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「親孝行できなかった」千葉ロッテ吉井監督が最愛の母を亡くした直後の母の日の試合で選手に伝えた感涙の言葉

プレジデントオンライン / 2024年7月27日 11時15分

千葉ロッテマリーンズ監督の吉井理人氏

部下を動かすために上司はどんな言葉を発すればいいのか。プロ野球の千葉ロッテ監督・吉井理人さんは「選手自身に気づいてもらうために、あえて抽象的な表現で助言し、課題克服の方法を自分で具体化してほしいと考えている」という――。

※本稿は、吉井理人『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■選手の心に火をつける言葉

主体性を持って的確な準備ができるように仕向けるため、私はさまざまな言葉を選手に投げかけている。その言葉によって選手の思考を導き出し、言語化させ、さらに思考を深めてもらいたいからだ。その積み重ねによって主体性が磨かれ、野球選手としての能力が向上するばかりか、社会人力や人間力も高められると期待している。

本や映画、漫画やドラマを見て、使える言葉を拾い集めている。いつか使えるだろうと思って、心のメモに書き留めておく。

たとえば、1921年に「理論物理への貢献、とくに光電効果の法則の発見」でノーベル物理学賞を受賞したアルベルト・アインシュタインの言葉だ。

「常識とは、18歳までに身につけた偏見のコレクションのことを言う」
「何かを学ぶのに、自分自身で経験する以上に良い方法はない」
「間違いを犯したことのない人とは、何も新しいことをしていない人だ」

これらの言葉に出会ったのは、中学生のころだったと思う。理科が好きだった私は、アインシュタインに憧れるとともに、彼の発した言葉が心に引っかかった。

2023年1月31日、春季キャンプを前にした全体ミーティングで、私はこの言葉を選手たちに伝えた。野球界の常識にとらわれず、さまざまなことを考え、失敗を恐れずに自らチャレンジしてほしいという意味を込めたつもりだった。

マリーンズではこれまで、監督がペップトーク(試合前に選手を励ますための短い激励スピーチ)をするミーティングをあまり行わなかったようだ。そもそも、日本のプロ野球では監督が選手たちを集めて毎日ミーティングをする習慣はあまり聞かない。私は、区切りのポイント、負けが混み出したときなどにモチベーションを高めるミーティングを行った。すると、選手は忘れていたものに気づいたり、刺激を受けたり、諦めそうな気持ちが奮い立ったりして、動きが変わった。

■抽象度の高い言葉を伝え、そこから具体的なことを自分で考えてほしい

先ほど、小島和哉投手が調子を落としているとき、個別ミーティングを行ったと書いた。そのとき、私は彼にこんな言葉を投げかけた。

「音楽にたとえるなら、楽譜をきれいに弾いているだけの投球に感じる。音楽は、少し音が外れていても、情熱を込めた勢いのある演奏のほうが、相手の心に響くことがある。それは、ピッチングも一緒だと思う」

私は、小島投手にもっと大胆になってもらいたかった。慎重になりすぎて、フォームも雰囲気も窮屈になっている。どこに行くかはボールに聞いてくれというぐらい、振り切って投げてほしかった。それを伝えるのに良い言葉はないか探していたところ、中学生のころから弾いてきたギターのことを思い出し、この言葉になった。

別の機会には、競走馬の写真を見せ、話をしたこともある。

「この馬知ってる? ツインターボ。とにかく逃げる馬。いつも大逃げを打つ。結局、ゴールまで体力がもたなくて負けることもあるけど、そのまま逃げ切って勝つこともあったんだ。それくらいの入り方でもいいんじゃないか?」

これも、慎重になりすぎていた小島投手に、後先考えずに疾走してほしかったからだ。競走馬の例は伝わりにくかったかもしれないが、意図は伝わったと思う。

選手は、自分で主体的に考えていても、誰かが背中を押さなければ踏ん切りがつかないこともある。それこそが、監督の仕事だと思う。そもそも、人前でみんなを鼓舞するために立派な言葉を引用して話すのは得意ではないし、自分でも恥ずかしい。できればやりたくないが、監督の役目なのでいろいろなところから引っ張り出して伝えている。

監督が発する言葉の力は大きい。

ただ、良い言葉を伝えただけでは、選手に残らない。ちょっと変わったこと、引っかかることを言わないと「また、監督が何か言っていた」で終わってしまう。

「あれ? どういうことなんだろう?」

吉井理人『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
吉井理人『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

その「引っかかり」を選手に与え、そこから考えさせ、自分なりの答えにたどり着くことが重要なのだ。言葉を探すときは、引っかかりのある言葉からこういうことを考えてほしい、こういうふうに動いてほしいと想定して選ぶ。

その時点で言わなければならないこと、言いたいことに照らして、言葉を探し続けている。もちろん、人によってとらえ方が違うので、実際は想定通りにはならない。それでも考えるきっかけになってくれればいいと思っている。

方向づけをしたいときは、抽象度の高い言葉を選ぶ。そこから、具体的なことを自分で考えてほしいと期待する。やらなければならないことは、基本的に毎年変わらないから、言葉選びの本質は基本的に変わらない。

■母を亡くした直後の母の日の試合前に選手に伝えた言葉

ただ、チームメンバーの年齢構成のボリュームゾーンが変われば、言葉選びが変わる可能性もある。ベテラン選手が多いチーム、若い選手しかいないチームでは、チョイスする言葉は変わってくる。

若い選手が中心のチームでは、激しい言葉を使ってもいい。しかし、ベテランが中心のチームは、プライドも実績もあるので、きつい言葉を使うとへそを曲げてしまう。そうした配慮は必要だ。

選手に伝える言葉は、同時にコーチにも伝えているつもりだ。直接の内容は選手に向けて言っているが、それを聞いたコーチは、選手のために自分はどうすればいいかを考えてほしい。私の意図が伝わるまで、何度でも繰り返し伝えていこうと思っている。

ただ、私の言葉があまりにも「昭和っぽい」ので、彼らに響いているかどうかはわからない。

それでも、何か感じるものがあると思っている。みんなが同じ考えになってほしいわけではない。それぞれの感じ方で吸収してほしい。

5月14日の母の日には、試合前に選手たちを集めて、こんな話をした。

「今日は皆さんの一番のファンであり、誰よりも応援してくれているお母さんのためにプレーをしてください。いつもより、ほんのちょっとでいいので、お母さんの事を思ってグラウンドにいってください」

実はこの少し前に、私は母を亡くしていた。5月12日に和歌山で行われた告別式は、千葉から北海道への移動休日だったため、あえてチームには知らせることはせず、そのままチームに合流した。グラウンドでもいつもどおり振る舞ったので、選手やコーチたちに気づかれることはなかったと思う。

親孝行は、できるときにしないとできなくなる、というのは本当だった。選手たちも、母の日をきっかけに向き合ってほしいと思って伝えた。

母親にカーネーションの花を手渡す少年
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

野球の話題だけでなく、人生の先輩としてのメッセージを伝えることで、選手の心に火をつけていきたいと思っている。

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吉井 理人(よしい・まさと)
千葉ロッテマリーンズ監督
1965年生まれ。和歌山県立箕島高等学校卒業。84年、近鉄バファローズに入団し、翌85年に一軍投手デビュー。88年には最優秀救援投手のタイトルを獲得。95年、ヤクルトスワローズに移籍、先発陣の一角として活躍し、チームの日本一に貢献。97年にFAでメジャーリーグのニューヨーク・メッツへ。に移籍。ロッキーズ、エクスポズを経て03年、オリックス・ブルーウェーブに移籍。07年、現役引退。19年より千葉ロッテマリーンズ投手コーチ、22年よりピッチングコーディネーターを務め、23年より現職。また、14年4月に筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻に入学。16年3月、博士前期課程を修了し、修士(体育学)の学位を取得。

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(千葉ロッテマリーンズ監督 吉井 理人)

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