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1年半で「ランキング1位→11位」に転落…人気高級ブランド・グッチがハマった「大幅値引き・株価急落」の落とし穴

プレジデントオンライン / 2024年7月27日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Audrius Venclova

■アウトレットに商品が山積みになっている

イタリアが誇る高級ファッションブランド「グッチ」が、凋落の憂き目を迎えている。

グッチはかつて、派手なデザインでブランドの方向性に革新をもたらしたクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ氏に導かれ、黄金期を謳歌した。だが、高価な割に長く手元に置きづらいデザインが災いするなど、デザインに飽きが指摘されていた。2022年11月にミケーレ氏の退任が発表されると、ブランドは次第に迷走を始めた。

ブルームバーグは4月、ブランドの投げ売りを報じている。グッチのブティックでは過去の製品が大幅に値引きされている。ある金曜の午後、パリ郊外のディズニーランド近くにある名もなきアウトレットでは、「大幅に値引きされた過去のシーズンの商品の山」に客たちが群がっていたという。

黄色のパンプス、毛皮のスリッパ、派手なジャケット、明るい緑のクラッチバッグなど、幅広いアイテムが山積みになっていたとする記事だ。ブルームバーグは、ルイ・ヴィトンやシャネル、エルメスといったライバルのハイブランドであれば、このようなセールは「考えられないことだろう」と論じる。

米ビジネス・インサイダーも、グッチ製品の安売りを取り上げている。鑑定付き高級品のオンラインマーケット「リアルリアル」では、同ブランドの象徴である「G」ロゴを組み合わせた「ダブルG」ベルトが200本も出品され、1本あたりわずか208ドル(約3万3000円)という安価で販売されていたという。

■ブランドランキングは首位から11位に急落

個別の製品だけでなく、グッチのブランドイメージも大きく毀損したようだ。ファッションブランド格付けのLystインデックスによると、最新の2024年第1四半期、グッチのランキングはファッションハウス中11位にまで落ち込んだ。

ブルームバーグは、約1年前にはトップに君臨していたと指摘しており、大幅な下落となる。現在、1位のミュウミュウ、2位プラダ、4位ボッテガ・ヴェネタから大きく引き離され、8位バレンシアガや9位ヴァレンティノの後塵を拝す。

グッチはかつて、世界中のファッション愛好家にとって憧れの的であり、その独自のデザインとブランドストーリーテリングで知られていた。しかし、ここ最近は業績低迷とブランド価値の低下が海外で相次いで報じられるようになり、かつての栄光を失いつつある。

■際立つグッチの独り負け、ヴィトンやエルメスは株価倍増

グッチの売り上げは、特にアジア太平洋地域での低迷が顕著だ。英BBCによると、グッチブランドの運営会社であるケリング(Kering)は3月、投資家に対し、2024年第1四半期のグッチの売り上げが前年同期比で20%減少する見込みであると警告していた。

グッチは中国からの売り上げが全体の3分の1以上を占めており、英ガーディアン紙は、中国市場の不調が大きな影響を与えていると指摘する。仏国際ニュース局のフランス24は、ケリング傘下のその他のブランド、すなわちイヴ・サンローランやバレンシアガも同様に、需要の低下に直面していると報じている。

香港のグッチのフラッグシップストア
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

売り上げ低迷により、ケリングの株価は深刻な打撃を受けている。同局によると今年3月20日、ケリングの株価は一時15%以上下落し、最終的には11.9%減の375.20ユーロで取引を終えた。この下落により、ケリングの市場価値は1日にして約70億ユーロ(約1兆2000億円)が吹き飛んだ。

ケリングの株価は、2020年以降で約40%減少している。ビジネス・インサイダーは、これは競合他社であるLVMH(ルイ・ヴィトンなどを運営)やエルメスの株価がそれぞれ200%以上上昇していることを挙げ、こうした成功例とは対照的だと指摘する。

■なぜグッチは凋落したのか

不調の原因は、黄金期を支えたクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ氏の退任だ。

ミケーレ氏が2015年にクリエイティブディレクターに就任して以来、グッチは一大ブームを巻き起こした。その独特なデザインと大胆なスタイルは、若者を中心に大きな支持を集め、売り上げを急増させた。

ミケーレ氏の得意とする手法に、ブランドロゴを強調する「ロゴマニア」がある。前掲の「ダブルGロゴ」や、特大のオーバーサイズロゴなども、こうした「ロゴマニア」の一例だ。

また、豊富な装飾、鮮やかな色彩、複雑なパターン、そして多様な素材を組み合わせる「マキシマリズム」の手法も彼一流のデザイン技法だ。

ミケーレ氏は2015年1月、グッチのクリエイティブディレクターに就任した。2015年秋冬のメンズコレクションが、彼の初のコレクションとなった。わずか5日間で準備されたものだったが、インパクトは抜群だった。イタリアで25年以上運営されている老舗デザインメディアのデザインブームは、「このブランド(グッチ)の立脚点を、180度転換させた」と称える。

■天才デザイナーに導かれたグッチの黄金期

ミケーレ氏のデビューコレクションは、グッチがそれまで立脚点としてきた洗練されたミニマリズムから一転し、華やかでエキセントリックなスタイルを打ち出した。メンズコレクションの冒頭、ランウェイに真っ赤なリボンの付いたブラウスや、バラの刺繍が舞うシースルーのシャツが現れた瞬間、観客に強い衝撃を与えた。

ミケーレ氏の大胆なスタイルは、いかなるファッションハウスも断ち切れなかった「男性らしさ」「女性らしさ」の固定観念を一瞬で打ち砕き、ファッション界に新風を吹き込んだ。伝統を重んじる慎ましかったグッチ像が、音を立てて崩れた瞬間だった。

デビューコレクションではまた、草花をあしらったさわやかなシャツを披露したが、当然それだけでは終わらない。着用したモデルの手には、モデル自身の顔そっくりに作らせた、まるで生きているかのように精巧な生首を持たせた。インパクト重視がミケーレ氏の流儀だ。

ミケーレのビジョンは、単なるファッションデザインの革新にとどまらず、ブランド全体のイメージを刷新し、グッチを再びファッションの最前線に押し上げた。

■セレブが絶賛、売り上げ増に大きく貢献したが…

ミケーレ氏はローマで生まれ育ち、幼少期から芸術に触れる環境で育った。母親はイタリアの映画業界で働いており、父親は航空会社アリタリアの技術者でありながら、彫刻家としても活動していた。彼はローマの中心部で育ち、古代遺跡や美術館を訪れることが日常だった。このような背景が彼のデザインに大きな影響を与えた、とニューヨーク・タイムズ紙はみる。

2015年、英国ファッション評議会で表彰されるアレッサンドロ・ミケーレ(グッチ・当時)
2015年、英国ファッション評議会で表彰されるアレッサンドロ・ミケーレ(グッチ・当時)(写真=Walterlan Papetti/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

その後、イタリアのニットウェアブランド「レ・コパン」でキャリアをスタートさせ、さらにフェンディを経てグッチに移籍した。

彼の評判は非常に高く、エルトン・ジョンやジャレッド・レトなどの著名人からも称賛されている。同紙によるとエルトン・ジョンは、「彼の服はユーモアがあり、バスケットボール選手やNFL選手、そして自分のサイズを気にせず楽しめる人々のために作られている」と評価している。

ミケーレ氏はグッチに注力した20年間を通じ、ブランドの在り方を再定義し、売り上げを大幅に増加させた。米カリフォルニア州マリブでブランドコンサルタントを営むダニエル・ランガー氏は、高級ファッション市場を分析するジンデイリーへの寄稿のなかで、ミケーレ氏のデザイン手法がそのキャリア終盤、「同じことの繰り返し」と批判されるようになっていたと指摘する。

■「奇抜すぎる」と考える消費者も

記事は、「亀裂や一貫性のなさが目につくようになった」「コレクションはギミックが多く、芝居がかったもの」になったとの声が次第にファッション界のオブザーバーから漏れるようになった、と指摘する。

ブランドの革新性は失われ、インスピレーションが停滞していると感じられることも少なくなかった。それまで伝統を重視したグッチにふさわしくなく、「奇抜すぎる」と考える消費者も増えた。

現地時間2022年11月23日、グッチはミケーレ氏の退任を発表した。ミケーレ氏は自身のInstagramで、「ときに私たちは異なる物の見方を持ち、そのために別々の道を歩む時がある」と述べ、20年以上にわたるグッチと袂を分かつことを発表した。

■コロナ禍で進んだ消費者の「グッチ離れ」

ミケーレ氏が牽引したデザイン技法は、とくにパンデミックとの相性が悪かった。通常、高級ファッションを購入する消費者は、支出に見合うだけの長期間使用できることを期待する。

だが、いつ外出制限が解除されるとも知れないパンデミック期において、挑戦的なミケーレ氏のデザインには手を出しづらい。購入した当時は最先端であっても、パンデミックが終わるころには流行遅れになっていることが容易に想像できるためだ。

グッチはこの潮目の変化に対応できなかった。シティグループでラグジュアリー商品の戦略リサーチ責任者を務めるトーマス・ショーヴェ氏は、ビジネス・インサイダーに対し、「グッチはパンデミックの開始時、消費者がよりクラシックで控えめな『静かなラグジュアリー(quiet luxury)』を好む市場の急変に、足を取られた」と述べている。

「静かなラグジュアリー」とは、高級ファッションでありながらも控えめなデザインにまとめられた、時代に左右されないアイテムを指す。ビジネス・インサイダーは、静かなラグジュアリーが「2023年で最も大きなトレンドのひとつ」だったと述べている。

記事は「それでも、ミケーレは自分のアプローチに忠実であり続けた」と述べ、デザイナーとしての矜持が裏目に出たと指摘する。

■若年層に依存した戦略が暗転

グッチのブランド価値を損なったもう一つの要因は、ディスカウント販売の増加だ。大規模なセールを繰り返したことでブランドの高級感を損ない、消費者に「安売りブランド」という印象を与えた。これにより、ブランドの「デザイラビリティ」(魅力)が大きく低下した。

オルテリ・アンド・カンパニーの創業パートナー、マリオ・オルテリは、ブルームバーグに対し、「グッチは、アウトレット販売を減らし、ブランド価値を高める必要がある」と指摘する。

関連して、安易なパートナー展開で販路を広げ、さほど裕福でない若年層への依存度を高めたことも災いした。近年のグッチは、ノースフェイスやディズニー、メタバースなどの大衆市場向けのパートナーシップを積極的に展開し、富裕層以外の消費者層、とくに若者に依存する戦略を取っている。

ファッションウィーク中のイタリア・ミラノでグッチで固めた女性
写真=iStock.com/AGCreativeLab
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AGCreativeLab

■経済不安、インフレ加速で若者たちは真っ先に離れていった

一例として、フランス発祥のファッション誌『エル』は2022年1月、グッチがノース・フェイスとのコラボアイテム第2弾として、防寒ジャケットなどを「サプライズ」発表したと報じている。イギリスの鉄道愛好家である21歳女性のフランシス・ブルジョワ氏をモデルに起用して話題を生み、斬新なキャンペーンにより防寒ジャケットの検索数は1351%急上昇した。

こうした人気ブランドとの提携戦略は一時的には成功したが、永続的な顧客開拓には至らなかったようだ。経済不安やインフレが進む中で、新規に獲得したはずだったこうした若者消費者層は、真っ先にグッチブランドを離れていった。

ユーロモニターの高級品部門責任者、フルール・ロバーツ氏は、ビジネス・インサイダーに対し、「超富裕層を除けば、私たちは皆、生活費の危機を感じています」と語る。

こうした状況において高級ブランド品は、真っ先に支出を削る候補となる。安定した余裕資金のある富裕層以外へとターゲットを広げてしまったことで、不景気の時代にグッチ自らの首を絞める結果となった。

■身近路線か高級ファッションハウスか…岐路に立つグッチ

以上のように、グッチの勢いが衰えた背景には、多様な戦略ミスが山積している。伝統を破壊するミケーレ氏の派手なデザイン戦略や、それが特にパンデミック中に敬遠されたこと、そしてセールを頻発する販売体制に、さらには中価格帯のファッションハウスとの提携戦略など、デザイン面でも経営戦略面でも課題が残る。

現在、ミケーレ氏の後任となるクリエイティブディレクターのサバト・デ・サルノ氏が鋭意コレクションを放っている。だが、彼のコレクションは大きな否定論こそ起こっていないにしろ、まだ市場で取り立てて反響を呼ぶに至っていない。

アウトレットモール内の方向矢印案内板
写真=iStock.com/Ralf Liebhold
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ralf Liebhold

もっとも、グッチがここ数年で推進した戦略は、ある意味では好ましい効果も生んできた。高級ブランドに憧れるすべての若者たちが、少し背伸びをすれば手の届く位置にまで、それまで高嶺の花だったハイブランド商品の垣根を引き下げた。

パンデミック中にはミスマッチが指摘されたとはいえ、ミケーレ氏の派手なコレクションは人々の胸を本能的に躍らせる。外出控えで心が沈みがちだった当時、華やかな意匠に救われたという人々も、ずいぶんといることだろう。

しかし、世界経済がいまだ厳しい状況にある今、若者に支えられたグッチ商品の売り上げは低迷している。富裕層だけが手に入るブランドへ回帰するのか、それとも、親しみを持てる比較的身近なハイブランドとして立ち位置を探るのか。グッチはブランドの再定義を迫られている。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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