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「テレビ離れ」が進むのは必然…選挙で「大誤報をやらかすテレビ」よりYouTubeが信頼される納得の理由

プレジデントオンライン / 2024年7月28日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EKIN KIZILKAYA

東京都知事選では、小池百合子氏、蓮舫氏、石丸伸二氏の3候補に報道が集中した。メディアコンサルタントの境治さんは「テレビの選挙報道は有力候補を決めたら他の候補は扱わず、投票用紙の書き方さえ間違って伝える。そもそもテレビを見ない若者にとって、選挙で『信頼できるメディア』はYouTubeになっている」という――。

■投票日当日に「誤情報」を放送

7月7日投開票の東京都知事選は、個々の候補者がさまざまな話題を振りまいたが、メディアの捉え方を一変させるイベントでもあったと思う。

とくにテレビの選挙報道について疑問を強く抱いた。選挙について、国民のためになる報道ができていたか。

もっとも衝撃を受けたのは、投票日当日のTBS「アッコにおまかせ!」での投票の注意だった。宇内梨沙アナウンサーが「正しく立候補した名前で書いてください。ひらがなで立候補している人はひらがなで、漢字で立候補している人は漢字で書くようにしてください」と言ったのだ。たまたま番組をぼーっと見ていた私は、麦茶を吹き出しそうになるほど驚いた。

候補者の名前はひらがなで書いてもいいし、字を間違えても無効にはならない。どの候補への投票かがわかればいいのであって、「正しく立候補した名前」である必要はない。「蓮舫」と書けないといけないなら、彼女の得票数は激減しただろう。

■テレビの「劣化」を象徴するミス

そんな、選挙の「常識中の常識」を、質問した勝俣州和にTBSの宇内アナが完全に誤って教えたのだ。和田アキコを中心に巷の話題を楽しくおしゃべりする番組だが、このコーナーは選挙当日に視聴者にあらためて注意喚起することを意図されたものだろう。つまり、視聴者にレクチャーする真面目な時間だった。そこで大間違い、しかも誰でも知っていることを誤って教えるとは。

さすがに番組内で宇内アナが訂正し、謝罪した。だがこの誤りは大きいと思う。投票日にわざわざ、視聴者に正しい投票を呼びかけるコーナーだった。TBSのディレクターやプロデューサーがチェックしたはずで、宇内アナに謝らせるのは筋違いだ。番組として、局としての大失態ではないか。テレビというメディアの「劣化」を象徴するミスだと言っていいと思う。

今回の選挙では、選挙期間中のテレビ報道が物足りなかったことも取り沙汰された。それを象徴するのが、まったく無名ながら約15万5000票を獲得し、5位に食い込んだ安野貴博氏についてテレビが伝えなかったことだ。なぜか選挙後に安野氏はあちこちの番組に呼ばれ、本人が自虐的に「報道0秒」と言っていた。

私も今回の選挙報道は圧倒的な物足りなさを感じた。少し前まで、東京都知事選挙といえば半ばお祭りのようにテレビが報道していた印象がある。

■「うちの党の放送時間が短い」とクレーム

この10年ほどの間に、政党からの選挙報道へのクレームが強くなったとの噂がある。元々選挙報道で各政党をどれだけ伝えたか、秒単位で測って自党が少ないと政党がクレームをつけることはあった。そのためNHKでは秒を超えてフレーム単位で計測して揃えていたとの話も聞く。

そして、2014年に自民党が各テレビ局に選挙期間中の報道の公正中立を求める文書を出したことが明るみになった。それ以降、テレビ局は萎縮し選挙報道を控えるようになったと言う人もいる。

エム・データという、放送された番組をテキストデータ化し提供している会社がある。同社に、この10年ほどの東京都知事選について、テレビ局が報道した時間をデータ化してもらった。選挙期間中、つまり選挙の公示日から投票日までの15日間、NHKと民放が合計何時間、都知事選を報道したかを選挙ごとに集計したものだ。

【図表】都知事選を巡る報道時間の推移(2012年~2024年)
筆者提供

自民党から文書が各局に届いたという2014年以降、テレビ報道は徐々に萎縮していったと想像していた私は、データを見て愕然とした。2016年だけが突出して多いし、今回の選挙は前回よりむしろ多くの時間を使って報道されていた。自民党の文書はあまり関係ないのだろうか。

■2016年の選挙報道が圧倒的に多い理由

2016年の都知事選が多く報道されたのは、要するに盛り上がったからだ。2014年に都知事に選ばれた舛添要一氏が数々のスキャンダルを暴かれて辞任し、小池百合子氏が自民党を離れて立候補。小池氏を推薦しない自民党都議会のドン、内田茂氏は元総務相増田寛也氏を候補にする。

一方、野党側からは当初宇都宮健児氏が立ったが、野党4党統一候補としてジャーナリスト鳥越俊太郎氏が擁立される。野党系をまとめるために宇都宮氏が身を引いた。選挙戦は自民と対立する小池氏、自民が推す増田氏、野党系が立てた鳥越氏の3者が「有力候補」として扱われた。

鳥越氏はなぜか安倍政権批判や脱原発など国政レベルの争点を持ち出して上滑りし、内田氏をうまく悪者にしてSNSを上手に駆使した小池氏が圧勝した。街頭演説をSNSで配信し、女性たちが「変えられる」と緑を手にして集まった光景をまざまざと思い出す。

■「主要4候補」に集中し、52人は無視

2016年の都知事選はそんなドラマ性あふれる選挙だったことを思い出すと、テレビ報道時間が多かったのは当然のデータだ。だが、それにしても多すぎではないか。

嫌味な見方をすると、盛り上がる話題があるからたくさんの時間をかけるのなら、ネットの問題と言われるアテンションエコノミーにテレビが陥ったとも言える。話題の3候補に集中し、18人もいた他の候補はほとんど扱わなかった。

今回も、小池・蓮舫・石丸・田母神を主要4候補として他の52人の候補は取り上げなかった。選挙が終わってから安野氏を紹介するなら、テレビの選挙報道は適切と言えるのだろうか?

そんな都知事選から1週間ほど経った7月16日、「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」という総務省の有識者会議の「とりまとめ(案)」が出た。この会議の長すぎる名前には、ネットでフェイクニュースや詐欺広告が蔓延する深刻な現象への危機感が込められている。

著名人の名前を騙る詐欺広告は、一時期毎日のように話題になったわかりやすい問題だが、日々私たちが接するニュースや情報を安易に信じられないというのもヘビーな問題だ。

この会議は23年11月にスタートしたが短期間で25回にも及んで開催され、あらゆる分野の関係者、企業、業界団体からヒアリングを受けた。

■テレビ・新聞は本当にこのままでいいのか

「とりまとめ(案)」では各ステークホルダーの役割・責務として、「情報伝送プラットフォーム事業者」に対して「情報流通の適正化」など多数の項目が書き込まれていた。詐欺広告の舞台となったFacebookやGoogleなどに役割と責務を自覚してほしいとの強い意志を感じる。

一方、「情報発信側」として「伝統メディア(放送・新聞など)」に対しては「信頼できるコンテンツの発信」が求められると、簡単にまとめられている。この会議を何度か傍聴しながら、この「伝統メディア」は「これまでもちゃんとしてましたがこれからも信頼できる情報を伝えてくださいね」と、あまり問題視しない姿勢を感じていた。

それでいいのかなあと私は懸念を持っていた。ひとつには、マスメディアの「劣化」だ。投票用紙の書き方さえ間違うし、選挙報道では有力候補を決めたら他の候補は扱わず、話題の多い盛り上がる選挙では時間を多く割く。「信頼できるコンテンツの発信」ができているのだろうか。

「信頼」とは、確かな情報を届けることもあるが、頼りにされるか、当てにしてくれるか、もあると思う。正しければ信頼されるかといえばそうでもない。

2024年の都知事選挙は、テレビよりYouTubeを信頼する層が、選挙結果に大きな影響を及ぼした最初の選挙だったのだと私は思う。

■YouTubeが選挙の「主戦場」になる未来

実際、都知事選後に行われたFNN世論調査では、インターネットを通じた候補者の選挙運動を「大いに参考にする」が13.9%、「ある程度参考にする」が46.4%と、約6割に上った。一方、「あまり参考にしない」は20.7%、「全く参考にしない」18.1%だったという。

今回「台風の目」となった石丸伸二氏は、公式YouTubeで公約の説明や街頭演説の様子を積極的にアップし、再生回数では知名度の高い小池氏や蓮舫氏を大きく上回った。165万票を獲得し、2位に食い込めたのはこうしたネット選挙の成功が大きいだろう。

テレビの選挙報道がこのまま委縮し、特定の候補者に集中していくのであれば、候補者たちが自ら発信できるYouTubeやSNSを活用しようと思うのは当然だ。今後の選挙では、ネットが「主戦場」になっていく可能性がある。

■テレビかネットか、境目は団塊ジュニア世代

ここで、人口問題研究所が作成した人口ピラミッドを見てもらいたい。まずは2015年の人口ピラミッドだ。同研究所は5年ごとのピラミッドを提供している。2016年の都知事選に近い年として選んだ。

赤い線は私が引いたもので、団塊ジュニア(1971~74年生まれ)の最年少の人々がだいたい40歳になるので、上下を分ける意味だ。

「人口ピラミッド(2015年)」(国立社会保障・人口問題研究所)を加工して作成
「人口ピラミッド(2015年)」(国立社会保障・人口問題研究所)を加工して作成

団塊ジュニアを上下を分ける境目にしたのは、その上はマスメディア世代、下はネット世代と私が捉えているからだ。厳密な境目とは言えないが、10年前に30代までの人がネット世代だったと言うのは間違いではないだろう。

次に2025年のピラミッドだ。

【図表】「人口ピラミッド(2025年)」(国立社会保障・人口問題研究所)を加工して作成
「人口ピラミッド(2025年)」(国立社会保障・人口問題研究所)を加工して作成

今度は線を50歳に引いた。団塊ジュニアも50代になったのだ。そして10年前のネット世代の上の方はもう40代だ。これは私の体感に近く、50代の人とは昔のテレビの話題を共有できるが、40代の人だとさっぱりわからない顔をされる。50歳を境に、文化が違うように思える。

■「ネット世代」がどんどん比率を高めていく

線を引いたピラミッドをあらためて見て、おや? と感じた。私は「マスメディアを支えてきたのは団塊の世代(1947~49年生まれ)だ」とよく論じている。この2つを見比べると、2015年は最も多いのが団塊の世代だが、2025年では団塊の世代の山が縮み、団塊ジュニアが最大勢力になっている。団塊世代は数が減って、もうマスメディアを支えられなくなり、日本社会で存在感を急速に弱めている。

試しに、人口問題研究所のサイトからピラミッドの元になるデータをExcelでダウンロードし、赤い線より上と下をグラフ化してみた。

【図表】団塊ジュニア以上と未満の比率
筆者作成

2015年では団塊ジュニア未満は39.7%と少数派だった。2025年にはあと一歩だがほぼ互角になっている。2025年には団塊ジュニア未満が多勢になる。

選挙権は18歳以上なので、選挙への影響で言うともちろん17歳以下を削らねばならない。だが、これまで少数派だったネット世代が日本社会ではっきり力を持ちつつあるのがわかると思う。

石丸氏を2位に押し上げ、安野氏に15万票も集めた原動力が、このグラフの紺色の部分にあり、それはどんどん比率を高めているのだ。

■テレビを見ない世代にとって信頼の対象外

石丸氏や安野氏がテレビで扱われなくても、YouTubeが彼らを支えた。ネット世代にはテレビよりYouTubeが信頼されている。YouTubeは毎日使うし、自分に適した映像の探し方も知っている。選挙では、誰が自分にとって好ましい候補者か、自分で見出すことができる。

テレビは正しい情報を伝えるのかもしれないが、そもそも見ない。テレビとYouTube、アテにするのはYouTubeなのだ。見ないメディアは信頼の対象にさえならない。

少数派だったネット世代がどんどん数を増し多数派になる。選挙では有権者にとって、そして候補者にとっても、役に立つのはYouTubeだ。そんな時代がもう始まっている。

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境 治(さかい・おさむ)
メディアコンサルタント
1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

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(メディアコンサルタント 境 治)

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