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イライラがすっと消える…雑巾5600枚以上奉納で横柄な態度を取られた老夫婦が怒りを鎮めた"7文字の言葉"

プレジデントオンライン / 2024年7月24日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SteveLuker

心が軽くなる生き方は何か。禅僧の枡野俊明さんは「私が住職を務める建功寺にいらした老夫婦は、10 年間で5600枚もの雑巾を縫い上げ、寺社に奉納していたが、あるお寺で対応した僧侶に横柄な態度を取られた。一瞬頭に血がのぼったものの、『させていただいている』と思い直したら、気持ちが楽になったそうだ。同じことをするのでも、『自分はさせていただいているんだ』と思うと、一つひとつの仕事が丁寧になり、笑顔でできるようになる」という――。

※本稿は、枡野俊明『迷ったら、ゆずってみるとうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■感謝の言葉を連発すればいいわけではない

「させていただく」と考える――「してあげている」と思うからイライラする

人に何かやってもらったとき、「ありがとう」と言っていますか?

「当然です。ビジネスでも日常生活でも感謝の気持ちを言葉に出して伝えるのは、人間関係の基本です」

多くの人は、そのように答えるでしょう。そして、実際に「ありがとう」と言っていることでしょう。

数十年前なら、書類整理をしてくれた部下に「ありがとう」も言わない上司は数多くいました。今の若手社員なら、そんな上司の下ではやっていられないと転職を考えるかもしれません。当時のことを思うと、良い方向への時代の変化を感じます。

言葉には力があります。「ありがとう」、「おかげさま」などの感謝の言葉は、言われるほうはもちろん、言った自分もポジティブな気持ちになります。

では、感謝の言葉をひっきりなしに連発していればいいのか――。

それは違います。

その「ありがとう」、「おかげさま」の根底に、自分ひとりの力で生きているのではないという気持ちはあるでしょうか。

「ありがとう」、「おかげさま」は、ともに仏教語です。

「ありがとう」は、『法句経(ほっくきょう)』の「人間に生まるること難し やがて死すべきものの いま生命(いのち)あるは有難し」という一節が由来です。「人として生まれることはいかに有り難いことか、そのことに感謝して生きよう」という意味で、感謝をあらわす言葉として使われるようになりました。

「おかげさま」は、「お陰様」と書きます。「陰」とは、神仏やご先祖さまのことです。目には見えないが、陰に隠れている方々のご加護のもとで、私たちは生かされています。そのことへの感謝の気持ちが込められている言葉です。

ですから、口先だけの感謝の言葉ではなく、まわりの人たちの支えがあって、今の自分があるという思いを込めて使いたいものです。

■老夫妻の感謝の気持ちをあらわした雑巾

先日、私が住職を務める建功寺にいらした老夫妻の話をしましょう。

ある日、老夫妻が神奈川県南足柄市にある大雄山最乗寺(さいじょうじ)という禅寺で宿泊の坐禅会に参加したときのことです。

修行僧たちが廊下の雑巾がけをしていたので見ていると、何人かの修行僧が立ったままだったそうです。それを不思議に思ったご主人が、「なぜ和尚さんたちは雑巾がけをしないのですか?」とたずねると、「雑巾の数が足りないので、向こうの人が戻ってきたら交替して、今度は私たちがやるんですよ」とおっしゃったそうです。

それを聞いた老夫妻は、坐禅会を終えて帰宅してから、雑巾づくりを日課にしました。つくった雑巾を寺社に納めるためです。

老夫妻は、日々の買い物に出かけたときに、少しだけ節約して雑巾をつくるためのタオルを1枚、2枚と買って帰ります。そしてタオルの端の縫い目を1枚1枚ほどいて平らにしてから雑巾に縫い上げます。固い縁があると細かいところが拭きづらいだろうという配慮から、手間暇をかけてそうしているそうです。

積み重なったタオル
写真=iStock.com/Asobinin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asobinin

建功寺へも数十枚の雑巾を奉納していただきました。私も雑巾がけで使わせていただきましたが、ほんとうに使いやすく、隅々まできれいに拭くことができます。それが老夫妻の、今生かされていることへの「おかげさま」という感謝の気持ちのあらわれです。

■「させていただく」という気持ちが「丁寧」につながる

感謝の気持ちを込めて10年間で5600枚もの雑巾を縫い上げ、寺社に奉納している老夫妻ですが、当初は奉納をそれほど喜ばれずに残念な気持ちになったこともあったそうです。

あるお寺に「雑巾ですが、使っていただけますでしょうか?」と持っていったところ、対応した僧侶に「おう、使ってやるよ」と横柄に言われたそうです。

「そのときは、カチンときました」

一瞬、頭に血がのぼったのですが、思い直したそうです。さすがに修行をつまれている方です。

「使ってくれるのだから、ありがたく思おう。自分は雑巾を奉納してやっているのではなく、させていただいているのだ。そう気持ちを切り替えたら、楽になりました」

キーワードは「させていただく」です。

仕事でも日常生活でも同じです。「自分がやってあげているんだ」と思うのと、「自分はさせていただいているんだ」、「こうやってできるのはありがたいことなんだ」と思うのでは、同じことをするのでも大きな違いがあります。

実際にやってみるとわかりますが、一つひとつの仕事が丁寧になります。そして、笑顔でできるようになります。

ちなみに、禅寺では「一掃除、二信心」といいます。

まずやるべきことは掃除であり、信心はそれからだという意味です。

信心は、仏道を志す者にとってもっとも基本となるものです。しかし、それよりも掃除を上位と考えます。

床を磨くことは自分の心を磨くことです。「心を清浄な状態にして修行に入りなさい」ということです。ですから、汚れていなくても掃除をするのです。禅寺の廊下が常に、黒光りするほど磨き上げられているのにはそういう理由があるのです。

掃除をすると、何よりも自分自身が心地よくなりますね。

■ずるずると悩むのは、人生の大いなるムダ

「しょうがない」と割り切る――人生の要諦は「反省すれども、後悔せず」

あなたの性格は、どちらかというと悲観的ですか、それとも楽観的ですか――。

何か新しいことを始めようとするとき、大切な仕事で厳しい状況に立たされたとき、あるいはミスをしてしまって謝罪に向かうときなどに、良くない結果になるのではないかと悲観的に考えるでしょうか。それとも、「なるようになるさ」と楽観的に立ち向かうことができるでしょうか。

もちろん、楽観的に考えられる人のほうが、人生は生きやすいと思います。

悲観的な人は、ものごとを引きずりやすい人です。真面目に生きている人ほど、引きずる人が多いようにも感じます。

「なぜ、これを始めなければならないのだろうか」、「なぜ、苦境に立たされたのだろうか」、「なぜ、あんなミスをおかしてしまったのか」――。

もう決めてしまったこと、過ぎ去ってしまったことは変えることはできません。「なぜ」、「どうしよう」と頭の中で考えても堂々巡りです。ずるずると悩むのは、人生の大いなるムダと考えて、割り切ってしまうことも大切です。

「反省すれども、後悔せず」が人生の要諦です。

楽観的に生きるコツは、「こうだったらいいな」と考えることです。

「あれを始めて、みんなに喜んでもらえるといいな」
「ここで踏ん張って、乗り越えられるといいな」
「すぐに謝罪に行って、誠意が伝わるといいな」

といった思考です。そうすれば、結果はどうあれ、前向きに半歩でも一歩でも進むことができます。

■悲観的に考え、楽観的に実行する

「チャンスが来なかったからしょうがない」
「今回は不運だった」

たとえうまくいかなくても、楽観的に「しょうがない」と割り切って次に進むことは良いことです。

しかし、それは事前の準備や努力があったからこその割り切りでなければ意味がありません。努力した上での割り切りには、納得感があります。

いっぽうで、悲観的な思考がすべて否定されるかといえば、そうとは限りません。

悲観的な人は、ものごとを慎重に考えるという長所があります。見切り発車をしないので、大きな失敗をしづらいでしょう。また、慎重な言動をとることは、自己防衛力が強いともいえるでしょう。

枡野俊明『迷ったら、ゆずってみるとうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)
枡野俊明『迷ったら、ゆずってみるとうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)

前述した起業家の稲盛和夫さんは、「楽観的に構想し、悲観的に考え尽くし、楽観的に実行する」という言葉を残しています。

新しいことを始めるときは、「こうなったらいいな」と夢と希望を持って構想します。そして計画の段階では、「万が一、こんなことが起こるかもしれない」と不測の事態まで徹底的に考え抜き、何度も対応策を見つめなおします。いよいよ実行する段階では、「必ずうまくいくさ!」と自信を持ち、明るく取り組むのです。

悩む前に、今できること、やるべきことをしっかりやっていれば、楽観的になれます。そして、たとえ失敗しても「しょうがない」と割り切ることができます。

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枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科教授。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年『ニューズウィーク』誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。

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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)

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