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「控えが嫌ならグラウンドに来るな」"日本一が当たり前"の大阪桐蔭西谷浩一監督が選手にかける厳しい言葉

プレジデントオンライン / 2024年7月19日 10時15分

選抜高校野球大会で優勝した大阪桐蔭監督の西谷浩一さん(=2022年3月31日) - 写真=共同通信社

甲子園での通算勝利数が1位(69勝)の大阪桐蔭高校の西谷浩一監督(社会科教諭)。これまで夏10回、選抜13回出場し、優勝は夏、センバツともに各4回ずつ。どこが他の監督と違うのか。野球評論家のゴジキさんは「西谷監督のチームビルディングは、『“個”を伸ばすためならいったんチームワークを捨てろ』という言葉に象徴されている」という――。

※本稿は、ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■甲子園通算勝利数1位(69勝)は大阪桐蔭の西谷浩一監督

現代の高校野球において、常にトップクラスの強さを見せており、「勝者のメンタリティ」を兼ね備えているのが西谷浩一氏率いる大阪桐蔭だ。西谷氏は甲子園で、非常に高い成績を収めている※1

前任者と西谷氏が率いた大阪桐蔭の甲子園成績だ。

・長沢和雄氏就任時:7勝1敗、春の甲子園に1回、夏の甲子園には1回出場。夏優勝1回。
・ 西谷浩一氏就任時:69勝14敗、春の甲子園に13回(交流試合含む)、夏の甲子園には10回出場。春優勝4回、夏優勝4回、国体優勝4回、明治神宮野球大会優勝2回。

一人の選手が数年から十数年と長く続けるプロ野球とは違い、3年間で選手が丸ごと入れ替わり、世代ごとに選手の能力や個性が違う高校野球において、10年以上結果を残し続けることは、かなり稀有(けう)なことである。大阪桐蔭は、どの世代も「勝って当たり前」と見られる中、毎年のように結果を出すチームをつくり上げる西谷氏の手腕も光る。

西谷氏の凄さの一つは、選手のモチベーション管理を含めたマネジメント能力だ。戦力的に充実している年が多いため、大阪桐蔭は「優勝して当たり前」と見られがちだが、優勝校に相応(ふさわ)しい練習量を誇っており、OBの西岡剛(つよし)(元・阪神タイガース)や森友哉(ともや)(現オリックス・バファローズ)は「日本一の練習量※2」とコメントしている。

これは、高校野球の強豪校に限らず企業などでも同様だろう。業界全体、社会全体の中でトップに立ち責務を果たしていくには、こうした厳しい、ハードルの高い環境に身を置くことが一つの有効なルートでもある。

また、チームビルディングの面では、個とチームのバランスを考えている。西谷式マネジメントの根幹は、圧倒的な「個」の力と団結力だ。

「個の結集がチームじゃないですか。小さな粒が集まったら、こぢんまりしたチームにしかならないので、いかに一人を大きくできるかということです。野球は団体スポーツですけど、個別性が高いのが特徴です。なぜなら、絶対にみんなに打席が回るからです。個別性が高い競技であるので、チームワークと個性の両方の要素を持っていないといけない。オフなどの個を高める時期に、みんなが同じ練習をしているようではいけないということです※3」と話すように、大きな個の力を上手くまとめてチーム力に昇華させるよう意識している。

■「控えになるのが嫌なら、グラウンドに来んといてくれ」

ビジネスの現場において優秀なマネージャーであっても、個とチームの力をバランスよく伸ばせる人は少数派であるように、非常に難易度の高いマネジメントをしている西谷氏だが、個を高める時期はチームワークを捨てる意識を選手に持たせている。

「他のやつが何をやっていても放っておけ、個を高めている時期はチームワークが悪くなっていいくらいに思っている※4」と西谷氏は言う。

そして、個を高める時期が終わったら「これまでは個人練習をメインにやって来たけど、きょうからはチームとしてやる。だから、結果としてメンバー(から)外れてしまったらやる気をなくすとか、自分が控えに回って納得がいかないと思う選手がいるなら、きょうからグラウンドに入らんといてくれ。皆の目標が日本一という中、どうチームとして絡みあっていくかが大事になる。だから、先発したいと思っても自分がそうなるとは限らない。今の時点で控えになるのが嫌なら、グラウンドに来んといてくれ※5」と厳しい言葉をメンバーに伝える。

大阪桐蔭中学校・高等学校
大阪桐蔭中学校・高等学校(画像=桂鷺淵/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

チームづくりの大前提として、最大限に個を高める時期が終わってから、その後に個と組織を融合させるのだ。このチームビルディングができるからこそ、毎年のようにトップクラスの「強いチーム」をつくり上げている。

■豊富な勝ちパターンで常勝が可能になる

大阪桐蔭は、派手さがある年とない年がある中で、チームとしての「勝ちパターン」も豊富だ。様々なチームカラーで優勝しているからこそ、これまで複数回の優勝を達成できている。その豊富な勝ちパターンを支える要因は、一貫した戦略や選手の運用力だ。

優勝した年には高確率で「掘り出し物」の選手や「ラッキーボーイ」の存在がいる。チーム内で比較的目立つ主役と脇役のバランス感覚が絶妙で、他の監督には届かない領域に達している。さらに、「大阪桐蔭」といったネームバリュー、ブランド力もあると、初戦の序盤や試合終盤に相手にプレッシャーがかかり萎縮し、ミスを誘えることもある。

■タレント不在でも優勝した2014年

さらに、采配面を見ても試合運びの上手さも西谷監督の強みの一つ。具体的には、2014年のチームが非常にわかりやすい。この年の大阪桐蔭は、その他の優勝した年とは違い「圧倒的な強さ」はなく、新チーム発足直後の2013年秋季大阪大会ではライバルの履正社を相手に13対1のコールド負けの屈辱を喫している。ただ、秋季大会終了後に選手を成長させ、勝ち方のバリエーションを増やしていくことで「試合巧者」としてチームが洗練されていった。その結果が出たのが、夏の甲子園の準々決勝、準決勝、決勝である。

ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)
ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)

準々決勝では「機動破壊」でお馴染みの健大高崎相手に、相手の機動力を徹底的に無視した。この試合で4盗塁を許す代わりに、投手は打者との対戦に集中したのである。完投した福島孝輔は、「足は無視。アウトを取ることに専念した※6」とコメント。それによって、無駄なクイックが減り、球威や球速が落ちることなく、健大高崎を2点に抑えた。

準決勝は、敦賀気比(つるがけひ)と壮絶な打ち合いになった。先発の福島は1回表に5点を失ったが、その裏、打撃陣が敦賀気比の2年生エース・平沼翔太(現・埼玉西武ライオンズ)から得点を積み重ねて2回に追いつく。その後、3回表には突き放されるも、4回裏には逆転に成功。結果的に15-9で大阪桐蔭は勝利した。5戦で合計77安打を記録していた敦賀気比に対して、前戦とは一転、打撃戦で真正面からぶつかった結果、勝利して決勝に進んだ。

決勝の三重高校との試合は、全体を通して三重のペースで進んでいた。2回に2点を先制された大阪桐蔭は、3回に追いつくが、5回に勝ち越される。ターニングポイントは7回だ。三重は一死三塁のチャンスでスクイズを失敗し、追加点が取れずに終わる。その裏の大阪桐蔭は、2つの四死球とヒットで二死満塁のチャンスをつくり、主将の中村誠がしぶとくセンター前に勝ち越しタイムリーを放ち逆転に成功。9回表も福島が一死一、二塁のピンチを背負ったが、後続を抑えて夏を制した。

「今年は圧倒する力はないですけれど、子どもたちは夏に日本一になるためにどこの学校よりも練習してきたつもり※7」と西谷氏がコメントしたように、「粘りに粘る野球」が、最高のかたちで完結した。この年の夏の戦い方は、選手の成長はもちろん、西谷氏の監督としてのマネジメント力、育成力の集大成だったともいえる。

※1 監督別の甲子園の優勝回数・通算勝利数ともに歴代1位
※2 「【対談 #1】西岡剛×森友哉 『野球を始めたきっかけとは!? 大阪桐蔭時代を振り返る』」西岡剛 チャンネル【 Nishioka Tsuyoshi Channel】2023年2月17日
※3 「【大阪桐蔭】『平成最強校』を率いる西谷監督のオフ練習、オフトレ論(後編)」Timely! WEB、2018年1月17日 
※4 「一度チームワークを捨て、その後に。大阪桐蔭を支える個と団結力の哲学。」Number Web、2018年8月21日
※5 同前
※6「週刊ベースボール増刊 第96回全国高校野球選手権大会総決算号」ベースボール・マガジン社、2014年、P129
※7 同前、P5

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ゴジキ(@godziki_55) 野球評論家・著作家
これまでに『戦略で読む高校野球』(集英社新書)や『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!などメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。本書が7冊目となる。

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(野球評論家・著作家 ゴジキ(@godziki_55))

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