1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「東大出身者の公務員離れ」が止まらない…夏のボーナス金額が明らかに「恵まれている」のに選ばれない理由

プレジデントオンライン / 2024年7月22日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paprikaworks

■民間全体のボーナスが大きく増えたわけではない

国家公務員の2024年の夏のボーナス(期末・勤勉手当)は、2年連続の増加となった。管理職を除く一般行政職(平均33.4歳)の平均支給額は約65万9400円と2023年夏に比べて3.5%、金額にして2万2100円増えた。2023年の人事院勧告に基づく法改正で給与が増えたことから自動的にボーナスも増額となった格好だ。

国家公務員の給与は「民間並み」を前提に毎年夏に人事院が引き上げ率を決めている。ボーナスは夏冬ともに2.25カ月分と決まっており、給与が上がるとボーナスも増えるため、業績に応じてボーナスが出る民間とは大きく違う。

2024年夏の民間企業のボーナスは、経団連が集計した大手企業の場合、平均98万3112円となり、過去最高額を記録した。2023年夏に比べて4.31%アップだった。公務員の賞与の伸びは3.5%と民間に比べて低く見えるが、これは大手企業に限った話で、民間全体のボーナスが大きく増えたわけではない。

帝国データバンクが行ったアンケートでは、回答した1021社のうち85%の企業が「賞与あり」としたが、「賞与がない」ところも10%あまりあった。賞与があってひとりあたりの支給額を増額した企業は全体の39.5%、賞与があっても金額が変わらないところが34.2%、減額したところが11.3%あった。

■「本省課長級以上」の賞与は「大手企業の部長級」並み

つまり、民間でも賞与が増えているところは全体の4割にすぎないのだ。業績に応じて賞与額を決めている民間企業に対して、公務員は一律全員が増額となっているから、やはり「公務員は恵まれている」という声が民間から上がるわけだ。

賞与はあるが金額が去年と変わらないという会社は、物価上昇を考えれば、実質的にマイナスになっている。増額した4割も、中小企業の場合、増加率は1.7%にとどまっているという結果になっており、3%を超える物価上昇が続く中で「実質賞与」もマイナスになったところが大半だと見ていいだろう。

それに比べれば国家公務員の3.5%という増額率はほぼ物価上昇率を上回っており、実質でも増額している。ちなみに政府が公表する公務員賞与の金額は、管理職を除く一般職だけの金額で、民間企業は管理職が含まれていることには注意が必要だ。本省課長級以上の賞与は大手企業の部長級に遜色ない金額が支給されている。ちなみに特別職と言われる公務員トップの賞与は、最高裁長官の579万円だった。

国家公務員はよほどの不祥事を起こさなければ解雇されないし、ほぼ一律に昇進昇格していく。これに伴って給与も増え、賞与も自動的に増えていく。これは国がどれだけ財政赤字に陥ろうが、税収が増えようが関係ない。あくまで基準は「民間並み」をベースとした人事院勧告がベースなのだ。

■東京大学出身者の志願者減少が著しい

これだけ聞くと、公務員ほど恵まれている職業はないと思われるが、ここ数年、志願者の減少が続いている。総合職(大卒程度、教養区分を除く)の申込者は2019年度が1万5435人だったのに対して2023年度は1万2886人と4年で約17%も減少している。逆に合格者数は増えており、倍率は低下した。この傾向は今年度も続き、春の試験でも申込者の減少は止まっていない。

中でも東京大学出身者の志願者減少が著しい。春の総合職試験では1953人が合格したが、このうち東大出身は189人で、2012年に今の試験制度になって以降、過去最少になったというニュースが世の耳目をさらった。2015年の春の試験では合格者の26%を東大出身者が占めていたが今回は9%。2014年度には東大出身の合格者が438人いたが10年で半分以下になった。

それでも東大は合格者数のトップだが、京大の120人に続いて3位には立命館大の84人が入った。東大卒の入省者がほとんどいない省庁も出始めている。

もともと東大は官僚を養成することを目的としてきた大学だ。優秀な卒業生は財務省など中央官庁に進むのがエリートの証だった。ところが完全に国家公務員を選択しなくなっているのだ。

東京大学安田講堂
写真=iStock.com/jaimax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jaimax

■原因は「人事制度」と「仕事のやりがい」

なぜ、エリートたちは国家公務員を選ばなくなったのだろうか。

圧倒的に大きいのは国家公務員に「安定」を求める若者が減ったことだろう。そもそも1つの職場で定年まで働き通すといった価値観は今の若者の間から消滅している。日本型の雇用システムは、終身雇用・年功序列に象徴されるように、長期にわたって1つの組織にいることを前提に、若いうちは給与が低くても、いずれ辻褄が合うように設計されている。年齢を重ねると共に課長、部長と昇進していき、それに伴って給与も賞与も増える。勤続年数が延びればその分、退職金も増えていく。

ところが、一生涯同じ組織にいる前提が崩れた今、若者たちは将来の報酬よりも現在の報酬に惹きつけられる。東大卒のエリートたちが年功序列の官僚を嫌い、若くても高額の報酬を得られる外資系コンサルティング会社などにこぞって就職するようになったのは、この価値観と人事制度のズレから生じている。

もうひとつ大きいのは、仕事のやりがいの問題だ。外資系に入ると若いうちから権限を与えられ、比較的大きな仕事を任される。今の霞が関で課長になるには25年くらいかかる。官僚の定年が延びた結果、課長や審議官、局長へと出世するのに時間がかかるようになった。その分、下積みの仕事を続ける期間が増え、やりがいを感じられない官僚が増えている。どんなに優秀でも先輩を飛び越えて抜擢されるケースはほとんどなく、いわゆる「年次主義」がはびこっている。抜擢がなければ権限を得るまでに時間がかかる。

■優秀な若手ほど、官僚の仕事に愛想を尽かして辞めていく

一方で、業務量は増え続けているため、慢性的な長時間労働になっている省庁も少なくない。優秀な若手ほど、官僚の仕事に愛想を尽かし、辞めていく。ここ数年、総合職試験で採用された官僚が毎年100人以上、中途離職し、一向に減る気配がない。

民間から人事院総裁になった川本裕子氏は3年間にわたって改革の旗を振るってきたが、官僚離れに歯止めはかかっていない。川本総裁も問題は分かっていて、「年次主義からの脱却」などを事あるごとに訴えている。

川本裕子人事院総裁(右)に中間報告を手渡す「人事行政諮問会議」の森田朗座長=2024年5月9日午後、東京都千代田区
写真提供=共同通信社
川本裕子人事院総裁(右)に中間報告を手渡す「人事行政諮問会議」の森田朗座長=2024年5月9日午後、東京都千代田区 - 写真提供=共同通信社

日本経済新聞のインタビューに答えた川本総裁も、「年次主義からの脱却は大事だ。年功序列は若手のやる気をそいでいるといわれる。若手をひき付ける職場をできるだけ早く実現したい」と語る。だが一方で、「本来、国家公務員法は年功序列を重視していない。職務給の原則を明言し、職務ベースの人事管理や報酬水準設定を想定している」とも言う。つまり、日本の官僚の人事制度は法律に問題があるのではなく、その運用に問題があるのだ。戦後70年積み上げてきた官僚の「不文律」が、年次主義を絶対的なものにし、若手の能力を評価し活用することが難しい組織にしてしまったのだ。

■「安定性」はマイナス面が際立つようになった

川本総裁が設置した民間人5人からなる有識者会議「人事行政諮問会議」(座長・森田朗東大名誉教授)が5月にまとめた中間報告でも、「在職年数に基づく年功的処遇を脱却し、能力・実績主義を徹底」、「職務内容や必要なスキルを明確化し、職務に応じた報酬水準を設定」といったことがうたわれている。

大学卒業年齢に相当する22歳の人口は昨年10月時点で126万人。4年後には110万人を切る。人口規模が1割以上減るのだから、優秀な若手人材の獲得競争が激しさを増すのは明らかだ。仕事で成果を上げても普通にこなしていても、昇進や給与に大きな差はなく、報酬も少しずつ上がっていく。かつては魅力だった官僚の「安定性」は、今やマイナス面が際立っている。答申を受けて人事院が抜本的な人事制度の見直しに踏み出すことができなければ、早晩、日本の強みと言われた官僚機構は瓦解(がかい)していくだろう。

----------

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

----------

(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください