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「黄色い帽子が並ぶ姿」にほっこり…都心のタワマンに住む中国人が驚いた「観光ではまず見かけない」日常風景

プレジデントオンライン / 2024年7月31日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eugeneonline

■上海ロックダウンで「中国脱出」を決意

景気の悪化、不動産不況、政治リスクなどがある中国に「見切り」をつけて、日本など海外に移住する富裕層が後を絶たない。筆者は2022年の夏頃からこうした傾向を知って取材を開始、23年5月に出版した『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)で紹介した。あれから2年がたったが、いまも中国を脱出して海外移住しようとする人がいる。その理由は何なのか。

22年11月。筆者は都内のレストランで20代後半(当時)の中国人男性に取材する機会を得た。その男性は同5月、東京・江東区にあるタワーマンションに転居しており、その理由を聞くためだった。当時、男性はため息をつきながら、こう答えてくれた。

「21~22年、中国のゼロコロナ政策がとても厳しくて、私は常に緊張しっぱなしでした。外出中、たまたま立ち寄った建物で新型コロナの感染者が出たら、私もそこに足止めされ、隔離の対象になってしまいます。自分の人権や自由が一瞬にして失われてしまう、という恐怖を覚えました。とどめは上海のロックダウン。何とかして、中国から脱出したいという一心で、日本に移住する方策を考えました」

■不動産の爆買いは「投資」から「移住」へ

この男性のように、22年3~5月に行われた上海のロックダウンが「日本移住」の引き金になった、と語る中国人は非常に多い。それ以外にも21年に施行された「共同富裕政策」により、自分の財産を守れるかといった不安や心配があったが、それがあのロックダウンによって一気に爆発したのだ。

それ以前、15年頃に起きた「爆買いブーム」の頃から日本の不動産を買う人は徐々に増えていたが、主に「投資」としてだった。だが、その時期(22年)を境に、「投資」だけでなく自身の「移住」を真剣に考える人が猛烈な勢いで増えたのだ。

22年4月頃、筆者はロックダウン渦中にある上海の友人らのSNSやニュースサイトを見ていたが、大手検索サイト「百度」で「移民」関連のキーワードが急上昇。移民関連の検索が5000万回を超えた。報道によると、検索した人の出身地で最も多かったのは上海だった(22年4月5日〈「このままでは中国政府に殺される」自宅に軟禁された上海市民2600万人のSNSには書けない叫び〉参照)。

■移住してくる人は年収数千万円の「プチ富裕層」

上海に住む友人に聞くと、「もともと上海出身者だったら、たいていマンションを2軒くらい所有している。そのうちの1軒を売り払い、そのお金を元手に、一刻も早く海外に移住したいという人が続出。移民コンサルタントに相談する人が急増しました」と語っていた。この現象は中国語で「潤(ルン)」〔英語のrun(走る)と同音であることから転じて、移住、移民などの意味〕と呼ばれて、隠語のように使われた。

それから1年後の23年4月、海外への渡航制限が解除されると、その動きはさらに加速した。中国人富裕層の海外移住の手段として多いのが、経営管理ビザを取得して来日することだが、同年、同ビザを取得した中国人は1万9334人と、15年(8690人)の2倍以上に増加した。

彼らの日本移住ブームが日本の不動産価格の上昇を押し上げている一因であることや、彼らが日本の不動産を「爆買い」していることが日本で報道され始め、テレビ番組などでも紹介されるようになった。

彼らは具体的に、どのような人々で、どのような特徴を持っているのか。筆者が取材したところ、富裕層を中心に、プチ富裕層、一部の中間層が来日している。冒頭で紹介した男性の所得は日本円にして数千万円程度あるプチ富裕層だ。ネットを使ったビジネスをしている自営業者で、海外にいても仕事ができると話していた。日本に居を構えたが、日中を頻繁に行ったり来たりしており、SNSにもさかんに旅先での様子を投稿している。

■都内で目撃されているジャック・マー氏も移住?

アリババグループの元CEO、馬雲(ジャック・マー)氏が都内で目撃されるようになったのも23年だ。22年に約半年間、東京近郊に滞在していると報道され、都心にある中国人富裕層専用のクラブに出入りしたり、ソフトバンクの孫正義氏が所有する箱根の別荘、スキー場などに足を運んだりしているといわれた。

23年には東京大学の東京カレッジ客員教授に就任。そのためか、再び、在日中国人のSNSに「銀座にジャック・マー氏がいた。SPもついていた」などの目撃談が増えた。ほかにも、本人が「移住」に関して公表を控えたり、否定したりしているが、大手企業の元経営者、重役、芸能人などが日本に続々と移住しているという噂も耳にする。

中国の富裕層の明確な定義はないが、年収は日本円に換算して1億円以上、プチ富裕層も年収2000万円以上あり、年代は20~70代までと幅広い。何らかのビジネスで財産を築き上げ、40代前半でセミリタイアし、日本で悠々自適の生活を送るという人も少なくない。筆者は22年以降に日本移住した中国人数人に会って話を聞いたことがあるが、彼らはそれまでの人生を半ば「捨てて」、日本で第2の人生をスタートさせようとしている。

■観光ではわからなかった「日本の驚きの風景」

しかし、日本に移住して初めて経験することも多く、彼らが驚くこともある。

たとえば、50代のある中国人は東京都内に一軒家を建設したが、その際、地鎮祭にビックリしたという話をしてくれた。地鎮祭とは、建物を建てる際、工事の無事を祈願するために行う儀式だが、中国には存在しない日本独自のものだ。

地鎮祭の様子
写真=iStock.com/rammy2rammy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rammy2rammy

その中国人は施主として出席したが、「神職の方の所作や言葉が興味深く、また、とても清々しい気持ちになりました。ご近所の方々にもこの機会にご挨拶ができてよかった。日本には何度も旅行で来ていましたが、こういう神聖な儀式が存在することは、これまでまったく知りませんでした。とても日本らしい儀式で、心から工事の無事を祈ることができました」と話す。

30代のある中国人は、都心のタワーマンションに引っ越したあと、毎朝ジョギングをする際に出会った小学生の集団登校や、小学生を見守る地域ボランティアのスタッフに感動した、という話をしてくれた。その中国人も移住前、日本に何度も旅行に来ていたが、町で小学生を見かける機会はほとんどなかったそうだ。

■黄色い帽子で集団登校する姿にほっこり

「朝8時頃でしょうか。マンションの目の前が通学路になっていて、小学生が数人ずつ黄色い帽子を被り、ランドセルを背負って、一緒に歩いていました。私が覚えたての日本語で、思い切って『おはようございます』と声をかけると、子どもたちが元気よく『おはようございます』と返してくれました。とてもうれしかった。

また、地域のボランティアの方々がおそろいのベストを着て、小さな旗を持って子どもたちを誘導し、安全を見守っている姿を目にしたときには、本当に日本はすばらしい国だと思いました。

横断歩道を手を上げて渡る二人の小学生
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

私の出身地の北京では、両親や祖父母、お手伝いさんが子どもを学校まで送っていきますが、集団登校はありません。子どもだけで通学することは、とても危険だからです。送る際も、それぞれの自動車で校門まで送っていきますので、子どもたちが友だちとおしゃべりしながら登校するということはないんです。

帰りも、学校を出たら、それぞれの迎えの車に乗って帰るか、習い事などに直行しますのでバラバラ。そういうのが当たり前でしたから、日本の小学生が楽しそうにおしゃべりしながら通学するというのは新鮮な驚きであり、感動でした。日本が平和で安全な証拠だと思います」(30代の男性)

■「日本は激安で毎日バーゲンセール状態」

日本に移住を目指す人々の多くは日本語ができず、日本社会に対する予備知識も乏しい。日本に長く住む在日中国人から間接的に話を聞いたり、SNSで日本の情報を入手したりすることはあるが、リアルに日本社会に接するのは、実際に引っ越したあとになる。

中国人の友人たちから「日本は物価が激安で毎日バーゲンセール状態だよ」だったり、「日本は町がとても静かで、誰も車のクラクションを鳴らさない。毎日お葬式みたいだ」などの話を聞いたことがあるそうだが、生活して初めて知ることも多い、と話していた。

そんなエピソードを聞くと、逆に日本人のほうが「彼らはそういうことに驚くのか」と驚かされるが、今後も中国人富裕層の日本移住ブームは続くのだろうか。

東京都内で中華圏の人々に不動産販売を行う不動産企業「神居秒算(しんきょびょうさん)」の執行役員COOであるヤンロン氏によると、「こうしたトレンドは今後数年間、続くでしょう」という。

■新宿区、豊島区、大阪市中央区が人気

同社の分析では、最近(24年1~3月)増えている問い合わせは1億円以上の物件で、問い合わせ全体の26%と約4分の1に上る。物件のタイプはマンションが全体の6割(一戸建ては2割、残りはビル1棟など)で、購入者の4割以上が中国(本土)だ。都市別で、圧倒的に多いのは東京(全体の46%)で、続いて大阪、京都、福岡と続く。東京で人気なのは、新宿区、豊島区で、大阪では中央区だという。

ヤン氏によると、「富裕層の多くは海外に新しい投資対象を探しています。投資や自分の住居というだけでなく、日本に留学中の子どものための物件や、安定的な資産運用としての物件など、以前よりも用途が広がってきているというのが特徴です」という。

中国の政治環境の不透明さ、不安定さなどもあり、今後も日本への移住を希望する中国人が増加していくことは必至といえそうだ。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)などがある。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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