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年間8万7000人ペースで孤独死が進んでいる…政府が知らない「中年独身男性が孤立を深める本当の要因」

プレジデントオンライン / 2024年7月26日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■いちばん多いのは皆婚時代の75歳以上

警察庁が2024年1月~3月を対象期間として、いわゆる孤独死・孤立死(自宅で死亡した一人暮らしの数)の全国的な集計を実施しました。これまで孤独死・孤立死に関するデータ収集は、東京や大阪など一部の自治体単位では実施されていましたが、全国的な集計としてはこれが初となります。

それによると、自宅で亡くなった一人暮らしの総数は2万1716人で、単純に年換算すると、8万6864人が孤独死・孤立死する推計になります。これは、2023年の人口動態概数における死亡原因順位にあてはめると、悪性新生物(腫瘍)、心疾患、老衰、脳血管疾患に続く5番目に多い数字となります。

「結婚しないでいると孤独死するぞ」などとよく言われることがあります。未婚で一人暮らしであれば、万が一の事態に際して、発見してくれる人もいないわけですから、確かにそのリスクは有配偶者よりも高まると思うかもしれません。

しかし、孤独死している人のうち、年齢別でもっとも数が多いのは75歳以上であり、2024年時点でその年齢とはほぼ結婚していた皆婚時代の世代であり、決して「結婚したから孤独死しない」とは言えません。

■「一人になった時にどう生きるか」を考えるのが重要

過去記事〈日本は人口の5割が独身者の「超ソロ国家」になる…これから「ひとり暮らしの高齢者」が激増していく理由〉でも書いたように、これから日本は、未婚化だけではなく、皆婚時代に結婚した夫婦のいずれかが死亡することによる独身化と一人暮らし化が加速していきます。結婚しても、誰もがいずれは一人に戻るという可能性があり、決して既婚者にとっても他人事ではないのです。

とはいえ、ことさら孤独死や孤立死を悲惨なものとしてとらえる必要もありません。残念ながら、誰にも死は訪れます。たとえ一人暮らしの中の死であっても、何カ月も発見されずに放置されたりしない仕組みや体制のほうこそ必要になります。

むしろ、一人で死んでしまうことを怖れるよりも、いずれ確実にやってくる「一人で生きる状態になった時にどう生きるか」を事前に考えていくことのほうが重要ではないでしょうか。

ところで、「一人で生きる」というと、何かとその孤独感を問題視する界隈があります。そもそも、2021年の政府の孤独担当大臣設置も、そうした問題意識から英国の事例を模したものですが、当初は、「孤独は早期死亡リスクが50%上昇する」「孤独のリスクは一日タバコ15本吸うことやアルコール依存症であることに匹敵する」「孤独は肥満の2倍健康に悪い」などという研究結果を持ち出して、さも「孤独は悪」のような言説が飛びかっていたものです。

■人は「一人になれる時間」を無意識に欲している

しかし、孤独を悪者に仕立てたところで、それで何が解決するというのでしょう。

「人は一人では生きていけない」のはその通りだと思いますが、さりとて、ずっと誰かと一緒にい続けることも不可能です。そもそも「孤独を感じる」こと自体が悪いことなのでしょうか? もっといえば、「孤独を感じる」ことと「孤独を苦痛と感じること」とは別物です。

コロナ禍において、在宅勤務が強制された際に、最初はずっと家族で一緒にいられることを喜んだ人たちも、一人になれる時間が失われたことでストレスを感じた人も多いはずです。家と会社とを往復する通勤時間が、無意識の「一人になれる時間」として貴重だったと再認識した人もいるでしょう。

生まれたばかりの子の育児につきっきりの母親も、親や夫に子を一時まかせ、一人で外食をするだけでも随分と気が楽になるということもあるでしょう。

孤独であることは、時に必要な時間でもあるということなのです。

窓のほうを向いているシニア男性のシルエット
写真=iStock.com/Yaraslau Saulevich
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yaraslau Saulevich

■その本質は「家族や友達がいないから」ではない

拙著『居場所がない人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)の中でも、この「孤独」をテーマに一章をさいて説明していますが、大事なのは、孤独を一括りですべて悪とするのではなく、「必要な孤独」と「苦しい孤独」とを分けて考え、特に「孤独を苦痛と感じる根本は何か」を正確に把握していくことです。

内閣官房に孤独担当室が設置されて、孤独や孤立の実態調査が計3回実施されています。そこから見えてくるのは、孤独の本性とは、決して「家族がいない・友達がいない・頼れる人がいない」という人のつながりの問題だけではないということです。

具体的に、2023年実施の内閣官房「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」から見てみます。

この調査では、孤独を主観として感じるレベルを5段階に分けて調査していますが、「常に感じる・時々感じる」というトップ2の割合で見ると、男女差はほぼありません。年代別では高齢者よりも現役世代のほうが高く、配偶関係別では有配偶がもっとも低く、未婚や離別死別が高く、当然、夫婦や家族よりも単身世帯のほうが孤独感は高い。

仕事や趣味などで外出する頻度が低いほど孤独感は高く、家族以外との友人などとの会話頻度が低いほど高くなっています。

■30代~50代男性は経済的困窮が孤独に直結

しかし、注目すべきは、今まで列挙したような性年代別配偶関係別などの属性や外出・会う頻度の差よりも、経済的ゆとりの有無のほうがよっぽど孤独感に大きな影響を及ぼしていることです。

【図表】属性別行動頻度および経済環境別孤独感

さらに詳細に、男女年代別の経済的ゆとりの「あり+ややあり」「普通」「苦しい+とても苦しい」で3分類した孤独感を見ると、明らかに経済的ゆとりのなさが孤独感に直結していることがわかります。

特に、男性に関しては、もっとも働き盛りでもある30代~50代にかけて、経済的に苦しいと感じる人の孤独感の高さが最大となっています。

【図表】孤独とは経済的苦しさ

■足りないのは家族や友人ではなく、お金だった

さらに、孤独感に影響を与えた人生のイベントごとに見ていくと、「一人暮らし」など人との同居環境による変化は孤独感にはほとんど影響を及ぼしてはいないし、家族との離別や死別、友人などの離別についても少ない。もちろん、人間関係や家族内でのトラブル、失業なども多少影響力はありますが、男女ともにもっとも高いのは「生活困窮・貧困」です。

【図表】孤独感にもっとも影響を与えたイベント

今まで、感覚的に「家族や友達など話し相手がいない」とか「コミュニケーションする相手がいない」ことだけが、孤独感の元凶のように語られていましたが、調査から浮かび上がってきたのは、「孤独とは経済問題なのだ」という発見です。要するに、「足りないのは、家族や友達や会話ではなくお金だった」ということです。

だとすると、孤独解決のためには「お友達を作りましょう」「趣味仲間を作りましょう」「誰かと同居しましょう」などと言われていましたが、解決の道はそうではなく、経済的な欠落感がなくなれば孤独感は解消されるかもしれないという新たな解決方法も見えてきます。

■「金がない」環境は、行動や視野を狭めてしまう

「孤独だと健康を害する」という理屈も、元をただせば、お金がないことによって満足な食事や栄養がとれなかったり、お金がないことにより、外出する機会も意欲も失われたり、お金がないことでそもそも医者に行くこともできなかったり、という因果があっての話ではないでしょうか。

もちろん「金さえあれば人は孤独に苦しまない」なんて乱暴なことは言いません。逆に「裕福な人間は孤独にならない」という話でもない。

しかし、「貧すれば鈍する」といわれるように、「金がない」という環境は、人間のあらゆる行動を委縮させる。何もしたいと思わなくなる。失敗したくないと思う。面倒くさいと思う。自分の姿形すらどうだっていい。そんなもの気にしていられないと思う。自分のことすら気にしない人間は他人のことを気にしたり、心配したりする余裕もなくなる。そうした状態に陥ってしまうと思考の視野が狭くなる。精神的にも閉じてくる、病んでくる。

もし、そうした状態を「孤独に苦しむ」ということだとするならば、それを解決するのは個々人のコミュニケーション力や性格など属人的な問題ではなく、せめて毎日を心配しなくていいお金という経済環境の話だったりするのではないでしょうか。

■実質賃金を上げなければ孤独死は減らない

その上で、現在の経済環境は、決してよいとは言えません。政府は賃上げを実現したなどと鼻息が荒いですが、問題は額面給料ではなく、消費者物価指数と照らせばマイナスでもある実質賃金のほうで、さらに、社会保険料などの値上がりによって、実質可処分所得も減り続けていることです。それに一番打撃を被っているのは中間層の人達です。

今後、独身人口や単身世帯が増えることは不可避な現実です。孤独・孤立対策を検討するのであれば、タバコやアルコールや肥満より健康をむしばんでいるのは「金がない」ことであり、上がり続けている国民負担率のほうではないかという視点も必要です。人口ボリューム層である中間層の経済環境の改善がなければ、結果としての孤独死・孤立死による死亡が、ますます増えていくのではないでしょうか。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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