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「腐敗臭と糸引き=食中毒」ではない…管理栄養士「見た目と臭いではわからない食中毒の本当の怖さ」

プレジデントオンライン / 2024年7月23日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Manjurul

夏は食中毒が心配になる季節。どうすれば食中毒を予防できるのか。管理栄養士の成田崇信さんは「食物の腐敗は見た目や臭いでわかりますが、食中毒細菌が繁殖していても見た目や臭いに変化のない場合がほとんどなので、見分けることはできないことを知っておいてほしい」という――。

■「食中毒」イコール「腐敗」ではない

そもそも食中毒とは、どういうものでしょうか。改めて聞かれると、うまく答えられない方もいるかもしれません。食中毒とは、飲食物などに含まれている微生物やウイルス、化学物質や自然毒が原因で起こる急性の健康被害をいいます。嘔吐や腹痛、下痢などの消化管症状や発熱が主症状ですが、命に関わる危険な状態に陥ることもあり注意が必要です。

食中毒というと、一般的に「食べ物の中で細菌などの微生物が繁殖し、腐った状態のものを食べて起こるもの」というイメージを持たれがち。だから食品の見た目や臭いをチェックすれば安心と考える人があとを絶ちません。でも腐敗臭や糸引きなどがあって、いわゆる「腐っている」とされる状態を引き起こす細菌の多くは、意外にも食中毒の原因にならないのです。

もちろん、細菌が繁殖したものを大量に食べた場合、例外的に腹痛や嘔吐が起こることもあります。また、腐敗したものを食べた後、心因性の吐き気をもよおすこともあるでしょう。学校給食の異物混入や牛乳の異臭事故で、具合の悪くなる児童・生徒が続出するのは、こうしたメカニズムによるものと推察されます。

腐敗は見た目や臭いでわかりますが、食中毒細菌が繁殖していても見た目や臭いに変化のない場合がほとんどなので、見分けることはできないことを知っておきましょう。

■夏の食中毒が昔に比べ激減した理由

食中毒というと、気温や湿度の高くなる夏に多いイメージがありますね。しかし、令和3〜5年の食中毒に関する統計を調べてみると、食中毒件数は3月と10月にもっとも多く、食中毒患者数は4月と6月に多いというデータがありました。

つまり、夏に食中毒が多いというのは、もはや過去のこと。そのもっとも大きな理由は、食品の低温流通網(コールドチェーン)が構築されたためです。食品の生産、そして小売店や飲食店へ運ばれるまで輸送や保管などにおいて厳密な温度管理ができるようになったので、夏でも他の季節と同じように鮮度を保ったまま食品が届けられるようになりました。だから、食中毒のリスクが減ったのです。

その恩恵が特に大きかったのが、魚介類。昔、夏場の代表的な食中毒といえば、魚介類による「腸炎ビブリオ」でした。腸炎ビブリオは高温の海水中で活動する細菌で、夏場に水揚げされた海産物に付着していることが多く、魚介類を生で食べる習慣のある日本に多かったのです。しかし、2001年に食品衛生法が一部改正され「腸炎ビブリオ食中毒防止対策のための水産食品に係る規格及び基準」が設定され、販売する魚は真水で洗う、10度以下で保存するというルールが徹底されたことにより激減しました。

■基本は「食中毒予防の3原則」

では、夏だからといって特に食中毒に気をつける必要はないのでしょうか。そんなことはありません。気温や湿度の高い夏は細菌にとって繁殖しやすい条件が整うため、細菌性食中毒が起こりやすいのは間違いありません。食中毒予防の基本を学んでしっかり予防しましょう。

食中毒予防を学ぶ際にとても役立つのが、厚生労働省も提唱している「食中毒予防の3原則」です。一つずつ、どういうことなのかをみていきましょう。

「つけない」

食中毒の原因になる有害な微生物を食品に付着させない、洗い落とすことで予防します。原因になる細菌やウイルスがなければ食中毒は起こりません。基本であり、最も有効な方法です。

「ふやさない」

どんなに気をつけていても、食中毒の原因となる細菌を食品から完全除去することは困難です。細菌は温度と栄養と水分の3条件が揃うと、あっという間に増殖します。調理した食品はすぐに食べるか、時間をおくときは低温で保存するなどして細菌を増やさないようにしましょう。夏場の食中毒予防では、特に重要なことです。

「やっつける」

多くの食中毒の原因となる細菌やウイルスは熱に弱いため、食べる前に十分に加熱してやっつけることが重要です。やっつけた後には再び「つけない」ようにしましょう。

石鹼で手を洗っている男性の手元
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

■3原則が通用しない食中毒1

ブドウ球菌、腸管性出血性大腸菌

こうして「食中毒予防の3原則」を守れば、多くの食中毒を防ぐことができます。でも、中には原則が通用しない厄介な食中毒も存在します。以下では、特に注意が必要な食中毒とその対処法を紹介しましょう。

ブドウ球菌 【つけない】○ 【ふやさない】○ 【やっつける】△

人の手や鼻腔、特に傷口に生息するブドウ球菌は、エンテロトキシンという毒素を産生し、食中毒の原因となります。黄色ブドウ球菌の保菌率は40%ほど。手洗いが不十分だったり、化膿した傷のある手で食品に触れることで汚染の原因になります。特に30〜37度で増殖しやすく、食塩濃度が高い食品でも繁殖できるので、つくり置きの料理やおにぎりによる事故が多く、注意が必要です。一度つくられたエンテロトキシンは加熱しても壊れないため、毒素を作る前にやっつけないと効果がありません。感染すると3時間程度で発症し、吐き気や、嘔吐、下痢が起こります。

腸管出血性大腸菌 【つけない】△ 【ふやさない】△ 【やっつける】○

O157などの腸管出血性大腸菌は健康な牛の腸内に生息していて、食肉や内臓などの汚染率が高いのが特徴。内臓の場合は表面だけでなく内部にも菌が存在し、非常に少ない菌数で発症した例もあるため「つけない」の効果は限定的で、細菌が増えなくても感染するため、病原大腸菌が付着している可能性があるものは生で食べないことが大切です。

最大の予防策は「中心までしっかり加熱(中心温度75度以上、1分間以上かそれと同等以上の加熱)」すること。また、生肉に触れたトングや箸などは取り分け時に使わないようにしましょう。野菜に付着していることもあるため、特に生で食べる場合は飲用水で十分に洗い流したり、決められた濃度の塩素で消毒を行うことが大切です。腸管出血性大腸菌は血便を引き起こし、子どもや高齢者では重症化する可能性が高く、腎障害から死に至ることもあるとても危険な食中毒です。

■3原則が通用しない食中毒2

カンピロバクター、ウエルシュ菌、ノロウイルス
カンピロバクター 【つけない】△ 【ふやさない】× 【やっつける】○

動物の腸管内で生活している細菌で、特に鶏肉の保菌率が高いことが知られています。病原大腸菌と同じように少ない菌量でも食中毒を起こすことがあるため、「増やさない」が通用しません。酸素の少ない環境が増殖に適していて、食品や料理の中で増えることはほとんどありません。鶏肉から他の食品へ汚染が広がるのを防ぐこと、十分に加熱することが大切です。透き通ったピンク色の部分が残った鶏肉は加熱不十分と考えてください。潜伏期間は2〜7日と比較的長く、下痢、腹痛、嘔吐と37〜38度の発熱が主な症状。発症後に神経障害である「ギラン・バレー症候群」を起こすことがあるので要注意です。

ウエルシュ菌 【つけない】△ 【ふやさない】○ 【やっつける】△

動物の腸管内や土など自然界のさまざまな場所に存在しているため、「ついている」を前提に調理しましょう。43〜45度と比較的高温を好み、酸素の少ない環境で繁殖し、高温で加熱すると「芽胞」という状態に変化して熱に耐え、温度が下がれば再び増殖します。ですからカレーや煮込み料理を常温で放置すると、ウエルシュ菌の繁殖しやすい温度帯が維持され、食中毒を起こす量まで増加します。すぐ食べない場合は、鍋ごとシンクで冷たい水につけ、酸素を含ませるようかき混ぜながら冷やすと増殖を抑えることができます。また一度増えてしまっても、食べる前に全体が沸騰するまで再加熱することで安全に食べられます。潜伏期間は6〜18時間と短く、下痢や腹痛が主症状です。発症後1〜2日で回復することが多いですが、高齢者では脱水による重症化リスクもあります。

ノロウイルス 【つけない】○ 【ふやさない】× 【やっつける】○

冬場に牡蠣によって起こるイメージですが、季節に関係なく発生しています。ノロウイルスが少しでも付着していると感染リスクがあり、ウイルスが頑丈で胃酸でも壊されないため、非常に少ない数でも発症します。感染者の糞便や嘔吐物、タオルの共有などで容易に広まります。熱に弱いため十分な加熱を行うことが重要です。ノロウイルスにはアルコールが効かないため、念入りな手洗いできれいに洗い流し、衛生的なペーパータオルなどで拭き取ることが「つけない」ためのコツ。患者の嘔吐物は、次亜塩素酸ナトリウムを含む漂白剤で消毒しましょう。潜伏期間は1〜2日程度で、激しい吐き気と嘔吐、下痢を引き起こします。

■夏は特に「つけない」「ふやさない」

さて、高温多湿の日本の夏は、病原体を「つけない」「ふやさない」ことが特に大切です。具体的には、以下のことに気をつけましょう。

食品購入時:要冷蔵の食材は最後に購入し、長く持ち歩かないようにしましょう。すぐに帰宅して冷蔵庫に入れられない場合は、保冷バッグと保冷剤、保冷用氷などを活用してください。

調理前:まずは流水でしっかり手洗いを。生野菜には食中毒細菌が付着している前提で、同じく流水で十分に洗いましょう。

調理中:生肉など食中毒細菌が付着している恐れのある食材に触れたら、そのたびに手を洗い、使い捨てのペーパータオルで拭いてください。まな板は生肉などの加熱が必要な食品用、そのまま食べる食品用の2つを用意して使い分けましょう。加熱が必要な食品に触れた包丁やまな板などの調理器具はしっかり洗浄し、熱湯をかけるなどしてください。

保存や保管:調理完了後すぐに食べるのが一番安全ですが、難しい場合は温度管理と細菌汚染予防を徹底してください。温かい料理は加熱調理が終わったら蓋やラップをし、冷蔵庫にいられる温度になるまで氷や保冷剤を使って急速に冷やします。常温や冷たい料理は、すぐに冷蔵庫へ。

冷蔵庫から残り物を詰めた保存容器を取り出す手元
写真=iStock.com/1shot Production
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/1shot Production

誰にでも覚えのある急な腹痛や下痢や嘔吐は、もしかしたら食中毒によるものかもしれません。食中毒は診断した医師が保健所に届け出ることで統計に反映されるため、実際の食中毒患者数はその何十倍も存在すると考えられています。食中毒は、私たちが考えている以上に身近な存在だと考えてください。

特に高齢者や小さな子どもは、下痢や嘔吐による脱水症状から重症化することもありますので、衛生管理のポイントをしっかり守って食中毒予防に努めましょう。

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成田 崇信(なりた・たかのぶ)
管理栄養士、健康科学修士
管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。主にインターネット上で「食と健康」に関する啓蒙活動を行っている。猫派。著書に『新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)、共著書に、『薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)、『謎解き超科学』(彩図社)、監修書に『子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ』(オレンジページ)がある。

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(管理栄養士、健康科学修士 成田 崇信)

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