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人気ウェブライターが「ドラクエVのビアンカ・フローラ論争」を書くときに徹底的にこだわったこと

プレジデントオンライン / 2024年7月30日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/luza studios

いい文章を書くには、どうすればいいのか。『文章で伝えるときいちばん大切なものは、感情である。読みたくなる文章の書き方29の掟』(アスコム)を書いたライターのpatoさんは「あまりに内輪感を感じさせる文章を書かない。これを徹底的に守る必要がある。大人気ゲーム『ドラクエV』のビアンカ・フローラ論争を扱った記事が参考になる」という――。

※本稿は、pato『文章で伝えるときいちばん大切なものは、感情である。読みたくなる文章の書き方29の掟』(アスコム)の一部を編集したものです。

■「内輪ネタ」は読む人に疎外感を与えてしまう

さて、伝えたいことを意識して文章を書こうとなった場合、おそらく多くの人が身近な題材を選んで伝えようとするはずだ。

なぜなら、多くの人は特に専門的な知識があるわけではないし、特異的な体験を持っているわけでもないからだ。だから、ほとんどの場合で自分の周辺の世界こそが題材となる。

ここで頭を悩ませ絶望する人もいる。こんな日常に誰も興味を持たないだろうという懸念だ。たぶんそれは正しい。僕らが有する情報は限定的だからだ。

その点に関しては後述するとして、ここでは身近なものを題材に選ぶ場合の注意点について述べる。けっこうやりがちなので最初に留意する必要がある。

「あまりに内輪感を感じさせる文章を書かない」

これは簡単なようでなかなか難しい。けれども、これは徹底的に守る必要がある。

そもそも、あなたが文章を書いて公表した場合、それを読む人の大半は第三者である他人だ。身内に向けた文章ならば別だが、ほとんどの場合は他人が読むはずで、他人が読むという前提を強く意識しなければならない。

他人から見た場合、内輪感のある文章は、書いている人が想像する以上に疎外されたように感じる。

■「前置き」を意識することの重要性

端的な例を挙げると、身内だけで大流行した言葉を羅列されても意味がわからないし、専門的な知識を持った人にしかわからない専門用語をちりばめられたとしたら、これは自分に向けた文章ではないと判断されるはずだ。

それが疎外だ。疎外を感じたものに共感はしないし、共感がないなら伝えたいことも伝わらない。

では、実例に沿って考えてみよう。

「黒沢君はかっこよかった」

このような文言が唐突に書かれたとしよう。これはほとんどの人に伝わらない。なぜなら、読む人にとって黒沢君は知らない人だからだ。けれども、僕自身は黒沢君のことをよく知っている。だから読む人のことなど知ったことかとみんな知っているという前提で黒沢君のことを書く、それが内輪感のある文章だ。

これが誰もが知っている有名人などを題材にした場合はそうではない。けれども、僕が唐突に取り上げた「黒沢君」を知っている人はいない。むしろ「ああ、黒沢ね」とこの段階で知られていたら恐怖すら感じる。

多くの人はこのように内輪に向けた文章を書いてしまいがちだ。では、この内輪感を除去するにはどうしたらいいだろうか。

それは「前置き」を意識することだ。これによってそう苦労せずに排除することができる。十分すぎるほど前置きでの解説を置いて、本来は内輪である存在を内輪でなくす手法だ。

■丁寧な解説が「人を惹きつける文章」の基礎になる

次のように記述する。

「黒沢君とは小学生時代にやってきた転校生だ」

こう前置きすることで、黒沢という人間が全く知らない誰かから「著者が小学生のときに転校してきた男」にアップデートされるわけだ。

ただし、これではまだ不十分だ。これでは黒沢という男のディテールがわかっただけなので読む人からしたら知らない誰かから知らない黒沢に変わっただけに過ぎない。

「夏の終わり。秋の訪れと共に転校生がやってきた。その転校生は黒沢と名乗った。黒板とは名ばかりで実際には緑色の板の前に佇(たたず)む黒沢なる男は、名前のとおり、正真正銘、本物の漆黒と言わんばかりの革製の黒色ランドセルを背負っていて、少し俯き加減にぶっきらぼうに自己紹介をした。それはなんだか、とてもかっこよく見えた」

著者が小学生時代に転校生としてやってきた黒沢という男、それは名前と同じく黒いランドセルを背負ったかっこいい男だった。少なくとも著者はその佇まいに憧れめいたものを感じていた、とわかってもらえるのだ。

高級ペンでノートに手書きする手
写真=iStock.com/FreshSplash
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FreshSplash

■ディテール、筆者の主観、登場人物との関係性…

さらに、読む人を惹きつけるため、なぜそう感じたのかの説明を加える。

「僕の育った街にはランドセルが存在しなかった。おそらくではあるけれども、貧しい街だったことが起因していると思う。高価であり、とかく貧富の差が表れやすいランドセルではなく、皆が一様に学校指定の安っぽいナイロンのナップサックを使用することと決まっていた。だから、ランドセルなんてものはテレビの中で出てくる存在でしかなかった。異世界の物体だった。そんな事情もあって、その黒々しい革製のランドセルにどこか憧れを抱いていたのだと思う。都会めいた何かを感じていたのだろう。だから、黒沢君が持っていたランドセルは、とにかくかっこよく見えたのだ」

こう記述することで、黒沢の説明からナチュラルに自分自身が抱いていた感情を記述でき、著者と黒沢の関係性を理解しやすくなる。それはもう知らない二人の話ではなく、知っている二人となる。これが内輪感の除去だ。

知らない誰かだけを説明するのではなく、それをとりまく感情や印象も同時に記述することにより、単に登場人物のディテール紹介に収まらないことが内輪感の除去につながる。

それによってそのあとに続く文章へと引き込んでいくのだ。それは読者を引き込むというよりも、書く本人を引き込んでいくイメージに近い。

■ドラクエVのビアンカ・フローラ論争を書く時にこだわったこと

例えば、本書で公開した僕の最低最悪のデビュー日記「10/22おつかい」。これにも内輪を感じる要素がある。

冒頭、上司からおつかいを頼まれて5千円を貰い受ける記述から始まるが、ここで著者と上司の関係性に関する記述が一切ないのである。ただ突然におつかいを頼まれるのである。

もちろん、その背景を読む人に想像させる手法もあるのだけど、これはそこまで高度なわけではない。

文章の雰囲気から感じるに、この「おつかい」の著者は上司のことをあまり良く思っていない。少しバカにしている感じすらある。書いた本人だからわかる。

そんな上司におつかいを頼まれた、この情報が共有されていると、その後の5千円を落とした不幸な出来事がより印象深くなるのである。だから、この文章は、最初に上司との関係性を述べて、あまり良く思っていない記述を入れることで内輪感が取り去られ、ぐっと中に入りこんでいけるのである。

もっと具体的な例を挙げてみよう。

ドラゴンクエスト、いわゆるドラクエのことを扱った文章を書くとしよう。というか、書いたことがあった。電ファミニコゲーマーという大手ゲームサイトに僕が書いた、「思いっきり感情移入しながら『ドラクエV』をプレイしたら絶対にビアンカを選ぶ」という記事だ。

ドラクエVでは物語の中盤に結婚相手を選ぶイベントがあり、これがビアンカ・フローラ論争としてしばし火種となる。

■「おじさんの懐古」と思われないための工夫

中学生のときに、フローラを選んだことで同級生から謂いわれのない迫害を受けた僕が、大人になったいま、さまざまなことを振り返りながらビアンカを選ぶために感情移入しながら『ドラクエV』をプレイしていくというものだ。

この記事の冒頭、丁寧すぎるほどにドラクエおよびドラクエが起こした社会現象、さらには『ドラクエV』に関する説明が入る。

ドラゴンクエストV for スマートフォン 公式プロモーションサイトより
ドラゴンクエストV for スマートフォン 公式プロモーションサイトより

我々の世代からしたらドラクエと言えばよもや知らない人はいないレベルのゲームである。ビアンカ・フローラ論争なんて説明しなくともわかってもらえる。

けれども、ドラクエを知らない世代がその記述を読んだときに、そのドラクエ狂騒曲に関する知識がないと、いまいち文章に入り込めず、そこで疎外されたと感じる。若い人たちから見たら、おっさんがなんか懐古に浸っとるわ、で終わってしまう可能性があるのだ。

つまり、本題に入る前にドラクエに関する説明が必要なのである。

ドラクエという大人気ゲームがあった。特に少年時代に発売されたドラゴンクエストIII、いわゆるドラクエIIIは、発売日には徹夜で並ぶ人たちで溢れ、不人気ソフトとの抱き合わせ販売や、ドラクエ狩りなど大きな社会問題を起こしたゲームでもあった。

こう記述することで、ドラクエという社会現象が読む人に共有される。そこでドラクエを知っているおじさん世代、という内輪が外部に解放されるのである。

■ドラクエを知らない若い世代に疎外感を与えない

これは、ドラクエを知っている人からしたら何をいまさらな情報だし、読み飛ばされるんじゃないか、と考えるかもしれない。そうやって読み手の感情を想像して心配するのはとてもいいことだ。

pato『文章を書くときいちばん大切なものは、感情である。』(アスコム)
pato『文章で伝えるときときいちばん大切なものは、感情である。読みたくなる文章の書き方29の掟』(アスコム)

ただし、ドラクエの情報を知っていてもういちどドラクエの情報を読まされるストレスと、ドラクエの情報を知らずにドラクエに関する文章を読むストレスを天秤にかけた場合、やはり知らずに読むほうがストレスが高い。だから詳細な説明が必要なのである。これが内輪感の除去だ。

この記事は大きなバズを引き起こしたし、その感想を見ると「懐かしい、俺もビアンカとフローラで苦悩してその先に進めなくなったな」「わたしも、こんな残酷な選択があるか、きっと別の選択肢があるはずだと街をさまよった」という懐かしむ意見から、「ドラクエはやったことない世代だけど、おもしろかった」と知らない世代にまで楽しんでもらえた。

内輪感を除去し、あらゆる世代に照準を定めた結果だ。

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pato ライター
累計5000万PVを超えるテキストサイト「Numeri(ぬめり)」管理人。ネット黎明期の2000年代初頭にサイトを開設。まったく誰にも読まれていなかったところから文章を鍛錬しつづけ、一躍人気サイトとなる。ライターとして複数の媒体で記事を書くようになると、たんなる商品紹介やPRを超えた「読ませる」文章に、ファンがじわじわと増えていく。JR東海クリスマスエクスプレスのCMへの愛を爆発させた分析記事や、『鬼滅の刃』にまつわるエッセイなど、100万PV超えの記事を連発。証券会社が運営する『インベスタイムズ』でなぜか映画『アベンジャーズ』についての記事を書き「たしかに投資だし深い」と絶賛されたり、『ぐるなび』のサイトで100本の醤油をレビューしたりなど、たびたびネット界を沸かせている。『日刊 SPA!』で連載を持つほか、『Books&Apps』、『SPOT』、『さくマガ』など、数多くのメディアに寄稿。いまもっとも売れているWEBライターと評され、各界のクリエイターや芸能人の中にもpatoファンを自称する人は多い。好きな言葉は、「人の心を動かすのは才能ではなく、真摯さとひたむきさ」。

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(ライター pato)

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