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「18禁の激辛ポテチ」原料は"化学兵器"になっていた…インドで生まれた「世界最恐の唐辛子」の恐ろしい使い道

プレジデントオンライン / 2024年7月26日 16時15分

2010年7月25日、インド北東部グワハティ市のウィークリー・マーケットで「ブートジョロキア」を売る業者。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■14人の高校1年生が救急搬送された

トウガラシ成分を使った食品の危険性が注目を集めている。東京都大田区の高校では7月16日、トウガラシの一種「ブートジョロキア」の成分が入った激辛チップスを食べた生徒14人が、病院へ搬送された。

ブートジョロキアは、世界で最も辛いトウガラシの一つとして知られている。インドのアッサム地方で栽培されており、トウガラシの辛さを示すスコヴィル値は約100万1304に達する。一般的なハラペーニョの約2500~8000と比較して、最大400倍という圧倒的な高さだ。

その特性から、主な栽培国となっているインドでは、テロ対策や暴動鎮圧用の兵器にさえ利用されている。激辛ブームに乗って興味本位で口にすると、体調に異変を来しかねない。

■強烈な刺激は「効果的な武器」になる

ブートジョロキアの辛さは、単なる料理のスパイスとしてだけでなく、軍事や防犯の分野でも利用されるほど強烈だ。

インドの防衛研究開発機構(DRDO)の生命科学部門のディレクター、R.B.スリヴァスタヴァ氏は2010年、英ガーディアン紙に対し、「このトウガラシの辛さは、テロリストを窒息させ、隠れ家から追い出すのに非常に効果的です」と述べている。

スリヴァスタヴァ氏は、オンラインメディアのエスケーピストの取材に、「この武器は確実に、効果的な非毒性の武器になります」と、兵器としての有効性を強調する。氏はまた、「その強烈な臭いはターゲットを嘔吐させ、目は地獄のように燃えるが、長期的なダメージは残りません」とも加えた。

人体への強烈な作用と、後遺症の少なさから、インド軍はブートジョロキアをスモークグレネード(煙幕弾)として利用できないか検討してきた。タイムズ・オブ・インディア紙は2016年、スモークグレネードやテロリストのあぶり出しに利用するべく、プロトタイプが開発されたと報じている。ブートジョロキアの種子を挽いて手榴弾に詰め込んだもので、6万個が発注された。

米ワイヤード誌は、厳密にはブートジョロキアは化学兵器に分類されるほどだと述べている。

■辛さはタバスコの400倍、世界一のギネス記録に…

ブートジョロキアを含むトウガラシの辛さの原因は、カプサイシンと呼ばれる化学物質だ。ブートジョロキアのスコヴィル値約100万は、次いで辛いメキシコの「レッドサビナ」の約2倍、タバスコ・ソースの400倍以上に相当する。

ブートジョロキアはインドの現地名であり、その辛さから英名では「ゴーストペッパー」とも呼ばれる。2006年には世界で最も辛いトウガラシとして、ギネス世界記録に認定された。ブートジョロキアは2011年まで記録を保持していたが、現在は近縁種にあたる「キャロライナ・リーパー」(スコヴィル値はおよそ倍の約220万)がギネス記録を保持している。

ブートジョロキア
ブートジョロキア(写真=Chella p/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

その強烈な辛さに反して、ブートジョロキアの生育条件は繊細だ。イギリスのベッドフォードシャーでブートジョロキアを生産しているサルヴァトーレ・ジェノヴェーゼ氏は、英BBCに、「このトウガラシは非常に育てるのが難しく、長い時間がかかる」と述べている。彼の農場では約7万本のトウガラシが栽培されており、そのうち約1000本がブートジョロキアだ。

強烈な辛さに耐えられる人は少ない。英スーパーマーケット・チェーン「テスコ」のエキゾチック野菜バイヤー、ハリー・ジョーンズ氏は、「このトウガラシを食べると、30秒以上にわたって灼熱が続きます。心臓の弱い人には向かないでしょう」と述べる。

■数時間にわたり視力を奪われ、呼吸困難に

強烈な刺激を放つブートジョロキアは、兵器の他にも、さまざまな用途への応用が研究されている。

米フォックスニュースは2010年の時点で、女性が暴漢に対して使用するスプレー型の護身製品も試験中だと報じている。また、野生動物の撃退にも効果があるほか、軍隊の兵舎周辺のフェンスに塗る計画もあるなど、防衛目的でも使用されている。

ワイヤード誌によると1992年までに、2000以上の警察機関がOCスプレーを使用していた。OCスプレーとは、カプサイシンを主成分とするもので、即座に皮膚や粘膜の炎症を引き起こし、強制的に目を閉じさせ、呼吸を困難にする効果がある。

こうしたスプレーを受けた対象者は、激しい痛みを感じ、多くは行動不能に陥る。身体に物理的なダメージを生じることは少ないが、刺激に対して敏感な特定の神経細胞に作用し、灼熱のような激しい痛みを生じる特性がある。フォックスニュースによると、実際に人体に対して使用した試験では、対象者が数時間にわたって視力を失い、呼吸困難に陥ることが確認されたという。

ブートジョロキアに限らず、一般的に、カプサイシンを利用した武器が研究されている。ワイヤード誌によると、トウガラシを用いた防衛用品を製造する米ペッパーボール社は、ペイントボールの発射機に似た武器を販売している。着弾と同時に、トウガラシ成分が炸裂するという。また、リアルアクション・ペイントボール社も、専用のピストル型発射装置を開発している。

式典中のインドの警察官
写真=iStock.com/Arnav Pratap Singh
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Arnav Pratap Singh

■きっかけは「野生の象」だった

兵器や護身用に用いられていることからも分かるように、ブートジョロキアは極めて攻撃性が高い。研究者自身が辛さに驚いたことで、その刺激の強さに注目するきっかけになったという。

インド防衛研究開発機構(DRDO)のスリヴァスタヴァ氏は、タイムズ・オブ・インディア紙の取材に対し、「一度だけ、ある人の家で地元の料理を味わったことがあるのですが……」と語る。「その時のスパイスは忘れられません。身体が火傷しそうなほどでした」

時が経ってスリヴァスタヴァ氏は、世界自然保護基金(WWF)から、地元民を悩ませる野生の象の撃退法を検討してほしいと依頼を受ける。このとき彼は、象を傷つけずに追い払う手法として、ブートジョロキアの利用を思いついた。「フェンスにこのトウガラシを塗って象を追い払う方法を試みたところ、効果がありました」

また、この経験をもとに、兵器としての応用が検討された。「その辛さと涙を誘う効果を利用して、(のちに)トウガラシ爆弾を着想したのです」とスリヴァスタヴァ氏は語る。

副作用は数時間ほどで消え、従来の化学兵器よりも後遺症が残りにくいという。インドのウィーク誌は、人質に深刻な害を与えずに犯人を無力化するシーンなどで有効だと指摘している。

一方、OCスプレーの弱みとして、スタンガンのように筋収縮を起こす作用はない。あくまで痛み刺激による無力化であるため、強靱な精神力で痛みに耐えようとすれば、それも不可能ではない。ワイヤード誌は、アメリカ海兵隊の新兵訓練においては、OCスプレーを噴射されたあとも闘うタフさが試されると紹介している。

■食道に「2.5センチの穴」が開いた

海兵隊の訓練に用いられるほど強烈なブートジョロキアだが、なかには積極的に大量摂取を試みる者もいる。

辛い食べ物を愛食しているアメリカのグレゴリー・フォスター氏は、ブートジョロキアに関する数々の記録を持っている。2021年11月14日には、1分間で最も多くのブートジョロキアを食べる記録に挑戦し、110.50グラム(約17個)を食べて新記録を樹立した。

ギネスブックの公式ページによると、フォスター氏は、「今回の記録への挑戦は、自分自身と、超辛いトウガラシへの愛をどこまで広げられるかを試す、個人的な挑戦でした」と語っている。

だが、たとえわずかな摂取であっても、健康上の危険を伴う。

アメリカのオハイオ州にあるミルトンユニオン中学校では2016年9月、生徒のあいだで集団被害が発生した。英インディペンデント紙によると、ある生徒がブートジョロキアを学校に持ち込み、他の生徒たちに配ったという。結果、約40人の生徒が辛さに苦しみ、皮膚の斑点やじんましん、激しい発汗や止まらない涙などの症状を呈した。うち5人の生徒が病院に搬送されている。

急行する救急車
写真=iStock.com/THEPALMER
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/THEPALMER

翌10月にはカリフォルニア州で、47歳の男性を悲劇が襲った。ブートジョロキア入りのハンバーガーを食べるコンテストに参加したところ、この男性は激しい腹痛と胸痛を訴え、病院に運ばれた。米タイム誌は、診断の結果、食道に「2.5センチの穴」が開いていることが判明したと報じている。

男性は緊急手術を必要とする状態だったと報じられている。23日間入院し、最終的には胃管を装着した状態で退院した。こうした事例からもわかるように、ブートジョロキアの摂取は予想外の危険を伴うことがある。

■「雷鳴」のような激しい頭痛を引き起こす

なお、現在最も辛いトウガラシとして世界記録を保持する「キャロライナ・リーパー」でも同様の事件が起きている。

英全国紙の『i』は2018年、34歳の男性がキャロライナ・リーパーを食べた後、数日間にわたり「激しい」首の痛みと「耐え難い」頭痛に悩まされたと報じている。この種の頭痛は「雷鳴頭痛」とも呼ばれ、突発的な激しい痛みに苦しむことになる。

BMJケースリポートはこの件で、キャロライナ・リーパーが雷鳴頭痛を引き起こした「異常な原因」になったと指摘。雷鳴頭痛は「可逆性脳血管収縮症候群(RCVS)」とも呼ばれ、通常は特定の薬や違法薬物の摂取により生じる。

男性をCTスキャンしたところ、脳内の複数の動脈が一時的に収縮していることが判明したという。医師たちはこれを、トウガラシの摂取により雷鳴頭痛を生じた初のケースだと判断した。

BMJは、「彼の症状は、ホットペッパーコンテストでキャロライナ・リーパーを食べた直後に始まった。実際の嘔吐には至らなかったが、空嘔吐(吐瀉物を伴わない嘔吐感)を生じた」とまとめている。

■本来は、胃腸の不調に効く伝統的な治療薬だったのに…

このように、ブートジョロキアの摂取は、さまざまなリスクを伴う。

たしかにブートジョロキアはトウガラシであり、本来は食品だ。インドでさまざまな方法で利用されている。インド主要英字紙のヒンドゥスタン・タイムズは、カレーに少量を入れるだけで風味が格段に変化するほか、胃腸の不調を治す伝統的な治療薬としても利用されていると紹介している。さらに、夏の厳しい暑さに対抗するためにも食べられているという。

ハリマンディル・サーヒブ(黄金寺院)を歩く人々
写真=iStock.com/szefei
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/szefei

英メール紙によると、イギリスのスーパー「テスコ」でも2011年、ブートジョロキアの販売が開始された。このように、食用されている例も存在する。

だが、スコヴィル値でハラペーニョの最大8000倍とされるなど、摂取には危険を伴う。安易に手を出すと救急搬送された高校生たちのように、痛い目を見ることだろう。

激辛ブームに流されることなく、安心して食べられる「旨辛」や「ピリ辛」の範囲に留めておくことが、トウガラシと楽しく接するコツと言えそうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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