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「1万円の宿泊規程」では出張もできない…「東京のホテル平均3万円超え」が示すインバウンド需要の大変化

プレジデントオンライン / 2024年7月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ratth

■過去最高だった2019年を上回るペース

7月19日、政府観光局(JNTO)は6月の訪日外客数(推計値)を発表した。それによると、6月単月でわが国を訪れた外国人は313万5600人、1月~6月期の累計来訪者数は1777万7200人だった。

今年上半期の来訪客数は、過去最高だった2019年の同時期を100万人以上上回った。来訪客数が増えている分、インバウンド需要も着実に増加している。国・地域別にみると、コロナ禍の発生以前に最大だった中国の割合が低下し、米国、欧州諸国など相対的に所得水準の高い国からの来訪者が増えた。

足許の国内経済を見ると、個人消費は盛り上がりに欠けている。米国向けの自動車の輸出は堅調を維持しており、人手不足に対応する省人化や半導体関連分野が堅調な展開になっている。それに加え、訪日外客数の増加に対応するため設備投資を行うホテルなども増えた。盛り上がるインバウンド需要を反映して、百貨店などの企業業績も改善傾向にある。

円安傾向が続いていることもあり、当面、訪日外客数は増加傾向で推移することが予想される。ただ、景気低迷が続く中国からの訪日客が、今後、どのような展開になるかは気になるところだ。インバウンド需要の重要性が高まっていることもあり、これからの来訪客数の推移が注目される。

■ペントアップ需要と円安でどんどん日本にやってくる

コロナ禍の発生により、わが国のインバウンド需要は一時大きく減少した。2019年、3188万2049人だった訪日外客数は2020年に前年比87.1%減の411万5828人、2021年は同94.0%減の24万5862人まで落ち込んだ。

2022年10月、政府は個人旅行の受け入れ、査証(ビザ)免除措置の再開等を実施した。そうした措置に加えてコロナ禍が下火になり、インバウンド需要は持ち直し、2022年通年は383万2110人に増えた。

【図表】訪日外客数 月別推移(2017年〜2024年)
JNTOプレスリリースより

感染防止のために世界各国が実施したソーシャルディスタンスや入国制限が解除されるに伴い、自粛してきた海外旅行を復活させたいというペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)により、わが国のインバウンド需要は急回復し、2023年の訪日外客数は2506万6350人に増加した。

円が独歩安の展開になったことも追い風だ。今回の円安トレンドでは、2021年の年初から今年6月末まで、主要先進国、中国などの新興国の通貨に対して円は独歩安だ。

■中心だった中国客が減少し、欧米客が増加

円安により、来訪客はわが国で割安にモノを買い、サービスを受けることができる。1ドル=100円の時、1万円の買い物をするためには100ドル必要だ。1ドル=150円に為替レートが変化すると(ドル高・円安)、66.66ドルで済む(外貨両替手数料はゼロと仮定)。アジアから東京を訪問する観光客の中には、自国よりも日本で欧州の高級ブランドバッグなどを買ったほうが安く済むと話す人も多い。

そうした円安の効果もあり、今年上半期、来訪客数は急速に伸びた。国ごとに訪日者数を確認すると、コロナ禍前後でその顔触れは大きく変わった。2019年、訪日外客数の30.1%は中国(香港を含むと37.3%)だった。それに対して、欧州は6.2%、米国は5.4%程度だった。

今年1~4月の累計で中国は17.5%(香港を含むと23.6%)と減少した。韓国と台湾からの来訪者の水準に大きな変化はない。それに対して欧州は8.6%、米国は7.5%だった。

中国ではゼロコロナ政策、不動産バブル崩壊などで景気は停滞気味だ。一方、米国経済は実質賃金の上昇により個人消費は底堅さを保った。わが国同様、スペインやイタリアでも中国人観光客は減り、米国などからの来訪客は増加傾向にある。

■「1万円の宿泊規程」では出張もできないほど高騰

海外からの観光客などの増加は、これまで内需関連といわれた企業の収益環境を変化させている。影響が波及するのは、宿泊、百貨店など幅広い。宿泊業界ではホテルの平均客室単価が上昇傾向だ。

米コスターグループ傘下のSTRによると、2024年4月、国内ホテルの平均客室単価は前月比4.7%上昇の2万1902円だった。東京は3万3344円、1996年以降の最高水準に上昇した。欧米からの長期滞在客の増加もあり、宿泊料金は押し上げられている。

5月の客室単価は、花見客の減少などにより全国平均で2万299円に下落したものの、水準自体は相対的に高めだ。宿泊料金の上昇により、国内出張時の宿泊費の規定(1万円程度)を見直す国内企業も増えた。

来訪客の影響もあり、百貨店の売り上げも伸びている。日本百貨店協会によると、5月の全国百貨店の売上高は前年同月比で14.4%増加の約4692億円だった。27カ月連続で売り上げは増えた。インバウンド関連の売り上げに限ってみると、同231.2%増の約718億円に増えた。2014年10月にデータの公表が始まって以来の最高額を3カ月連続で更新した。

■ハイブランド品、聖地巡礼…二重価格を設定する店も

円安効果に加え、5月は中国の労働節の連休によって主に個人観光客が増えたことも押し上げ要因になったようだ。百貨店向けのインバウンド需要は、コロナ前の2019年比でも132.4%増加した。

品目別にみると、ハンドバッグ、財布、宝飾、時計、化粧品など、比較的価格帯の高い商品を買い求める海外からの来訪者が多い。東京など大都市だけでなく、九州や沖縄などでもインバウンド需要で百貨店の収益は増えた。

2024年版「観光白書」によると、スポーツ観戦やアニメの中に登場した場所をめぐるための消費(コト消費などといわれる)も増えている。それに伴い、交通関連の支出が増加するという波及効果も出ているようだ。

インバウンド需要に対応するため、“二重価格”を設定するケースも増えた。二重価格とは、地方自治体や企業などが訪日外国人向けのモノやサービスの価格を、日本人よりも高くすることをいう。収益性の向上を目指して、今後は海外からの来訪客の増加が期待できる場所を中心に出店する方針の外食企業も出始めた。

嵐山竹林公園を人力車に乗って楽しんでいる観光客
写真=iStock.com/krblokhin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/krblokhin

■インバウンドは「自動車」に次ぐ重要産業になる

現在の世界経済の環境が続くとすれば、これからも訪日外客数は増加基調で推移する可能性は高い。2024年上期のペースが続くとすると、本年の訪日外客数は3500万人を上回るとの予想もある。それが実現になると、統計開始来で最高だった2019年を上回ることになる。

その場合、訪日客による消費額は8兆円に達しそうだ。主要な輸出品目と比較すると、インバウンド関連の消費額は鉄鋼(2023年の実績は、4.5兆円)、半導体や電子部品(同5.5兆円)を上回り、自動車(同17.3兆円)に次ぐ規模になると予想される。飲食、宿泊、交通などの分野でインバウンド需要に対応するための人手を確保する企業も増えるだろう。

国内の個人消費が盛り上がらない状況下、わが国経済にとって訪日外客数増加の重要性は高まる。政府もそうした認識を持っており、2030年までに訪日外客数6000万人の実現を目指すという。

観光関連分野の持続性を高めるため、政府は海外から地方への動線の整備を進める方針だ。一人当たりの消費額を引き上げるため、高級リゾートホテルなどの誘致政策も進める。

■「爆買い」が終わった中国客の次の動向は

ただ、来訪客の増加について不確実な要素もある。一つには、中国からの来訪者がどうなるかだ。2023年8月、中国政府はわが国向けの団体旅行・パッケージツアー商品の販売を再開した。ただ、コロナ禍前のように、クルーズ船で中国人観光客が来日し日用品や家電などを大量に購入する(一時、爆買いと呼ばれた)光景は見られなくなった。

中国の家計貯蓄率は約35%(2019年)、うち約7割が不動産とみられる。住宅価格の下落、債務返済負担の増加、雇用・所得環境の悪化など先行きの不透明感から、支出を減らそうとする中国の消費者は多い。

今後の中国経済の展開も、わが国のインバウンド需要の増加に無視できない影響を与えるはずだ。また来訪客の増加に大きく寄与してきた、円安傾向が変化することも考えられる。もし為替に大きな変化が出るようだと、来訪客の推移に影響が出ることも考えられる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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