火をつかわず、座ったままで完成…103歳の母が亡くなる直前まで実践した「酷暑に活躍する驚異の卓上調理術」
プレジデントオンライン / 2024年7月25日 10時15分
※本稿は、荻野恭子『103歳の食卓 母とつくり上げた卓上クッキング』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■103歳まで続けられる料理術とは
母は令和3年6月に、103年の天寿をまっとうし、自分のベッドで安らかに人生の終日を迎えました。私も70歳になり、やれこっちが痛いとか、あそこの調子が悪いなどと、もう若くはないことを実感するようになった今、100歳を超えてもなお自力で生活をしていた母の凄さに改めて感動を覚えるようになりました。母の日々の生活の中に、最期まで元気でいるためのヒントがたくさん詰まっていたのだ、と気がつきました。
私は今まで多くの国に旅をして、その土地で料理を習い、日本でつくれるレシピに置き換えて、世界の家庭料理を楽しんでいただく提案をしてきました。しかし、母が亡くなってからは、間近に見てきた「母の生活の知恵」を一人でも多くの方々にお伝えすることこそが、料理研究家の私にできる集大成となる仕事なのではないか、と思うようになりました。
■「料理をやめたらボケるよ」に奮起
母は103歳で亡くなるまでに、私に3回「主婦をやめる」と言いました。3回とは、夫の死、同居している私の姉の退職、そして自身の怪我でした。母にとっての主婦とは、家族のために料理をすること。「もう料理をしない」と言うのです。その都度、「料理をやめてしまったらボケちゃうよ」と、私は言いました。
母はボケたくないという一心で3回とも主婦を続ける、つまり料理をつくり続ける決心をしました。料理とお酒を楽しむことが大好きだったことと、ボケるということに、強い抵抗感を抱いていたからです。毎日の料理と食事。それが10年、20年、30年と積み重なって最期まで健康な生活が営める……。身をもって私に教えてくれたことに感謝しています。
■晩酌しながらゴキゲンに料理する
母は、大正8年3月5日、横浜生まれ。6人兄弟の上から二番目の長女だったこともあり、小さいときから母親代わりに弟や妹の面倒を見ていたと言います。そのせいか、大人になっても面倒見がよく、仕事でも、私生活においても、せっせと人の面倒を見ている母の姿を思い出します。子供の頃から手先が器用だったので、洋裁学校に行って技術を学び、卒業後は洋裁店を営んでいました。
父との結婚を機に、家業の天ぷら屋に入り、女将として長く父を支えました。慣れない仕事だった上に、お姑さんも一緒だったので、さぞかし大変だったことと思いますが、母の口から文句や愚痴を聞いたことはありませんでした。母は好奇心が旺盛で、何ごとも素直に受け入れる心を持っていたことが幸いしたのか、日々、朗らかに歌を口ずさみながら楽しそうに仕事と家事をしていました。これは最期まで変わりませんでした。
このように母の日常には、自然体で実践してきた健康に生きるコツがたくさんあります。とりわけ、母が大切にしていたのは「料理をつくる」ことです。台所に立って料理をするのがしんどくなってからは、食卓に座ってでも料理をつくり続けました。母は赤ワインが大好きだったので、自作の料理で毎日のように晩酌を楽しんでいました。なんと、亡くなる2カ月前まで赤ワインを飲んでいましたから筋金入りの飲兵衛でした。
こうやって母を思い返していると、「こういう人が、元気で長生きするのだ」と実感していますね。楽しく健やかに歳を重ねるために、母が残したたくさんのメッセージを、みなさまにお伝えできたらと思います。
■しんどければ座ってやればいい
あるとき、母が「料理をするのがちょっとしんどい」と言い出しました。85歳の頃だったと思います。確かに切ったり焼いたり煮たりの作業は、基本、立って行ないます。歳をとれば当然筋力も低下してきます。料理をつくることは、足腰が弱くなってきている老人には結構きつい作業なのだということに気がついた私は、「お母さん、座って料理をつくれば?」と声をかけたのです。食卓に材料や調味料を準備して、座ったままで調理をするというわけです。「それはいいわね!」と、即実行!
これが「卓上クッキング」の始まりでした。
■台所に行かなくても料理はできる
母と私は、チーズボードのような小さなまな板、ペティナイフ、キッチンバサミ、ピーラーを卓上に用意しました。場所が限られたテーブルでは、小さな道具類が使いやすいのです。調味料はコンパクトにまとめて食卓にセットしておきます。いちいち台所に取りに行くのは大変ですもの。また、酸化したり、香りが飛んだりがないように、容量の少ないものを選ぶのもポイントです。
火元はIHクッキングヒーターなら安心です。IH用の小ぶりな鍋の準備も忘れずに。しばらくして一人用のホットプレートを見つけました。これこそ卓上クッキングにうってつけです。焼き物はもちろん、蒸したり煮たりもお手のもの。保温にしておけば鍋料理も冷めることなく最後まで楽しめます。シンプルなデザインなので、調理をしたら、そのまま卓上で食器としても使えますから片づけも楽ちんなのです。しかも、手頃な価格ということも魅力です。強い味方の登場となりました。
やってみればとても楽に料理がつくれる、と母も大絶賛。母の卓上クッキングは日々進化していきました。調味料をまとめて入れておけるおかもちをつくったり、キッチンバサミも器用に使いこなすようになりました。
料理をするということは、いろいろな作業を並行して行なわなければなりません。頭も体も大いに使います。手先を動かす作業もたくさんあります。料理には健康で長寿であるためのキーワードがびっしりと詰まっています。もちろん、食べたいものが食べられる喜びも大きいですよね。体に負担を強いることなく楽に料理がつくれる「卓上クッキング」。座って料理をつくるなんてことを提唱している人は見かけません。
私は母のひと言から思いつきましたが、今後、健康寿命を延ばしていくためにも、卓上クッキングの楽しさをたくさんの方たちにお伝えしていきたいと思っています。
さんまの蒲焼き丼
材料(1人分)
さんま、イワシなどの蒲焼き缶(市販品)……2分の1缶
青じその葉……5枚
白煎り胡麻……適量
海苔……適量
温かいご飯*……150g
つくり方
青じその葉はキッチンばさみで細切りにする。
丼にご飯を盛って海苔をもんで散らし、
さんまを缶汁ごとのせ、白胡麻、青じそを散らす。
■*一人用ホットプレートで炊く、卓上ごはんの炊き方
材料(2~3人分)
米……1カップ
水……1と2分の1カップ
つくり方
米は洗って15分浸水させ、
水をきった米と水をホットプレート(鍋)に入れて蓋をする。
強火にかけて、沸騰したら弱火にして15分ほど炊き、
火を止め、5分蒸らす。
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料理研究家、栄養士、サロン・ド・キュイジーヌ主宰
ユーラシアをはじめ、65カ国以上の国を訪れ、家庭や店で土地の料理を学ぶ。日本でつくれるレシピに置き換えて多くの雑誌や本で紹介している。『塩ひとつまみ それだけでおいしく』(女子栄養大学出版部)、『ビーツ、私のふだん料理』(株式会社扶桑社刊)、『ポリ袋で簡単!もみもみ発酵レシピ』(株式会社池田書店刊)など、著書も多数。
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(料理研究家、栄養士、サロン・ド・キュイジーヌ主宰 荻野 恭子)
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