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日本人は「ウーバーイーツ」のスゴさをまだ知らない…「まいばすけっと」の買い物代行を引き受ける本当の狙い

プレジデントオンライン / 2024年7月22日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ceri Breeze

ウーバーイーツが日本初の「買い物代行サービス」を6月26日から開始した。狙いはどこにあるのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「注文してから30分程度で配達されるため、すぐに商品を手に入れたいときや、病気で外出できないときなどにニーズがあるだろう。さらにウーバーは、このサービスを『ビッグデータ×AI』のビジネスを日本で加速させていくための足掛かりのひとつとして考えているのではないか」という――。

■ウーバーの「おつかい」サービスが開始

6月、ウーバーイーツは、買い物代行の新サービスを開始した。アプリを通じて、ウーバーの配達員にスーパーなどでの「おつかい」を頼めるというものだ。

新サービスの名称は、「ピック・パック・ペイ(PPP)」。その名前の通り、ほしい商品を注文すると、配達員が店舗でその商品を選び(Pick)、袋詰めを行い(Pack)、専用のデジタルカードで支払い(Pay)を済ませたうえで自宅やオフィスに届けてくれる。

PPPは、イオングループが首都圏で展開する小型スーパー「まいばすけっと」で導入される。このサービスはアメリカやオーストラリアなど6万店以上で導入されているが、日本では、まいばすけっとが初めてだ。まずは東京23区・横浜市・川崎市の20店舗からスタートし、年内に1000店舗へと拡大するほか、他のイオングループの店舗でも導入を検討する。当然、その先には全国のスーパーやコンビニ、ドラッグストアへの拡大を見据えているのだろう。

■注文してから30分で自宅に商品が届く

これまでもウーバーイーツは、提携するスーパーやコンビニの商品宅配を拡充させてきたが、従来のサービスは、店舗の従業員が注文された商品を集めて配達員に渡すというものだったので店側の負担が重かった。これに対してPPPでは、配達員が商品の選択、袋詰め、支払いまでを代行するので、人手の足りない店舗にとっては導入するメリットが大きい。

利用者にとっても買い物の選択肢が増える。PPPでは店頭価格に手数料などが上乗せされるが、注文してから30分程度で配達されるため、買い物に行く余裕はないがすぐに商品を手に入れたいときや、病気で外出できないときなどにニーズがあるだろう。

ただし、ペットボトル飲料など急ぎで必要というわけではなく、まとめ買いで価格が安くなるものや重くて運びにくいものは、アマゾンなどのECサイトを利用する選択肢がすでにある。そのため、PPPは配達手数料を支払ってでも利便性を求める富裕層や、時間がないビジネスマンが多い都心部を中心に広がっていくのではないか。

一方、こうしたPPPのサービスを単なる買い物代行として捉えると、本質を見誤る。なぜならサービスの背景には、「ビッグデータ×AIカンパニー」であるウーバーの巧みな狙いが読み取れるからだ。

■「ビッグデータ×AI」のメガテック企業

ここでウーバーが「ビッグデータ×AI」をどのように活用してきたかを見ていきたい。プレジデントオンラインの「ウーバー創業者がジョブズやベゾスになれなかった決定的理由」という記事でも紹介したように、創業者トラビス・カラニックがイリーガルな営業手法を押し通したり、大量のギグワーカーを生み出したりするなど、ウーバーには毀誉褒貶(きよほうへん)がつきまとう。だが、世界的なメガテック企業として革新的なビジネスを創出してきたことに異論を唱える者はいないだろう。

日本では規制の問題もあり、フードデリバリーの「ウーバーイーツ」のほうが浸透しているが、もともとウーバーは、アメリカでライドシェアの会社として誕生した。アメリカではタクシーを呼べば10分も15分も待たなくてはいけなかったのが、「ウーバーアプリ」で配車リクエストをすると、3分程度ですぐに配車されるようになり、利便性が一気に高まった。

背景にあるのが「ビッグデータ×AI」だ。「ウーバーアプリ」には、需要サイドである乗客と供給サイドであるドライバーを結びつける仕組みがある。乗客の位置情報から精度の高い需要予測を行い、効率よくドライバーとのマッチングを図っている。さらに、ルートの時間と距離、交通量、現在の乗客とドライバーの需給などの変数に基づいて価格が変動する「ダイナミックプライシング」が可能になる。

■AIが配達時間やルートを高精度で予測

その基盤となっているのは、ウーバーが独自開発した「ミケランジェロ(Michelangelo)」と呼ばれる機械学習プラットフォームだ。あらゆる事業のデータは一元的にミケランジェロに格納され、蓄積された大量のデータと機械学習を通じて、より精度の高い予測を実現している。

ウーバーは詳細を公開していないが、例えばウーバーイーツでは、次のようなことが行われていると考えられる(写真は中国のフードデリバリー大手「美団」の事例)。

「ウーバーイーツアプリ」でフードデリバリーを頼むと、注文した顧客と配達員の状況がヒートマップに表示される(図表1)。

【図表】注文および配達状況のヒートマップ
筆者撮影

ズームインすると配達員一人ひとりの位置情報がリアルタイム表示され、いくつ注文を抱えているかも確認することができる(図表2)。

【図表】配達員のリアルタイム表示
筆者撮影

過去のデータとリアルタイムの情報を参照してAIが配達時間を予測し、複数の注文を抱える配達員に対して、最適な配達ルートの指示を出す(図表3)。

【図表】複数の注文を抱える配達員へ最適配達ルートをスマホで指示
筆者撮影

ライドシェアにせよ、フードデリバリーにせよ、ウーバーの提供するサービスの裏側には、このような仕組みが動いており、新しく取得したデータをAIが学習することによって、進化を続けているということだ。

■強みは「正確な移動データ」を取得できること

テック企業としてのウーバーの優位性は、ライドシェアやフードデリバリーを通じて多様なデータを取得している点にある。なかでも位置情報を持っていることは、大きな強みだろう。近年、セキュリティ意識の高まりからアプリの位置情報をブロックするユーザーが増えているなかで、ウーバーは正確な移動データを取得できる数少ない会社のひとつだからだ。

買い物代行のPPPでも、配達員が店舗で素早く商品をピックアップできるよう、その商品が店舗のどこに陳列されているかの情報を取得し、店内地図を表示する機能を提供するという。

「まいばすけっと」で行われた、ウーバーイーツの配達員が注文された商品を選び、会計、配達までを担うサービスのデモンストレーション=2024年6月26日午後、東京都内
写真提供=共同通信社
「まいばすけっと」で行われた、ウーバーイーツの配達員が注文された商品を選び、会計、配達までを担うサービスのデモンストレーション=2024年6月26日午後、東京都内 - 写真提供=共同通信社

ウーバーは詳細な情報を公開していないため、アメリカでPPPの競合にあたるインスタカート社を参照すると、買い物代行で蓄積した「商品人気度」や「商品間の相関性」などのデータを収集しているほか、マーケティングデータとして小売企業に提供し、マネタイズしていることが確認できる。インスタカート社では、こうしたデータを活用した広告事業が売上の3割を占めるまでに成長しており、ウーバーでも同様に広告事業の比率が高まっているとみられる。

■データを基にした「広告事業」の驚きの成果

「Uber Advertising」と呼ばれるウーバーの広告事業は、ライドシェア乗車中の車内や「ウーバーアプリ」「ウーバーイーツアプリ」での広告配信が中心だ。日本のタクシーの車内で流れるマス向けの広告とは違って、ユーザーの注文履歴やアプリでの行動データに応じてパーソナライズされた広告を届けられる点が大きな特徴だ。

アメリカでは、2022年、テニスの全米オープン期間中、試合会場などニューヨーク市内の目的地に向かうウーバーの乗客を対象にアパレルブランドの「ラコステ」がキャンペーンを展開した。高級品やファッションに敏感なテニスファンをターゲットにすることで、「ブランド認知度」を30%、「広告の記憶度」を25%向上させたほか、平均広告露出時間は101.9秒とベンチマークを大幅に上回る結果となった。まさに移動データをはじめ多くの顧客情報を持つウーバーならではの事例だといえる。

今回、日本で始まったPPPの買い物代行は、ウーバーが「ビッグデータ×AI」のビジネスを日本で加速させていくための足掛かりのひとつだと捉えることができるのではないだろうか。ソフトバンクグループもAIを基軸としたオンラインコンビニの「Gopuff」に投資しており、「AI×デリバリー」のビジネス領域における競争は激化していきそうだ。

また、近い将来に「ライドシェア全面解禁」が実現すれば、日本においてもウーバーの存在感はますます大きなものになるのではないだろうか。「ビッグデータ×AIカンパニー」として進化を続けるウーバーが日本のビジネスにどのような影響を及ぼすのか、今後も注視していきたい。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。

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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭 構成=瀬戸友子)

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