面に出して現職・自民批判をすれば単なる野党だ。つまり、既存の政治勢力、古い既得権益に不満を抱いている層から見れば、「いつもと同と人が、いつもと同じ批判をしている」という構図にしか見えないのだ。溜飲も下がらないので「蓮舫信者」も生まれない。

だから、2016年の野党共闘候補として擁立されたジャーナリストの鳥越俊太郎氏の得票数(134万票)にも及ばない、128万票で終わってしまったのである。

■メディアはもう石丸氏の戦略にハマっている

野党がこんな調子なので今後も「政治家・石丸伸二」の存在感は増していくだろう。もちろん、メディアからすれば久々の叩き甲斐のあるダークヒーローなので、かつての橋下氏のようにやることなすことを執拗に叩かれる。

だが、それこそが石丸氏の狙いでもある。かつて「反安倍」の人たちが、朝から晩まで安倍元首相について論じて、「本当は好きじゃないの?」と疑うほど虜になっていたように、「石丸伸二はアリかナシか」でメディアが大盛り上がりをすればするほど、あの笑顔が国民の脳裏に刷り込まれ、「マスゴミにもの言う本物の政治家」というブランディングが進む。

つまらないことで批判をすることは単に「石丸劇場」を盛り上げて、気がついたらメディアが束になっても敵わない「無敵の政治家」を生み出す恐れもある。バッシング報道は諸刃の剣だということを、メディア側も冷静になって気づくべきだ。

コンサートで盛り上がる客席
写真=iStock.com/Aja Koska
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aja Koska

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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)、『潜入旧統一教会 「解散命令請求」取材NG最深部の全貌』(徳間書店)など。

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(ノンフィクションライター 窪田 順生)

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