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目覚めが全然が違う…寝る前に絶対言っちゃいけないひとり言vs.翌朝「今日もやるぞ」となるひとり言の事例

プレジデントオンライン / 2024年8月4日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coltsfan_050705

■2種類のひとり言を駆使アイデアを引き出す

あなたは「ひとり言」を言いますか? 私はいつもブツブツつぶやいていると言われます。

「あれはどこに置いたっけな……確か昨日ここで使ってそのあとここに……。お、あったあった!」
「ここが違うなぁ……前はこうしたらできたんだけど……やっぱりダメか。そしたら次はこうして……」

ひとり言にしては明瞭なので、傍にいる人は自分が何か言われたと勘違いすることもあるようです。「え、何か言った?」と聞き返されることもしょっちゅうです。

あまりにひとり言が多いと「大丈夫ですか」と心配されることもあります。心理学では「不安やストレスがひとり言として発露する」と解釈されることがあるようです。ほかにも気味悪がられたり、迷惑がられたりと、ひとり言は好意的な捉え方をされないケースが多いようです。

しかし、脳科学者としての私の見解は正反対。ひとり言には脳を覚醒させ、記憶を整理・定着させ、眠っていた能力を伸ばす効果があるからです。私は自分の口から出てくるひとり言をいつも楽しみにしていますし、アイデアを引き出すために意図的に使ってもいます。

ただし、それにはちょっとしたコツが必要です。今日はひとり言を上手にコントロールして、クリエーティブな仕事に生かすためのヒントを考えてみたいと思います。

さて、皆さんは脳に左右で異なる特性があることはご存じでしょう。「右脳」はイメージや直感など感覚的な情報を、「左脳」は言語や計算など論理的な思考を司ります。

また脳には1000億以上の神経細胞がありますが、それらは働きごとに集団を形成し、互いに情報のやり取りをしています。私は「ベクトル法fNIRS(※)」という技法で脳のどの領域がどんな役割を担っているかを調べ、その領域を「脳番地」と名付けました。

※編集部註・脳の活動を脳酸素交換量(COE)と脳血流(CBV)の同時計測によって可視化する技術。1991年に加藤俊徳医師が発見した。

脳番地は全部で120ほどありますが、「思考系」「感情系」など大きく8つの系統に分けることができます(図を参照)。例えば「右脳の感情系脳番地」は映像や雰囲気など、形のない情報を感受して、感情や気分を生み出します。対して「左脳の感情系脳番地」は言葉や文字をもとに、自分の意思や気持ちを明確にします。

【図表】脳番地は大きく8つの系統に分かれる
図版作成=中川原 透
※加藤俊徳氏への取材をもとに編集部作成 - 図版作成=中川原 透

では、右脳/左脳とそれぞれの脳番地が、どのように連携してひとり言が生まれているのでしょうか。

ひとり言には声に出して口から発せられる「外言語のひとり言」と、声にはならないけれど頭の中で巡る「内言語のひとり言」があります。後者は一般には「ひとり言」と認識されることが少ないのですが、頭の中で考えを巡らせたり自問自答しているときには、脳内言語のひとり言が生まれています。

美しい景色を見て「きれいだ」と感嘆したり、好きな音楽を聴いて「いいねぇ」と唸ったり、不快な思いに「ああ嫌だ」と吐き出すようなひとり言は、右脳の「視覚系」「聴覚系」「感情系」などの脳番地から発せられています。ただ、それは感情が感情のまま漏れ出たように整合性がなかったり、言葉として意味を成していないかもしれません。

急に仕事のアイデアを思い付いたり企画のイメージが浮かぶときは、目に見えた映像や耳から聞こえてきた音声、過去に蓄積された記憶のイメージが結びついて、モワモワと浮かび上がってきます。それがおぼろげな言葉となって漏れ出てくるのが右脳から出るひとり言です。

これらは意識していなければ、そのまま消えていってしまいます。周囲も「何やら意味のわからないことをつぶやいている」程度にしか認識できないと思います。

ところが、その瞬間を捉えて「ん? いま頭に浮かんだのは何だ⁉」と拾い上げることができると、情報は「伝達系」脳番地を介して左脳に送られます。左脳はモワッとしたイメージを「理解系」脳番地で解析し、余分な部分を削ぎ落としたり足りない部分を記憶や推測で補って、意味の通った文章にするのです。

この構成作業は内言語として処理できる場合もありますが、情報が多岐であったり複雑に入り組んでいる場合には、いったん外言語としてアウトプットし「聴覚系」脳番地を介してインプットし直すと格段に整理しやすくなります。会議で皆が挙げたバラバラのアイデアをホワイトボードに書き出して、括ったり広げたりしながら結論を導き出そうとするのと同じです。

また、外言語でひとり言が発せられる際には、唇・舌・喉などの筋肉が使われ「運動系」脳番地が関与します。さらに自分のひとり言が音声として耳から聞こえることで、経験・体験として記憶に定着しやすくなるのです。

まとめると、右脳のどこかで生まれた感情が「思考系」に拾われ「伝達系」を介して左脳に送られます。

そのまま左脳の「理解系」で処理されて内言語のひとり言となるパターンもありますが、「運動系」を介して外言語のひとり言としてアウトプットされると「聴覚系」から再び「理解系」に伝達され、「記憶系」に格納されるといった流れになります。

ひとり言をつぶやくことでこれだけの脳番地が活性化して、考えが深まり展開していきます。これこそが、ひとり言の効用です。

■大一番では事実に基づく論理的な言葉で脳を説得

この仕組みがわかると、意識してひとり言を発して、脳の動きをコントロールできるようになります。

私の場合は朝の散歩に出かけたときに、心掛けてひとり言を言っています。睡眠中に記憶が整理されるので、朝は脳が発想を生みやすい状況にあります。また歩いていると「運動系」脳番地が活発に働いて、他の脳番地を刺激します。視線を上げて「今日は気分がいいなあ」「おや、珍しい花が咲いている」など見えた景色をつぶやきながら「感情系」脳番地を揺すって、思わぬひとり言が出てくるのを楽しみに待ちます。

公園を犬と散歩する女性
写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

すると、ふとしたタイミングでアイデアの欠片が出てくることがあるのです。その瞬間はどこからそんな発想が出てくるのか、どこに帰結するアイデアなのか、自分ですらわからないことがあります。そこでベンチに腰掛けたり、メモして家に帰ってから、どうしてそんなひとり言が出てきたのかを落ち着いて考えてみるのです。もちろん、ひとり言をつぶやきながら――。

神の啓示のように降ってきたアイデアも、自分の脳に蓄積された情報が紡ぎ出したものです。記憶を辿れば必ずヒントが見つかります。ああでもない、こうでもないと自分の左脳がフル回転して、論理展開を考えています。そしてある瞬間に「なるほど、このことか!」と、合点がいく結論が導かれるのです。

スポーツ中継を見ていると、アスリートが勝負に挑む前に集中力を高めながら、ブツブツとひとり言を言っているシーンをよく見ます。

「大丈夫、私はできる。絶対に勝てる。だから自信をもって行こう!」
「落ち着け……もう一度状況を確認しよう。見落としはないよな。よし、次の一投にすべてを懸ける!」

ロッカールームでベンチに座っているアスリート
写真=iStock.com/hoozone
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hoozone

あれは雑念を振り払い、不安を取り去り、目指すところを再確認することで、脳にある種の自己暗示をかけているのです。大事な商談やプレゼンの前など、皆さんも使える手ではないでしょうか? ただし、ひとり言は不可能を可能にする“おまじない”とは違います。

本音では明らかに無理があると理解していることを、どれだけ「できる」とつぶやいたところで、脳はあっさり「それは嘘」「無理なものは無理」と見破ります。そうするとどの脳番地も本気になれず、かえって実力以下の能力しか発揮されません。

ただ、脳を説得することができれば、実力以上の能力が発揮され、これまで届かなかった頂に到達できる可能性があります。

先日、アーティスティックスイミングのチームにアドバイスできる機会があったのですが、私はある選手からこんな質問を受けました。「私は皆がしているように試技の前に『大丈夫、私にはできる!』とつぶやくようにしています。でも大舞台であるほど、過去の失敗を思い出してしまいます。忘れようとするほど、ありありとそのシーンが浮かぶのです。どうしたらいいでしょう」

私は「脳は欺けないのですよ」という話をしてから、次のようなひとり言をおすすめしました。「前回はミスをして、とても悔しい

結果になった。あれから私は一生懸命に練習した。ミスをしない対策もした。だから、私は大丈夫だ。今日は新しい自分を見せよう! そして、私もそれを見てみたい!」

これなら脳も納得です。すべて事実ですし、成功に至る過程が論理的です。不安は取り除かれ、試技に集中でき、脳が勝利のためにフル回転して結果を出してくれるでしょう。

ひとり言のメリットはご理解いただけたと思いますが、最後に注意点を。ひとり言ではいつもポジティブな言葉が出せるよう心掛けてください。汚い言葉や攻撃的な言葉、恨み辛みばかり言っていると、脳内にはネガティブな思考が巡って物事は悪いほうへと落ちていってしまいます。

とはいえ、ストレスフルな環境で働いていると、愚痴の一つも漏らしたくなる日はあるでしょう。でしたらせめて眠りに入る2時間程度前からは嫌なことは考えず、風呂に浸かり心地よい音楽を聴いてリラックスするように努め、眠りに入る前には肯定的なひとり言をつぶやいてください。「今日は大変だったなあ」と思い返すのではなく「今日の俺はすごく頑張った。明日も楽しみ!」と前向きな言葉で一日を終えるのです。

睡眠中に脳は日中の記憶を整理して、必要な記憶を定着させ、ストレスを解消し、時には問題解決に至るヒントを用意して目覚めを迎えるようにできています。

下手の考え休むに似たり――。行き詰まったら睡眠時間を十分に取って、脳に助けてもらいましょう。そして目覚めを迎えたら「今日も頑張るぞ!」とポジティブなひとり言で新しい一日をスタートするのです。問題解決のヒントも、あなたの能力を引き出し成長させてくれる力も、すべてあなたの脳の中にあります。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月2日号)の一部を再編集したものです

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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。

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(脳内科医 加藤 俊徳 構成=渡辺一朗)

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