退職届を出したらビリビリに破られる…2万円をわざわざ払って退職代行を頼むサラリーマン1800人の悲痛
プレジデントオンライン / 2024年8月5日 9時15分
■「退職したい」依頼は5月だけで1800件
TOKYO FMの報道・情報センターの記者による独自の取材をお届けする「東京事件」のコーナー。今回は、後藤亮介記者が「退職代行サービス」が世間で求められている背景について調査をおこないました。
退職代行サービスとは、仕事を辞めたいと希望する人に代わって退職の意向を会社に伝え、退職に関する手続きを進めるサービスです。現在、日本では約100社の退職代行サービスを提供している会社があります。退職代行モームリを運営するアルバトロスの代表・谷本さんによると、退職代行サービスの利用者は1日あたり平均70件。5月の利用者は1800件の依頼がありました。
依頼者が退職代行サービスを利用する背景について、谷本さんは「実際に理由を聞いていると、退職代行を使ったほうがスムーズに退職できるなと思う案件が多くあります。(職場に)退職を言いづらいから利用される方ももちろんいらっしゃいますが、退職を拒まれたりすることから退職代行を利用される方もかなり多くいらっしゃいます」と説明します。
■社長から「生命保険をかけて自殺をしろ」
日本の法律では、原則として労働者の退職の自由が認められています。会社側は退職の意思を退けることはできませんが、なかには退職届を受け取らずに破り捨てたり、頑なに拒否する企業があるため、退職代行サービスの利用に踏み切る依頼者もいます。
退職代行モームリでは、正社員の退職代行を2万円から引き受けています。「本来、退職というのはお金をかけずにできるものですから、退職代行に依頼してくる人は、退職したくてもできない、退職を言い出せないといった厳しい環境があるんだなと感じました」と後藤記者。
続けて、谷本さんから退職代行モームリの利用で特に印象に残っている事例について伺いました。
「最近、“生命保険をかけて自殺をしろ”と社長から言われている方からの依頼がありました。内容について確認しましたが、何回も言われているからどこで言われたのか覚えていないほど何度も言われていたそうです。そんなことを言う社長に対して、退職の意思を伝えられるかというと言えないですよね。それで当社に依頼が来たという形です」と谷本さんは言います。
■「寝る暇があったら仕事の勉強をしろ、ゴミ」
企業としての在り方自体が問われる内容ですが、極限状態にまで追い込まれた社員が退職を申告することは困難であることは想像に難くありません。退職代行モームリでは毎日の依頼件数とともに、その日にあった依頼者個別の事例を公開しています。以下に事例の一部を紹介します。
・おこなった業務に対して「仕事をナメてるの? 縛り付けたほうがいいのか」など恐喝を受けた
・「座っているだけで給料をもらえると思うなよ」と言われた
・「退職代行なんてゴミのような人間が使うものだ」と言われた
働き方改革が進められている令和の時代ですが、コンプライアンスやハラスメントの対策が不十分な会社は、残念ながらいまだに存在します。そういった会社は零細企業に多い傾向にありますが、大企業であっても支社や支店にパワハラ気質の人が所属することで、職場にハラスメントが横行する現場にもなります。
■最高齢は71歳、辞めたいのに引き留められ…
退職代行モームリの利用者のうち、およそ7割は20代から30代。全体の15パーセントは新入社員からの依頼です。ハラスメントを受けやすい立場の弱い若い社員が、過酷な状況から助けを求めていることが推測できます。
一方で、高齢者であっても退職代行サービスに頼らざるを得ないケースもあります。「最高齢で71歳の方がいらっしゃいました。定年の65歳まで働かれたのですが、その方は仕事ができるので教育者としてアルバイトをされていたそうです。
ですが、やはり体力的にしんどくなってしまって退職を伝えたところ、『もうちょっといてほしい』とずっと引き留められたそうなんですね」と谷本さん。会社に恩がある依頼者は、きちんとした退職のプロセスを踏みたいために、退職代行サービスを利用したそうです。
何らかの理由で自らの意思を伝えることが難しい人にとって、代行業は重要なサービスと言えます。何も手続きを踏まずに会社を離れてしまうと、企業は大きな痛手を負います。退職代行モームリの場合、会社からの保険証や貸与物の返却はきちんとおこない、可能な限り業務の引継ぎをおこなうよう退職者に勧めています。
後藤記者は「先ほどの71歳の方のように、会社に恩がある状態でも『できるだけいい形で辞めたい』という考えのなかで、思いがなかなか伝えられない人の依頼もあります。ただ、こういった例は少数です」と述べます。退職代行サービス利用に至った理由の多くは、ハラスメントであったり、入社前に受けた説明とは異なる労働条件だったりと、苦しい状況に置かれた人が助けを求めるケースです。
■IT、建設業界などから“転職人材”の依頼も
退職代行サービスの利用者急増に伴い、就業規則に「退職代行を使って退職することを禁止する」といった内容を採用する企業も出ています。退職代行を禁止して人材の流出を防ごうとする企業に対し、谷本さんは「職場環境を改善して労働者が働きたいと思える職場であれば、そもそも退職代行なんて使わないですし、退職もしません。力を入れる矛先が間違っていて悲しいです」と思いを語ります。
今後、退職代行をおこなう企業がさらに増えるのではないか、と予測する谷本さん。
「このまま退職代行が増えていくのは、社会のあるべき姿ではないと私たちは思っております。退職代行を使った退職者が増えることによって、企業側は自社の労務関係や職場環境を改善しなければならないことに気づく、そして労働者が退職しないような職場を作っていく。そうすれば自ずと退職代行はなくなるのかなと思います」と呼びかけます。
谷本さんの願いは、退職代行を必要としない社会の実現です。
一方、退職代行モームリには退職者が集まるとして、IT、建設業、運送業といった人手不足の企業から、人材紹介の依頼が10社以上から寄せられています。
「退職代行で社員に辞められて困らない会社はないと思いますが、退職代行から電話が来たということは、悪い職場環境になっているのではないかという“シグナル”だと気づくことが、企業にとって大切なことなのかもしれません」と後藤記者はコメントしました。
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(TOKYO FM)
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