「新NISAは長期・分散・積立」は勘違い…「オルカン」人気の陰で「成長投資枠」の買付額が圧倒的に多いワケ
プレジデントオンライン / 2024年7月22日 7時15分
■新NISAスタートから200万口座増加
2024年1月から制度内容が大きく変わったNISA。使い勝手がよくなったこともあり、口座開設数が大きく伸びています。
金融庁によると、制度改正前の2023年12月末から2024年3月末までの3カ月で、NISA口座数はおおよそ200万口座増加しています(2023年12月末までの口座数は、一般NISAとつみたてNISAの合計)。
1~5月では、証券会社大手10社だけでも224万口座が開設され、前年同期の2.6倍です(日本証券業協会調べ)。
これまで投資経験がなかったものの、NISA制度に魅力を感じて口座を開設する人が多いようです。
■「成長投資枠」の買付額が「つみたて投資枠」の5倍
さて、NISA口座といえば、インデックス投信を積み立て購入するイメージがあります。
「オルカン」(オールカントリー:世界中の株式に投資するインデックス投信のこと)という言葉が一般にも広まっていますし、米国株や日本株のインデックス投信に積立投資して老後資金を準備する、というのがNISA利用の王道のように考えられています。
しかし、実際の利用状況を見ると、そうしたイメージとはかなり違った実態が見えてきます。
金融庁によると、NISA口座における買付額の合計は約6兆1800億円。そのうち、「つみたて投資枠」の買付額が約1兆円であるのに対し、「成長投資枠」は5兆円を超えています(いずれも2024年3月末現在)。
買付額で見ると、意外なことに、圧倒的に「成長投資枠」のほうが多いのです。なぜでしょうか。
■投資をするならNISAを使わない手はない
成長投資枠が多く利用されている理由に触れる前に、NISAについて、少しだけおさらいしておきましょう。
NISAには以下のような特徴があります。
・非課税の期間は無期限
・年間120万円までの「つみたて投資枠」と、年間240万円までの「成長投資枠」があり、併用できる
・生涯の非課税枠は1800万円
1800万円まで非課税で、それが無期限で続くのですから、投資をするならNISAを使わない手はありません。「投資をするか、しないか」といえば、預貯金だけで資産をつくるのは難しく、やはり投資の必要性が高いといえます。
■NISAの王道は本当に「長期・分散・積立」なのか?
NISAは、そもそも国民の資産形成を支援するために設けられた制度であり、「長期・分散・積立」というフレーズも度々耳にします。
「長期・分散・積立」は、投資のリスク抑えるために効果的な方法と考えられており、毎月、無理のない金額で積立投資を行い、長期で増やしていく、というのは、誰にでもはじめやすく、続けやすいという強みもあります。
にもかかわらず、現実には「成長投資枠」のほうが多く利用されているのです。
■株式や投資信託のスポット購入も多い
「成長投資枠」が多く利用されている大きな理由は、「株式に投資できるから」です。
実際、NISA口座で投資されている約6兆1800億円のうち、約2兆5000億円は株式です。NISAでは外国株式への投資も可能で、報道によると、半導体大手のエヌビディアやテスラ、アップルなどへの投資も多いようです。
ここから、当然といえば当然ですが、初心者だけでなく、投資経験が豊富な人もNISAを利用していることが透けて見えてきます。
投資信託への投資は株式より多く、3兆5000億円を超えていますが、つみたて投資枠での買付額は約1兆円ですから、多くが成長投資枠で投資された分と推測できます。成長投資枠でも投資信託を積立購入できますが、好きなタイミングで売買する「スポット購入」のケースも多いでしょう。
投資は「長期・分散・積立」がセオリーなのに……と思うかもしれませんが、私としては、NISAを利用するなら株式投資や投資信託のスポット購入も選択肢に加えてほしい、と考えています。とくに株式投資をやってみることをおすすめします。
NISAで株式投資も検討したい理由は3つあります。順番に説明します。
![スマートフォンを見て笑うビジネスウーマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/0/1200wm/img_501858389e91ad57e6034d300a181519240549.jpg)
■投信積み立てより株式投資のほうがワクワクする
まず1つ目の理由は、「株式投資は楽しいから」です。
積立投資は10年、15年……と続けることで資産形成をするのが目的です。
つみたて投資枠では、長期保有に適した投信として、低コスト(販売手数料無料のノーロードで保有中にかかる信託報酬も低い)で、運用期間が無期限または長期などの条件をクリアした投信が選定されています。もちろん、利益はずっと非課税ですから、資産形成には最適です。
選定されている投信のほとんどはインデックス投信で、TOPIX(東証株価指数)に連動するタイプなら日本株全体に、S&P500に連動するタイプなら米国の主要500銘柄に、「オルカン」(オールカントリー)なら世界中の株式に分散投資できます。
まさに、「長期・分散・積立」で資産形成の王道です。しかし、言い方を変えると、優等生の投資であり、地味で、刺激がありません。
■投資の魅力はほかにもある
誤解しないでいただきたいのですが、「長期・分散・積立」を否定しているわけではありません。とくに20~50代前半くらいまでの資産形成層では、投信積み立てをメインにするべきです。
それこそ、年に1度程度、状況を確認すればいいなど、手間なく、生活の一部として投資ができます。
しかし、だからといって、それだけにこだわる必要はないのです。
インデックス投信が市場全体に投資するのに対し、株式投資は、銘柄を自分で選んで投資します。好きな企業、お気に入りの商品を供給している会社、応援したい企業、世の中に必要な存在であり続ける会社、将来トップ企業になりそうな会社など、自身で銘柄を選び、値動きを味わうのはワクワクします。
さらに、業績に応じて配当金を受け取ることができる、あるいは、企業によっては株主優待が受けられるという「楽しみ」もあります。
そこで、毎月の収入の一部をつみたて投資枠で投資し、ボーナスの一部など、余裕資金を使って成長投資枠で投資する、という方法もいいでしょう。
■「資産をなるべく維持しながら少しずつ使う」経験も大切
2つめの理由は、近年、私が気になっていることに由来します。それは、「お金を増やすことに意識が向きすぎて、お金を使うのが上手ではない人が多い」ということです。
つみたて投資枠で積み立て投資を行うと、一般的には、投資信託の分配金は自動的に再投資されます。
資産形成という目的においては効率的でいいのですが、一定以上の年齢の方なら、ここで資産を増やす一辺倒ではなく、「資産をなるべく維持しながら少しずつ使う」ことを考えてもいいと思うのです。
最近は、日本企業が株主重視の一環として配当金を増やすケースが増えています。株価に対する配当金の割合を配当利回り(配当金÷株価×100)といいますが、優良企業の中にも3%台、4%台の企業が少なくありません。
配当利回り4%の企業に100万円を投資すれば、年間4万円の配当金が得られます(配当金は業績などによって変動することに注意)。株価が大きく値下がりしない、また値下がりしたタイミングで売却しない限り、投資した元本を維持しながら、配当金という投資の果実を受け取ることができるわけです。
親鳥(投資元本)が卵(配当金)を生むことになぞらえ、私はこれを「雌鶏投資」と呼んでいます。
雌鶏が卵を産み続けられるか、体調(業績など)をチェックしながら、卵はその時々で味わいます。とくに50代後半以降であれば、金融資産の一部でそうした投資を行ってもいいでしょう。
■最も難しい「売る」練習もしておきたい
3つ目は、「株式に投資することで売買の練習ができる」ことです。
![深野康彦『出遅れた投資初心者のための 資産ゼロからの新NISA入門』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/6/1200wm/img_360fe040a4e28b03373cfe27ff67b093134517.jpg)
投資で多くの方が悩むのが、タイミングです。買いたいと思っても、もう少し下がってから買ったほうがいいか……などと悩むうちに株価が上昇し、いつまでたっても買えない、ということも起こりがちです。下がったら下がったで、もっと下がるかも……と怖くなって買えなくなるといったケースもままあります。
それに輪をかけて難しいのは、「売ること」です。株価が上昇すると、もう少し上がるかも(もう少し儲かるかも)……などと思って、なかなか売れないのです。
株式のまま子どもに相続するつもりならいいですが、自分でお金を使いたい、認知機能に問題がないうちに現金化したいと思うなら、いずれは売る必要があります。そのためにも「売る」という経験を積んでおきたいところです。
■成長投資枠は、初心者にとっても利用価値がある
積立投資は長期で続けたほうがいいので、成長投資枠で株式や投資信託を買い、売る経験をしてみます。「いくらになったら売る」とルールを決めておき、条件を満たしたら売ってみます。
経済環境などによって一時的に株価が値下がりすることはあり、業績や成長性に問題がなければ保有していてもいいのですが、経営方針が大きく変わってしまった、時代についていけていないなど、企業そのものに魅力がなくなった場合は売却を検討します。
売るときに自分の気持ちがどう動くかを観察し、自身の投資のクセを把握するといいでしょう。
成長投資枠は、投資経験者が利用するだけでなく、初心者にとっても利用する価値が十分にあるのです。
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ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルリサーチ代表。1962年生まれ。中堅クレジット会社勤務などを経て、独立。完全独立系ファイナンシャルプランナーとして、個人のコンサルティングを行いながら、テレビ・ラジオ番組への出演、新聞・マネー雑誌・各種メールマガジンへの執筆など、さまざまなメディアを通じて投資の啓蒙や家計管理の重要性を説いている。
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(ファイナンシャルプランナー 深野 康彦)
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