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廃墟タワマンが立ち並び経済苦境は深刻に…追い詰められた習近平政権が世界を敵に回す"禁じ手"とは

プレジデントオンライン / 2024年7月20日 9時15分

2024年7月4日にアスタナで開催された上海協力機構(SCO)首脳会議に王毅外相とともに出席する中国の習近平国家主席 - 写真=AFP/時事通信フォト

中国は香港や新疆ウイグル自治区を抑圧し、台湾など周辺地域への軍事的圧力を強めている。なぜ中国は強硬なのか。テレビ東京の豊島晋作キャスターは「中国と日本とでは、そもそも『平和』に対する認識が異なる。中国の平和認識に照らせば、台湾侵攻も平和のために必要な行為だと考えている」という――。

※本稿は、豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「中国には人口の2倍の家がある」?

日本より遥かに進んだデジタル国家として急速に発展する一方で、中国経済の低迷ぶりも顕著でした。特に2023年から中国経済の停滞・低迷懸念が強まりましたが、現地で見た”経済停滞の景色”も凄(すさ)まじいものがありました。

中国の「不動産バブルの崩壊」を伝えるニュースでは、誰も住んでいない高層マンションがどこまでも立ち並ぶ光景が日本でも映像で伝えられていましたが、それらは地方都市の多くで見られる日常的な光景の一部です。

天津市内では117階建ての超高層ビルの建築が途中で止まり、数百メートル上空で骨組みが無惨にさらされていました。現地では「中国には人口の2倍の家がある」という冗談を聞くほど、マンション開発が盛んに行われ、多くが誰も住まない廃墟(はいきょ)になっていました。

なぜマンションばかり建てたのでしょう。理由の一つは、不動産を建てれば、建設業者はもちろん、内装業者、家具メーカーも含めて幅広い産業が潤い、その地域を担当する共産党幹部の成績表である地域GDPが増加するからです。

また不動産価格の値上がりが長い期間にわたって続いたため、投機目的でのマンションの購入も増えていました。このためマンションの建設ラッシュに支えられて経済の過度な不動産依存が起こり、結局はバブルが崩壊して多くの人々が財産を失いました。

■「日本はデフレにどう対応したのか」問い合わせが急増

先ほども述べたように、中国では2023年夏に16歳から24歳の若年失業率が20%を超えています。内需が弱く、世界がインフレなのに中国の物価は下がり続け、過去の日本のようなデフレに陥っています。

中国は経済の「日本化」を恐れており、ある外資系コンサルティングファームの幹部は、中国の大手企業から「日本は長年のデフレにどう対応したのか教えてほしい」という趣旨の問い合わせが急増していると語っていました。

私が出席した天津での世界経済フォーラム主催の国際会議「サマーダボス」会議では、共産党ナンバーツーの李強(りきょう)首相が出席し、繰り返し中国経済の強さを語り、国内への投資を呼びかけました。しかし、真に受ける海外の投資家はほとんどいませんでした。経済の停滞に加え、共産党の強権支配が強まり、特に「反スパイ法」の改正で自社の駐在員が拘束されるリスクも出る中で、中国への見方は厳しさを増しています。

■行き詰まった中国は台湾を獲りに行く

中国国内でも経済停滞への危機感は強いのですが、財政出動による景気の下支えなどのテコ入れも、政府債務や地方債務の大きさを考えると簡単には実行できないと見られています。「サマーダボス」会議でも、コロナの影響を過小評価すべきではなく、コロナからのリオープンで経済のリバウンドが起こるなどは「現実的ではない」という悲観的な意見が中国人の出席者からも出ていました。

こうした“内憂”をかかえる中国ですが、習近平体制はますます権力の集中を進め、対外的には強硬な姿勢を強めています。台湾への姿勢も例外ではありません。中国経済の停滞は世界経済にとってのリスクですが、それで大勢の人が死傷するわけではありません。しかし、中国が台湾に軍事侵攻するかどうかは、大勢が死傷する可能性を秘めた国際政治の巨大リスクです。

中国経済の低迷と対外的な強硬姿勢は、まさに『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)の第1章で述べた「デンジャー・ゾーン」の議論、つまり「自らが衰退する前に台湾を獲(と)りに行く」危険性を十分に想起させるものでした。

タワーマンション
写真=iStock.com/Wengen Ling
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wengen Ling

■「台湾は国の一部」とは異なる中国の本音

では、もし中国が台湾に軍事侵攻するならば、そもそもいかなるロジックで侵攻を正当化するのでしょうか。中国が抱く「台湾侵攻の論理」とは何なのか、基本的な考え方を探ってみたいと思います。

習近平主席は「台湾の祖国からの分裂を断固として阻止し、祖国は再統一されなければならず、必然的に再統一される」などと、台湾を中国に組み入れる意思を何度も強調しています。「必然的に」という言葉に強い決意が滲(にじ)み出ており、怖さも感じます。

いつ台湾統一を実現するつもりなのか。第1章で示した通り、アメリカの情報機関が把握しているとする時期は2027年です。一方で中国側から見ると、この2027年というのは中国人民解放軍の創設100年の節目であり、習近平主席にとっては中国共産党総書記として3期目の最後の年にあたります。

もっとも実際は、2027年に直ちに侵攻が起こるというより、2027年以降はいつ起こってもおかしくない状態だと捉(とら)えるべきかもしれません。

中国にとって台湾は「国の一部」なので、軍事的な手段を含め台湾を統一することは、あくまで国内問題への対処であり、当然ながら中国の自由だと主張しています。建前としては、平和的な統一が第一であり、軍事的な統一を強調することはほぼありません。

しかし、本稿で見ていく「台湾侵攻の論理」とは、中国が繰り返し主張するこうした平和的な統一の論理ではありません。ある意味で、その基本的なロジックを突き詰めた本音の部分、つまり武力統一の論理です。

■発禁→解除→検閲を経た“習近平の軍師”の本

注目するのは、習近平主席の考え方のもとを作ったとも見られる軍人の本です。中国国防大学教授で人民解放軍の上級大佐でもある劉明福(りゅうめいふく)の書いた『中国「軍事強国」への夢』(峯村健司監訳、加藤嘉一訳、文春新書)を中心に読み解いていきます。

劉大佐は今から10年以上前の2010年に『中国の夢』という本を書いて中国でベストセラーになっています。中国はアメリカを追い越し、打ち勝って世界一の大国になるという内容でしたが、当時の胡錦濤(こきんとう)政権が国外の反発を嫌ったのか、この本は発禁処分にされています。

しかし2012年、習近平政権が発足すると発禁は解除され、さらに習近平はこの「中国の夢」に重要な会議で繰り返し言及し、最も重要な政治スローガンに位置付けました。このため劉大佐は習近平の軍師の一人、戦略ブレーンなどと言われ、2020年にはさらに『新時代中国 強軍の夢』という本を出版しました。

ただ、“習近平の軍師”の本ですら共産党の検閲は逃れられなかったのか、新しい本でも台湾統一に関する内容は削除され、劉大佐は言いたいことが十分に言えなかったようです。

■「自衛隊最大の仮想敵」の戦略が書かれている

そこで、朝日新聞記者だった峯村健司(みねむらけんじ)氏が大佐と交渉して草稿を入手し、その主張を『中国の夢』のいわば続編として日本語でまとめたのが『中国「軍事強国」への夢』という本です。この本には中国語版では記述がない台湾問題も含まれています。

もとは中国の国内向けに書かれたもので、習近平政権への忖度(そんたく)や配慮はある程度割り引くとしても、非常に端的で分かりやすい内容の本です。私個人として内容には全く賛同できませんが、正直に言うと、この本の論理展開は、中国の論理を明快かつ率直に説明していて、「見事」と思えるほどでした。

言論の自由がない中国では、当局の公式発表はどこまでが建前で、どこからが本音なのか推し量るのが難しい時があります。しかし、この本には率直な中国の本音と戦略が赤裸々に書いてあります。日本の自衛隊にとって最大の仮想敵は今や中国人民解放軍ですが、少なくとも現代中国の軍人がここまで率直に書いた日本語の書籍は他に例がなく、その“敵”を知る上でも非常に重要な本だと言えるでしょう。

■「ランドパワー」から「シーパワー」国家へ

まず、この本で劉大佐は「軍事闘争の重点と重心を海洋に移さなければならない」「強大な制海権を手にするために、強大な海軍が必要」だと中国の海軍力の増強を説いています。

古くから中国は陸上において国力を伸ばしてきた国家であり、海戦より陸戦が得意な「ランドパワー」=「大陸国家」でした。このため台湾をはじめ太平洋に進出していくにあたって、海軍力を増強して「シーパワー」=海洋国家へと自らを変貌(へんぼう)させようとしているのです。

日本やアメリカは、歴史的に海を国力伸長のために活用し、海軍の力が強い海洋国家です。今の東アジアの状況は、このシーパワーとしての日米と、ランドパワーからシーパワーへの変貌を遂げようとする中国が睨(にら)み合う構図になっています。

そもそも台湾をめぐる戦争は、主に海が戦場になるでしょう。もちろんサイバー戦や情報戦、航空戦、ミサイル戦、海岸での戦闘を含む陸上戦など、様々な戦いが想定されます。ただ、台湾島という物理的な土地の制圧を目指す以上、やはり戦いは海が中心です。

台湾澎湖県
写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

■劉大佐の「平和」認識は日本人とは違う

そうは言っても、中国も兵士の犠牲は避けたいので、台湾をまずは平和的に統一するのが理想です。習近平主席も基本的には「平和統一」を掲げています。香港(ホンコン)に対してそうしたように、大砲の弾は一発も撃たず、兵士の犠牲を一人も出さず、共産党独裁の一部に組み込むのです。

もちろん「平和統一」と言っても、あくまで軍事力や警察力などの物理的暴力に裏打ちされた統一であり、武力での強制です。この点、劉大佐は本の中ではっきりと、海軍力を中心とした軍事力が必須であり、「武力という手段がなければ、平和的統一を実現することは難しい」と「平和統一」の内実を率直に書いています。

そもそも「平和」についての劉大佐の考え方が、日本人のそれとは全く異なります。中国政府も建前として平和の重要性を強調していますが、実は、根底には極めて現実主義的な「平和」認識があるのです。劉大佐は「『利益』と『国力』こそが、国際関係の本質なのだ。国力を持たずして、誰が平和を与えてくれるだろうか?」と問い、日本のいわゆる「平和主義」とは、いわば真逆の論理を展開します。もはや台湾統一にあたっては、平和は優先されないとすら言い放つのです。

少し長いですが、引用します。

■「原則を失った平和は屈辱でしかない」

「中国は平和的統一を堅持するが、統一は平和よりも尊い」
「平和的統一を堅持するために、台湾独立勢力による分裂と独立を容認するわけにはいかないのだ」

つまり台湾統一のために平和を犠牲にすることも必要だと、はっきりと言っています。そして、中国が定義する「平和」について最も率直に書かれた部分が「平和の区分」という考察です。

「平等、公正、正義の原則に基づいた平和もあれば、妥協、譲歩、屈服、売国、投降によって得られる平和もある。挑発者を前にして、闘争しなければ平和は生まれる。圧迫者を前にして、抗争しなければ平和は生まれる。侵略者を前にして、抵抗しなければ平和は生まれる。つまり、すべての平和が栄光あるものではないということだ。原則を失った平和は屈辱でしかないのだ」

最後の文章は、台湾が統一できていない現状での平和は、中国にとっては「屈辱でしかない」という意味でしょう。その意味では完全に独善的な“平和“の定義ですが、一方で、ここまではっきり言われると、どこかすっきりするような感覚も抱いてしまいます。劉大佐が述べるこの「平和の区分」は、率直に言えば国際政治のリアリズムを反映した正論でもあり、反論が難しいからです。

■だから香港やチベットを抑圧している自覚もない

同時に、中国は日本が考えるような「平和」より優先すべき論理を抱えているのが分かります。日本にとって国家間戦争のない今の東アジアは「平和」ですが、中国にとって現状は「屈辱」であり、真の意味での「平和」ではないのです。

国際政治において戦争が起こる大きな原因は、現状のままで良いと考える勢力=「現状維持勢力」と、現状を変えたいと願う勢力=「現状変更勢力」の対決です。

「現状維持勢力」は、現在の世界の状態に満足し利益を得ている国々です。「現状変更勢力」は、逆に今の世界に満足せず、現状を変えることで利益が得られると考える国々です。大佐の文章を読むと、まさに中国が「現状変更勢力」であることが分かります。逆に、日本や台湾は「現状維持勢力」です。

豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)
豊島晋作『日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつける』(KADOKAWA)

こうした中国の論理に、日本のいわゆる「平和主義」がどれだけ対抗できるのか、疑問も湧きます。そもそも日本と中国で「平和」の定義が異なるからです。

一方で、この中国の論理、特に平和の「性質的区分」には、中国自身が侵略者、圧迫者となって台湾の人々に「屈辱的な平和」を押し付けるという視点は完全に欠けています。香港やチベットで自分たちが人々の自由を抑圧する圧迫者であるという視点も全くありません。

そうなると、この区分は、将来、中国の軍事侵攻を受けるかもしれない台湾の人々が「中国に屈服した平和」を選ぶのか、つまり「屈辱的な平和」を選ぶのかの区分にも見えてきます。2023年の総統選挙で台湾独立派の頼清徳新総統を誕生させた民意を見れば、台湾の答えは明らかに「ノー」でした。

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豊島 晋作(とよしま・しんさく)
テレビ東京報道局記者/ニュースキャスター
1981年福岡県生まれ。2005年3月東京大学大学院法学政治学研究科修了。同年4月テレビ東京入社。政治担当記者として首相官邸や与野党を取材した後、11年春から経済ニュース番組WBSのディレクター。同年10月からWBSのマーケットキャスター。16年から19年までロンドン支局長兼モスクワ支局長として欧州、アフリカ、中東などを取材。現在、Newsモーニングサテライトのキャスター。ウクライナ戦争などを多様な切り口で解説した「豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス」の動画はYouTubeだけで総再生回数4000万を超え、大きな反響を呼んでいる。

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(テレビ東京報道局記者/ニュースキャスター 豊島 晋作)

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