1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「転勤? じゃあ辞めます」今どき社員が転勤と引き換えに要求する絶対譲れない"インセンティブと手当"一覧

プレジデントオンライン / 2024年7月29日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironagasukujira

転勤を拒む人が増えている。無理強いすると退職するケースも少なくない。企業の中には、人材確保と流出を防ぐためにあの手この手の対策を立てている。人事ジャーナリストの溝上憲文さんが「転勤と引き換えに企業が差し出す手当やインセンティブ」の最新事情を報告する――。

■20代社員も就活生も慣れ親しんだ土地を離れる「転勤」はイヤ

「転勤」が大きな問題になりつつある。

人事異動で企業が社員に転勤を命じるのはなぜか。それは、本社以外に拠点を持つ場合、組織上の人事ローテーションをさせたい、また、新たなポストへの配置で人材育成を図りたいという狙いがあるからだ。

ところが、この仕組みを拒む社員が多く、頭を悩ます企業が増えているのだ。

子育て中の共働き世代にとって転居を伴う転勤は避けたい気持ちはわかるが、近年は20代の独身社員も転勤を嫌がる人が増えている。

サービス業の人事課長は「上司が入社3年目の男性社員に転勤を打診すると、『実家から近いところから通える距離ならいいですが、それ以外のところは勘弁してください』と言われたそうだ。最近は親元から離れたくないという社員も少なくないようだ」と語る。

全国に営業所がある食品関連会社も入社3年目の社員に上司が地方の営業所に転勤を打診したら「同居している祖父が病気がちで僕が面倒を見ないといけませんから無理です」と、断った。上司が「同居しているご両親もいるだろう」と言うと、「ふたりとも共働きで仕事が忙しいのです」と言ったそうだ。

同社の人事担当者は「ヤングケアラーということになるのだろうが、その社員の上司には『退職しては困るのでそれ以上無理強いするな』と伝えた」と語る。じつは彼以外にも転勤が嫌で辞める人も少なくないという。

「もともと全国転勤ありを前提に採用した総合職社員であっても、転勤するのが嫌で離職する人が一定数いる。今は上司に対して、本人の意向を尊重しつつ、転勤によって仕事の幅が広がるし、成長につながるメリットについて丁寧に説明するように言っている」と語る。

転勤嫌いは就活生の間にも広がっている。

医療機器メーカーの採用担当者は「生まれ故郷や学生時代に過ごした地域で生活したいという学生が年々増えている。転勤があることを伝えても『入社後3年間は転勤したくないです』と言う学生もいる。こちらとしては3年経ったら転職するつもりなのかと疑ってしまう」と語る。

実際に就活生の転勤嫌いは数字にも表れている。

パーソル総合研究所の「転勤に関する定量調査」(2024年5月30日公表)によると、就活生の19.4%が「転勤がある会社は受けない」と回答し、「転勤がある会社にはできれば入社したくない」が31.4%。計50.8%が応募・入社を回避したいと答えている。

また、「転勤は嫌だが、他の条件がよければ問題ない」が28.0%もおり、就活生のほぼ8割が転勤嫌いという結果になっている。

■「転勤は嫌だが、他の条件がよければ問題ない」

転勤嫌いは就活生に限らない。中途入社意向のある社会人調査でも「転勤がある会社は受けない」と回答した割合は24.9%、「転勤がある会社にはできれば入社したくない」が24.8%。計49.7%が応募・入社を回避したいと答えている。「転勤は嫌だが、他の条件がよければ問題ない」を含めると同じく80%を超えている。

求職者だけではない。前出の食品関連会社の人事担当者が言うように在職者も転勤拒否や離職まで考えている人が少なくない。

転勤がある企業の総合職の社員に転勤の受諾意向を聞いたところ、18.2%が「どのような条件であっても転勤は受け入れない」と回答し、63.4%が「転勤の条件しだいで受け入れる」と答えている。

また、不本意な転勤による離職意向では、37.7%が「不本意な転勤を受け入れるぐらいなら会社を辞める」と答えている。

こうした傾向は他の調査でも同じだ。

エン・ジャパンの「『転勤』に関する意識調査(2024)」(2024年5月7日)によると、転勤の辞令が出た場合、退職を考えるきっかけになるかという質問に、「なる」と回答した20代は43%、「ややなる」が25%。この傾向は30代、40代以上でも変わらない。実際に転勤の辞令を受けたことで退職した人が31%に上っている。

オフィスで1on1のミーテイング中
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

転勤を嫌う理由としては、新しい土地での適応が大変だという理由や、共働きであることや進学期の子どもなど子育て中であること、親の介護などが多い。

しかし、それでも昔は本人の意向に関係なく、会社の命令で転勤せざるを得なかったが、今は大きく変化している。従来型の転勤のやり方では人材の確保や定着に重大な支障を来たすことになり、企業の危機感も強くなっている。

前出のサービス業の人事課長は「会社の転勤の方針に対する若年層の転勤に対する抵抗感が高まっている。いつまでも転勤の仕組みを堅持するのは難しく、会社も人材流出を抑えるための方針転換が求められている」と危機感を露わにする。

■人材確保・流出の危機…企業の緊急対応策はインセンティブと手当

すでに人材確保や流出に危機感を抱く企業では転勤制度の廃止を含む見直しを行っている。2020年7月にカルビーは業務に支障がないと上長が認めた場合、単身赴任者が家族の居住地に戻ることができる「単身赴任の解除」を打ち出し、10月にはJTBも転居を伴う転勤が命じられても本人の希望と会社の承認を前提に転居せずにテレワーク勤務ができる「ふるさとワーク」を導入している。

さらに大きな話題となったのはNTTグループの「転勤・単身赴任」を原則廃止だ。テレワーク可能な環境を整備し、社員の居住地制限を撤廃し、地方に住みながら本社業務が可能になる制度導入の方針を打ち出している。

SOMPOひまわり生命は、出産、育児、介護、本人または家族の病気などで転居を伴う転勤が一時的にできない場合、免除する「転居転勤免除制度」を導入。使用回数の上限は2回(40歳以上の社員は1回)とする。

また、カゴメも家庭の事情で現在の勤務地から転勤したくない場合、一定期間勤務地を固定する「転勤回避制度」や、本人の希望する勤務地ではない場合に希望勤務地へ転勤できる「配偶者帯同転勤制度」を設けている。

できるだけ本人の意向に沿うために、テレワークなどを活用し、人材の確保と定着に努めている。しかし業界によっては組織運営上、転勤が不可避の企業もある。

小売業の人事担当者は「欠員が発生した場合の要員の補充のために転勤が必要だ。人の異動による新陳代謝によって組織の活性化も図れるほか、転勤による店舗の異動によって広い視野を持った人材の育成にもつながる。テレワークが増加しているとはいってもフルリモートでできる職種は限られる。対面や現場でしかできない職種もあり、転居をともなうも転勤は避けられない」と語る。

ではどうするのか。

転勤を嫌う人をその気にさせるためのインセンティブとして「報酬」を上乗せする企業も登場している。

給与明細
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

全国各地に支店を配置し、転勤が常態化している銀行や生保が近年、手当の増額に乗り出している。

三菱UFJ信託銀行は23年10月から引っ越しを伴う転勤者に一律50万円を支給している。また、みずほ銀行は、今年4月から社員が家族帯同で転勤する場合、一時金を15万円から30万円に増額。単身赴任者も8万円から24万円、独身者も8万円から15万円にそれぞれ増額。そのほかに転勤手当も増額している。

明治安田生命も今年4月から転居を伴う異動に50万円支給するほか、単身赴任手当を月額3万6000円から5万円に引き上げ、住宅補助も拡充している。

前出のエン・ジャパンの調査では、転勤の辞令が出た場合、条件付きで承諾する人の割合が42%。最も多い条件は「家賃補助や手当が出る(72%)だった。はたして銀行や生保の手当などの増額が功を奏するのか。ただし、銀行や生保のように報酬を出せない企業も多い。今後の方向性としては、転勤に関しては本人の同意を得ることはもちろん、転勤自体を減らしていくことになるだろう。

少し古い調査になるが、中央大学大学院戦略経営研究科ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクトが2016年11月29日に提言を発表している。

企業が転勤の目的の一つに掲げている「人材育成」の個人調査によると「転勤以外の異動に比べて転勤経験の方が能力開発にプラスになった」という割合は38.5%だった。一方「転勤経験と他の異動では能力開発面でのプラスの程度に違いはない」が35.0%、「転勤経験でない他の異動の方が能力開発面でプラスになった」が5.2%もあり、計40.2%の個人が転勤の育成上の効果を疑問視している実態もある。

最近はキャリア自律が叫ばれ、めざすキャリアを自ら描き、主体的に勝ち取るものとされ、企業はその支援をすることが役割とされている。会社主導の転勤という人材育成・配置そのものが、もはや時代と合わなくなっているように思う。

----------

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

----------

(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください