「同期のアイツが自分より先に主任に…」焦りとモヤモヤを募らせる人に禅僧がかける"目の覚める言葉"
プレジデントオンライン / 2024年7月26日 15時15分
※本稿は、枡野俊明『迷ったら、ゆずってみるとうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■同じ会社で結婚は決して偶然ではない
人との出会い、仕事との出会い、モノとの出会い――。
人生には数え切れないほどの巡りあいがあります。
仏教では、すべての巡りあいを「因縁」と呼んでいます。私たちがいつもの会話で使っている“縁”のことです。
「ご縁があったら、またお目にかかりたいですね」
「いい縁に恵まれてよかった」
「あの人とは縁がなかったと思ってあきらめよう」
など、馴染みのある言葉ですね。
「因縁」というと、前世からの宿命のように感じ、「因縁の対決」「因縁の仲」「土地の因縁」など、あまりよい方向の言葉として使われませんが、本来はそうではありません。
因縁とは、ものごとを生む直接的な原因(内因)と、それを助ける間接的な原因(外縁)のことです。つまり、この世に存在するすべては、巡り巡ってつながりあっているということです。
たとえば、同じ会社に勤めていたことで知り合い、結婚したカップルは、たまたま偶然ではなく、社風に惹かれて同じ会社を選び、仕事ぶりだったり趣味だったりで意気投合する要素があったからこそ結ばれたのでしょう。それは、仏さまが導いてくださったご縁なのです。
■そのときだからこその良縁
「やりたい仕事が巡ってきたのに、ちょっと規模が大きすぎて尻込みしてしまった」
「いい物件があったのに、数日迷っているうちに売れてしまった」
このような経験は、誰にでもあると思います。
「縁」とは、ときと場所、いろいろな巡りあいがあります。良縁にもなれば、悪縁になる場合もあります。
これはチャンスだと思えば良縁です。
「ためらう者にチャンスなし」という格言もあるように、チャンスは一度のがしてしまうと次はなかなか巡ってきません。“そのときだからこその良縁”なのです。
それが「ときの縁」です。
チャンスが巡ってきたら、どうすればいいか――。
「どうだ、チャレンジしてみないか」と推してもらったときに、躊躇なく、他の何をおいてでも挑戦する。そして、それだけに集中して取り組むことです。
もし、「ときの縁」ではないと感じたなら断ります。いやいや無理をして進めてもうまくいきません。それはご縁がなかったということです。
「すばらしい縁なんて、めったに巡ってこない」と嘆いてはいけません。「ときの縁」を呼び込むために常に下地をつくっておくのです。
前述のとおり、すべては巡り巡ってつながりあっているのですから、いつもそのことを考え、いつチャンスが巡ってきてもいいように努力をつづけることです。そんな人に仏さまはご縁を運んでくださるのです。
「善因善果(ぜんいんぜんか)、悪因悪果(あくいんあっか)、自因自果(じいんじか)」という言葉があります。よい行いをしていればよい報いが得られ、悪い行いには悪い結果が起こる、そして自らの行いは自分に返ってくる、という意味です。因縁とはそういうもの。胆に銘じたい言葉です。
■スピードを気にするのは、常に誰かと比べているから
同僚のほうが仕事が早い。同期のアイツが自分より先に主任になった――。
現代はスピード偏重社会ですから、仕事でも出世でも、人より後れを取ると不安を感じる方も多いと思います。
作業や出世のスピードだけでなく、判断や動作にもスピードが求められているようです。また、自分にちょっとゆずる気持ちがあると、相手にどんどん先を越されるということもあるでしょう。
だから、隣席の同僚などの様子をのぞき見して、相手のほうがサクサクと仕事を進めていようものなら焦ってしまいます。
作業のやり方には個人差がありますから、極端に作業が遅いならともかく、多少の差は気にすることはありません。それはわかっていても、後れを取っていれば浮き足立ってしまいます。
スピードを気にするのは、常に誰かと比べているからです。比較する相手がいなければ焦ることもありません。脇目をふらず自分のペースで、自分の納得のいくやり方で進めればいいのです。
上司から「キミはみんなと違ってじっくりと仕事をこなすタイプだねぇ」などと嫌みをいわれても、「そうなんですよ。量より質のタイプなんです。はっはっは~」と笑って、サラッとかわしておけばいいのです。
同じ時間でやれる量は少なくても、丁寧にミスなく仕上げていれば、かならず評価されます。早く仕上げてミスが多かったり不良品があれば、やり直しにかえって時間がかかります。
さらに、丁寧なだけでなく、そこに他の人にはできない自分なりの工夫を加えることができれば、さらに評価は上がります。
要は、「スピード」という同じ土俵にのらなければいいのです。
あなたは、自分自身の「質」の土俵で、黙々と仕事をこなせばいいのです。あなたの個性に気づいてくれる人はかならずいます。
■主人公になりきる
じつは、人間は「自分のペース」でしか能力を発揮できないものです。自分の成功体験を思い出せばわかります。
いくつか受験し合格したときの入学試験では、あわてずに自分のペースで解答できたはずです。入社試験に合格したときの面接では、会場の雰囲気にのまれずに落ち着いて自分のペースで応答できたことでしょう。このように、「自分のペース」でものごとを行えば、よいパフォーマンスを発揮できるのです。
「相手と同じ土俵にのらない」ということでいえば、見栄の張り合いも同じです。
たとえば友人がブランド物のバッグを新調したら、「うらやましいなぁ」という気持ちになり、無理をして自分も高級バッグを新調してしまった、というようなことです。
あるいは、わが子の友だちがバイオリン教室に通いはじめたからウチの子も通わせるなど、子どもの向き不向きも考えずに同じ土俵にのるなんて、まったくトンチンカンなことになるかもしれません。
「主人公(しゅじんこう)」という禅語があります。
一般的には「物語の中心人物」の意味で使われますが、禅では「本来の自己」(本当の自分)をいいます。「一点の曇りもない、持って生まれたまっさらな心」のことであり、自分のなかにある主人公に出会うために禅僧は修行しているのです。
主人公になりきることが、相手の土俵にのらずに自分のペースで生きることです。
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曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科教授。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年『ニューズウィーク』誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。
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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)
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