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日本の酷暑で1000人超の命が奪われている…「水分と塩分をいっぱい摂る」だけでは熱中症を予防できないワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月22日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PraewBlackWhile

猛暑が続く中、熱中症にならないためにはどうすればいいか。総合内科専門医の梶尚志さんは「暑さによって、体内では水分・塩分だけでなく鉄分も不足し、熱中症や夏バテのリスクを高める『かくれ貧血』を引き起こす。厳しい夏こそ、鉄分を補うための食品を意識して選んでほしい」という――。

■最悪の場合、死に至る「熱中症」

熱中症とは、体内の熱調節機能がうまく働かず、体温が異常に上昇する状態です。主に高温多湿の環境下で長時間過ごしたり、水分や塩分の摂取が不十分だったりすることで起こります。熱中症は重篤な状態に進行することもあり、早期の対処が重要です。

・頭痛やめまい
・体温が高い
・吐き気や嘔吐
・全身倦怠感
・異常な汗の量(極端に多いか、逆に少ない場合もあります)
・筋肉の疲労感、脱力、筋肉の痙攣など
・意識障害

熱中症が進行すると、意識が混濁し、意識を失うことがあります。

総務省のデータによると、2023年5~9月に熱中症によって救急搬送された人は9万1467人に上ります。また人口動態統計によると、熱中症による死者は2018年以降、1000人を超えることが多くなっています。

【図表】熱中症により救急搬送された人
総務省「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」より編集部作成
【図表】熱中症による死者数
「熱中症による死亡数 人口動態統計(確定数)」より編集部作成

■体力を奪う「夏バテ」も心配

夏バテとは、暑い季節に何かしらの体調がすぐれなくなる状態のことを指します。一般的には、暑さや湿気、身体の水分や電解質が失われることにより、体力や免疫力が低下しやすくなり、以下のような症状が現れます。

・全身のだるさ、疲労感
なんとなく体がだるい、疲れが取れないなど、普段よりも疲れやすく感じることが多くなります。

・食欲不振
食欲が落ちて、食事が進まない、消化管の機能が落ちることで、胃腸の調子が悪くなることがあります。

・頭痛
頭が重い感じや頭痛が起こることがあります。

・めまいや立ちくらみ
突然のめまいや立ちくらみが起こることがあります。めまいや立ちくらみは、熱中症の症状ともいえます。

・睡眠障害
寝付きが悪くなったり、途中で目が覚めたり、早朝に目が覚めたりすることで、眠りが浅くなることがあります。睡眠が十分にとれていないことで、疲労感が蓄積し、精神的なストレスも感じやすくなります。

・集中力の低下
慢性的な疲労感や寝不足から、仕事や学業などで集中力がなくなることがあります。

■鉄分が足りなくなる「かくれ貧血」

熱中症や夏バテの予防法として、屋外では日傘や帽子を着用する、室内ではエアコンや扇風機を使う、そして汗で失われる水分と塩分をこまめに補給することが推奨されています。

しかし、実は熱中症対策はこれだけでは不十分です。暑さによって体内では鉄分も不足し、熱中症・夏バテリスクを高める「かくれ貧血」を引き起こすためです。

「かくれ貧血」とは、健康診断などの血液検査の結果では貧血の指摘を受けていないにもかかわらず、鉄欠乏、いわゆる体内の鉄分の不足がさまざまな症状の原因になっている状態のことをいいます。血液検査で異常がないために、気づかれないので「かくれ貧血」といわれています。

汗をかいている女性
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

「かくれ貧血」を引き起こす要素として、主に以下の4つが挙げられます。

①発汗

発汗は体温調節のために重要ですが、汗の中には小さな量の鉄分が含まれています。特に暑い環境下や激しい運動を行った際には、大量の汗が分泌され、その中に含まれる微量の鉄分が失われていきます。長時間または頻繁に発汗を伴う活動をすると、体内の鉄分が減少し、鉄欠乏症のリスクが高まります。

②食欲不振

夏の暑さによる体調不良は、食欲不振や消化不良を引き起こすことがあります。食欲不振により、鉄分や他の重要な栄養素の摂取量が減少する可能性があります。

③高温

高温の環境下では、腸管の血流が低下し、鉄分の吸収率が一時的に低下することがあります。鉄分の吸収率が低下すると、体内での鉄分の利用が低下し、鉄欠乏症のリスクが増加します。

④炎症

高温下での運動や暑い環境にさらされることで、体内で炎症反応が増加します。炎症反応が活発になると、体内の鉄の代謝が変化し、鉄分が組織に移行しやすくなり、鉄欠乏症のリスクが高まります。

■全身に酸素を運搬できなくなると…

次に、鉄欠乏症がなぜ熱中症や夏バテにつながるのか、少し専門的な話になりますが解説します。

鉄とヘモグロビンとの関係

まず、鉄は体内に酸素を運ぶために重要なヘモグロビンの主要な構成要素です。このヘモグロビンは赤血球内に存在し、酸素の運搬に重要な役割を果たしています。酸素は細胞のエネルギー代謝に不可欠な役割を担っており、特に筋肉や脳などの組織でのエネルギー産生に必要です。

ですから、鉄欠乏症の状態では、ヘモグロビンの合成が低下し、全身への酸素の運搬能力が低下することにより、細胞や組織への酸素供給が制限されて、エネルギー代謝が低下することが知られています。

■体内の熱を分散する役割も担っている

ミトコンドリアにおける鉄の役割

ミトコンドリアは細胞内でのエネルギー生産の主要な場であり、ATP(アデノシン三リン酸)を生成します。ATPは細胞のエネルギー代謝において中心的な役割を果たし、その生成と供給は体内の機能維持に不可欠です。ATP分子はてエネルギーを放出し、ADP(アデノシン二リン酸)やAMP(アデノシン一リン酸)に変換されます。この過程で得られるエネルギーが細胞の機能や代謝反応に重要な働きをしています。

この代謝経路には、鉄や他のミネラル、ビタミンなどの栄養素が必要です。特に鉄はヘモグロビンとミオグロビンを通じて酸素を細胞に運び、酸素が存在しないとATPの完全な生成が阻害されるため、鉄の十分な摂取がエネルギー代謝に欠かせません。そして、この過程で鉄が多くの酵素反応の補酵素として必要なのです。

鉄欠乏症では、ミトコンドリア内のこれらの酵素活性が低下し、エネルギー生産が不十分になることがあります。これにより、体の各組織や器官でのエネルギー供給が制限され、全身的な疲労感や身体活動能力の低下、体力の低下が生じる可能性があります。

鉄と体温調節

鉄分は、体温調節にも関与しており、特にヘモグロビンを通じて体内の熱を分散する役割があります。暑さや寒さに応じて体温を調整し、代謝の最適化を図ります。

鉄欠乏では体温調節機能が低下し、特に暑い季節や運動時には体温のコントロールが困難になることがあります。体温調節機能が低下することで、疲労感や体力の低下につながるだけでなく、高体温を来す熱中症を引き起こす可能性が高まるのです。

鉄分の豊富な食品
写真=iStock.com/piotr_malczyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piotr_malczyk

■レバーはもちろん、赤身肉や魚介類もいい

このように、非常に重要な役割を担っている鉄分を補うために食品の選び方が重要です。私も実践している摂取方法を紹介します。

・レバー
レバーには非常に鉄分が豊富に含まれています。調理法を工夫して、夏でも食べやすい料理として取り入れましょう。

・赤身の肉
牛肉や豚肉の赤身には鉄分が多く含まれています。グリルや焼き肉など、軽い調理法で食べるのがお勧めです。

・魚介類
特に貝類や魚介類には良質な鉄分が含まれています。寿司や刺身など生で食べることで栄養価を保持できます。

■海藻サラダにトマトやピーマンを“ちょい足し”

・ひじきや昆布
海藻類には鉄分が豊富で、夏向きの冷製サラダや和え物として取り入れると良いです。

・豆類や豆腐
大豆製品や豆類(黒豆、小豆など)は鉄分が含まれており、夏場でもサラダや冷や奴などで摂取できます。

・ナッツ類
アーモンドやカシューナッツなどのナッツ類にも鉄分が含まれています。軽くローストしておやつとして食べるのも良いです。

・水分補給を忘れない
熱中症予防のためにも水分補給が重要です。鉄分を含む食品を摂取する際も、水分をしっかり摂りながらバランスよく食事を摂ることが大切です。

・ビタミンCを摂取する
ビタミンCが豊富な食品(柑橘類、トマト、ピーマンなど)と一緒に鉄分を摂ると、鉄分の吸収が向上します。

・肉や魚と野菜を一緒に食べる
肉や魚の食事に野菜を添えることで、食物繊維の影響を抑えて鉄分の吸収を助けます。

豆腐サラダ
写真=iStock.com/yuliang11
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yuliang11

■鉄の摂取を妨げる「要注意食品」

・カルシウムの多い食品
鉄分の吸収を阻害することがあるため、同時に多量の乳製品(牛乳、チーズなど)やカルシウムサプリメントを摂るのは避けたほうが良いでしょう。

・タンニンが含まれる食品
タンニンが含まれる紅茶やコーヒーは、鉄分の吸収を妨げることがありますので、食事の前後に摂取するのを控えると良いです。

「夏バテ」「熱中症」の予防には、当然、水分の摂取と塩分の摂取はとても大切です。しかし、そもそも、食事の中の栄養素のバランスはとても重要で、特に朝の欠食は禁物です。

朝から、鉄分を多く含むタンパク質(肉、魚、卵料理)と野菜をたっぷり摂取し、水分と塩分をしっかりと摂ってから1日の行動をスタートさせることを心がけてください。

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梶 尚志(かじ・たかし)
梶の木内科医院院長
1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『え、私って、栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!』(みらいパブリッシング)などがある。

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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)

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