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「理想が高くて結婚できない」のではない…40歳未満の東大卒女性の2人に1人が未婚である本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年7月24日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

日本は欧米に比べて女子の大学進学率が著しく低い。なぜなのか。経済学者の安田洋祐さんは「本人の能力にかかわらず、社会に残るジェンダーギャップが大きく影響している。東京大学を卒業した女性は男性に比べて結婚しづらいのも同じ理由によるものだ」という――。

※本稿は、西田亮介、安田洋祐『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■欧米では女子のほうが大学進学率が高い

ぼくが大学に関する国際的な比較で衝撃を受けたのが、大学生の男女比です。

これを見てみるとOECD諸国のなかで男性のほうが多いのは日本ぐらいなんです。

北米とかヨーロッパはもう軒並み女子のほうが進学比率が高いんですよね。

日本にいるとわかりやすく地方格差と男女格差があって、47都道府県のうち、女子が男子の大学進学率を上回っているのは徳島県(女子52.6%)と高知県(同49.1%)、鳥取県(同43.4%)です(文科省「2022年度学校基本調査」による)。ほかはすべて男子のほうが進学率は高くなっています。

OECD諸国の女性の学士号取得者の割合
『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』(日本実業出版社)より

伝統的に、女性が大学を出てキャリアを築いても期待できるリターンが少ないのであまり熱心に大学に行こうとしないという深刻な構造問題があるのと、あとは女性には短期大学という選択肢があるから、という点が大きいのではないでしょうか。

■東大の女子学生比率は約30年ほぼ変わっていない

ところが、「○○女子短大」は最近はどんどんなくなったり、4年制大学に移ったりしています。それによって、ある程度はギャップが縮まっていくとは思われます。

西田亮介、安田洋祐『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(日本実業出版社)
西田亮介、安田洋祐『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(日本実業出版社)

なので、日本に固有とまではいえないかもしれませんが、女性だけもっぱら2年制の大学に行っていたというのが、ほかの先進諸国との違いを生み出している大きな要因かもしれません。

しかし、一番大きいのはやはり、大学を出たあとの年収であったり結婚の機会であったり、リターンの期待値(期待リターン)が男女間でだいぶ違うところでしょう。実際に、たとえば東京大学の女子学生比率はいまだにすごく低い状況です。20%ぐらいで、ぼくが学生の頃からほとんど改善していません。

これって結局「炭鉱のカナリア」みたいな形で、どのくらい女性の社会活躍が真に進んでいるかを見る、とてもすぐれた物差しではないでしょうか。

なぜかというと、中学や高校の段階では男女間での基礎学力にほとんど差はありません。むしろ女性のほうが優秀だったりするわけです。

にもかかわらず、大学入試を経て、東大などの難関大に入学する学生のジェンダーギャップがこれだけあるのは能力の問題ではなくて、どれぐらい時間やコストを大学進学に投資するか、という投資インセンティブの違いが如実に出ているからです。

■周囲の大人のジェンダー観が影響を及ぼしている

何がその投資量の違いを生むかというと、大学を出たあとの期待リターンや、家族や教員などまわりの大人たちからの影響ですよね、普通に考えると。

ご家庭、親御さんが子どもの進学についてどう考えるか、ジェンダーによる価値観の違いのようなものが現れています。

本人の能力とは関係なく、社会の女性活躍の度合いと周りが期待するジェンダー観みたいなものが影響しているからこそ、本人の投資行動が変わってくるわけです。

それを測るのに、やはり東大の女子学生の比率は優れた代理変数ではないでしょうか。

この数字が改善してないということは、表面上就労率が上がったり、女性でも中間管理職以上に進む人がある程度増えていたりしても、やっぱりいまだに水面下ではジェンダーギャップが残っているということです。足元で、優秀な女子高校生たちの行動が変わっていないわけですからね。

【西田】
期待リターンと親などの制約条件のどちらが効いているかも興味深いです。東大を出てからの行き先はほかの場合と比べてジェンダーギャップがかなり少ないはずなので、期待リターンは男性も女性も変わらないのでは? だとすると期待リターンの違いよりも、社会のジェンダーを巡るさまざまな偏見、差別意識、規範感情などが関係している気もします。

■「女の子が東大に行くと結婚しにくくなる」は本当か

でも、地方だと優秀でも女の子には教師があまり東大はすすめない……というようなことを聞きますよね。本人だけではなくて周りの大人、つまり親や教師にアンコンシャスバイアスがあって本来のポテンシャルとは違う道をすすめているということはありそうです。

また、経済的な意味では西田さんがおっしゃるようにそんなに男女差がなくなってきているかもしれない一方で、よく聞くのが「女の子で東大に行くと結婚しにくくなる」とかですよね。これは本人もそうだし、親御さんにとっても「行かせて大丈夫なのか」という懸念材料にはなりそうです。

【西田】
そうか。親が期待するリターンもあるわけですね。

【安田】
そうそう。必ずしも経済的なリターンだけではないっていう。

【西田】
安田さんは東大OBですけど、実際に東大卒の女性は結婚できないんですか? それとも都市伝説なんですか。

男子は1度は結婚している人が大半なのに対して、女子は40歳を過ぎても未婚という人が知り合いにも何名かいます。ただ、実際のデータを見ると、東大女子の未婚率がいちじるしく高いわけではないので、その意味ではちょっと誇張されすぎている気もします。

東京大学OG・女子学生の婚姻率
『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』(日本実業出版社)より

■男性が下駄を履かせてもらっている状況は続いている

男女問わず、東大を卒業していい企業に就職したり役人になったりする人は多いですよね。そして男性の場合はキャリアと結婚の両方を追求できています。

つまり、家事や育児は配偶者が担ってくれるのでキャリアに集中できるという、男性が思いっきり下駄を履かせてもらっている状況はまだ続いています。

一方で、女性だとそれが難しいので気がついてみたら仕事はうまくいっているんだけど、キャリアを追求し続けた結果、婚期が遅れる、逃すみたいな人はいますよね。同じゼミ出身者とかクラスメイトとかを振り返ってもそういう印象を受けます。東大女性の婚活を専門にしている会社が行なった実態調査でも、そういった結果が出ています。

■文学部ですら女子比率が3割を切る東大

【西田】
ぼくの前任校の東工大は、そもそも女子学生が少なすぎて、入学者比率でいうと女子学生率は10%くらいでした。

そんなに低いのですね。理工系中心の学校だから仕方ない、とまではいわないまでも、どれだけリケジョブームとかいっても、そんなにすぐに理系を目指す女子が増えないという点は理解できます。でも、東京大学は文系学部でも少ないですからね。経済は特に酷くて、2割にも届きません。法学部は経済より多いけど、2割ちょっとくらい。女子学生が多そうなイメージのある文学部でも3割を切っている状況です。

本書の編集者も女性で、「大学時代からずっと男性社会だった」ということを言っていました。地方国立大学の文系出身だと聞いていますが、それでも男性の割合のほうが圧倒的に多かったと感じていたわけです。そういう女性は多いのではないでしょうか。

東京大学文系学部の男女比
『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』(日本実業出版社)より

■男社会に少数の優秀な女性を入れてもパフォーマンスは上がらない

これは意外と重要で、男性がマジョリティのところに女性を入れると、優秀な人であってもパフォーマンスが上がらないという事実が知られています。

やっぱり女性はあまり競争的な振る舞いをしない傾向があるので、とりわけ周りに男性社員とか男性のメンバーが多いと、本来ポテンシャルが高くても、自分を出しにくいっていうか、遠慮しちゃう構造があるらしいんですよね。

ある程度の割合まで女性が増えると、その優秀な女性を入れたときにパフォーマンスはすぐ上がるようです。なので、ほぼ男社会のなかに、ちょこっと数名だけ女性を増やすみたいな抜擢をしても、パフォーマンスが上がりにくいんですよ。

結果的にパフォーマンスが上がらない。男性を入れた場合と比べてマイナスだから、女性登用を見送ろう、みたいな誤った結論を導き出してしまう。だから、変えるなら思い切って大きく変えないと、そもそも女性がパフォーマンスを発揮できないってことは、研究では知られているみたいですね。

【西田】
我々も、もし女性だらけの職場に放り込まれたら関係性形成が困難で、仕事できない気がしますよ。ぼくはただでさえ人間嫌いなのに、そんな職場だと関係性を築くのは難しいんじゃないか。女子会についていくわけにもいかないでしょうし。そういう想像をすると、やっぱり男性だけの職場に女性が少数いると働きにくいですよね。

表面上のダイバーシティは、女性の取締役や従業員を増やせば数字としては達成できるんでしょうけど。まさにダイバーシティ&インクルージョンの後者のほうが課題で、ただ単にちょっと数を増やしても全然インクルーシブな関係にならないんでしょうね。

■アイビーリーグで行われたアファーマティブアクション

【西田】
男女比率の格差を解消する方法というと、たとえばクオータ(quota)制(※)などを採用して、女子比率を3〜4割とかに割り当てるとかはすぐ思いつきますよね。東工大も女子学生比率について現在の10%からまずは20%を目指すとか、東大をベンチマークにすると言っています。悪くはないですが、それだと女子学生比率を少し改善するだけなので、効果が現れるにはずいぶん時間がかかりそうです。そうなると、やはり4割など、そういう目標にしないとダメそうですね。

※クオータ制:格差是正のためにマイノリティに割り当てを行なうポジティブ・アクションの手法。たとえば政治の分野では、議会の男女間格差是正を目的として、性別を基準に両性の比率を割り当てる。

アメリカの大学だと、もともとアイビーリーグはすべて男子校だったところに女子を受け入れたので、最初はアファーマティブアクション(積極的な格差是正)をやりました。元々コミュニティカレッジとかにいた女子学生たちをバッと入れるわけですから、成績面等では差があります。

■実力で採ると女子のほうが多く入学してくるようになった

そこで最初はある種の下駄を履かせたんですけれども、すぐに下駄は必要なくなって、いまは実力で採ると女子のほうがたくさん入ってきちゃうから、逆アファーマティブアクションみたいなことを一部ではやっているそうです。

つまり、SATⓇ(大学進学適正試験)のスコアやエッセイとかだと女子が好成績になるので、男子も多少は入りやすくなるように入学基準を調整している大学もあるんじゃないかっていう話ですね。

【西田】
それっていつ頃ですか?

ぼくが留学したプリンストン大学は、実はアイビーリーグのなかで女子学生を受け入れたのが一番遅いらしいんです。ある意味もっとも保守的で、共学化したのは結構最近、1969年です。20世紀も後半ですね(※)

※『なぜ東大は男だらけなのか』矢口祐人(集英社 2024年)参照。

男女同権どころの話ではなくて、そういう意味ではとても遅れていました。

しかし、いまはもう男女比率はほぼ半々になっていて、アメリカの大学は大体そうです。それは裏事情もあって、50%からすごく乖離すると、女の子が多くても少なくても大学のランキングが下がるんですよ。

■徹底して成績だけで採る理系大学ではアジア系が強い

そもそもこうした基準のランキングがいいかどうかという議論もありますが、ランキングがあるおかげで、どこの大学もジェンダーバランスや人種的なバランスなどを意識して取ろうとしていますよね。

他方、人種間のバランスを取らない大学として有名なのが、カリフォルニア工科大学。通称カルテクですね。カリフォルニア工科大学は人種のバランスを一切見ないと公言していて、学力とかSATとかだけで見ると。

そうすると、いまはもう4割近くアジア系になっているようです。抜群に成績のいい子はみんなアジア圏なので、そういう偏りが出てくるってことですよね。

【西田】
こうやってみるとアメリカも結構ヤバいですね。アファーマティブアクションというと公民権運動に関心が向きがちですが、この場合はフェミニズムの影響なのでしょうか。

【安田】
はい、まさにそういった社会の動きに対応しています。共学化の流れが起きて、男子大学のままでいると、女子学生はもちろん保守的な姿勢を嫌う優秀な男子学生も来なくなってしまう。プリンストン大学を含め、競争のプレッシャーにさらされた結果、各大学が次々に女子学生を受け入れていったようです。

あとは、アイビーリーグだと男子校のそばに、もともと姉妹校ではないですが併設校みたいなのがあって、女子はそちらに通っているケースもありました。そのバラバラだった2つの大学がくっついて共学になったというような歴史もあります。大学によってそのあたりの経緯は違えども、重要なのは結構最近まで男子校だったということですね。

戦後すぐぐらいまで、アメリカの名門大学は、本当にいわゆるWASPの人たちが文字通り牛耳ってたんじゃないでしょうか。

【西田】
やっぱり、ある種の意思の問題ですよね。

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西田 亮介(にしだ・りょうすけ)
日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授
1983年京都生まれ。博士(政策・メディア)。専門は社会学。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)ほか多数。

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安田 洋祐(やすだ・ようすけ)
大阪大学経済学部教授
1980年東京生まれ。専門は経済学。ビジネスに経済学を活用するため2020年に株式会社エコノミクスデザインを共同で創業。メディアを通した情報発信、政府の委員活動にも積極的に取り組む。著書に『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP・共著)、監訳書に『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(東洋経済新報社)など。

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(日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授 西田 亮介、大阪大学経済学部教授 安田 洋祐)

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