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「2028年までに本屋はすべて消滅する」…元書店経営者が真剣に訴える「瀕死の店舗を再生させる12の提言」

プレジデントオンライン / 2024年7月29日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jakkapan21

雑誌(コミック含む)市場の売り上げは、ピーク期の1万5633億円に比べて30.7%の4795億円まで激減した。書店の消滅はもう避けられないのか。『2028年 街から書店が消える日 本屋再生!識者30人からのメッセージ』(プレジデント社)を出した中小企業診断士の小島俊一さんが解説する――。

■書店業は産業構造として成立していない

トーハンの執行役員、明屋(はるや)書店の社長を務めた私が多方に取材して行き着いた出版界の課題は、「利幅の薄さ」「物流の硬直性」「教育の不在」の3点に尽きます。

街の書店は危機に瀕していて、その数は7000軒を切りピーク時の半分以下になり、地方自治体の4分の1には書店が無くなりました。それは何故なのか? 解決の方策はあるのか? 街の書店の現状と課題についてお伝えしようと思います。

書店業は産業構造として成立していません。どんな業種も粗利益の範囲内にコストが収まらないと赤字になって倒産します。当然ながら書店も例外ではありません。

書店は再販制度で販売価格が決められていて自分で変えることはできません。仕入は本の問屋である取次のトーハンや日販から仕入れますが、トーハンの2023年度取次事業は13.6億円の赤字です。日販はさらに厳しくて36.3億円の赤字です。

当然、取次は赤字部門である書店への卸値を下げることはありません。地方書店の平均的な営業総利益率(粗利率)は23%から24%ですが、書店は販売価格も仕入値も改善できないのですから、この薄い利幅が改善されることは決してありません。一方、経費である人件費、家賃、水道光熱費、電子決済手数料は増えるばかりで、経費が粗利益を超えてしまって赤字になっているのが、書店経営が置かれている厳然たる事実です。

■原因は「活字離れ」でも「趣味の多様化」でもない

「#2028年街の書店が消える日」はブラフではなくて、近い将来に必ず起きるファクトです。各地で書店の閉店が相次ぐのは、ビジネスとして従来型の書店経営が終わりを迎えたという現実です。その事に目を背けて「活字離れ」だの「趣味の多様化」だのという議論をしても仕方ありません。書店の利幅改善がなければ、どんな施策も砂上の楼閣です。

では、なぜ急に書店の閉店が表面化したのか? 街の書店の売り上げの半分は雑誌とコミックです。最低でも1カ月に一度は売れるか返品できる雑誌とコミックが街の書店のキャッシュの源泉でした。書籍の年間商品回転率は2回ほどですから、半年に1回しか売れない低単価で利幅が薄い書籍だけでビジネスは成立しません。別表1をご覧ください。出版界の厳しさを示すのにしばしば使われる表です。

出版物の推定販売金額
出所=『2028年 街から書店が消える日 本屋再生!識者30人からのメッセージ』

■「雑誌中心」から「書籍中心」のビジネスモデルへ

この表を丁寧に見てゆきましょう。雑誌(コミック含む)の売り上げはピークに比べて30.7%(1万5633億円⇒4795億円)まで下がり、書籍の売り上げはピーク時に比べて59.4%(1万931億円⇒6497億円)になっています。令和になって雑誌の衰退が顕著になって、書店の売り上げが採算分岐点を下回り、書店は店舗を閉店するしかない状態に追い詰められています。

別表2をご覧ください。主要書店法人の営業実績です。どの大手法人も営業利益率が極めて低いか赤字です。街の書店だけでなく、大手書店も経営的に厳しい状況にある事がわかります。

主要書店実績
出所=『2028年 街から書店が消える日 本屋再生!識者30人からのメッセージ』

山積する課題を、何から片付けていくべきか。なによりも出版界の「昭和のビジネスモデル」から転換することです。雑誌とコミックは書店だけでなく取次も雑誌流通が起点です。雑誌主体だった昭和のビジネスモデルから、書籍を中心としたモデルへ転換しなければ、書店も取次も赤字体質から抜け出せません。

商材としての雑誌に期待できない以上、日本社会が守るべきは、書籍の売り上げを軸とした街の書店の構築ですが、残念ながら新たなビジネスモデルの構築は遅々としています。

■謎ルール「雑誌発売日協定」は撤廃せよ

一例として、出版界の「昭和ビジネスモデル」の典型である出版界のカルテル「雑誌発売日協定」について説明します。どんな業界でも出来上がった商品は一日も早く消費者に届けるようにしますが、出版界はコストと手間をかけて「雑誌発売日の同一地区同一発売日」を死守しています。

わかりやすくお伝えします。九州地区は同一発売日地区なので、福岡市中央区天神の書店と鹿児島県の山中にあるコンビニエンスストアの発売日を同じにするために雑誌発売日を遅いほうに合わせて雑誌を出荷しています。出版界が消費者利益よりも業界内都合を優先する「雑誌発売日協定」を守り続ける出版界に物流のイノベーションは起きません。

このカルテルがなければ、取次の赤字部門であるコンビニ雑誌の個別配送を廃止して雑貨との混載も可能になって大幅なコスト削減とCo2削減にも寄与できますが、その声は出版界から上がっていません。(詳細は『2028年 街から書店が消える日 本屋再生!識者30人からのメッセージ』(プレジデント社)のp176参照)

■なぜ書店は取り寄せに2週間もかかるのか?

日本の出版物流は雑誌物流に書籍を載せる形で行われているので、全国津々浦々まで安価に届ける事ができています。しかしながら、定時定量配送の雑誌物流に併せて書籍を送るので、書籍物流は迅速性や柔軟性に著しく欠けています。ネット書店の注文が翌日に届くのに対して、書店店頭での注文は早くても3日、場合によっては「2週間かかります」と言われてしまいます。これでは、本好き読者が書店から離れるのも仕方ありません。

図書館で本を探す少女
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

経済産業省が2023年10月に「国内外の書店の経営環境に関する調査」というレポートを出しています。

対象国はアメリカ、フランス、ドイツ、韓国、イギリスですが、総じて日本と比べて書店の経営環境は上向きです。「書籍と雑誌の流通経路」は日本だけが同じで諸外国は別です。人口や国土の広さに比べて日本の書店数は多い傾向にあります。ドイツは注文すると翌日に書店に届きます。フランスには「反アマゾン法」あって書店が守られているなど、興味深いレポートです。

ここからは出版界の皆さんに異論はある事は承知の上で、私が思う日本の書店を守るために出版社、取次、書店が行うべき提言です。一般読者の方々はどう思われますか?

■再販制度を撤廃し、書籍中心の物流網に変える

●出版社が行うべきこと

1.出版物の価格拘束をする再販売制度を放棄するか、流通側(取次2%・書店8%)に利益を還元して、書籍の販売価格も順次10%から15%まで上げる。
……再販制度と委託制度は、売り上げが伸びている時は機能していましたが、売り上げが下がる現状では、弊害のほうが大きいことを認識しなければなりません。この事を真正面から議論しないと、日本のすべての書店は消えてしまいます。(詳細は拙著p169参照、以降はすべて拙著より)

2.新刊は発売日の3カ月前に書店と読者に告知して、事前注文を取る出版体制を構築して、出版物の粗製乱造を防ぐ。

●取次が行うべきこと

3.書籍専用物流の構築
……トーハン、日販で合同の書籍物流網を整備して、物流速度を大幅に改善し注文品の翌日店頭到着を実現して、読者の書店への信頼を取り戻す。3PL(※)も視野に入れます。

4.流通側への利益再配分に関する出版社との交渉を主導する
……取次は各出版社の加重平均仕入正味を把握しているのですから、弱小出版社にばかり不利益にならないようにして平均仕入正味60%平均出荷正味70%を実現する。粗利益改善が果たせれば、書店も取次も当面の営業赤字は解消されます。(詳細はp62)

※サードパーティーロジスティクス(Third Party Logistics)=倉庫管理や輸送などの物流業務を自社で行わず、物流専門企業に委託する物流形態のこと

■出版社都合になっている書店の主権を取り戻す

●書店が行うべきこと

5.自主仕入れへの移行
……書店は取次頼みの仕入れから卒業して、買い切り商材を含めた積極的な仕入れを行い、その能力を向上させる。小売りにとって最も重要な能力が仕入れ能力であることは論を俟(ま)ちません。(詳細はp62-p63)

6.書店経営者やチェーン店本部が店頭オペレーション管理を手放す
……書店に働く人は時給が安くても本が好きで本屋で働いています。それにもかかわらず、書店現場では出版社からのリベートや取次からの「提案」が優先されて、書店店頭は本売り場から本置き場になっています。本好きな人を書店に呼び戻すためにも書店店頭を書店員の自由な発想で再構成し、特長ある店舗作りに転換しませんか?

書店の従業員と本を買う客
写真=iStock.com/Maica
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Maica

これらのことを実現するため、出版界が行政と連携することが、街の書店を守るための唯一の道です。自浄作用が機能しない出版界には、公正取引委員会や街の書店の将来に大きな関心を持ってくれる経済産業省との連携が欠かせません。特に経済産業省にはバラバラな出版界をまとめていくリード役を心底期待しています。

■公取委も含めた行政の指導も不可欠

●行政が街の書店を守るための具体策

7.疲弊している流通側の適正利益確保のために公取委は、取次が出版社と一定の範囲内での利益再配分交渉を行うカルテルを容認する「独禁法の弾力的運用」、もしくは出版社に再販制度の放棄を指導する。(詳細はp32)

8.図書館と地域書店の共存のために地元書店から図書館への納品は定価を厳守させる「再販制度の厳格化運用」に関する公取委の指導。(詳細はp25、p162)

9.出版物流改革の足枷になっている出荷カルテルである「雑誌発売日協定」を公取委が撤廃指導する。

10.書店業に新規参入する際、大きな障壁になっている取次の過剰担保規制を緩和させる。(詳細はp101)

11.再販制度と委託制度の一体運用の弾力化。書店は仕入れた本を出版社に自由に返品できる委託制度があるので、本が書店に移動しても所有権は出版社にあると見なされて、書店は再販制度に縛られ価格決定権がありません。
しかしながら、実際には返品できない本が店頭には多くあって不良在庫化しています。これらの所有権は出版社から書店に移転したとして、再販制商品から外し書店が価格決定権を持つことを公取委が認める。

12.税制面の優遇措置。経産省主導で書籍に限った消費税軽減措置(撤廃措置)を行い上記1で発生する書籍の最終価格上昇を抑制させる。

■最も深刻なのは出版人材のレベルの低さ

本稿や拙著『2020年街から書店が消える日』の主張に対して多くの異論がある事は承知していますが、出版界で一番不足しているのは誰にも忖度しない自由な議論です。

無論私の提言が一顧だにする価値もなければ無視してください。もし、興味を持たれるか議論をお望みならばお声がけください。私は事情が許す限りどこにでも出かけ、どなたとも議論をしますし、講演もします。一般読者も巻き込んだ街の書店の生き残りのための自由な議論を始めませんか?

中でも深刻なのは、出版界の教育(研修)の不在です。これは異常といっても差し支えありません。メディアの劣化が指摘されて久しいですが、教育は出版界のみならずメディア業界全体の課題です。

本稿をお読みのメディア業界の皆さん。あなたの大学の同級生で金融界、メーカー、商社をはじめ地方の中堅企業に入社された方に社内研修について聞いてみませんか? あなたが世の中の変化から取り残されている事がわかって愕然とすることでしょう。

大学を出た時には同じような能力だったはずですが、他業界に行って継続的な研修を受けた同級生は、遠い所に行ってしまっています。出版界のみならずメディア業界にイノベーションが起きない根本的な原因は「教育の不在」にあります。(詳細はp154)

■「ネット書店があれば大丈夫」のウソ

最後にネット書店についてお伝えします。書店がなくなってもネット書店があるから、日本の出版物は大丈夫だと思われている読者の皆さんもいらっしゃるかもしれません。

出版社にとってネット書店の販売占有は30%程度でしょうか? ビジネス書の比率はもっと高いでしょうが、文芸書の販売占有は低く児童書では8%でしょうか。ネット書店ではリアル書店の需要のすべてを代替できませんから、書店がなくなれば多くの出版社は倒産し、日本の出版活動は著しく縮小することになるでしょう。

そして、リアル書店でしか味わえない本との偶然の出会いであるセレンディピティな空間を日本人は失ってしまうことになります。

あなたは、そんな日本社会を望んでいませんよね?

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小島 俊一(こじま・しゅんいち)
中小企業診断士/元気ファクトリー代表取締役
出版取次の株式会社トーハンの営業部長、情報システム部長、執行役員九州支社長などを経て、経営不振に陥っていた愛媛県松山市の明屋(はるや)書店に出向し代表取締役就任。それまで5期連続で赤字だった同書店を独自の手法で従業員のモチベーションを大幅に向上させ、正社員を一人もリストラせずに2年半後には業績をV字回復させる。著作に『崖っぷち社員たちの逆襲』(WAVE出版)、『会社を潰すな!』(PHP文庫)がある。

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(中小企業診断士/元気ファクトリー代表取締役 小島 俊一)

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