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「定年後難民」にならない人はここが違う…70代まで稼ぎ続けられる人が現役時代に密かに準備していること

プレジデントオンライン / 2024年7月23日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wutwhanfoto

定年後の豊かな隠居生活は、いまや夢物語になった。だが、組織の一員として生きてきた元会社員の仕事探しは容易ではない。近刊『ライフキャリア』が話題の龍谷大学客員教授・原尻淳一さんは「仕事上のスキルだけでなく、プライベートにおける趣味や特技も定年後のキャリアを形成する立派な『資産』になることに気づき、40代、50代のうちに準備を始めてほしい」という──。

■「官僚から外資コンサルへ」東大生の就職先の大変化

東大生の国家公務員になる比率が1割を切ったというニュース(「国家公務員は東大生にとって3K職場になった…東大卒が1割を切り、MARCH+日東駒専クラスが続々合格のワケ」)を見た。記事によると、2024年度春・国家公務員総合職試験の合格者のうち東大出身者の割合は、2015年度には26%を占めていたが、2024年度には9%にまで低下しているそうだ。

東京大学新聞によると、最近の東大生の人気就職先は外資系コンサルティング会社であり、アクセンチュア、マッキンゼー・アンド・カンパニー、PwCコンサルティング等が上位に名を連ねている。

東京大学をはじめとする旧帝国大学は、国家を支える人材を育成する目的で明治19年に設立された。帝国大学令の第1条には「帝国大学は国家の必要に応じる学術技芸を教授し、その奥深くを研究することを目的とする」とあり、西洋列強国に追いつくために日本の近代化を担う人材育成機関としての役割を明確に示していた。

しかし、最近の就職状況を見ると、その実態は、日本の国家を支える人材からグローバル経済を担う人材へとシフトしているように思える。

■「当たり前」が崩壊した世界

注意すべきは、この「前提」の崩壊だ。

令和という新しい時代は、私たちがこれまで「当たり前」としていた前提条件があらゆるところで瓦解し始めている。この前提条件の瓦解をいち早く察知しないと、ビジネスも、人生も失敗する。

たとえば、キャリアの考え方も前提条件が瓦解している事例の1つである。

■「ワークキャリア」から「ライフキャリア」へ

これまでのキャリアの前提条件は、仕事だけに閉じ込められていた。

就業期間の40年がキャリアを考える時間だった。私たちは人生を80年とし、就業前の期間をL1(20年)、就業期間をL2(40年)、老後期間をL3(20年)と大まかに3つの期間に分けて考えていた。この区分けに基づいて年金システムや退職時期も設計されていた。

しかし、昨今人生100年時代となり、前提条件が瓦解する。さらに20年長い人生を再設計する必要が出てきたのだ。

新しい区分は、次のように4つに分けられるかもしれない。期間L1(22年)、就業期間L2(43年)、自営期間L3(15年)、老後期間L4(20年)である。このように就業期間L2だけでなく、自営期間L3も踏まえて、人生丸ごとキャリアとして捉え直す必要があるのだ。

【図表1】長寿化で生じるキャリア観の変化
人生100年時代は、キャリアを4つの期間で捉え直す必要がある。

退職時期を65歳とし、老後期間を20年と設定すると、その間の15年間は自力で働かなければならない厳しい現実が見えてくる。しかし、就業後、また誰かに雇われるのは精神的にも肉体的にもしんどい。

それよりは、これまでの経験や人脈を生かして、自営業を行うことが最善策ではないか、と最近考えるようになった。

■日本人に必要な「脱」雇われマインド

ところが現実を見ると、日本人の多くは、自分の資金を投資してビジネスを立ち上げ、運営する経験がほとんどない。多くが他人に雇われて報酬を受け取る雇用者なのである。

自営期間L3の15年という100年時代の課題を突きつけられているにもかかわらず、「準備」する気配すらないサラリーマンは多い。これは先の前提条件の瓦解を察知していない危険信号である。

改めて、日本の労働人口において、雇用者数と自営業主はどれくらいを占めるのか、調べてみた。

総務省統計局の「労働力調査」を見ると、2023年度の雇用者数は6076万人である。労働人口全体が6747万人だから、全体の90%が雇用者ということになる。

一方で、自営業主は512万人で全体の8%程。家族従業者(家族が経営する事業を手伝っている人)は126万人で2%だった。

この数値と比較検討するため、労働力調査が始まった1953年(70年前)にさかのぼってみた。この年の雇用者数は1660万人である。労働人口全体が3913万人だから、全体の42%である。

■労働人口の半分以上が自力でビジネスを営んでいた

これには驚いた。

自営業主の数は991万人で、なんと全体の25%を占めている。家族従業者は1262万人で32%という高い構成比だった。我々の先輩たちは、たくましかった。70年前の日本は自営業主と家族従業者で57%を占めており、労働人口の半分以上が自力でビジネスを行っていたのである。

新入社員にいきなり「自営業を始めてみよ」と言われたら、誰でも怖気づくものだ。しかし、40年以上会社で働き、ビジネス経験が豊富な状況であれば、退職後の15年を自分の得意な分野で「自営」してみることは、かなりハードルが低いのではないか。

また、自営業であれば、企業のように年間数十億の売上目標を課せられることはない。月に年金と同程度の収入があれば、楽しく、不安なく暮らしていけるだろう。つまり、「小商い」で十分なのだ。

そのためには、自分の事業をどう組み立てていけばいいのだろうか。

充実した仕事
写真=iStock.com/SolStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SolStock

■キャリア・ビルディング・ブロックで無形資産を融合する

その1つの方法として、私は「キャリア・ビルディング・ブロック」というフレームワークを提唱している。

キャリア・ビルディング・ブロックは、縦軸を「資産の成長」、横軸を「資産分類」に分けて考える。

縦軸は三段階で構成され、第一段階は無形資産を身につけるための投資段階、第二段階は無形資産を活用して価値を生み出す創造段階、第三段階は創造した価値を有形資産として保有する段階である。

一方、横軸は無形資産の3分類の中から、生産性資産と変身資産を選んだ。生産性資産はビジネス領域で、変身資産はプライベート領域で育まれるものと定義している。プライベートも含めて、2軸でキャリアを捉え直すのがライフキャリアの重要な視点である。

■ライフキャリアを形成する5つのブロック

この結果、ライフキャリアを形成するうえで重要な5つのブロックが形成される。

【図表2】キャリア・ビルディング・ブロック
キャリア・ビルディング・ブロックは、「ライフキャリア」を構成する5つのブロックで自分の強みを再発見するためのフレームワーク
①労働ブロック(会社の人材投資):
生産性資産を身につけるために会社が教育として投資する段階である。多くの会社が新人教育としてさまざまな学びの場を提供しており、現場での仕事が身につくまでの約5年間がこの時期にあたる。この時期は会社が社員に「人材投資」をしているため、「労働ブロック」と呼ぶ。
②仕事ブロック(ビジネス創造資産):
生産性資産を活かし、自ら仕事を生み出す創造段階である。自分の力で仕事を生み出せるようになると、働くことが楽しくなり、現場を指揮し、売上を作り、会社に貢献する段階に達する。これを「仕事ブロック」と呼ぶ。
③学び・趣味ブロック(自己投資):
プライベートな領域で、自分の好きなことや必要なことに投資する段階である。多くの人は週末や余暇に趣味や学びに時間を割いている。この活動はストレス発散にもなるが、このマトリクスでは自己投資とされ、ライフキャリアにおいて非常に重要なブロックである。
④特技ブロック(自立資産):
自分の好きなことで価値あるものを生み出す段階である。これを「特技ブロック」と呼ぶ。この特技はライフキャリアの中で立派な資産となり、会社に雇われなくても、この資産を活かして稼ぐことができる。例として、YouTuberは自分の特技をコンテンツ化して収益を上げている典型である。
⑤パーソナル・ビジネスブロック(資産融合):
これは仕事ブロックと特技ブロックの資産を融合させ、自分だけの事業を生み出し、所有する段階である。このブロックの特徴は、自分の好きなことで磨きがかかった資産と、ビジネスを生み出す資産が融合しているため、非常にやりがいがあり、幸せな事業を所有していることになる。

■プライベートの趣味や特技も立派な「資産」

このフレームワークは、仕事=キャリアではなく、プライベートにおける趣味や特技も「資産」として捉えることにユニークさがある。

ビジネス領域だけでなく、プライベート領域も含めた2軸で人生のキャリアの可能性を広げるのである。

そして、退職後、自営期間L3に突入した時に、このフレームワークで棚卸した「資産」を融合して、15年を楽しみながら小商いを行うのである。

■「小商い」に活路あり

私は2010年から独立して自営業を始めた人間である。それまでは大企業でマーケティング統括をやっていたから、肩書は1つしかなかった。

しかし、現在、会社経営者、大学教員、ビジネス書作家、マーケティングコンサルタント、フィールドワーカー、教育者といった具合で、肩書がたくさんある。「すごいですね」と言われることもあるが、実状は小商いの集合状態なのである。

結果、ビジネスを1つに頼らず、複数の小商いを持つことでリスクヘッジ策となっている。自分が得意な領域を分散的に持つことによって、収益の安定化を図っているともいえよう。

■「デジタル小商い」の無限の可能性

さらに付け加えれば、サラリーマンはデジタルでマネタイズする術を就業期間中に習得してほしい。こう考えるのは、私自身のコロナ禍の経験・教訓からである。

原尻淳一、千葉智之『ライフキャリア』(プレジデント社)
原尻淳一、千葉智之『ライフキャリア』(プレジデント社)

コロナ禍で自営業の私が数年耐えられたのは、ウェブ上でZoomなどのツールを駆使して、研修ビジネスができたこと、そしてFacebookで世界中の仲間たちと日々コミュニケーションが取れて、有料イベントや勉強会を開催できたからだ。

デジタルの良さは地理的条件を超えて、あらゆる人と繋がれることだ。たとえば、人口減少が著しい地方に暮らしていても、ネットの技術とマネタイズ方法さえ体得していれば、ビジネスは可能になる。

これらの点を考えると、来るべき退職後に目指すのは「デジタル小商い」なのかもしれない。インターネットはすでに個人がマネタイズできる環境が整備されている。ユーチューバー然り、得意な分野をコンテンツ化し、楽しみながら稼いでいる人たちがたくさんいる。

私たちは、いまこそ「ワークキャリア(仕事だけに限定したキャリア観)」を脱して、「ライフキャリア(人生の長い時間軸でのキャリア形成)」という新しいフィルターで現実を見て、将来に向かって小さく動き出すべき時なのである。

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原尻 淳一(はらじり・じゅんいち)
HARAJIRI MARKETING DESIGN 代表取締役 龍谷大学客員教授
1972年埼玉県生まれ。龍谷大学大学院経済学研究科修士課程修了。大手広告代理店入社後、エイベックスグループに転職。多くのアーティストのマーケティング、映画の宣伝戦略、アニメの事業計画立案を行う。現在はレコード会社、芸能プロダクション、飲料メーカーや広告代理店等、幅広い業界でマーケティングコンサルタントとして活躍している。また、大学教授として、マーケティング・エンタテインメント・教育を掛け合わせた活動もしている。ベストセラーとなった「ハック」シリーズ(東洋経済新報社)ほか著書多数。

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(HARAJIRI MARKETING DESIGN 代表取締役 龍谷大学客員教授 原尻 淳一)

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