わが子の聞き役に徹すると、むしろ子供をダメにする…賢い親が家でやっている「魔法の言葉あそび」
プレジデントオンライン / 2024年8月7日 8時15分
■「親子の会話」は一番手っ取り早いトレーニング
言葉というものは、もともと、「話すこと」を通して習得するものです。
幼児期がその最たる例です。幼児期の言語習得手段は、読み書きではありません。
どの子も、自分の最も身近にいて最も長時間関わっている人物――親――と話すことを通して、言葉というものを学びます。
話すことで学ぶのは幼児だけではありません。小学生以上の子も同様です。
たしかに、小学生にもなれば読み書きから学ぶことも増えていきますが、それでもやはり、会話から学ぶ量のほうが圧倒的に多いはずです。
論理的思考力習得の基礎段階においても、親子での会話(※)が一番手っ取り早いトレーニングになります(※特に意識的に一対一で行うものは「対話」と呼びます)。
■口ぐせにするべき言葉
さて、その対話型トレーニングのうち、「言いかえる力」(抽象化・具体化の力)を高めるために今すぐできる習慣があります。
それは、「つまり?」「たとえば?」を口ぐせにする、ということです。
「ねえお母さん、今日ね、アヤコがね、私のほうをずっと見てくんの、でね、何、って言ったらね、別に、とか言ってね、それでね、……」
たとえば、延々と続くこういった子どもからの訴えを、あなたはどう受け止めますか。
「ふーん」とうなずいている“だけ”では、子どもの国語力は育ちません。
いわゆるカウンセリング・マインドを発揮して、とにかく「聞き手に回る」という態度は、言語技術育成の観点では必ずしも好ましいものではありません。
■積極的にまとめてあげる
もちろん、子どもがひと呼吸するまでは聞いてあげましょう。でも、そのあと忘れずにこう言います。
「つまり、なんだかよく分からない理由で、アヤコとけんかになっちゃったってこと?」
こんなふうに、積極的にまとめてあげるのです。
最初のうちはこれを繰り返しますが、徐々に、その抽象化を子どもに任せていきます。まとめてあげるのではなく、「つまり、どういうこと?」と問うだけにし、自分でまとめさせるようにするわけです。
■要求されなくても言い始めるようになる
このように、いつも「つまり」をさりげなく要求していれば、そのうち、要求されなくても子どもみずから「つまりね、……」と言い始めるようになります。
ただし、今挙げた例は、比較的長い「文」の抽象化になっていますから、なかなかうまくいかない場合もあるかもしれません。
その場合は、語句レベルでの言いかえを対話で練習します。
目の前にあるモノを、何でも題材にすることができます。
「鉛筆、消しゴム、ノート。つまり何?」
「えーっと、文房具?」
「正解。じゃあ、たんす、いす、机。つまり何?」
「えーっと、家具?」
「そう。じゃあ、文房具、家具って、つまり何?」
「えーっと……あ、分かった! 道具?」
「正解!」
ここまで練られた問題にできなくとも、身近なところにいくらでも題材は転がっていますから、どんどん試してみてください。
■“つまり・たとえばゲーム”を一日一回はやる
今のやりとりを正反対にし、「家具って、たとえばどんなもの?」などとすれば、具体化の練習になります。
子どもからの訴えにしても、「あ~あ、今日、いやなことだらけだった」などと抽象的にしか言わない子には、「たとえば?」と問えばいいわけです。
もちろん、話したがらない場面もあるでしょう。そうなりそうなときは、先手を打ちます。
「“つまり・たとえばゲーム”を一日一回はやることにしよう」とあらかじめ合意しておくのです。それだけのことで、「面倒だな」と感じさせずに済むはずです。
子どもにも向上心は必ずあります。続けるうちに自分の思考力が徐々に高まるのを実感すれば、子どものほうから“ゲーム”を始めるようになることでしょう。
■「書きかえ力」が不足している
日々子どもたちに文章指導をしていて痛感するのは、子どもたちの“書きかえ力”不足です。
ここで言う“書きかえ力”とは、「甘い感じ」を「甘み」にする、あるいは、「カエルが泳いでいる」を「泳いでいるカエル」にするといった程度の、単純な「名詞化」の力です。
「名詞化」は、「言いかえる力」のひとつです。
ただし、ここでの「名詞化」には抽象度の変化がありませんから、単なる“書きかえ”に近い技術であると言えます。
さて、まずは、「甘み」の類題から見ていきましょう。
■「言いかえる力」トレーニング
Aと同じ意味になるように、Bの空欄を埋めます。
答えは「重さ」となります。
一般に、「み」による名詞化は主観的になり、書き手個人の感覚が反映されます。
数値化することのできないような、あいまいなイメージがあります。
一方、「さ」による名詞化は、「み」の場合よりは客観的になります。
個人の感覚を離れ、状況によっては数値化も可能になります。
■「み」をつければ名詞化できる
さて、類題を少しご紹介します。
①「深いところにはまって動けなくなる」→「( )にはまって動けなくなる」
②「親しくなれそうな感じがした」→「( )を感じた」
③「議論の結果、問題が明らかになった」→「議論の結果、問題が( )に出た」
④「高いところから眺めると全体が分かる」→「( )から眺めると全体が分かる」
⑤「退院後はまた泳げたら楽しいと思う」→「退院後は泳ぐのが( )だ」
⑥「苦しい気持ちを分かち合えるのも友達のよさだよ」→「( )を分かち合えるのも友達のよさだよ」
⑦「試合終盤の投球前の大谷翔平の表情はすごかった」→「試合終盤の投球前の大谷翔平の表情には( )を感じた」
答えは、①深み、②親しみ、③明るみ、④高み、⑤楽しみ、⑥苦しみ、⑦すごみ、となります。③だけ、元の言葉が形容動詞(「明らかだ」)ですが、意味は同様ですから特に気にすることはありません。
この程度の名詞化練習は、日常の中でいくらでもできますね。
大切なのは、「み」をつければ名詞化できるんだ、ということを「意識」させることです。この意識こそが、作文や読解記述の成否を分けます。
■「一文の書きかえ」トレーニング
さて、次は一文の書きかえです。
この文を、次のそれぞれの言葉で終わるように書きかえてください。
①「木」 ②「草原」 ③「真ん中」
答えは、次のようになります。
②「真ん中に木が立っている草原」
③「木が立っている、草原の真ん中」
■誤読しない語順にする
もうひとつ。
この文を、次のそれぞれの言葉で終わるように書きかえてください。
①「チサト」 ②「卒業式」
答えは、次のようになります。
②「始まる前からチサトが泣いていた卒業式」
②はちょっと難しいですね。「チサトが始まる前から泣いていた卒業式」でもよさそうですが、「チサトが始まる」と誤読してしまうため、「チサトが、始まる前から泣いていた卒業式」と読点を入れる必要があります。
また、元の文の「チサトは」の「は」を「が」にする点にも注目しましょう。この②は、実際には使わないような語順ではありますが、読んで違和感のない語順に変換するというのは、いずれにせよ大切な能力だと言えます。
こうした練習は、お子さん自身に文を作らせても十分行えるはずです。一日一つでもかまいませんから、ぜひ試してみてください。勉強というより、ちょっとした言葉遊びの感覚で取り組めば、無理なく力がついていきます。
----------
ふくしま国語塾主宰、横浜国語研究所代表取締役
1972年、横浜市生まれ。早稲田大学第二文学部を経て創価大学通信教育部(教育学部)卒業。公立小学校教師を経て、2006年「ふくしま国語塾」を創設(JR東戸塚駅・徒歩2分)。「ふくしま式」問題集シリーズ(大和出版)など著書多数。
----------
(ふくしま国語塾主宰、横浜国語研究所代表取締役 福嶋 隆史)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【クイズ】次の単語のうち、ドイツ語はどれ?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月18日 11時10分
-
【中学受験対策】『図解でわかる!読解力を10日で上げる問題集~中学受験国語カリスマ講師が教える~』2024年11月26日発刊
@Press / 2024年11月15日 16時0分
-
【クイズ】CEO(最高経営責任者)は何の略?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月15日 11時13分
-
"山川の日本史"をひたすら要約した…発達障害の息子が麻布中学に合格した「たった2つの試験対策」
プレジデントオンライン / 2024年11月13日 17時15分
-
これを与える親は「創造性」を奪っている…最新研究で判明した「社会で成功する子どもが育つ」理想のおもちゃ
プレジデントオンライン / 2024年10月26日 10時15分
ランキング
-
1ファミマの「発熱・保温インナー」はヒートテックより優秀? コンビニマニアが比較してみた
Fav-Log by ITmedia / 2024年11月21日 19時55分
-
2【冬の乾燥対策に】ドラッグストアで手軽に買える! ハンドクリーム5選
マイナビニュース / 2024年11月21日 17時0分
-
3とんでもない通帳残高に妻、絶句。家族のために生きてきた65歳元会社員が老後破産まっしぐら…遅くに授かった「ひとり娘」溺愛の果て
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月21日 8時45分
-
4この症状が出たらすぐ対策を!50代女性の3人に1人が悩む尿漏れ・頻尿の原因【専門医が解説】
ハルメク365 / 2024年11月21日 22時50分
-
5冬は血管がドロドロになりやすい…「絶対に放置してはいけない脳卒中」リスクが急増する"危険な場所"
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 18時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください