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「1年働いただけ」43歳・無職長男に貯金8000万を"完璧"に残す老親…自分にはお金を使わない親は幸福か不幸か

プレジデントオンライン / 2024年7月25日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masamasa3

わが子が社会人になっても働かずに何十年も実家にいたらどうしたらいいのか。高齢化する親の悩みは、自分たちの他界後。リタイア後も貯金を自分たちの楽しみにほとんど使わず、そっくりそのまま残そうとするケースもある。FP村井英一さんが家計相談に乗った事例を紹介しよう――。

■実家同居の無職40代の長男対策…老親がした驚きの行為

働けない子どもとその親の高齢化が進んでいます。高齢の親にとっては、自分たちが亡くなった後に、はたして子どもが自立した生活を送れるのかが心配です。そのためにも、少しでも多くの財産を子どもに残してやりたいというのは自然な気持ちでしょう。

ただ、相続財産が多くなると、相続税が多くかかるようになります。その点も親にとっては心配のタネで、相続税についていろいろと調べている親も少なくありません。ただ、「いつ亡くなるか」だけはわかりませんので、“節税策”は簡単ではありません。

【相談者の家族構成】
父親:鈴木 幸一さん(仮名)78歳(無職) 相談者
母親:恵子さん(仮名)75歳(無職)
長男(43歳、無職)と同居
※長女(40歳)は結婚して別世帯

資産
・預貯金:8000万円
・ご自宅(戸建て、評価額6500万円)

収入
父親:年金200万円
母親:年金100万円

支出
・生活費:年額300万円

鈴木さんご夫婦(夫78歳、妻75歳)がご相談に来られたのは、2024年5月のことでした。

「長男(43歳)は今後も仕事は難しいと思います。それだけに、私たちがいなくなっても困らないだけの資産を残してあげないと、と考えています」

聞けば、長男は協調性に欠ける部分があり、周囲とうまくやっていくのが難しかったようです。それでも学校生活はなんとかやり過ごすことができました。中学、高校時代は学校を長期間にわたって欠席することはありましたが、不登校までは至らずに、無事に卒業しました。

その後、専門学校を経て地元の企業に就職しましたが、仕事は長続きしませんでした。どうも“空気を読む”というのが苦手なようで、たびたび周囲とトラブルを起こしてしまいました。結局、1年程度で退職してしまいました。

心療内科を受診もしましたが、退職してからは落ち着いてきたこともあり、通院を止めてしまいました。そのため、障害年金の請求はしていません。

実家で暮らしているので、本人に収入がなくても生活に困ることはなく、両親も無理には就職を勧めなかったそうです。働いていた時期は、精神的にも荒れていたからでした。

「うちの子は、どうもビジネスでの競争社会は向いていないようなんです」

父親の場合、就職にこだわる人が少なくありませんが、今回の両親はそろって長男の状況に理解を示していました。そのせいかどうか、そのままの状況で長男はすでに40代になっていました。一方、妹さん(40歳)は学校を卒業すると就職し、今では自宅を出て世帯を持っています。

「長男にはできるだけ預金を残してあげたいと貯蓄(8000万円)をしてきたつもりですが、このままだとかなり相続税がかかってしまうようです。私が生きているうちに、毎年110万円の範囲内で贈与しておこうかと思うのですが、どうでしょうか?」

■最新の相続税、贈与税をばっちり勉強してわが息子に100%残す

父親は相談に訪れた理由を説明しました。

「申し訳ありませんが、私は税理士ではありませんので、鈴木様の具体的な税額を計算してご提案することはできません。しかし、税金の制度についてはご説明できますので、ご案内いたしましょう」

私は説明を続けます。

「ご承知のように、1年間に贈与を受けた金額の合計が110万円以内であれば、贈与税はかかりません。お元気なうちに財産の一部を贈与しておくことで、相続財産が減少すれば、結果的に相続税が減少することになります。ただし、贈与する親が亡くなった時点で3年以内に贈与した分については、相続財産に組み戻して相続税を計算することになっています」

「病気になってからあわてて贈与しても、ダメだということですね」

「そうなんです。ところが、今年に法改正があり、この期間が3年から徐々に7年に伸びることになります」

「7年かぁ。今年から贈与を始めても、あまり効果はないかもしれないなあ」

「いやいや、お元気で長生きしていただければと思いますが、亡くなる時期だけは誰にもわりません。その点、相続時精算課税制度を利用すると、確実に非課税で贈与をすることができます」

「その制度なら調べましたよ。贈与をしても贈与税を払わなくてよい制度ですね。でも、結局は相続税の対象になってしまうのでしょう」

「よくご存じですね」

私は、父親が相続税の制度についてよく研究しているのを感じました。

通帳と印鑑
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

「確かに、相続時精算課税制度を使って贈与をすると、その時点では一定額までは相続税を払う必要はありませんが、贈与した資金は相続税の対象になりますので、節税策にはなりません。資金を早めに渡すことができるというメリットだけでした。しかも、この制度を利用した場合、年110万円の贈与税の基礎控除は使えませんでした」

「だから使っても意味がないとわかったんです」

「ところが、こちらも今年に制度が変わりまして、相続時精算課税制度を利用しても、年110万円の基礎控除が適用できるようになりました」

「でも7年以内に死んでしまえば、やっぱり相続税の対象になるのではないでしょうか」

「いえ、相続時精算課税制度を利用していれば、相続発生7年以内の贈与でも相続財産に組み戻す必要がないのです」

「すると、相続税の基礎控除を利用するためであっても、相続時精算課税制度を選択しておけばよい、ということになりますね」

「そのとおりです。昨年までは、相続税の節税策としては相続時精算課税制度を利用しない方がよいと言われていましたが、今年からは相続時精算課税制度を利用した方が安心して贈与ができるようになりました」

「なるほど。これから基礎控除の範囲内で毎年贈与していけば、ある程度は相続財産を減らすことができますね」

母親も付け加えます。

■長男には8000万円をそのまま渡す両親の気持ちを感じてもらいたい

「あなたが死んだ後は、私が続けていけばいいわね。どれだけ長生きできるかわからないけど、確実に非課税で渡せるのなら安心ね」

「その他にもいろいろと気を付けなければならない点がありますので、実行される前に、税理士または税務署にご確認ください」

私は、少しでもご長男に資産を多く遺したいというご夫婦の熱意に感心しました。親亡き後のお子様の生活も心配ですが、ご自身の生活を優先することのほうが大切だとお話することも多いのですが、この時は言い出せませんでした。私はもう一つの懸念事項を申し上げました。

「親亡き後のご長男の生活は心配ですが、下のご長女とのバランスも大切です。ご長男に贈与をされるのであれば、ご長女にも何らかの手当をご検討されてください。そうでないとご長女に不満が残り、将来に相続争いを起こしかねません」

すると、父親はこう話しました。

「娘には自宅(戸建て、評価額6500万円)を残すようにします。娘家族は借家住まいですので、長女には一戸建ての自宅を、長男にはその分、預貯金(8000万円)を残そうと考えています」

「そうですか。ただ、ご自宅については同居されているお子さんが相続すると、ご自宅の土地の評価額を低く計算でき、相続税が少なくなるという特例があります」

今度は母親が答えました。

「わかっています。いずれ夫婦一人になったら、娘夫婦には同居してもらうつもりです。娘の旦那にもそのことは話してあります。その時には長男には賃貸アパートを借りて一人暮らしをさせます。親がいなくなったら一人暮らしをしていかなければなりませんから、早めに始めようと考えています」

「そうですか。であれば、問題ありませんね」

相続税の特例を調べた上で、先々まできっちりと計画されているのに、驚かされました。ただ、まだまだ先の話です。家族の気持ちの問題もありますので、計画どおりに行くかどうか未知数です。

それにしても、親亡き後の長男の生活を心配され、自分たちの楽しみを犠牲にしても財産を残そうという夫婦には気迫を感じました。子供のために、相続税の制度をうまく活用して、少しでも多くの財産を残そうとしているのがわかります。長男には両親の気持ちを感じてもらいたいと思いました。

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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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