なぜペットボトルのサイズが8種類もあるのか…伊藤園の「むぎ茶」が圧倒的に支持される納得の理由
プレジデントオンライン / 2024年7月30日 16時15分
■なぜ「麦茶」が3.5倍も売れるようになったのか
猛暑の時季にありがたい清涼飲料水。全国清涼飲料連合会が発表した「清涼飲料水統計2024」では約4兆4460億円(前年比107%)という巨大市場でもある。
全国清涼飲料連合会「数字でわかる!見て学ぶ!2024」
その中で販売金額の多いカテゴリーは1位が「コーヒー飲料」(シェア率21%)、2位が「茶系飲料」(同19.2%)となっている。こうした清涼飲料水市場の中で、近年最も伸びているのが茶系飲料の中の「麦茶飲料」だ。麦茶飲料の市場規模は約1400億円(2023年)で、この十数年で3.5倍に拡大した。
昔から夏の定番飲料だった麦茶が、これほど伸びたのはなぜか。最大ブランド「伊藤園 健康ミネラルむぎ茶」(2023年の年間販売量約3700万ケース)を持つ、伊藤園に聞きながら考えた。
■家族みんなでゴクゴク飲みやすい
「健康ミネラルむぎ茶は今年1~6月の上半期でも前年比約104%(売上金額ベース、伊藤園調べ)と好調です。清涼飲料水の中でも好調な商品です」
「健康ミネラルむぎ茶」などのブランド責任者である黒岡雅康さん(伊藤園 マーケティング本部 麦茶・紅茶・健康茶ブランドグループ ブランドマネジャー)はこう話す。
なぜ麦茶、なのか。
「いくつか理由が考えられます。商品特徴としては、①カフェインゼロなのでお子さんからお年寄りまで家族みんなで飲める、②やかんで煮出したような昔ながらの甘香ばしさを感じるので水よりもゴクゴク飲みやすい、③日本人に馴染みのある麦という素材の安心感、などが支持されています」(黒岡さん)
もともと麦茶は昭和時代から夏の風物詩だった。
「当時は各ご家庭で、やかんで煮出して作られる飲料でした。冷蔵庫に入った、麦茶入りポットを思い出す方も多いのではないでしょうか。このやかんで煮出した、甘く香ばしく、すっきりとした味わいを、ペットボトルでも再現したいと思います。いわば“お母さんが作っていた味”を意識しています」(同)
■麦茶市場が拡大した2つの要因
「健康ミネラルむぎ茶」は、2023年4月に累計販売本数が130億本を突破したという。RTD(=READY TO DRINK:ふたを開けてすぐ飲める飲料)としての最初は1988年に発売した缶入りむぎ茶飲料から。
当時の市販飲料は缶が中心で、現在主流の500ミリリットルのペットボトルが容器として解禁されたのは1996年。2012年に現在のブランド名となった。
1990年代の飲料はコーヒーやコーラなどが強く、茶系飲料は「烏龍茶」(サントリー食品)や「爽健美茶」(日本コカ・コーラ)といったウーロン茶やブレンド茶に勢いがあった。麦茶は家庭でつくるものというイメージで、“わざわざ買う飲料”として選ばれにくかった。
市販飲料としての麦茶が見直されたのは、十数年前からだ。
「2010年代の2つの出来事が市場拡大のきっかけとなりました。2011年に起きた東日本大震災と2018年の記録的な猛暑です。2011年は災害時の飲料水への不安もあり、2リットルの麦茶ペットボトルを冷蔵庫に常備したり、保管したりする家庭が急増しました。
また2018年は、気象庁が“災害級”という言葉を用いて猛暑への警戒を呼び掛けた年。埼玉県熊谷市の41.1℃をはじめ、国内最高気温の上位には同年が軒並み入っています。この時はパーソナルサイズ(500ミリリットル以上)の麦茶の売れ行きが拡大しました」(同)
■なぜ容量が大きいのか
RTDの麦茶は2014年から右肩上がりで伸び、2018年の猛暑で一段と拡大した。コロナ禍初年の2020年は前年減となったが2021年には回復。それまでは夏季だけの季節商品だったが、この間に通年商品として定着した。
水分補給ニーズの高まりを受けて携帯用サイズも大きくなり、「健康ミネラルむぎ茶」は600ミリリットル(自販機向け)、650ミリリットル(スーパーなど量販店向け)、670ミリリットル(コンビニ向け)と販路別にきめ細かく商品供給を行う。
「お客さまから『こういったタイプの商品が欲しい』という要望に応えているうちに大容量化しました。600ミリリットルは自販機に入る大きさの最大値です。量販店向けの650ミリリットル、コンビニ向けの670ミリリットルなど、多様化するニーズやライフスタイルに対応した販売チャネルの特性もあります」(同)
■1999年から変わらない「商品の顔」
食品や日用品の世界では「思い出してもらえるブランドは強い」とも言われる。そこで各社は商品開発からマーケティング、販売促進に至るまでさまざまな工夫を行う。
筆者の手元にある「健康ミネラルむぎ茶」(650ミリリットル)の商品パッケージにあるのは、“発売からずっとやかん品質”の文字とイラスト。さらに目立つのが「ギネス世界記録認定 麦茶飲料販売実績 日本、世界、No.1」表示の横でほほ笑む、笑福亭鶴瓶氏(落語家)の存在だ。
NHKの長寿番組「鶴瓶の家族に乾杯」などで知られる鶴瓶氏は、ブランドキャラクターとして健康ミネラルむぎ茶のテレビCMや広告・POPにずっと登場し続けている。
「1999年から変わらずご出演いただき、今年で25年になります。もし小売店で商品名を忘れても、“鶴瓶さんの麦茶”といえば、健康ミネラルむぎ茶を出してくださるほど浸透しています」(黒岡さん)
CMや広告に露出するブランドキャラクターは長年出演するほど、見た人の印象に残る。「ハウス バーモントカレー」(ハウス食品)なら、今でも西城秀樹氏(歌手)の「ヒデキ! 感激‼」のフレーズとともに覚えている人は多い。「リポビタン」(大正製薬)はケイン・コスギ氏(俳優)のイメージだろう。これも「思い出してもらえる」訴求だ。
■ここ数年で変化した味わい
前身商品の発売から36年。この間に製法も少しずつ変えてきた。
特に、近年の麦茶市場の拡大を受けて、消費者から「もっと甘みもほしい」という声が多く寄せられたという。これをきっかけに、2016年から製法の見直しに着手した。
「それまでは六条大麦をメインに使用していました。たんぱく質を多く含み、焙煎するとそれが焼けて香ばしくなります。これに、でんぷん質が多く、焙煎すると甘みを出すことができる二条大麦(麦芽)を加えたのです。
2種類の麦の配合比率を調整し続け、それぞれの麦の焙煎方法も工夫しました。素材由来の“甘くて香ばしい味”を出すため、ラボ(実験装置)レベルではうまくいっても、本格生産となる商品の均一性・均質性が実現するまで試行錯誤を続けました」(黒岡さん)
そうして誕生したものが現在流通している商品だ。
「原料の大麦はカナダ、オーストラリア、日本、アメリカから調達していますが、伊藤園の麦茶は、麦の買い付けから焙煎まで自社グループで担うのも特徴です」(同)
同社が販売するペットボトルとティーバッグの麦茶では、少し味わいも違う。
「ティーバッグでは簡単に抽出できるよう粉砕した麦の粒を使いますが、ペットボトルでは丸粒の麦を使います。“やかん品質”の麦茶を再現した味わいにしているのです」(同)
■移ろう「消費者の意識」にどう対応するか
消費者が清涼飲料水に求めるものには、のどの渇きを止める「止渇」以外に、「リラックス」と「リフレッシュ」がある。過去の取材では「抹茶ラテなどのミルク系飲料はリラックスで、コーラやサイダーなど炭酸系飲料はリフレッシュだ」という説明も聞いてきた。
さらに健康志向もある。国内市場全体での「無糖飲料製品」構成比は「2018年は約49%」(全国清涼飲料連合会調べ)と、5割が無糖になった。ただし、消費者の選択意識は時に揺れ動き、その時の気分で変わることも多い。
無糖化が進む中でも紅茶飲料は有糖が支持されており、約8割が有糖だという。紅茶カテゴリーで最大手「午後の紅茶」(キリン)で最も売れるのが有糖の「ミルクティー」だ。
また、大容量化の一方で、近年は「飲み切りサイズ」の小型ペットボトルを投入するブランドも増えた。「健康ミネラルむぎ茶」でも280ミリリットルのペット飲料を揃える。
現在、取引先との商談や打ち合わせでは、淹れたお茶ではなくペットボトル飲料が出されるのが一般的だ。コロナ禍では非接触の観点から、それまで淹れたお茶を来場客に出していた住宅展示場や自動車販売店でも小型ペット飲料を出すようになった。
季節商品でなく春夏秋冬に飲まれる通年商品になるには、「気軽さ」と「温めてもおいしい」と思われる商品づくりも大切だ。今のところ「健康ミネラルむぎ茶」はそうした訴求がうまくいっている。
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経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)
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