「海岸のサザエを拾ってBBQ」は罰金100万円…夏の海の「うっかり密漁」で検挙者数が増えているワケ
プレジデントオンライン / 2024年7月30日 10時15分
■密漁は実態がつかみにくく撲滅が難しい
夏本番を迎え、海のレジャーは最盛期を迎えている。海水浴や磯遊び、釣りなどのほか、浜辺でバーベキューを楽しむ機会も増えそうだが、海辺で偶然、魚介を目の当たりにしても、持ち去るには注意が必要となる。場合にはよっては「密漁」の疑いがかけられ、予想外の重い罰則が待っていることもあるからだ。
密漁といえば、暴力団関係者が暗闇の海中、アワビなどの高級貝類をごっそり持ち去って売りさばき、組織の資金源になっていることが問題視されてきた。密漁者が反社会的勢力と無関係であっても、転売先がそうである場合があるほか、密漁された水産物をさばくのがアンダーグラウンドの組織だったりするなど、実態がつかみにくく、密漁を撲滅するのはなかなか難しいのが現状という。
■高価な魚介類は流通量の半数が密漁の可能性も
かつて旧築地市場(東京都中央区)では、密漁アワビの流通を食い止めるべく、市場取引を拒否しようという試みが検討された。悪質な密漁が頻発していた宮城県では15年ほど前、被害が数十億円に上ったとみられ、築地の競り人が密漁の疑いがあるアワビを販売したとして、宮城県警に書類送検されたことがあったのだ。
全国的にみると、魚価が高いアワビやナマコ、サザエ、イセエビ、ウナギなどが密漁対象の代表種。種類によっては「国内に流通する量の半分近くが、密漁によるものではないか」と指摘する声もある。
警察や関係組織の取り締まりに対し「いたちごっこ」が続いており、今でも全国各地で密漁は発生している。組織的で悪質・巧妙な不法行為は後を絶たないが、密漁を巡る現状は今、大きく変化している。
■かつては漁師のルール破りが主流
水産庁のまとめによると、都道府県や海上保安庁、警察による2022年の海での関係法令違反による検挙件数(速報値)は、前年比16%増の1527件。2021年まで数年間は減少傾向を示していたが、2022年に再び増加に転じ、比較的高い水準となった。もちろん検挙数は氷山の一角で、その何倍もの密漁が行われている可能性が高いが、それなりの傾向は見て取れる。
2000年代の初めまで、検挙者の圧倒的多数が「漁業者」であった。海や漁業管理ルールを熟知した漁師が、故意に規制を破ったとみられる結果であった。ところが2006年には「漁業者以外」の検挙者が上回るようになり、その後は、漁業者の検挙数が減少する中で、一般の検挙数が増加傾向となっている。2022年には一般の検挙数が実に9割近くを占めた。この逆転現象はなぜ起こったのか。
水産庁は、「世界的な環境保護意識が高まる中で、日本周辺の漁獲量も減少し続けているため、漁業者の資源管理に対するルール遵守の姿勢が浸透してきた結果ではないか」とみる。漁業者とは対照的に、一般の人は魚介の扱いに関する認識が低いことが、検挙数増の要因となっているようだ。
■漁業法改正で「個人的な消費目的でも禁止」と明記
だが、ここでちょっとした疑問が浮かぶのではないか。そもそも「海の魚介類は漁師のものなのか?」と。
一般に海の魚介類は「無主物」とされ、誰のものでもない。漁業団体によると、「海には所有権が認められておらず、最高裁の判決でもそのことが裏付けられている」という。
ところが現実に「捕った者勝ち」というわけではない。魚介類を捕る行為については、海の利用という観点で、漁業権が漁業協同組合や漁業者に免許されており、漁師はその権利を持ちつつ、魚介類を獲っている。これに対し漁業者でない人が海で魚介類を捕れば、漁業者の権利を侵すことになるというわけだ。
多発する密漁の抑止策として、国は2020年に漁業法を改正。同年12月に施行された改正漁業法では、「特定水産動植物の採捕」に関する規定が新設された。原則として、アワビやナマコを捕ることを禁止し、2023年12月からはシラスウナギ(13センチ以下)を追加。それぞれ「採捕した数量や場所にかかわらず、個人的な消費を目的としたものであっても採捕は禁止」とし、違反者には3年以下の懲役または3000万円以下の罰金を科すことにした。
さらに、漁業権の対象となるサザエ、イセエビなどを一般の人が捕ることについては「漁業権または組合員行使権の侵害」として罰金が従来の20万円以下から100万円以下に引き上げられた。ただ、こうして罰則が強化されてからも、密漁は依然多発しており、前述のように検挙数は高水準となっている。
■潮干狩りのための熊手にもルールが存在
少々複雑だが、海で魚介を捕ることについてはこのほかに都道府県ごとの規則もあり、アサリやハマグリなどの潮干狩りについて禁止区域が設定されていたり、「○センチ以下は捕ってはいけません」といったサイズ制限もあったりする。さらに、違反漁具を使用することはできなくなっている。
漁具については例えば、潮干狩りで活躍する「熊手」は地域によって幅の規制などはあるが使用はほぼOK。ただ、100円ショップやホームセンターなどでも最近見掛ける「忍者熊手」と呼ばれる爪の間に網が付いたタイプはNGという地域がある。
実際、神奈川県や愛知県などでは、禁止漁具としてリストアップされているほか、柄の先が箱型の網になっていて、貝を根こそぎ捕れそうな鋤簾(じょれん)という漁具は使用不可であるケースが多い。アワビの密漁ほどではないが、これらの違反者には「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金が科される場合がある」(神奈川県水産課)ため、注意が必要だ。
■レジャー密漁にも厳しい監視の目
国や自治体では連携してルールの周知などを進めており、海辺には密漁防止を呼び掛ける看板を設置したり、海辺の監視を強化したりしている。水産庁は「都道府県ごとに密漁に関するルールが定められているため、確認してから海のレジャーを楽しんでもらいたい」と呼び掛けている。
漁師の確信犯的な密漁に代わり、組織・計画的ではない「つい出来心で」も含め、一般の人の違法な魚介類の持ち去り行為が大半を占める今、家族や仲間同士で海辺での余暇を楽しみながら、その延長で犯してしまう「レジャー密漁」にも自治体や関係組織は厳しく目を光らせている。
千葉県の密漁取り締まり担当者は「浜辺でバーベキューなどをしながら、海に入ってアワビやサザエなどを捕り、焼いて食べたケースがあったほか、潮干狩りで禁止されている漁具を使って、アサリやハマグリなどを大量に捕る例があった」と打ち明ける。貝類のほか、コンブやワカメ、ヒジキといった海藻類が密漁されることもあるといい、開放的な海での「つい、うっかり」が、犯罪者になりかねないということを忘れてはならない。
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時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)
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