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いわゆる「Fラン大学」でも行かないよりは行ったほうがいい…「生涯賃金の推計」でわかる"大卒の決定的違い"

プレジデントオンライン / 2024年7月26日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

勉強が得意でなくても大学には行くべきなのか。麗澤大学教授の宗健さんは「いわゆる『Fラン大学』でも行くことには価値がある。学歴別の生涯賃金の推計を見ると、大卒と高卒で大きな違いがある。就職においてもメリットは大きい」という――。

■「大学に行かなくても成功した人」はいるが…

出願者が定員を下回り、不合格者がいないため合格に必要な最低偏差値が測定できない大学のことをボーダーフリー大学、略して「Fラン大学」などと言ったりする。

そうしたFラン大学なんか行っても無駄だという意見もあるようで、その理由に、「大学に行かなくても成功した人はいくらでもいる」ことが挙げられることもある。

しかし、それは「極端な事例による構成」(ECF:Extreme Case Formulation)と言われる表現方法であり、事象を正確に表しているとは言えない。

大学に行かなくても成功した人がいる、だから大学に行く意味はない、というのは、小学1年生でも小学6年生よりもピアノのうまい生徒がいる、だからピアノの練習には意味がない、といっているのと同じで、極端な事例を持ち出して安易に一般化しているだけなのだ。

事象を正確に比較するためには、できるだけ多くのサンプルを集め、条件をそろえて比較する必要がある。例えば、同じような学力で同じ地域に住んでいて同じ仕事に就いている大卒100人と非大卒100人の平均年収を比較する、といったことである。

また、欧州のように大学を絞って職業教育に力をいれるべきであって、Fラン大学はつぶしてしまえ、という乱暴な主張もあるが、そうした社会の仕組みの話と、今ある枠組みの中では大学に行った方が良いという話は全然別の話であることにも注意が必要だ。

■「学校の勉強が仕事の役に立たない」は本当か

そうはいっても、学校の勉強なんて仕事の役に立たないよ、という主張もあるだろう。

それはおそらく、その人が「学校の勉強が必要ない」仕事に就いているだけで、世の中の仕事のすべてに学校に勉強が役に立たないわけではない。

たしかに、対人スキルが中心になる仕事や体力や技能が必要な仕事では、学校で学んだことを活かす機会は少ないかもしれないが、学校の勉強が仕事の役に立たない、という一部の偏った意見を真に受けてはいけない。

そんなことはちょっと考えればわかるはずで、例えば、医者は医学部で学んだことを生かしているし、医療関係者はほぼ全員そうだろう。弁護士も公認会計士も勉強しないと資格を取れないし、建築家も大学で学んでいる。プログラマも、プラントエンジニアも、クルマのエンジン設計者もみんな大学で学んだことを活かして仕事をしている。

学校の勉強が仕事の役に立たないというのは前述のECFの典型だ。

■大学の学費はかなり効率の良い投資

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の令和5(2023)年版で学歴別の収入を見てみると、20~24歳で大卒は約24万円、高卒は約21万6000円と差があり、最も差が大きい55~59歳では大卒が約49万9000円、高卒が約32万2000円と金額で17万7000円の差があり、大卒は高卒の1.55倍となっている。

これは月間所定内給与なので、賞与等を含めればその差はもっと大きくなる。

労働政策研究・研修機構が発表している「ユースフル労働統計2023労働統計加工指標集」では、学歴別の生涯賃金の推計を示している。それを見ると、男性の場合、大卒は約3億2000万円、高卒は約2億6000万円でありその差は6000万円、女性の場合は大卒が約2億5400万円、高卒が約1億8900万円でその差は6500万円になる。

私立大学の理系学部に行って4年間の学費が500万円かかったとする。大学に行かずに4年間働いた場合の賃金を1500万だとして、その合計2000万円をコストとして考えてみよう。

その2000万円の投資が将来の6000~6500万円になって返ってくるわけだ。もちろん、自宅から通えなかった場合はよりコストがかかるし、割引率を使って現在価値を計算するといったより正確な計算が必要だとしても、かなり効率の良い投資になる。

透明な貯金箱の上に角帽がのっている
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

大学に行けるような学力がありながらさまざまな事情から高卒で働き始め、大学卒よりも高い年収を獲得できるような場合もあるが、同じ人で考えれば、行けるなら大学に行った方が職業選択の自由度が高まることは間違いない。

■日本は大学に行くことによる社会階層の移動が可能

そして、日本では勉強を頑張って大学に行くことで、社会階層の移動が可能だ。

その時、経済的に苦しくても国公立大学には授業料の減免があり、給付型の奨学金もある。大学院以降は貸与型奨学金でも優れた業績を上げれば返還が免除される制度もある。博士課程では研究奨励金として月額20万円が支給される制度もある。

一定の条件があるとはいえ、大学教育の無償化は一部実現されているのだ。

また、いわゆるFラン大学だけではなく、偏差値の高くない大学に在籍している学生全員が学力的に社会の底辺だというわけではない。

文部科学省の「学校基本調査」の令和5(2023)年度の結果を見ると、大学・短大・専門学校への進学率は84.0%、大学への進学率は57.7%と過去最高になっている。

■私立大学では6割近くが「一般入試」以外で入学

大学進学者は全体の約6割だから、その中で相対的に偏差値が低いとしても、同世代の全員の中で見れば相対的な学力は高くなる。

偏差値とはあくまで、対象となる母集団の中での位置を示すだけで、母集団に含まれない同世代全員の中での位置を示すものではない。

これは中学受験でよく言われることと同じだ。

中学受験の偏差値が40だとしても、そもそも中学受験する母集団の学力平均が同世代全員の平均よりも高いため、同世代全員の中では平均以上になる、というものである。

そして、大学の偏差値とは入学するために必要な「最低」偏差値であり、入学者の平均偏差値ではない。入試方法も学力試験以外の総合選抜の比率も高まっており、Fラン大学と言われる大学にも優秀な学生は存在する。

誰もいない大教室
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

文部科学省の「令和5年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」では、私立大学の入学者のうち総合選抜型が17.3%、学校推薦型が41.4%、合計すると58.7%が一般学力選抜以外の入試方法で進学先を決めている。

ちなみに、国立大学でも総合選抜型が5.9%、学校推薦型が12.3%、合計すると18.2%となっている。

国立大学でも学力がそんなに高くない学生もいるし、偏差値の低い私立大学にも学力が高い学生はいて、その分布が違うだけだ。

無名の大学からでも大企業に就職できる学生は一定数いるのは、こうしたことが背景にある。

■就活では「学力以外の比重」が一気に高まる

大学入試で総合選抜や学校推薦の比率が高まっているとしても、学校推薦をもらうには一定の成績を収める必要があるし、総合型選抜でも高校の調査書が必要で、調査書には履修した科目と評定が記載されている。

調査書以外にも志望理由書や活動報告書などもあるが、全体的な傾向としては大学卒業までは学力を基準に評価される傾向が強いと言えるだろう。

しかし、就活の段階から一転して、学力以外の力の比重が高まる。

少し古い調査だが、2016年の経済同友会「企業の採用と教育に関するアンケート調査」では、成績表の提出を求め、参考の際に大いに考慮しているのは大卒を採用している企業のうちたった17.2%しかない。

一方で、大学への期待では、人格面で「対人コミュニケーション能力の養成」を1位に挙げた企業は39.9%、3位までに挙げた企業は79.3%であり、「自立心の養成」を1位に挙げた企業は24.4%、3位までに挙げた企業は57.0%となっている。

大学への教育面の期待としては、「論理的思考能力や問題解決能力の養成」を1位に挙げた企業は34.5%、3位までに挙げた企業は91.2%であり、「専門的な学問教育」を1位に挙げた企業は38.7%、3位までに挙げた企業は72.2%となっている。

■クラブ活動や海外留学などを期待する傾向に

そして、大学で期待する経験としては、「クラブ活動・サークル活動等の課外活動」を1位に挙げた企業は43.2%、3位までに挙げた企業は72.1%、「海外留学など国際交流活動の機会提供」を1位に挙げた企業は31.1%、3位までに挙げた企業は76.3%となっている。

つまり、大学入学時のような学力試験一発勝負といった就活はなく、学力以外の要素で判断される比重が高まるということだ。

さらに、「アルバイト等の社会経験」を3位までに挙げた企業は46.8%と半数に満たず、「インターンシップ等の企業等での就業経験」を3位までに挙げた企業も47.9%と半数に満たないが、インターンシップについては、「就活の一環として位置づけるべきである」が10.7%、「学生と受け入れ企業の両方が希望する場合は採用に繋がることが望ましい」が62.9%もある。

このことからも、アルバイトや他社でのインターンシップの経験よりも、自社でのインターンシップで、学生のことをより深く知った上で採用判断をしたい、という意向があることがわかる。

だからこそ、いわゆるFラン大学であっても、大卒であれば新卒一括採用という枠組みにエントリーする資格があり、大企業に就職できるチャンスがあるのだ。

自分の面接の順を待っている就活生
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■国際的には日本の経営層は低学歴

日本の社会では働き始めれば、学歴や学力の比重は下がるとはいえ、世界的にみれば学歴の重要度は上がっている。一方で、日本の民間企業経営層の学歴は、国際的には低学歴であることが歴然としている。

文部科学省の科学技術・学術審議会人材委員会(第92回)令和3(2021)年10月21日の資料2-2「博士人材のキャリアパスに関する参考資料」を見ると、従業員500人以上の日本の企業役員等の最終学歴は大卒が64.4%で大学院卒は11.6%だが、米国の上場企業の管理職等(役員ではないことに注意)では、人事部長の46.7%が修士、14.1%が博士、営業部長の40.2%が修士、5.4%が博士の学位を持っている。

部長クラスでこうなので、企業の役員のほとんどは修士以上だと思って良いだろう。

また、外務省国際機関人事センターのホームページには、「国際機関では、(中略)応募するポストと関連する修士号以上の学歴を有すること(中略)国際機関で求められるような専門分野において修士号を取得できる大学であれば、どの大学でも問題ありません」という記載があるように、国際的には修士以上の学歴がなければ、エントリーすらできないのが実態のようだ。

■自分の才能を信じられれば大学には行かなくてもいい

ここまでは、どんなレベルの大学であっても、行けるのなら大学にいったほうがいいという【一般論】だ。

もしも、あなたが学校にはなじめず、しかし特殊な才能が自分にあると信じていて、それを極めたいのなら、もちろん学校に行く必要はない。

ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも、将棋の藤井聡太7冠も、エンゼルスの”OHTANISAN”も大学を出ていない。

確率で考えていくと平均的な一定の安定した生活を送ることはできるかもしれないが、社会を変えるような大きなチャレンジはできない。

自分の才能と可能性を信じてチャレンジした人たちが社会にイノベーションを起こし、大きな富と名声を獲得していくことができる社会になっている。

だとすれば、自分の才能を信じられれば、大学に固執する必要はない。

逆にいえば普通の人はFラン大学でも行った方がいい、ということでもある。

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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学工学部教授 宗 健)

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