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ヨーカドーの商品7000点が最短30分で届く…ネットスーパー最大の欠点を解消した「鬼速のOniGo」のカラクリ

プレジデントオンライン / 2024年7月28日 8時15分

オニゴーの配送イメージ(画像=プレスリリースより)

■大手スーパーが見つけた新しい商機

セブン&アイ・ホールディングスは本年3月、2021年創業のクイックコマース企業、OniGOとの連携の拡大を発表した。まずはイトーヨーカドーの80店舗にOniGOの即配サービスを導入し、さらに昨年経営統合したヨークの店舗にも導入を拡大。最終的にはイトーヨーカドーの店舗の大半に、OniGOによるクイックコマース型の宅配サービスが導入される計画だ。

セブン&アイ・ホールディングスは、昨秋よりイトーヨーカドーの一部店舗でOniGOとの連携を開始し、その効果を確認してきた。その上で上述のクイックコマースの本格導入に踏み切っており、今後の展開が注目される。

すでに東京都23区全域での配達が可能となっており、東京都内や千葉、埼玉、神奈川の3県のほか、大阪府や愛知県などの一部地域でもサービス提供を開始している。今後も、対象地域を拡大しながら配送拠点を増やしていく予定だ。アプリの登録会員は約18万人(日本経済新聞 2024年4月19日)、23年末に全国31店舗だった配送拠点は、7月現在で120店舗以上(同社ウェブサイトより)に拡大している。 。

■クイックコマースとはそもそも何か

クイックコマースとは、コロナ禍のもとでの新生活の体験を経て、欧米などでも広がりつつある宅配ビジネスの新たな方式である。宅配サービスとして先行するウーバーやネットスーパー、さらにはアマゾンとも少し毛色の違う、新しいサービスである。

最大の特徴は、注文から配達までの時間の短さだ。OniGOの場合、対象となるサービスエリア内であれば、ネットで注文してから30分~1時間ほどで、約7000品目以上の生鮮食品や加工食品、あるいは各種の生活用品などを届けてもらうことができる

クイックコマースには、大別すると二つの方式がある。第一はスーパーやコンビニなどの小売店舗から商品を届ける方式であり、第二はクイックコマース専用の配送拠点から商品を届ける方式である。後者における配送拠点は、ダーク・ストアと呼ばれる。ストアといってもそこはピッキングの作業場であり、対面での販売は行われず、一般の消費者にはその存在が知られないため「ダーク」と称される。

■「ダーク」から「リアル」へ配送拠点をシフト

クイックコマースの速達性は、主にこのダーク・ストアによって支えられてきた。Eコマースのような大規模物流センターからではなく、住宅街などに高い密度で展開されたダーク・ストアから配達することで、Eコマースよりもはるかに優れた即応性を実現してきたのである。ダーク・ストアからの配送地域であれば、早い場合には注文から10分程度で品物を手に入れることができる。クイックコマースにとってダーク・ストアは事業の要であり、最大の武器でもあった。

買い物かごいっぱいの食料品
写真=iStock.com/MarkSwallow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarkSwallow

OniGOも当初は、このダーク・ストア方式でサービスを展開してきた。だがここ1年ほどの間に、イトーヨーカドーのような小売店舗から商品を届ける方式へと、事業の重点を移している。一方で、フードデリバリー大手のウーバーイーツジャパンや出前館も、クイックコマースへの参入においてはOniGOと提携している。ウーバーだけではない。イトーヨーカドーも店舗から先の配送については、OniGOとの連携を広げようとしている。これは、なぜなのか。

イトーヨーカドーはすでに自前のネットスーパーを構築している。ならば、それを活用すればよいではないか。あるいはウーバーについても、そうだ。OniGOなどと組むことなく、直接イトーヨーカドーから商品を運べばよいではないか。イトーヨーカドーやウーバーは、OniGOにどのような価値を認めたのか。以下、ONIGO代表の梅下直也氏への取材をもとに、その理由を考察する。

■在宅ワーク時代の生活様式にフィット

Eコマースやネットスーパーと、クイックコマースとの違いは、やはりその速達性にある。注文してから配達まで、一般的なEコマースなら1~2日はかかる。当日配送に対応するネットスーパーであっても、受付時間には締め切りがあり、配達希望時間の遅くとも数時間以上前には注文を完了しなくてはならない。

たとえばある朝、保育園児の子供が急に熱を出した、あるいは同居している高齢の親の様子がおかしいということで、会社に連絡し、急遽在宅ワークに切り替えたとする。そんなとき、会社帰りに駅前のスーパーで購入しようと思っていた夕食用の食材を、Eコマースで入手することは難しい。自宅のある地域で当日配送を行ってくれるネットスーパーがあっても、受付の締め切り時間までに注文操作ができないような状況も起こりうるだろう。

都市部やその郊外の居住者であれば、その日最低限必要な食材などを購入するには、コンビニの利用も考えられる。しかし今日は、子供や老親の近くにいたい。15~20分ほどの短い時間であっても、コンビニに行くために家を空けるのは避けたい。もっとよい選択肢はないか……。

クイックコマースの典型的な出番は、このような場面である。

赤ちゃんを抱っこしながらノートパソコンで作業する女性
写真=iStock.com/AnnaStills
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AnnaStills

■撤退ラッシュの中で戦略を大転換

一方でクイックコマースは、規模がものをいうビジネスである。受注からピッキング、配送に至る流れをスムーズに導く受注システムへの投資に加え、住宅地に高い密度でダーク・ストアなどの配送拠点を増やし続けながら、規模をめぐる競争を乗り切っていかなければならない。しかし、コロナ禍が収束に向かい、金利が上昇しはじめると、従前のような条件で資金調達を続けることは難しくなっていく。

コロナ禍の「巣ごもり需要」のなかで生まれた世界的トレンドに沿って、OniGOが創業した2021年前後は、日本において国内外の事業者によるクイックコマースへの新規参入が相次いだ。だが、上記のような環境変化を受け、2022年から2023年にかけては、世界的大手デリバリーヒーロー傘下のpandamart(パンダマート)、韓国大手のCoupang(クーパン)をはじめ、日本国内においてクイックコマースの撤退ラッシュが起こる。中には参入から1年を待たずに撤退した事業者もあった。

そのなかにあってOniGOは、クイックコマースの即配を支えてきたダーク・ストアの拡大戦略を見直す。代わりに、23年8月にはいなげや、23年11月にはアオキスーパー(名古屋市)、そして2024年の1月にはイトーヨーカドーと、相次いで「リアル事業者」といえる既存スーパーとの提携を開始。さらに一見競合にも見えるデリバリーサービスのUber Eats(ウーバーイーツ)とも連携しながら、配送エリアの拡充を進めている。

■大手スーパー側が見いだしたメリット

提携先であるイトーヨーカドーの側も、一部店舗でOniGOとの連携を初めた段階で、従前からのネットスーパーとは異なる需要を獲得できることに気づいた。

イトーヨーカドーが従前より提供してきたネットスーパーのサービスには、クイックコマースほどの迅速さはない。そのため飲料や酒類などの箱買い、あるいは精米といった、買い置き用の計画購買に利用されることが多い。

これに対して、OniGO経由のイトーヨーカドーの利用は、非計画型が多くなる。利用者の中心は20~50代の女性である。急な体調不良や大雨など、計画できない事態に対処する利用者に、OniGOは役立つ。OniGOがイトーヨーカドーから届ける商品の価格はスーパーの店頭での購入より10〜20%ほど高く設定されており、そこに配送料の330円が加わる(5500円以上で配送料が無料になる)。それでもクイックコマースを利用したいというシーンは、前述のように確実に存在する。

■他社連携でも威力を発揮するOniGOの受注システム

こうした他社との連携の中で大きな役割を果たしているのが、OniGO独自のクイックコマース向け受注システムである。

OniGOの利用者は、スマホの専用アプリを通じて注文を行う。画面表示や操作性などは、非計画型の購買を想定した設計がなされている。さらに受注用のデータベースには、各店舗が取り扱っている商品の情報だけではなく、どの品がどの棚のどの位置に置かれているかというデータも入力されている。つまり自社のダーク・ストアだけでなく提携スーパーの店舗でも、商品のピックアップを行う担当者は商品の情報だけではなく、効率よく店内を回る順路までを参照することができる。

OniGO経由でイトーヨーカドーの店舗で買い物をした場合、店内のピックアップはイトーヨーカドーの店員が行う。これをOniGOの配達員や、連携しているUber Eatsの配達員が受け取って、購入者の元に配達するという流れだ。

こうしたシステムの開発をOniGOが先行して済ませているからこそ、一見競合しそうなUber Eatsとの協調も成り立つ。フードデリバリーとクイックコマースでは、取り扱う商品数が大きく違う。ウーバーが単独でクイックコマースに対応しようとすれば、自社の受注システムを新たに構築しなければならない。クイックコマース用のシステムを自社で持たないUber Eatsが、OniGOにとって競合となることはない。

■ダーク・ストアを使わないことで生じる課題

自前のダーク・ストアでなく既存スーパーの店舗を配送拠点とすることには、課題もある。ダーク・ストアを用いたときよりやや配送時間が伸びることもその一つだ。

さらに、クイックコマース事業者にとってのダーク・ストアの大きなメリットは、商品在庫のリアルタイム把握が可能なことである。一般客が入店しないダーク・ストアでは、棚の商品がピッキング作業以外で持って行かれることはなく、在庫状況をリアルタイムでデータベースに反映させることが容易である。注文画面にある商品が実際には欠品で届かない、といったトラブルは生じにくい。

一方、現在のOniGOのアプリには、イトーヨーカドーの店舗の在庫状況がリアルタイムで反映されているわけではない。そのため、実店舗で欠品が起きると、注文画面には商品が掲載されているのに、実際に注文してみると商品が届かないということも、理屈の上では起こりうる。一般客による購買もあるスーパーの実店舗では、在庫状況をリアルタイムでOniGOのデータベースに反映させることは難しい。

■不確実な環境下で成長を続けていくために

しかし、イトーヨーカドーのように店舗が大きく、商品の各アイテムの在庫が厚い場合には、店舗における欠品がそもそも起きにくい。そのため、注文画面にある商品が届かないというトラブルが起きるケースは少ないと、OniGOはこれまでの経験からつかんでいる。

スーパー店頭にある惣菜や精肉の品揃えがダーク・ストアより幅広いのも、利用者にとっては魅力的だ。住宅街に高密度で配置することが望ましいダーク・ストアは、イトーヨーカドーの店舗ほど規模を大きくすることが難しく、品揃えはスーパーのリアル店舗に比べどうしても劣る。イトーヨーカドーなどの既存店舗との連携は、この問題を解消する。

また、既存店舗と連携しながら事業を広げていくことによって、自社でダーク・ストアを新たに出店していく場合より成長速度を速めることもできる。

不確実な環境下で企業が成長を続けていくために必要な迅速さを、コンサルタントの山本政樹は、レースカーにたとえて説明している(『Business Agility』プレジデント社、2021年)。そこで必要となるのは、F1マシンのような時速300キロを超えるようなスピードではなく、ラリーカーのように路面環境の変化に的確に対応していく迅速さなのだという。

OniGOの事例には、その説明がよくあてはまる。巧みなハンドリング、さらにアクセルとブレーキの切り替えで、OniGOは一度苦境に陥ったクイックコマース・ビジネスを、新たな成長軌道へと導いている。

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栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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(神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)

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