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「買ってない食品にイチャモンつけ、せびる」異物混入、腐敗していたと語るプロクレーマーの意地汚いやり口

プレジデントオンライン / 2024年8月6日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

各業界に固有のカスハラとは? その対応策を企業法務が専門の弁護士・香川希理氏が解説する。

■情緒的になりやすく、慰謝料請求も当たり前 冠婚葬祭業界

特徴

慶事・弔事とも人生の節目となる大切なイベントであり、本人やその家族が情緒的になりやすい。とりわけ結婚式は一生に一度の晴れ舞台という感覚が強く、運営側への期待値も非常に高いため、トラブルに対して強いクレームが発生しやすい。

葬儀でよく起きるのは名前の間違い。挨拶状や御礼状の名前違いや司会の言い間違い、中には位牌の名前を書き間違えたケースも。故人の宗派に沿った作法での見送りができなかったことで、慰謝料を請求された例もある。関係者はデリケートな精神状態にあるうえ、「やり直し」による挽回が基本的に不可能であることも、顧客からの要求が過剰になりやすい要因である。

対応策

「被害、つまりは慰謝料請求への対応が基本となります。とりわけ葬祭業界は、他の業界に比べて慰謝料請求をされやすく、過去の判例等をみてもそれが認められやすい傾向にあります。

名前などの間違いに関しては、御礼状を改めて出し直す、お詫びとしてさらに葬儀費の一部を割り引くといった対応が考えられます。一方で、葬儀費の全額を返金せよといった要求は明らかに不当であり、応じる必要はありません」(香川氏)

■利用者だけでなく親族からのクレームも多い 介護業界

特徴

身体的な接触を伴う場面が多く、利用者からの暴言・暴力やセクハラが発生するリスクが高い。利用者の精神疾患や認知症などで対応が困難なケースや、家族・親族からのクレームやハラスメント事案も少なくない。介護サービスの特性から、カスハラが発生しても簡単にサービスの提供を打ち切れず、トラブルが長期化しやすい。

対応策

「組織としての体制整備が重要です。トラブル発生時には介護記録やケアマネージャー、関係行政機関などから情報収集を行い、サービス提供者に落ち度がなかったかを確認。落ち度があった場合はその点を真摯に謝罪したうえで、それでも暴言や暴力が続く場合は、それがカスハラにあたることをケアマネージャーや行政機関から指摘・指導してもらうのが一つの対処法です。サービス提供側に落ち度がない場合も、受けたカスハラ行為について、日時・内容などの記録をきちんと残しておくことが重要です。

あれこれ手を打ってもカスハラが止まらない場合は、やむをえず介護サービスの契約を停止することになりますが、その際にも記録は大切です。可能であれば暴言などは録音もしておきましょう」(同)

■財産に関るため、顧客の精神的余裕が奪われがち 金融業界

特徴

財産や信用、個人情報など、顧客にとって重要なものを取り扱うビジネスであり、それらが損なわれた、あるいは不適切に扱われたと感じたときの顧客のショックは大きくなる。

金融商品を買った顧客が損失をこうむった場合、たとえ事前に法に則ったリスクの説明を受けていたとしても、「そっちが熱心に勧めたから買ったのに……」といった被害感情を抱いてしまうことがある。

それに対して金融機関は簡単に落ち度を認めたり謝罪したりできないため、不満を抱いた顧客のクレームが悪質化しやすい。

対応策

「謝り方を間違えると、後で裁判になったとき、過失の証拠になって損害賠償義務を負うことがあるため、慎重さが求められます。

金融商品で損失を出した顧客からのクレームが発生して、金融機関側に落ち度がない場合、事前に説明や資料交付などをしている事実を顧客と共有したうえで、損失の補填はできないことを丁寧に説明します。このとき『説明が不十分で』『誤解を与えてしまって』など、説明義務違反などの法的責任を認めるような言葉は避けなければいけません。

書面で回答する際も、会社や顧問弁護士のチェックは必ず受けておくべきです」(同)

■従業員が直接狙われやすくて危険! 小売業界

特徴

従業員が顧客に直接接客を行うこともあり、顧客からのクレーム件数が非常に多い。クレーム発生の際も従業員が顧客に一対一で向き合うことが多いため、顧客が感情的になりやすく、エスカレートしたときの対応も難しい。最近では従業員の対応をスマホで録画して拡散するようなケースも目立つ。第三者が介入する機会が少ないことから、組織的な対応も後手に回りやすいという問題もある。

対応策

「クレームの原因は『モノ』と『ヒト』の2種類があり、それぞれの原因に応じた思考方法が必要です。商品に欠陥があったというクレームなら、欠陥の有無を確認し、交換する。もし欠陥が事実でなかった場合、あるいは返品・交換を経ても顧客の要求がなおやまない場合は、カスハラ対応に切り替えるという手順でいいでしょう。

接客態度が悪かったなどのヒトに起因するクレームは、より複雑な対応が求められます。『気分を害したから謝罪しろ』のような法的損害が明確でないクレームに対しては『ご気分を害してしまってすみません』などの道義的謝罪は行っても、それ以上の要求に応える義務はありません。カスハラには一人で対応せず、組織的に対応することを企業は従業員に周知する。そして立腹した顧客に従業員の個人情報が漏れないよう、名札をイニシャル表記にするなどの対策も必要です」(同)

■証拠が消えるのをいいことにクレーマーが増長 食品業界

特徴

異物混入、腐敗などのクレームが中心。事実確認のためには当該現品の現物調査が必要だが、「食べてしまった」「捨ててしまった」などの理由で調査できない場合も少なくない。従来は性善説に立ち、現品はなくともレシートなど購入した証拠があれば返金・謝罪を行うという対応が多かったが、明らかに過剰な要求を繰り返す悪質なプロクレーマーも存在する。

商品の特性として、味覚や安心感といった顧客の主観に訴える部分が大きいため、クレーマーの主張を受け入れて弱腰な対応になってしまうことがある。

対応策

「買ってもいないのに商品にクレームをつけ、何らかの代償を受け取ろうとするような事例も珍しくありません。最近では『現物がない場合は代わりの商品は送らない』といったルールを業界のガイドラインとして設ける動きも出てきました。

返金対応の場合は、『現品やレシートの確認を条件とする』『治療費を要求された場合は領収書と診断書の提出を求める』など、合理的なルールの中で毅然とした対応を行っていくことが求められます。道義的謝罪を行いながら話を聞き、その内容が事実であるかどうか、どこまでが事実なのかを確認することも有効でしょう」(同)

■「イメージと違うんだけど」の文句が多発! システム開発業界

特徴

完成物がない状態から契約が始まるため、顧客との間に認識のズレが生まれやすい。納期を守るため、契約内容が固まらないまま先走り的に着手するケースも多く、それが後にトラブルの種になることも。そして受注側と発注側の知識レベルに差があるため、発注者の要望を実現するためのプロセスや予算について、発注者側が正確にイメージすることが難しい。

また、発注者側が優位に立つケースが多く、トラブルが開発途中で発生し、追加契約や仕様変更が必要な事態もしばしば生じる。「イメージと違う」といった抽象的なクレームで、延々とやり直しを求めるようなカスハラの事例もある。

対応策

「システム開発に関するクレームの多くは、契約内容が不明瞭であることから生じています。受託業務の範囲をきちんと定めるとともに、トラブル発生時の損害賠償や発注者都合の中途解約について、受注側が不利にならない条項を盛り込んだ契約書を早期に締結することが大切です。

要件定義を明確化し、図なども使って着手前に発注側と受注側の認識ギャップを極力埋めること、口頭で交わした合意は速やかに合意書などの書面やメールなどの客観資料にして保存しておくことにも留意してください」(同)

■住民の怒りが一極集中する「クレームのるつぼ」 マンション管理業界

特徴

管理人・管理会社に対する住民からのカスハラが多発している。集合住宅ゆえの騒音トラブル、区分所有者同士の対立や文化の違いなどが、管理会社にクレームの形で持ち込まれる。分譲マンションの場合、一度購入すると簡単には離れられないことも、住人の怒りやストレスを増幅しがちだ。

管理委託契約の締結相手は個々の住民ではなくマンションの管理組合だが、住民が管理人のもとに怒鳴りこむような事例も少なくなく、クレームの申し立てが長期間に及ぶことも。

対応策

「管理会社と管理契約を締結しているのは管理組合であって、個々の区分所有者ではないこと。また、管理事務の対象となるのは共用部分などで、上下階の騒音問題のような専有部分のトラブルは対象外であること。こうした管理委託契約の内容を改めて管理組合と確認し、対応方針を共有しましょう。

2023年9月、国土交通省は管理委託契約書のひな型『マンション標準管理委託契約書』の改訂を行いました。管理会社への業務の指示は管理組合を通じて行うことが明記されたほか、カスハラ行為の禁止を定める条項も追加されました。新たに管理委託契約を結ぶ場合、あるいは契約を更新する際に、このひな型をぜひ上手に活用してください」(同)

■業者を震えさせる一言「国交省に言うぞ」 不動産売買業界

特徴

動く金額が大きく、トラブルが発生したとき顧客が納得しにくい。注文住宅の欠陥などの契約不適合責任(かつての「瑕疵担保責任」)をはじめ、デリケートな法的判断を求められる要素が多い。

売買契約書などで契約条件が客観的に確定しやすく、法的な問題解決の手法を用いやすいが、一方で欠陥とはいえないレベルの軽微な問題や重要事項説明書に記載義務のない近隣環境などについてのクレームが、カスハラ化することもある。日照や土地境界、施工中の振動・騒音などで、周辺住民からクレームが入る例も多い。

最悪の場合、業者は業務停止や免許取り消しのリスクもあるため、「国土交通省に訴えてやる」と言われると強気に出にくい。

対応策

「まずは法的責任があるかどうかが対応のベースになります。契約当事者が一般消費者か事業者か、取引は売買か媒介か、物件は宅地か建物かなどによって、適用される法令や条文も変わってきます。弁護士に早めに相談し、法的責任の見立てを行い、その後の謝罪や示談の解決につなげていくことをおすすめします。

個人的に感じるのは、契約の際の説明不足に起因するクレームが多いということ。顧客との認識のズレが出ないよう、求められる説明義務をきちんと果たすとともに、面談メモやメール、確認書などの記録を残しておくことが大切です」(同)

■下請けが矢面に立たされる 建設業界

特徴

発注した時点では完成品が存在しないため、顧客との間でイメージのズレが生じやすい。特に注文住宅など一般人が顧客のときは、業者と顧客の間の知識の差が大きく、図面や書類による説明が機能しにくい。結果、完成時に「約束した内容と違う!」という憤りが発生し、カスハラに発展する場合がある。

元請けから下請けへ作業の委託を行ったようなケースでは、顧客と契約しているのは元請け業者なのにもかかわらず、指示通りに作業している下請け業者がクレームの矢面に立たされるなど、理不尽な出来事も起きやすい。

対応策

「やはり最初の契約段階のすり合わせが非常に重要です。設計図や完成予想図などを駆使し、できる限り顧客とイメージを共有するよう努力しましょう。

現場で作業にあたる下請け会社と、元請けとの連携も大切。たとえば、顧客から下請けの作業担当者に『イメージと違うから直せ』といった要望が出されたとき、すぐに対応してはいけません。その内容を元請けに報告・相談した後、追加費用がかかる可能性など、顧客にきちんと説明するべきです。こうした手順を踏まずに顧客の求めるままに工事を仕上げてしまうと、後で追加費用の支払いを求めたときに『そんな話は聞いていない』というクレーム案件になりかねません」(同)

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月2日号)の一部を再編集したものです。

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香川 希理(かがわ・きり)
弁護士
明治大学法学部卒業、立教大学大学院法務研究科修了。2010年弁護士登録。13年香川総合法律事務所設立。企業法務を専門とし、上場企業をはじめ、多種多様な企業の顧問を務める。おもな著書に『カスハラ対策実務マニュアル』(日本加除出版)など。

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(弁護士 香川 希理 構成=川口昌人)

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