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「私の歌声よりアプリの子守歌のほうが子供のためになる」スマホ育児をやめられない子育て親の驚きの主張

プレジデントオンライン / 2024年7月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/skynesher

なぜ親は子供の遊びや泣き止ませにスマホを使ってしまうのか。ノンフィクション作家の石井光太さんは「子育てを『とりあえず子供を静かにさせること』と思い込んでいる。スマホを使いすぎると子供の成長に悪影響が出るという研究は多くあるが、スマホに任せたほうがいいと考える親が急速に増えている」という。学校の先生200人にインタビューし、今の子どもたちを取り巻く不都合な真実を描いた石井さんの著書『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)より紹介する――。

■今や子守歌は「アプリの声」で

読者の多くが、親に抱っこされ、やさしい子守歌を聞かされながら眠りについた記憶がぼんやりとでもあるのではないだろうか。親の人肌のぬくもり、におい、声。それらにまるで柔らかな毛糸のように包み込まれ、夢へといざなわれた幸せな思い出だ。

しかし、今の子どもたちには、そうした記憶が乏しいのかもしれない。関西のある保育園でこんなことがあった。

この保育園では、給食が終わった午後1時から2時がお昼寝の時間だった。取材に来ていた私は、園長(60代女性)と共にそっと薄暗い教室に入っていった。

そこには見慣れない光景が広がっていた。3割ほどの子どもたちの枕元にスタンド付きのスマホが置かれており、それぞれ違った動画や音楽が流れているのだ。

のぞくと、ディスプレイにはかわいい動物が子守歌をうたっていたり、お母さんのようなキャラクターが微笑みかけていたりする。アイドルのようなキャラクターが、ずっと子どもを褒めつづけている動画もあった。

園長がそのわけを教えてくれた。

「子どもたちが見ているのは“寝かしつけアプリ”なんです。これがないと眠れない子がいるんですよ」

■保育士の歌声には「下手」「眠れない」

昔の保育園にも寝つきの悪い子はおり、先生が添い寝したり、背中をさすったりして眠らせたものだ。最近はそれがアプリに変わっているのだという。

子どもたちはアプリを見ながら一人またひとりと眠りに落ちていった。ただ、寝たからといってすぐにアプリを消さないことがポイントだそうだ。アプリの音や光がなくなると、ハッと目覚めてしまう子が多いからだという。

見学の後、園長はアプリを使用するようになった経緯を語った。

「今は、家庭での寝かしつけの際に、専用のアプリを使う親御さんが多いんです。赤ちゃんのキャラクターが一緒に眠ってくれたり、宇宙の無重力状態で浮かんでいるような映像だったりと、種類も豊富です。私自身は、親や保育士が直に子守歌をうたって背中をさする寝かしつけが一番だと思っています。でも、一部の子にとって、子守歌はアプリにうたってもらうものになりつつあります。なまじっか保育士がうたってあげると、そういう子たちから『下手』『うるさい』『眠れない』と言われる。なので、それぞれの家庭でやっている方法で寝てもらったほうがいいだろうと、アプリを使うようになったのです」

■2歳児の半数以上がスマホを与えられている

アプリの使用は、寝かしつけの時だけでなく、子どもを泣き止ませる際にもよく使われているという。“泣き止みアプリ”と呼ばれるもので、日常の中のいろんな音(ドライヤー音、親の呼びかける声、掃除機の音、洗濯機の音など)が入っていて、それを聞かせることで注意をそらし、泣き止ませる仕組みだ。

「困るのは、寝かしつけアプリにしても、泣き止みアプリにしても、それらに慣れてしまうと、別の何かでは寝たり泣き止んだりしにくくなることです。アプリを見せればすぐに泣き止むのに、保育士が抱っこしてゆさぶっても泣き止んでくれない。子どもの扱い方が大きく変わりつつあるように感じています」

子どもたちが極めて幼い頃からスマホに慣れ親しんでいるのは、周知の事実だろう。

ベビーカーに座っている赤ちゃんや、親の電動自転車の後ろに乗っている子どもがスマホを見ながら移動する光景はごく日常になっている。最近は、ベビーカーや車用ベビーシートに、スマホホルダーが取り付けられていることも珍しくない。

日本の子どもは何歳頃からスマホを利用しているのか。

こども家庭庁の「令和5年度青少年のインターネット利用環境実態調査報告書」に、子どものインターネット利用率が出ている。スマホやタブレットでネットを閲覧するようになる年齢だ。

これによれば、利用率が58.8%と半数を超えるのは2歳だ(0歳で15.7%、1歳で33.1%、保護者による回答)。

2歳といえば、ようやく言葉らしい言葉を発しはじめる年齢だが、その時には半数以上がスマホやタブレットを日常的に使用している。もっとも2歳でもしゃべれない子もいるので、そういう子は言葉を話すより先に、それらを使っているのだ。

■1歳児の半数以上が「スマホの見過ぎ」

気になるのが、子どもたちの「スクリーンタイム」だ。スクリーンタイムとは、スマホ、タブレット、PCなどを通して画面を見ている時間のことである。

前提として述べておくと、WHO(世界保健機関)が定めたガイドラインでは、1歳未満でのスマホなどの閲覧は推奨されていない。つまり、見せるべきではないということだ。1~4歳に関しては、1日1時間未満が望ましいとされている。

では、日本の1歳児がスマホを見ている時間はどれくらいなのだろう。東北大学東北メディカル・メガバンク機構の栗山進一教授らの論文「Screen Time at Age 1 Year and Communication and Problem-Solving Developmental Delay at 2 and 4 Years」には、次のような結果が出ている(2023年)。

1歳児のスクリーンタイム
1時間未満 48.5%
1~2時間未満 29.5%
2~4時間未満 17.9%
4時間以上 4.1%

これを見る限り、1歳児の半数以上が、WHOがガイドラインで示したスクリーンタイムを超過している。

ちなみに、スクリーンタイムが長くなっているのは、幼児だけではなく、成人も同じだ。調査によって多少のばらつきはあるが、20代、30代のスクリーンタイムは5時間を超えるとされている。大人のスクリーンタイムが、幼児のそれに影響を与えているという見方もできるだろう。

■「育児=子供を静かにさせること」という勘違い

園の先生方へのインタビューで興味深かったのは、子どもにスマホを長時間見せるのは、母親より父親だ、という意見が多かった点だ。

ここ10年ほどの間に、社会では男性の育児が推奨され、育児休暇を取得するハードルが大きく下がった。共働き家庭では、女性と男性が数カ月ずつ育休を取ったり、土日と平日に分けて育児を分担したりすることも増えている。

歓迎すべきことだが、なぜ母親より父親のほうが子どもにスマホを見せる時間が長くなるのだろう。先生(関東、40代男性)は言う。

「少し前に日本の中で“イクメン・ブーム”が起きて、父親がだいぶ育児に参加するようになりました。でも、全体の傾向として父親は母親に比べて、育児の仕方を知りません。ミルクの作り方だとか、オムツ交換の仕方だとかは教えてもらっていても、それ以外の時間にどう接していいかわかっていない。パパ友のネットワークも乏しい。そうなると、父親は子どもが早く泣き止むようにとか、退屈しないようにといった理由でスマホを与えっぱなしにしてしまうんです。子育てのイメージを持っていないので、とりあえず静かにさせるのが育児だと思っているのです」

■子育てをした気になっている「イクメン」

メディアが、育児に積極的な父親を「イクメン」ともてはやしたのは2000年代後半以降のことだ。それに伴い、「自称イクメン」も増えたという。

この先生の園では、イクメンを自称する男性の保護者がいたそうだ。だが、先生方からすれば、その子どもは明らかに睡眠不足だったり、言葉の発達が遅れていたりと懸念すべきことが多かった。

先生は心配になって、男性に育児の仕方を聞いた。すると、男性は子どもにスマホを与える一方で、自分はSNSに子どもの写真をアップしたり、育児日記を書いたりして、周囲に育児をしていることをアピールするのに必死だったという。

「女性の場合は、『私、子どもにスマホを見せすぎちゃうんですよね』とか相談してくれることが結構あります。でも、男性の場合はそれがないし、妻のほうも夫の育児を見る機会がない。妻が夜に仕事から帰った時に、夫から『今日はおとなしかったよ』『いい子にしていたよ』と言われればそれまでです。なので、男性のほうが育児の内容が見えにくいのです」

夫婦が協力して育児をすることが当たり前になる中で、“イクメンの形骸化”と呼ぶべき現象が起きているのである。

子供にスマホで遊ばせる母親
写真=iStock.com/Sladic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sladic

■なぜスマホは「親の代わり」になり得ないのか

親の育児の一部をスマホで代行することを、“スマホ育児”という。

これまで脳科学や発達心理学など多くの専門家が、スマホ育児が及ぼす弊害について警鐘を鳴らしてきた。詳しくは専門書を参照してもらいたいが、簡単に押さえておけば、スマホ育児の悪影響は「アタッチメント」の欠如という点で語られることが多い。

従来の子育ては、養育者が直に子どもと触れ合って行うものだった。子どもは体温、声、吐息など様々なものを感じ取ることによって、養育者と強い心理的な結びつきを手に入れる。これが心理学でアタッチメントと呼ばれるものだ。

子どもはアタッチメントの中で情緒力や想像力を伸ばし、そこを安全基地にして他者と触れ合ってコミュニケーション能力を高める。アタッチメントは子どもの発達の基盤とも呼ぶべきものである。

スマホ育児の欠点は、養育者とのかかわりがスマホに取って代わられることで、その基盤が弱まり、発達が妨げられることだ。これに関する研究はいくつもある。

たとえば、前出の論文には、7097人の子どもを対象にした調査で、1歳児が経験したスクリーンタイムの長さ次第で発達の遅れが現れるという研究成果が出ている。

これによれば、スクリーンタイムが4時間以上の子どもは、1時間未満の子どもと比べると、2歳児の時点でコミュニケーション領域の発達に遅れが生じる割合が4.78倍、問題解決の領域で2.67倍になるという。

本書のプロローグで、明和政子教授の「デジタルの時代に生きる子どもたちの成育環境は、ホモサピエンスのそれではなくなっています」という言葉を紹介したが、こうしたところに理由があるのだ。

■周囲の「静かにさせろ」という圧力に屈してしまう

では、今の親は、スマホ育児に対してどのような認識を持っているのだろうか。園の先生方によれば、二つに分かれるそうだ。

一つが、スマホ育児の弊害を理解しながらも、つい子どもにスマホを与えてしまう親だという。周りの大人からの「静かにさせろ」という圧力に屈したり、ワンオペの忙しさに耐えられなかったりして、頭ではリスクをわかっていながら、その場を乗り切るためにスマホを与える。

このような親は、スマホを与えていることに罪悪感を抱いているため、スクリーンタイムを短くしようと努めたり、遊びや運動の時間を意図的に増やそうとしたりする傾向があるらしい。そういう意味では、スマホ育児の弊害はそこまで深刻ではないかもしれない。

石井光太『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)
石井光太『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)

これに対して二つ目が、スマホ育児を前向きに考えて積極的に行っている親だ。先生(東海、40代男性)の言葉を紹介しよう。

「スマホ育児をいいと思っている親は、年々増えているように感じます。よく耳にするようになったのが、育児にアプリを使ったほうが、自分の判断で子育てをするより安心だっていう意見。自分の音痴な子守歌を聞かせるより、アプリでプロのうたう子守歌を聞かせたほうが絶対音感がつくだろうとか、自分が遊び相手になるより、知育アプリをやらせたほうが効果的だというのです」

現在、開発されているアプリの中には、有名なプロの歌手を採用しているものや、閲覧するだけで頭が良くなることをアピールしているものがある。親は自ら手をかけて育てるより、専門家が作ったアプリを用いるほうが子どもの発育に良いと考えるようになっているのかもしれない。

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石井 光太(いしい・こうた)
ノンフィクション作家
1977年東京生まれ。作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。著書に『物乞う仏陀』(文春文庫)、『神の棄てた裸体 イスラームの夜を歩く』『遺体 震災、津波の果てに』(いずれも新潮文庫)など多数。2021年『こどもホスピスの奇跡』(新潮社)で新潮ドキュメント賞を受賞。

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(ノンフィクション作家 石井 光太)

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