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「野球人間は逆立ちしても出せない」千葉ロッテが野球未経験スタッフの"選手の疲労と怪我減らす"案採用の訳

プレジデントオンライン / 2024年7月21日 10時15分

千葉ロッテマリーンズ監督の吉井理人氏 - クレジット(仮)

前年5位から昨シーズン2位、そして今シーズンも2位につけている千葉ロッテマリーンズ。かつて筑波大学大学院でコーチングを学んだ経験もある吉井理人監督のチームマネジメントのひとつが「心理的安全性の担保」だ。野球未経験者の意見を積極的に採用する方針の背景にあるものとは何か――。

※本稿は、吉井理人『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■2位に食い込む千葉ロッテマリーンズ・吉井理人監督の“会議術”

2024年シーズンの春季キャンプに入る前、1月10日にスタッフミーティングを行った。2023年シーズンに入る前に行ったミーティングをバージョンアップさせたものだ。

人数も30人から40人に増やし、2023年には参加していなかった栄養士、カウンセリングのドクターなど、野球の専門家ではないスタッフにも入ってもらった。男ばかりのプロ野球の世界において、女性の意見は貴重だ。そこで、数人の女性にも入ってもらった。その結果、初年度に比べてより多くの意見が出た。

2024年は、抽出された問題の解決策まで一気に考えてもらった。グループごとに課題を挙げ、その課題を解決するためにやれることまで発表してもらった。

ミーティングの時間は有意義で、みんなでチームを強くしているという一体感がより強くなった。具体的に使える解決策もあった。野球を専門とする監督やコーチの視点ではあまりにも当たり前で見過ごされたであろう意見や、そこまでしなくてもいいという考えから案の段階で切り捨ててしまいそうな意見まで挙がった。

たとえば、二軍の試合についての意見だ。基本的に、二軍はデーゲームで試合を行うのが普通だ。夏場でも変わらない。二軍のホームであるロッテ浦和球場は屋根がついていないため、夏場はかなり体力を消耗する。

夏場は一軍の故障者が増えて、その供給元として二軍の役割が増す時期だ。二軍にとってはいちばん大事な時期なのに、二軍の選手のほうが消耗している。それでは、後半に勝てなくなるのも当然だ。

スタッフからそうした指摘があったが、私たち野球経験者には、二軍は夏の暑いときでも昼間に練習や試合をするものだという固定観念があった。だから、そこまで考えたことがなかった。

「二軍も、一軍が遠征でいないときはナイターにすればいいんじゃないですか?」

プロ野球の既存のシステムを熟知していない人たちには、なぜ無理に暑い昼間に試合をしなければならないか不思議に映っていた。反対に、プロ野球を熟知している私たちにはそれが当たり前に映っていた。まったくもって盲点である。

確認すると、球場が空いていればナイターでも構わないという。これまでにない発想を取り入れたおかげで、チームにとってプラスの施策が動き出した。

■野球未経験スタッフの「心理的安全性を担保」するのが強さの秘密

ストレングスを担当する女性スタッフからは、選手の本音と建前がわかりにくいと指摘された。深く入り込むコミュニケーションを取らないと、彼らは本当のことを言わないと感じていたそうだ。ストレングス担当にとっては、選手が痛いと感じているのか、それほど痛くないのか、これを見極めるのが難しいと訴えた。

プロ野球選手は、試合に出ないと意味がない。若い選手もそれはわかっている。痛みを訴えてしまうと、試合に出られなくなる。その恐怖は、骨の髄まで浸透している。

ただ、マリーンズは選手層が薄い。怪我をされてしまうと、チームにとってマイナスになる度合いが他球団より深刻だ。スタッフの発言は「怪我を減らす」という課題から出てきたものだが、野球人からすると気づかないポイントで、壊れるまでプレーさせてしまう可能性があった。

2023 ワールド・ベースボール・クラシック日本代表の吉井理人コーチ
2023 ワールド・ベースボール・クラシック日本代表の吉井理人コーチ。東京ドームにて(画像= TSUBAME98/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

怪我は軽度のうちに治したほうが、戦力として使えなくなる期間が短くなる。怪我の早期申告がチームにとって悪いことではないと選手にわからせる方法を、選手の立場に立って考え始めた。

さまざまな立場のスタッフが参加し、野球を体験していない人が参加する会議では、野球経験者が「野球の素人が口を出すな」と言い出す可能性もある。そのような排他的な雰囲気が醸成されると、素人は意見を言いにくい。そこで、会議が始まる前に私は参加者全員に向けてこう話した。

「このミーティングの趣旨は、さまざまな意見を出すことです。意見の違いは単なる違いであって、決して間違いではありません。むしろ、一見すると間違いのような意見がほしいと思っています。だから、何でも言ってください」

心理的安全性を担保することで、意見を言いやすい環境を整える。それこそが、チーム力の向上に寄与するのは確実である。

課題に対する解決策まで考えてもらったのは、多くの人の知恵を集め、課題の解像度を高める狙いがあった。野球関係者からは因果関係から課題を解決する方法、野球未経験者からは野球界の常識を疑う方法という二方向からアプローチできる。

■非野球人間だからひらめく「エラー減らすには練習増ではなく筋トレ」

たとえば「エラーが多い」という課題の場合、単純に考えれば「下手くそだから練習すればいい」という解決策になる。もちろん、それは間違っていないが、守備を上達させるには時間がかかるので、即効性はない。

やりようによっては、守備が下手なままでも守備位置を変える(打者の打球が飛ぶコースをデータ化し、その打者に特化した守備位置にシフトする)だけで、アウトの数が増やせるかもしれない。

身体の動かし方の専門家がその選手の守備を見るのと、野球しかやったことがない人が見るのとでは、守備の巧拙を見るポイントが違う。ある筋肉が極端に弱いためにある動作ができないことで、守備がうまくなれないという発想は、野球しかやったことがない人にはわからない。

吉井理人『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
吉井理人『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

その視点に基づけば、守備練習をするより弱い筋肉を鍛えるウエイトトレーニングに時間を割いたほうが効果的だという答えになる。つまり、より課題を分解でき、分解した課題はすぐに結果が出そうなものと時間がかかりそうなものとに分類できる。そうしたうえで今はどれに取り組むべきかを選択すればいい。

もちろん、野球未経験者の意見がすべて正しいとは限らない。ただ、間違いを恐れずに意見を自由に出し合う環境が形成されていることが重要だ。この環境がないと、ある側面からの意見しか出ず、課題の解決には至らない。それでは、チーム力を向上させることができなくなってしまう。

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吉井 理人(よしい・まさと)
千葉ロッテマリーンズ監督
1965年生まれ。和歌山県立箕島高等学校卒業。84年、近鉄バファローズに入団し、翌85年に一軍投手デビュー。88年には最優秀救援投手のタイトルを獲得。95年、ヤクルトスワローズに移籍、先発陣の一角として活躍し、チームの日本一に貢献。97年にFAでメジャーリーグのニューヨーク・メッツへ。に移籍。ロッキーズ、エクスポズを経て03年、オリックス・ブルーウェーブに移籍。07年、現役引退。19年より千葉ロッテマリーンズ投手コーチ、22年よりピッチングコーディネーターを務め、23年より現職。また、14年4月に筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻に入学。16年3月、博士前期課程を修了し、修士(体育学)の学位を取得。

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(千葉ロッテマリーンズ監督 吉井 理人)

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