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兵庫県「おねだり知事」を今辞めさせてはいけない…「川勝知事の電撃辞任」を見てきた私が最も危惧していること

プレジデントオンライン / 2024年7月26日 7時15分

記者会見する兵庫県の斎藤元彦知事=2024年7月24日午後、県庁 - 写真=共同通信社

兵庫県庁の男性幹部職員が斎藤元彦知事への告発文を残し自殺した問題で、斎藤知事に辞職を迫る論調の報道が続いている。ジャーナリストの小林一哉さんは「静岡県の川勝知事もメディアの圧力に耐えかねて知事職を放り出した結果、静岡県政はリニア問題でますますの混乱を招いた。斎藤知事を今辞職に追い込むことは、兵庫県政の闇を明らかにすることにつながらない」という――。

■斎藤知事へ「辞職」を迫るマスコミ、副知事

兵庫県の斎藤元彦知事(46)へ辞職を迫る厳しい論調の報道が連日のように続いている。

パワハラ疑惑、おねだり疑惑など斎藤知事の7つの違法行為等を告発し、兵庫県議会の百条委員会に証人として出席する予定だった元県幹部のAさん(60)が自死した。

Aさんは「一死をもって抗議する」「百条委員会を最後までやり通してほしい」という趣旨のメッセージを残していた。

そのメッセージと「おねだり」をしたとされる肉声が公表されてから、斎藤知事への風当たりがますます強くなっている。

Aさんの死の直後、片山安孝・副知事(64)が県政の混乱を招いたとして、7月末で辞職すると表明した。

その際、5回にわたって斎藤知事に辞職を促したが、拒否されたことも明らかにした。

それだけでなく、斎藤知事が「嘘八百」などと述べた初動対応を誤り、県職員や県議らとのコミュニケーションが不足していると批判した。

■「辞職を巡る攻防」でも川勝知事は辞めなかった

いくら斎藤知事と親密な仲とは言え、副知事が知事に辞職を迫り、知事の対話能力に問題があると批判したことに強い違和感を覚えた。

静岡県では、ことし5月、川勝平太知事(76)が任期を1年以上残して、突然、辞職した。

それ以前には、静岡県議会が辞職勧告決議を突きつけ、さらに不信任決議案が1票差で否決されるなど、県議会で何度も辞職を巡る攻防があった。

それでも川勝知事に辞める選択肢はなかった。2人の副知事も知事を守り、支えた。それが本来の副知事の役割である。

斎藤知事の場合、Aさんが議会関係者、警察、マスコミ等へ告発文のかたちで情報提供した。伝聞調のあいまいな内容が多かったため、百条委員会で特別調査することになった。事実関係はこれから明らかにされるはずだ。

当然、9月県議会でも、斎藤知事への厳しい責任追及が始まるのだろう。

■いま辞めると「斎藤知事の疑惑」が雲散霧消する

県議会の審議の場で、知事の盾となるはずの副知事が掌(てのひら)を返したように知事に辞職を迫って、辞めてしまうのだ。

副知事がメディアなどと一緒になって「水に落ちた犬をたたく」という感じがして、どうもしっくりとしなかった。

まるで事実関係にすべて蓋をしてしまいたいように見えた。

パワハラ疑惑や「おねだり」というAさんの告発は自身の経験ではなく、他の職員からの伝聞であり、その告発が客観的に正しいのかどうかを判断するのは非常に難しい。

実際には、百条委員会を最後までやり通しても、真実が明らかになるのかどうかわからない。

しかし、斎藤知事が辞職してしまえば、非を認めたことに等しい。

そうなると斎藤知事を巡る兵庫県政のゴタゴタは闇に葬られる可能性が高く、その後、県政の立て直しを焦点とした知事選に世論の関心は向けられるだろう。

そもそも亡くなったAさんが告発した7つの問題を見ていくと、斎藤県政への強い反感はあまりにも主観的であり、具体的な説得力に欠ける。

斎藤県政のゴタゴタの根っこにあるものを指摘したい。

「不穏当発言」を県議会で追及されても辞職しなかった川勝前知事(静岡県議会本会議場)
筆者撮影
「不穏当発言」を県議会で追及されても辞職しなかった川勝前知事(静岡県議会本会議場) - 筆者撮影

■「告発文」はすべて「客観性がある」と言えるか

Aさんは、告発文書の第1番目に、「五百旗頭(いおきべ)真・ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長の逝去に至る経緯」を取り上げた。

五百旗頭氏が急性大動脈剥離で突然、倒れたのは、その前日に片山副知事が同研究機構を訪れ、2人の副理事長を再任しないことを五百旗頭氏に伝えたことだとある。

その結果、理事長、副理事長らの任命権者である同機構会長の斎藤知事を糾弾している。

この告発内容はどう考えても客観性に欠ける。

急性大動脈剥離を発症した80歳の五百旗頭氏の血圧が高かったことは予測できる。

だからといって、五百旗頭氏と面会した片山副知事が大きなストレスを与えたことが、「五百旗頭氏の命を縮めたことは明白」とはあまりにも飛躍しすぎである。

告発文では、斎藤知事を「井戸(敏三前知事)嫌い、年長者嫌い、文化学術系嫌いで有名」などと一方的な批判をした一方で、五百旗頭氏については「井戸敏三前知事から懇願され、兵庫県立大学理事長をはじめ兵庫県政に深く関わってきた」と高く評価している。

五百旗頭氏の死因となった急性大動脈剥離を発症したのは、2人の副理事長を再任しなかった「五百旗頭、井戸の両氏に対する嫌がらせ」がきっかけだったとしている。

斎藤県政に反感を抱くAさんの感想だろうが、その因果関係をちゃんと証明できるはずもない。

斎藤知事、片山副知事だけでなく、ふつうこのような極端な糾弾をそのまま受け入れる人はいない。

■「お友達人事」はどの組織でも存在する

この情緒的で極端な告発の内容を見れば、Aさんが井戸前知事に近かった人物であることがわかる。

またこの告発から、Aさんは、2021年7月の知事選で、井戸前知事の後継者だった金沢和夫・前副知事(68)を応援したことも容易に想像できる。

知事選で金沢氏が敗れたことへのうらみがAさんの文書からはっきりと見えてくるからだ。

金沢氏が知事となっていれば、Aさんにとって理不尽な人事が行われていたはずもないからである。

告発の2番目では、知事選で斎藤知事を応援した県職員4人がトントン拍子に出世したことを地方公務員法違反だとしている。

4人が昇進したのは事実だろうが、それはAさんの個人的な恨みつらみを並べているに過ぎない。

Aさんは西播磨県民局長で定年を迎えるはずだった。出先の局長級でも県幹部なのだろうが、Aさんには不本意だったこともわかる。

金沢知事が誕生していれば、そのようなことはなかったのかもしれない。

どこの組織でも、権力者が変われば、それに伴う人事が行われる。

静岡県政でも、川勝知事の“お友だち人事”は有名であり日常茶飯事だった。

県立大学学長、県立美術館長やさまざまな要職に川勝知事の“お友だち”が就いている。

■本庶佑氏に独断で県民栄誉賞を贈った川勝前知事

なかでも2018年にノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏に静岡県民栄誉賞を贈った経緯には驚かされた。

本庶氏は、2012年4月から5年間、県公立大学法人理事長に就いた。選考委員会などはなく、川勝知事の指示で任命された。本庶氏は静岡県と何らの関係もなかった。

週2回静岡県に来てもらって、月額約105万円の報酬を支払っていた。途中で本庶氏から週1回にしてくれとの要請があり、報酬は半額となった。

多額の報酬を支払っていた本庶氏が2018年にノーベル賞を受賞すると、川勝知事は県民栄誉賞を与え、県主催の祝賀パーティーなどを開いた。

静岡県の川勝平太知事(左)から県民栄誉賞の賞状を授与された京都大の本庶佑特別教授=2019年2月26日夜、静岡市
写真=共同通信社
静岡県の川勝平太知事(左)から県民栄誉賞の賞状を授与された京都大の本庶佑特別教授=2019年2月26日夜、静岡市 - 写真=共同通信社

ほとんどの県民は、本庶氏と静岡県の関係など全く知らない。

本庶氏の県民栄誉賞受賞は川勝知事のマッチポンプである。県民栄誉賞が川勝知事の「権限」で決まるのだから、誰も反対できなかった。

それに比べれば、兵庫県の財団の2人の副理事長を交替はそれほどの問題ではない。斎藤知事(あるいは片山副知事)のお手盛りであることに不思議を感じない。

人事などそんなものであり、誰が理事長、副理事長などの名誉職に就いてもおかしくないからだ。

1番目、2番目の告発文書を読めば、Aさんの個人的な恨みつらみ、不満でしかない。

■斎藤知事の疑惑にまとわりつく「政治的なニオイ」

2021年7月の兵庫県知事選は、5期20年という長期にわたった井戸県政の評価が焦点となった。

井戸県政を真っ向から否定した斎藤知事が、井戸知事の後継とされた金沢・前副知事を25万票の大差で破って当選した。

金沢氏は自治省出身のキャリア官僚であり、1998年から4年間、兵庫県の総務部長、企画管理部長などを務めた。熊本県副知事などを務め、2010年から11年間、井戸知事を副知事として支えた。

井戸知事は後継者として、金沢氏を副知事に迎えたのだろうが、そこに斎藤知事が割って入った。大阪府で圧倒的な人気を誇る維新の会が擁立して、「変化」を求めた兵庫県民は斎藤知事を選んだ。

考えればわかるが、Aさんを含めて井戸知事のシンパと見られる職員は数多く、また都合15年間も兵庫県に務めた金沢氏と一緒に仕事をした職員も数多いだろう。

当然、井戸前知事や金沢前副知事は、ふだんから斎藤県政について親しい職員から事情を聞いていただろう。Aさんもその1人だったのだろう。

前回選は保守分裂で自民党は割れたが、次回選は金沢氏でまとまるのかもしれない。兵庫県のゴタゴタの根っこからは、政治的なにおいがプンプンしてくる。

政治的な力がさらに加わり、斎藤知事への非難や糾弾が続くから、斎藤知事がどこまで持ちこたえられるのかが焦点である。

■知事が任期途中で職を辞す影響は大きい

川勝知事の辞職表明の背景には、メディアなどの激しい“攻撃”に耐えられなくなったことがある。

斎藤知事も、辞職を迫るこれだけ激しい“攻撃”にさらされれば、疲れ果てて、不本意ながら辞職してしまうかもしれない。

たくさんの報道カメラ
写真=iStock.com/suriya silsaksom
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/suriya silsaksom

筆者は「いま斎藤知事は辞めるべきではない」と進言したい。

斎藤知事が辞めれば、調査権限を有する百条委員会の役割は形骸化され、真実を追及する姿勢までも失われてしまう。川勝知事が不適切なタイミングで突如辞職し、リニア問題で多くの「負の遺産」を残したのはこれまで述べてきたとおりだ。

斎藤知事を留まらせ、兵庫県政の闇の部分を少しでも明らかにすべきだ。

斎藤知事は知事という身分のまま百条委員会で証言してほしい。

■パー券購入強要疑惑、キックバック疑惑…

Aさんの告発文書の5番目の「政治資金パーティー関係」と6番目の「公金横領、公費の違法支出」については、まさしく犯罪行為の疑惑であり、斎藤知事を含めてすべての証人を呼んで事実関係をしっかりと調べるべきである。

告発文書には、2023年7月30日の政治資金パーティーで、県内の商工会議所、商工会に補助金削減をほのめかせて、パーティー券を大量に購入させたとある。

また兵庫県信用保証協会の保証業務を利用して、パーティー券購入を依頼させたともある。いずれも関係者すべてを呼び、さらに関係書類を提出させて、事実を明らかにすべきである。

昨年11月23日の阪神・オリックスの優勝パレードの費用が集まらないので、地元信用金庫への補助金を増額させてキックバックさせたと告発文書にある。

寄付集めに奔走した産業労働部課長はうつ病を発症して病気休暇中であり(後に4月に亡くなっていたことが判明)、公金横領、公費の違法支出があったとしている。

その陣頭指揮には副知事が当たったとしている。

■人が亡くなっているからこそより慎重な対応を

筆者は、川勝知事に関する記事の中で、一度、斎藤知事の退職金を取り上げた。

静岡県知事の退職金は1期4年で約4060万円であり、兵庫県知事の約4050万円とほぼ同額である。

初当選した川勝知事は公約で1期目の退職金を受け取らなかった。また静岡県では県庁OBの3人の副知事が退職金を受け取っていなかった。

2021年7月、初当選した斎藤知事は、退職金を50%減額、給料、ボーナスを30%減額にすると公約した。

県議会で条例改正を行い、1期4年務めれば、斎藤知事の退職金は約2000万円となる。

また副知事も退職金の25%減額、給料、ボーナスは15%減額とする条例改正も行っている。つまり、斎藤知事に準じた形を取っている。

告発したAさんは自ら命を絶ってしまった。人が亡くなっているからこそ、「仇取り」のような感情論に終始せず、より慎重に責任の所在や事実認定を進めていくことが必要だ。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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