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大阪桐蔭の打者は足の上げ方からボールの見送り方まで同じ…監督が粗削りな本格派が減っても気にしないワケ

プレジデントオンライン / 2024年7月23日 10時15分

神村学園に勝利し、駆け出す大阪桐蔭ナイン。準々決勝進出を決めた=2024年3月27日、甲子園 - 写真=共同通信社

甲子園で春夏計8回の優勝を誇る大阪桐蔭。とりわけここ10年間の強さは際立っており、春連覇と春夏連覇を達成した2018年の最強世代からは根尾昂、藤原恭大などがプロ入りした。野球評論家のゴジキさんは「かつてのような粗削りな本格派の選手は減ったが、西谷監督の『僕らの目標は甲子園で勝つことであってプロ野球選手を育てることではない』という指導方針はブレない」という――。

※本稿は、ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■「個の強さ」と「チームの強さ」を両立させた2012年

一発勝負の甲子園に勝ち続けるチームをつくるためには、個の選手の能力に左右されず、トーナメント戦を勝ち抜く戦略など高校野球ならではの最適解が必要となる。

10年以上高校野球のトップを走り続けている大阪桐蔭は、2013年以降(強打の正捕手、森友哉=現オリックス・バファローズが3年生だった世代以降)は、甲子園に勝つための最適解を持ち始めたといえるだろう。

これが、長い目で見た場合、正解なのか不正解なのか白黒をつけるのはナンセンスだ。ビジネスの場面でも、経営者や個人として大成する人とサラリーマンで出世しながら大成する人は、全く別の土俵だ。つまり、高校野球で勝つための指導がプロ野球で活躍することに繋がらないということは、当たり前である。

一番理想的なのは、藤浪晋太郎(現ニューヨーク・メッツ)や森がいた2012年の世代のように、高校野球で勝つために練習をした結果、甲子園春夏連覇を果たし、選手がプロ野球でも活躍することだ。この藤浪と森は、21世紀の高校野球における最強投手と最強打者だったのは間違いない。

藤浪は、2012年のセンバツでは粗削りなピッチングだったため、先制点を与える場面はあったが、夏の甲子園では驚異の大会通算で奪三振49、防御率0.50を記録。内容を見ても準々決勝から徐々に調子を上げていき、準決勝の明徳義塾戦と決勝の光星学院(現・八戸学院光星)戦で完封し、春夏連覇に導いた。

■森友哉は「とらえる能力は間違いなく歴代ナンバーワンです」

準決勝で対戦した名将・馬淵氏が、「藤浪君は球威があった。かき回すにも、塁に出られなかった(※1)」と白旗を揚げるほどだった。

さらに、決勝の光星学院では、準決勝までのチーム22打点のうち17打点を稼いだ田村龍弘(現・千葉ロッテマリーンズ)と北條を相手に、藤浪は2つの三振を奪うなど8打数1安打に抑えた。

連戦の疲れが見え始めるはずの最終回に、自己最速タイの153km/hを記録。最終的には、14奪三振2安打完封勝利で春夏連覇を飾る。藤浪は春から成長を遂げて、この甲子園では圧巻のピッチングを見せた。ストレートはもちろんのこと、変化球も高校生離れしており、プロ入りから3年連続で2桁勝利を記録するのも頷(うな)ずける内容だった。

森は、1年秋から正捕手として出場しており、秋季大会では打率.571、3本塁打、10打点を記録し、脅威の打率5割超えをマーク。さらに、2年生時と3年生時を合わせた甲子園の通算成績は、打率.473、5本塁打、11打点。U-18にも2年生から選ばれており、2年生の時は、打率.323、1本塁打、2打点。3年生の時は、打率.406、1本塁打、15打点を記録した。

西谷氏いわく、そのバットコントロールは「コーチ時代から含めると、大阪桐蔭で指導して20年になりますが、とらえる能力は間違いなく歴代ナンバーワンです(※2)」と言う。

大阪桐蔭といえば中村剛也(たけや)(現・埼玉西武ライオンズ)や西岡剛、平田良介(元・中日ドラゴンズ)、中田翔(現・中日ドラゴンズ)などの錚々たる野手を輩出しているが、それらの選手と比較しても森が上とコメントしている。

私が目視していて感じる森の凄さは、高校時代からプロ入り後の現在までほとんどフォームが変わらないまま、プロ野球選手の中でもトップクラスの成績を残している点だ。多くの選手は、プロ入り後にフォームをプロ仕様に変えるが、森の場合は高校時代には既に自分のフォームが完成していたといっていいだろう。

森が打席に立った後、後続の打者に相手投手のボールについて共有をするも、それは「あてにならない」と、大阪桐蔭の同僚が発言するほど、高校生離れした選球眼も兼ね備えていたため、高校生時点でプロ級だったと言っても過言ではない。

森友哉
森友哉のダイナミックな打撃(写真=Jeffrey Hayes/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

※1 『週刊ベースボール増刊 第94回全国高校野球選手権大会総決算号』P31、ベースボール・マガジン社、2012年
※2 「大阪桐蔭歴代イチのミート力。森友哉は低身長、短い腕でもカッコええ」web Sportiva、2019年6月20日

■チームづくりの方針を変えるきっかけとなった“ある後悔”

また、このことの裏を返せば、2012年までの大阪桐蔭は、チームとしては粗削りではあったものの、個々の選手のタレント性が強かったともいえる。

その時代にプレーした中村剛也や西岡剛、平田良介、中田翔、浅村栄斗(ひでと)(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)、藤浪晋太郎、森友哉といった卒業生は、プロ野球でもタイトルを獲得し、チームの主力としていまも活躍する。特に2012年はチームとしても勝てて、個としても強い理想的なチームだった。

特徴的なのは、いま名前を挙げた選手達は、プレッシャーのかかる短期決戦で高いパフォーマンスを残していることだ。特に、これまでの国際大会や日米野球を通して見てみると、高校野球で結果を残した大阪桐蔭出身の選手は、優れた成績を残している選手が多い。

一方、森以降、大阪桐蔭の卒業生でプロで活躍している選手はいないに等しい。これは、育成や戦い方をはじめ起用の方針が変わったからだろう。

夏に優勝を果たした2014年の世代には、香月(かつき)一也(現オリックス・バファローズ)・正随(しょうずい)優弥(元・広島東洋カープ)・福田光輝(こうき)(現・北海道日本ハムファイターズ)がいたが、プロ入り後はレギュラー獲得までには至っていない。

また、「最強世代」と呼ばれた2018年は、二刀流の根尾昂や藤原恭大、柿木蓮、横川凱といった選手を擁し、春連覇と春夏連覇を達成。しかし、この世代もプロ野球で活躍している選手は2024年4月時点でいまだ台頭してきていない。

これは、チームとしての勝ちを優先するか、選手の将来を優先するかで、チームビルディングや育成方針が変わってくるためであろう。実際、平田や辻内崇伸(たかのぶ)(元・読売ジャイアンツ)、中田などプロ入りした選手が複数人いた2005年のチームにはタレント性はあったが、優勝は逃している。

またそれ以前では中村や岩田稔(元・阪神タイガース)がいた2001年も結果を残すことができず、西谷氏は「あの時の夏の大会を勝たせてやれなかったのが、今までの中で一番の後悔として残っています。みんな一番練習したくらいの学年で大阪大会の決勝戦では0対5から最終回に追いついて、延長にもつれ込んだ試合でした。それなのに最後は競り負けた。監督として、なんと力がないのか。これだけ子供たちが頑張っているのに、導いてやれない監督の力不足を痛感しました(※3)」と話している。

ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)
ゴジキ(@godziki_55)『甲子園強豪校の監督術』(小学館クリエイティブ)

こうした実力のある選手達を優勝させることができなかった後悔が、大阪桐蔭の隙のないチームビルディングや戦略の礎になっていることは確かであろう。その積み重ねが、2013年以降の結果や選手育成、戦略の洗練具合に繋がったのだろうが、その影響か野手も投手も似たような選手が増えてきた。

具体的に、2021年以降の選手達の打撃フォームは、足の上げ方やボールの見送り方まで同じようになり、投手には、外角に精度の高い球を投げ切れるまとまりのある選手が増え、辻内や藤浪のような粗削りな本格派の選手は減っていった。

「完成されているなんてことはありません。僕らの目標は甲子園で勝つことであってプロ野球選手を育てることではない。もちろん、プロを目指している子の結果(進路)がプロになればいい。それだけです(※4)」と西谷氏も話すように、あくまでも2013年以降の大阪桐蔭は甲子園で優勝することが第一目標であり、プロ野球での活躍はその先の進路の一つにすぎないと考えていることがわかる。

※3 「森 友哉、中村 剛也らプロの世界で活躍する大阪桐蔭OB 若手選手も続くことが出来るか」高校野球ドットコム、2023年5月29日
※4 「大阪桐蔭に異変『なぜドラフトで指名されない?』西谷浩一監督が直球質問に答えた」
NEWS ポストセブン、2022年11月8日

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ゴジキ(@godziki_55) 野球評論家・著作家
これまでに『戦略で読む高校野球』(集英社新書)や『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『アンチデータベースボール』(カンゼン)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブン、日刊SPA!などメディアの寄稿・取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。本書が7冊目となる。

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(野球評論家・著作家 ゴジキ(@godziki_55))

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