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誰もいない優先席に座ってはいけないなんて…ジョージア大使が驚いた「ルールに厳しすぎる」日本人の意見

プレジデントオンライン / 2024年8月2日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

日本の規範意識は海外からはどう見られているのか。「日本語の上手すぎる大使」としてSNSで人気の駐日ジョージア大使、ティムラズ・レジャバさんは「日本は世界的に見ても細かい決まりが多い国。暗黙のルールがたくさんあり、それに従うべきだという空気が強いと感じる。これは、日本人にとってもプレッシャーになっているのではないか」という――。

■日本企業などで見られる見事なチームワーク、裏を返せば?

日本文化や日本人にはすばらしい点がたくさんあります。前回の記事では、日本は「普通の人」のレベルがとても高いとお伝えしました。多くの人が社会人であることを強く意識していて、責任感やプロフェッショナル精神を持ち、ルールもきちんと守ろうとします。

私は日本の会社に3年ほど勤めましたが、そうしたレベルの人たちが見事なチームワークでもって高い組織力を発揮していました。これは日本の大きな強みだと思います。

しかし、裏を返せばそれだけ厳しい社会でもあるということです。皆が共通認識として持っている社会人像にはまらない人、暗黙のルールをきっちり守らない人に対しては、厳しい視線を向ける風潮がある。私のような外国人にとっては、こうした風潮は時にストレスやプレッシャーを感じるものでした。

例えば、以前こんなことがありました。私が誰もいない電車の優先席に座って読書している姿をX(旧Twitter)に投稿したところ、予想をはるかに超える反響があったのです。「優先席は誰もいなくても空けておくべき」といった注意や批判、それに対する反論などが巻き起こり、ものすごい勢いで議論が広がっていきました。

■電車の優先席は、他に人がいなくても座ってはいけない?

私は日本での生活が長いですから、電車の優先席は必要とする人がいれば譲るべき場所だということは当然知っていました。ですから、そこに誰も座っていないことと注意書きの文面を確認した上で、これはマナーを破る行為ではないと判断して投稿したのです。

議論が続く中、ほとんどの人は私を擁護してくれましたが、1割ほどの人は「空いていても座ってはいけない」と私を非難し続けました。優先席の周囲にそうした注意書きはなかったので、私はそんな暗黙のルールはおかしいと思いました。おそらく、それがルールだという思い込みが非難につながっているんだろうと。

日本は、世界的に見ても細かい決まりが多い国です。暗黙のルールがたくさんあり、それに従うべきだという空気も、社会での行動に対する監視も強いと感じます。これは、日本の方々にとってもプレッシャーになっているのではないでしょうか。

■「周りに迷惑をかけない」「相手に配慮する」のは美点だが…

もちろん、ルールをきちんと守るのは日本人のすばらしいところです。それがいい方向に作用することのほうが断然多いと思います。暗黙のルールの中には、自分の言動に責任を持つ、周りに迷惑をかけない、人の気持ちに配慮するといった日本人の美点につながるものも、たくさんあります。

先ほどの優先席の話なんて、その美点がたまたま裏返しの形で出ただけで、日本人が持つ基盤のすばらしさからすれば、ささいなことに過ぎないと思います。

それに、どんなにちょっとした決まりにも、それなりの理屈があるんですよね。私は日本の会社で働いていたときに、商習慣からビジネス上のコミュニケーションマナー、目的を達成するための段取り方法まで多くのことを学びました。

どれも社則などと違って明文化されているわけではないので、いわば社会人としての裏技のようなもの。でも、日本で会社員をしているうちに、それらを知っているのと知らないのとでは仕事の成果に結構な違いが出ることも、一つひとつにそれなりの理屈があることも知りました。会社員時代に学んだことは、いま駐日大使の仕事にも大いに役立っています。

とはいえ、暗黙のルールが多くプレッシャーが強い社会には生きづらさも伴います。ルールを守らなきゃいけない、周りに迷惑をかけちゃいけない、変な人だと思われちゃいけない……。気にし始めたらキリがありません。

■「それはダメ!」と決めつける前にいったん立ち止まって

いったんこうした空気に流されてしまうと、その思い込みが意識にしみつき、自分自身を縛ったり他者に強制したりすることにもつながっていきがちです。皆がもう少し気楽に、自分に対しても他者に対してもゆったりと構えたほうが、より生きやすい社会になるんじゃないかなと思います。

駐日ジョージア大使 ティムラズ・レジャバさん
撮影=市来朋久

「それはダメ!」と決めつける前にいったん立ち止まって、なぜダメなのか理由を探ってみてはどうでしょうか。自分の頭でしっかり考えてみるのです。その結果、理由を論理的に説明できなかったら、そのルールはおかしいということです。

確かに社会の風習や決まりごとは大切ですが、しっかり考えたうえでなら自分の論理に従うのがいちばん。それで変な目で見てくる人がいたら、変なのはその人のほうです。論理的でないルールを盾にプレッシャーを与えてくるような人に、無理して合わせる必要はないと思います。

■ジョージアの友人たちは自由に暮らし人生をエンジョイしている

ジョージアには、暗黙のルールも社会的なプレッシャーもあまりありません。日本に比べると皆かなり自由に、気持ちにゆとりを持って過ごしている気がします。そこがジョージアのいちばんの魅力であり、今後も大事にしたい部分です。

私はときどきジョージアに帰国するのですが、実はそのたびに少し落ち込んでしまうんです。自分としては、これまで日本で精いっぱいがんばった、身を削って働いたし自分なりに達成感もある、だから以前より少しは立派になったぞと思って、胸を張って帰るわけです。

ところが、帰国して友人に会うと、全員からものすごく自由で幸せそうな雰囲気がにじみ出ているんですよ。その雰囲気に圧倒されてしまって、「みんな僕より幸せそうに暮らしているじゃないか、僕のがんばりは何だったんだ」と思ってしまうんです。

あんな幸せそうな姿には、少し立派になったぐらいじゃとてもかなわない。そもそも立派になったという考え方自体、友人たちにはまったく通用しないでしょう。だから、ジョージアに帰るたび、自分が甘かったなと思い知らされるんです。いかに自由で幸せかという観点で見たら、友人たちのほうが勝ち組で私のほうが負け組だなと(笑)。

■若者はがんばらなくていい? 揺れ動いている現在の日本

私は日本の会社を退社後、ジョージアに戻ってビジネスをしていました。仕事も順調で楽しく幸せに過ごしていたので、いま思えばあのころは私も勝ち組でしたね。その後、縁あって駐日大使の役目をいただき、再来日するに至りました。

正直、ジョージアで暮らし続けたい気持ちもありました。でも、大切な使命をいただいたわけですし、国のために働けるなんて願ってもないチャンスですから、自分なりに精いっぱいがんばろうと思ったのです。その気持ちはいまも同じで、貴重な経験をさせてもらっていることにとても感謝しています。

駐日ジョージア大使 ティムラズ・レジャバさん
撮影=市来朋久

日本は私にとって第二の故郷であり、大好きな国です。最近はGDPが世界4位になったり円安が進んだりしているからと、自国に不安を持つ人が増えているようですが、日本には長い歴史と固有の文化、そして国民の底力があります。国を支える基盤がしっかりしているのですから、もっと自信を持っていいと思います。

ただ、現状に甘んじているうちにズルズル落ちていってしまう可能性もゼロではありません。例えば最近の日本では、皆が若い人たちに対してすごく気を使っていますよね。上司はより優しく、労働時間はより短く、無理な仕事は極力させなくなっている。「がんばって成長しよう」から、「がんばらなくていいんだよ」という方向へ変化しているように感じます。

■いまの日本の経済的地位は“伝統的な勤勉さ”があったから

もちろん、それも正しいです。働き方改革やハラスメントの防止、コンプライアンスの遵守などはとても大事です。でも、いまの日本があるのは、かつて多くの社会人がしていた“伝統的な働き方”があったからだということも、忘れないほうがいいと思うのです。

若い人に合わせて変革しながらも、伝統的な働き方もある程度のバランスで残しておいたほうがいいのではないでしょうか。あまりにも配慮しすぎると、日本の強みである国民の底力が、やがて失われてしまう可能性もあります。

ティムラズ・レジャバ『日本再発見』(星海社新書)
ティムラズ・レジャバ『日本再発見』(星海社新書)

結局のところ社会は厳しいものですし、いまは国際競争も激しい時代です。その中で上を目指そうと思ったら、やはりある程度はがんばらなくてはなりません。これはどこの国でも同じです。

特に日本は、レベルの高い「普通の人」たちががんばって働くことで経済大国になった国です。これは世界的に見てもまれな例で、本当にすばらしいことだと思います。なのに、もし日本人が誰もがんばらなくなったら……。私は「どうした日本!」と思ってしまうでしょう。

私は将来も、ジョージアと日本の人や企業の交流を促進する仕事を続けたいと思っています。長年日本に暮らして、人々の仕事への姿勢やプロフェッショナル精神のすばらしさはよく知っていますから、ぜひ共に働きたいですね。それに日本の歴史や文化も大好きで、いまなお興味は尽きません。

また、ジョージアも日本に勝るとも劣らない素晴らしい文化を持っています。だからこそ両国の交流が意義深いものだと思っています。加えて、私からのささやかな思いですが、日本の皆さんが自分たちの強みや文化の特別さに自信を持ち、今後も世界の中で存在感を発揮し続けていくことを期待しています。

駐日ジョージア大使 ティムラズ・レジャバさん
撮影=市来朋久

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ティムラズ・レジャバ 駐日ジョージア大使
ジョージア出身。1992年に来日し、その後ジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。2011年9月に早稲田大学国際教養学部を卒業し、12年4月キッコーマンに入社。退社後はジョージア・日本間の経済活動に携わり、18年ジョージア外務省に入省。19年に在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、21年より特命全権大使。著書に『大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ』(星海社、共著)など。

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(駐日ジョージア大使 ティムラズ・レジャバ 取材・構成=辻村洋子)

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