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「潰れるどころか絶好調」レンタルビデオの雄だったゲオが、「古着ビジネス」で見つけた新しい鉱脈

プレジデントオンライン / 2024年8月3日 10時15分

アメリカ南部カリフォルニア州にあるセカンドストリートのロングビーチ店。 - 筆者撮影

レンタルビデオ店で知られる「GEO」の運営会社が急成長を続けている。リユース事業を担う傘下の古着店「セカンドストリート」が好調で、海外での店舗拡大を急ピッチで進めている。成長の理由はどこにあるのか。ライターの宮﨑まきこさんがアメリカ・ロサンゼルスで取材した――。

■ゲオ傘下の「セカンドストリート」が急成長している

「ロサンゼルスやニューヨークで、古着のセカンドストリートが大人気らしい」そう聞いたとき、失礼ながら「あのセカストが?」と思った。

セカンドストリートといえば、自宅から車で10分のバイパス沿いにある、排気ガスで少しかすんだ白と赤の看板が思い浮かぶ。いい服を安く買える我ら庶民の強い味方ではあるが、「おしゃれ」や「流行最先端」というイメージはない。

一方、ニューヨークやロサンゼルスといえば、多くのセレブリティやインフルエンサーが暮らす、世界のファッション最先端の街。まずはイメージのギャップに戸惑った。

しかも、運営するのはかつてのレンタルビデオショップの雄、ゲオホールディングスだ。レンタルビデオ業界は、サブスク制の動画配信事業に押され、もはや斜陽産業といわざるをえない。2007年に3404億円あった市場規模も、2023年には417億円にまで減少している。いまではあの黄色と青の看板に、懐かしさと若干の哀愁を感じるようになっていた。

ところが同社の2024年3月期の連結決算書を見てみると、売上高は前期比115%となる4338億円と、過去最高を更新している。この牽引役が国内外のアパレルリユース事業だという。特に国内市場1位のセカンドストリートの勢いはすさまじく、店舗数は800を数える。売上は次席のZOZOを450億円以上引き離し、約600億円に上る(2023年リユース経済新聞調べ)。

【図表】国内の店舗数推移
ゲオホールディングス「2024年3月期 決算説明資料」より

■売り上げ、店舗数は右肩上がり

国内だけではない。2018年1月に海外初店舗となるロサンゼルス・メルローズ店をオープン。以降、右肩上がりの成長を続け、アメリカの店舗数は37(2024年6月時点)になった。

【図表】海外2nd STREET売上高推移
ゲオホールディングス「2024年3月期 決算説明資料」より

「セカンドストリートUSA」のインスタグラムフォロワー数は23万人。ちなみに国内アカウントのフォロワー数は6.2万人、40店舗以上展開するアメリカ最大規模の古着チェーン店「バッファローエクスチェンジ」でも、13万人だ。

インスタグラムがビジュアルに訴えるSNSであることを考慮すると、アメリカでファッション感度の高い人たちの支持を多く集めていることがうかがえる。

日本では「おしゃれ」というより「身近」で「手頃」なイメージを持つセカンドストリートが、なぜアメリカの流行最先端で支持されているのだろう。

「安かろう、悪かろう」のアメリカ古着業界で、店内の清潔さや古着の品質、スタッフへの教育など、「日本的な店舗運営」が評判を呼んだのか。日本独自の尖ったファッションセンスが受け入れられたのだろうか。政府の「クール・ジャパン戦略」と何か関係があるのだろうか――。

そう疑問や予想を立てながら、同社がアメリカ第1号店出店の地に選んだ、カリフォルニア州ロサンゼルスに飛んだ。

■アメリカの古着店をのぞいてみると…

ロサンゼルス市内、メルローズ・アベニューは、古着屋やセレクトショップが並ぶファッション激戦地であり、アメリカ西海岸の流行発信地でもある。ハリウッドやビバリーヒルズといった、日本でも耳なじみのある地域からもほど近い。

爆音でラップ・ミュージックを流したアメ車が、乾いた砂埃を上げて目の前を通過する。日本ではほぼ嗅ぐことのない甘ったるい煙の臭いに、文化の違いを感じた。治安の悪さと紙一重のヒップホップな雰囲気が、いかにもアメリカらしい。石造りの壁にカラフルでポップなストリート・アートが目立つ、インスタ映え間違いなしの街だ。

セカンドストリートを訪れる前に、いくつかの古着ショップを訪れてみた。

アメリカ最大規模の古着チェーンであるバッファローエクスチェンジ、同じメルローズ・アベニューにあるウエストランドや、一部古着好きに支持されているジェットラグなど。アメリカの古着店は、どのようなものなのだろうか。

どの店も想像したより清潔だった。服には、ところどころにほつれやシミが見られるものもあるが、古着であることを考えればそれほど悪いとは感じなかった。店内にはいくつか服の山ができているものの、シャツ、パンツ、ジャケットなどのジャンルや季節ごとに分けて陳列されていた。

セカンドストリートのアメリカ進出から、すでに6年が経過している。その間に競合店もそのスタイルを真似、古着の質や陳列方法を改善したのだろうか。「日本の店と比べたらカオス」と話に聞いていたが、実際は異なっていた。

メルローズ店
筆者撮影
米ロサンゼルス市内にあるセカンドストリート・メルローズ店。北米進出の第1号の店舗だ。 - 筆者撮影

■値段やブランドごとに並んでいた

その足でロサンゼルスにある2つの店舗に向かった。いずれも日本人スタッフもいなければ、日本人客もいない。日本のブランドもいくつかあるが、それほど「日本推し」をしているようには見えない。

「売れ行きがいいのは、やはりシュプリームやルイ・ヴィトン、グッチやシャネルなどのブランド品です。日本のブランドのベイプやコム・デ・ギャルソン、アンダーカバーなども人気ですね。ビンテージ服は、日本で古着ショップを営む方が買いに来ることもよくあります」

海外1号店・メルローズ店を案内してくれたのは、2018年から勤務しているマーチャンダイジング・スペシャリストのノアさんだ。

店内の様子
筆者撮影
メルローズ店の様子。古着や靴などが所狭しと並んでいた。 - 筆者撮影

店内に足を踏み入れてまず気づいたのは、古着の展示方法の違いだった。店内は、Tシャツやパンツなどのジャンルや季節ごとに分けられ、人気のあるシュプリームなどのブランドや日本のブランド、コム・デ・ギャルソン、ベイプなどが別の棚にまとめて展示されている。

さらに店の奥には手頃な価格帯の商品がジャンルごとに並べられ、手の届かない上部の壁には、目立つようビンテージ物の服を掛けてある。店の中央には鍵付きのガラスケースが置かれ、グッチやルイ・ヴィトンなどの革製品が展示されていた。

他の古着ショップでは値段やブランド別には分かれていなかったため、30ドル、50ドルのファストファッションの中に、突然100ドルを超えるブランド物が現れることもあった。ちょっとした宝探しのようなおもしろさはあるが、予算に限りのある客や、お目当てのブランドが決まっている客にとっては探しにくいだろう。

しかし、この陳列方法ならば、突然高額な商品を引き当てることもなければ、お目当てのブランドを探し回ることもない。どちらが客にとって利便性が高いかは一目瞭然だ。

筆者撮影
きれいに並べられた古着。ブランドごとに並んでいるため、客が目当ての商品を探しやすい。 - 筆者撮影

ならばなぜ、他の店でもその陳列方法を採用しないのだろうか。店内の様子をしばらく観察していると、その理由が見えてきた。

■周りを見渡すとスタッフが声をかけてくれる

アメリカでは、日本のように自分で広げた服を元に戻す客は少ない。

様子を見ていると、観光客らしい若い女性グループが床に座りこんで商品を広げた後、そのまま商品を放置して移動した。日本ではまず見かけない光景に、カルチャーショックを受けた。なるほど、他の古着ショップで見た服の山はこうやってできるのかと、腑に落ちた。

すぐにスタッフが駆け付け、散らばった古着を拾い集めた。

しかし、同じTシャツでも、同じ棚に戻せばいいわけではない。シュプリームはシュプリームの棚に、ノーブランド品は奥の低価格帯のTシャツの棚にと、それぞれ戻さなければならない。要するに、客にとってわかりやすい陳列は、その分スタッフ側の手間を増やすのだろう。

スタッフの数も、他の古着店よりかなり多く配置されている。それほど広くない店内で、マネキンの服を着せ替えている人、服を元の棚に戻している人、そしてレジカウンターの奥にも3、4人のスタッフがいる。前に訪れたジェットラグでは、広い店内でレジ周り以外でほとんどスタッフを見かけず、試着室を探すのに苦労したが、ここでは周りを見回すようなそぶりをすれば、誰かが必ず声を掛けてきた。

店内の様子
筆者撮影
他店よりもスタッフが多く、丁寧な接客が印象的だった。 - 筆者撮影

ノアさんに、店の査定方法について聞いてみた。

「メルローズ店ではストリートファッションブランドを特に多く扱っているため、各ブランドがいくらで売買されるかを毎日見ています。また、オンラインでの取引価格も参考にしていますね。例えば、シュプリームのTシャツがオンラインで60ドルだったとします。うちでは59ドルで出すこともあれば、状態によっては39ドルにすることもあります。本当に物の状態や状況によって、現場で臨機応変に値段を決めているんです」

高額な商品は最上段に並んでいた
筆者撮影
高額な古着は最上段に並んでいた。 - 筆者撮影

■米セカストでは買取価格をスタッフの裁量で決める

ノアさんによれば、現在メルローズ店には日本のブランドも含めて8000点以上の商品があるが、その95%以上が現地で売買された古着であり、現在では日本から補充した商品はほとんどないという。メルローズ店には観光客が多い。購買欲も高く、ファッションに対する許容度も広いため、尖ったセンスの服も扱っているという。

きれいに並べられた古着
筆者撮影
店内には8000点以上の商品があるという。これらのほとんどがアメリカで調達した中古品だ。 - 筆者撮影

次に訪れたロングビーチ店では、観光客よりも地元客が多い。平均的な服が選ばれやすく、顧客単価もメルローズより低いという。店の周辺には銀行や美容院、カフェなどが並び、ラフな服装の女性が大きな犬を散歩させていた。

店内の広さはメルローズ店の2倍ほどだろうか。小さな子どもを連れた休日のお父さんらしき男性客が、Tシャツの棚を探っていた。メルローズ店よりも明らかに落ち着いた服装の客が多い。

ロングビーチ店の中の様子
筆者撮影
メルローズ店から南へ約40キロ。ロングビーチ店に移動して話を聞いた。 - 筆者撮影

たくさんの客が出入りする午後の忙しい時間帯に、リージョンマネジャーのダコタさんが対応してくれた。

「セカンドストリートでは、現場のバイヤーが買い取り価格を決められるよう、トレーニングを受けています。だからこそ、お客さまも信頼して高価格帯のラグジュアリーアイテムを売買してくれるのでしょう。そして、高級品がこれだけ集まっているのを見れば、また正規品を売りたい人が集まってきてくれる。この好循環ができているのだと思います」

■「これなら勝てる」と確信した

確かにアメリカの古着店よりも商品陳列など工夫されている点もあるが、素人目から見て、それ以外に大きな違いは見当たらない。特に「日本推し」をしているわけでもない。いったい何がセカンドストリートの成功要因なのだろうか。現地法人CEOの菊地雅浩さんにさらに尋ねた。

菊地さんはアメリカ進出を計画した張本人であり、いまも現地で指揮を執っている。2014年、バッファローエクスチェンジを数店視察した時に、「これなら勝てる」と確信したという。

「まずは、取り扱っている商品の幅が極端に狭かったんです。当時バッファローエクスチェンジでは、だいたい5ドルから30ドルぐらいまでの商品をメインに扱っていて、50ドル、100ドルといった商品がほとんどありませんでした。量産されたマス向けのものとして世の中に流通しているものばかりを扱っていましたね」

それは、当時のアメリカの古着ショップ市場全体にも当てはまる傾向だった。その理由を菊地さんは、リスクを避けるためだと推測する。

「規模の大きな古着チェーンにとっては、高い物を買って在庫で抱えることは大きなリスクです。正しく査定して、売り切る技術がないからこそ、売れるとわかっているものしか扱っていないのだろうと予測しました」

筆者撮影
セカンドストリートでは300ドルを超えるビンテージの服やブランドバッグなども販売している。 - 筆者撮影

■「一律30%で買い取る」がアメリカの常識だった

さらに、服を売りに来る顧客とのやり取りにも違いがみられた。

「アメリカではだいたいどこの店も、リセール価格の30%で買い取るのが基本なんです。それに、売れるものしか買い取らないので、売りに来ても持ち帰るお客様が多かったですね」

古着文化が浸透しているアメリカで、当時はどの店も自ら値付けする眼力を持っておらず、どんなコンディションでもどのカテゴリーでも、一律30%でしか買い取りできていなかった。しかも、マス向けの量販品ばかりを扱い、それ以外の商品を客が持ってきても受け取らない。ハイブランドや尖ったファッションセンスの服がなければ、ファッション感度の高い人たちの支持は得られないだろう。

「おそらく、査定が難しいのでしょう。たとえばスニーカーや中古車のように型式があるものであれば、価格を調査しやすいのですが、服は種類もカテゴリーも素材も無限にありトレンドも加味するので、一定の価格設定を決めにくいんです」

店内の様子
筆者撮影
古着を買う人、売る人で店内はにぎわっていた。 - 筆者撮影

だからといって、顧客に潜在的な欲望がないわけではない。査定額に納得のいかない顧客や、売れずに突き返された服を抱え、不満を抱く顧客も多いはずだ。アメリカのリユース市場は、店側の都合で展開されており、顧客の要望に応えられていない――。

セカンドストリートの仕組みを日本から持って行けば勝てると、菊地さんは確信した。

■他社がマネできない、日本独自の「空気を読む査定」

型式もなく、カテゴリーも無限にある古着。古着大国であるアメリカになかった査定の仕組みを、セカンドストリートは「非常に日本的な方法」で、独自に構築していった。

「この商品はこの価格で売れるという中心価格をまずは(スタッフに)教え込んでいくんです。すると、前にあの商品がこのくらいで売れたから、新しく出たこの商品はこのぐらいで売れるだろう、と予測ができるようになる。訓練を積んでいくと、同じ商品でもこのくらいの品質ならいくらで売れる、という『感覚』が、身についてくるんです。これを私たちは『感性の標準化』と呼んでいます。はっきりとした正解がないものに対し、全員がほぼ同じ値段をつけられるように感性を統一化するのは、『空気を読む』ような作業に近い。これが日本的なんでしょうね」

この『空気を読む査定方法』は、セカンドストリートがかつて日本で実践していた方法だった。「模倣の困難性をいかに持つかが、その会社の強みだ」と、菊地さんは語る。まねることのできない独自の査定方法は、日本でもアメリカでも、セカンドストリートの強みとなったのだろう。

レジのスタッフは忙しそうだ
筆者撮影
客と対話しながら査定するアメリカでは、「空気を読む」柔軟な査定が受け入れられているようだ。 - 筆者撮影

現在日本法人では、システム化により本部で一元的に価格を調整できるようになった。アメリカ法人でも売買情報や顧客滞在時間など個別のデータ管理はしているものの、現在でも現場スタッフが顧客と対話しながら、『空気を読む査定』で価格を決めている。

■売りたくても売れない…客の不満に応えた

また、同社では顧客が持ち込んだものを基本的に全部買い取っている。買い取っても店で扱えないものは、安値で買い取ってくれる業者に販売するか、途上国に寄付するなどしているという。

「うちでは高い物にはリセール価格の50%をつけることもあれば、安い物には10%以下をつけることもあります。お客さまはたいがい、高い物と安い物を一緒に持ってこられるので、一律30%しかつけられない店と比べると、総合的にうちの方が高く売れるんです。さらに全部買い取るので持ち帰りもありません」

売値の30%、しかも売れ筋のよい平均的な商品しか買い取らないなど、店舗側の都合によってビジネスを展開するアメリカの古着店に対し、セカンドストリートは柔軟に価格を設定し、持ち込んだ商品は全て買い取る「顧客本位」にこだわった。

メルローズ店開店から約3カ月後、買取の持ち込みは1.6倍程度まで増加。どちらに売るのが得か、客が理解するのに時間はかからなかった。

取材に応じてくれたロングビーチ店のスタッフ
筆者撮影
取材に応じてくれたロングビーチ店のスタッフ。向かって右がリージョンマネジャーのダコタさん。 - 筆者撮影

■コロナ禍がもたらした店舗急拡大

セカンドストリートの人気を確固たるものにしたのは、ニューヨークでの出店と、直後に発生したパンデミック下での戦略だった。

2020年2月22日、マンハッタンの中心地にあるノーホー地区に6店舗目をオープン。ここで菊地さんは、あえて競合店であるバッファローエクスチェンジの隣に出店した。

目的は単に話題作りだけではなく、当時わずか6店舗だったセカンドストリートが、40店舗以上展開するバッファローエクスチェンジと肩を並べる存在であることを示すことにもあった。有名人やインフルエンサーを集めたオープニングレセプションを大々的に開催したことも、流行感度の高いニューヨーカーたちの耳目を集めることに貢献し、ノーホー店は予想以上の好スタートを切った。

その1カ月後、新型コロナウイルスによるパンデミックが世界中を襲い、全店舗が一時閉店を余儀なくされる。しかし、このコロナ禍が、セカンドストリートがアメリカで急成長する転機となった。

カリフォルニア州では2020年3月19日から、ニューヨークでは同月23日からロックダウンが始まった。ロックダウン中の4月の失業率は世界恐慌以来最悪の14.7%を記録し、多くの人が職を失ったが、一方で全く影響を受けない層もいた。仕事をリモートに切り替え、旅行も買い物も制限された人々のお金は、株式投資やオンラインショッピングに流れた。

■SNSで知名度を一気に高めた

「ECサイトでの売れ行きを見て、これはロックダウンが解除されたら即店を開けなければならないと確信しました。外出許可が出たらすぐに買い物に出たい顧客がたくさんいるだろうと考えたんです」(現地法人CEO・菊地さん)

そこで菊地さんは、カリフォルニア州のロックダウンが解除された直後、メルローズ店のオープンに踏み切った。他の店舗がほぼ閉まっているなか、店が開いていることが口コミで広がり、購買欲求を数カ月間ため込んだ客が店に押し寄せた。

ロングビーチ店の中の様子
筆者撮影
コロナ禍で自由に買い物ができなかった。その反動がセカンドストリートの追い風になった。 - 筆者撮影

客数こそロックダウン前より少ないものの、売上は前年(ロックダウン前2019年)と比較して1.5倍に上昇。さらに、アメリカ政府から2020年3月、12月および2021年3月に、一人当たり最大1400ドルの給付金が配られたことも、各店の売上上昇に拍車をかけた。オンラインからの購入者が増えたことから、この時期にECサイトを強化。

また、SNSを得意とするスタッフを積極的に採用して日々の運用を任せ、インスタグラマーと積極的にコラボするなどして知名度拡大を図った。2021年4月からはTikTokも開始してインスタグラムと連携させるなど、SNSマーケティングに力を入れた。その結果、ニューヨーク出店前には4000人だったフォロワーが、4年後の2024年には23万人まで増加している。

この成功により、2018年から毎年2、3店舗ずつ増やしていた出店数は、2022年にはプラス13店舗、23年にはプラス12店舗と一気に拡大していく。

「以前古着店を利用したことのある700人に対して、セカンドストリートの知名度調査をおこなったところ、LAでは80%台後半、NYでは95%を超えました。まだ出店していない州からも、インスタのDM経由で『早くうちの州にも出店してほしい』と要望が次々と届くようになっています」

ロングビーチ店の中の様子
筆者撮影
SNSの効果もあり、一気にアメリカ市場で知名度を高めることに成功した。 - 筆者撮影

■世界1780億ドルのマーケットを狙う

客のニーズに合わせた店舗運営は、日本国内で競っていくには欠かせないことのように思える。なぜこれが、古着文化の根づいたアメリカで実践されてこなかったのか。そう尋ねると、菊地さんも首をひねった。

「私たちも不思議だったんです。古着でも品質がよく自分好みに合うものがほしいという潜在的な欲求は、アメリカにもあったと思うんですよ。でもその顧客ニーズに対応する店がなかった。そこに私たちが培ってきた技術と経営方針がうまくはまったのでしょう。私たちのやり方を見て、競合店も次々と商品の幅を広げていますが、やはり実績がないので、査定が難しいようですね。『まだここまでは踏み込めていないんだな』というのが、商品を見ればすぐにわかります。まだebayやGrailedの値付けを見て査定している程度じゃないでしょうか」

セカンドストリートの快進撃は、アメリカだけに留まらない。既に台湾では30店舗、マレーシアでは17店舗を展開、2023年12月にはタイにも初出店を果たし、世界の古着リユースマーケット約1780億ドル、日本円にして28兆円を狙う。

Supremeの棚
筆者撮影
日本で培った査定や接客が、急ピッチで進む海外展開の原動力になっている。 - 筆者撮影

■かゆいところに手が届く国、日本を再認識した

当初の予想とは少し違ったが、セカンドストリートは「空気を読む査定」と「顧客中心の接客」という、とても日本らしい戦略でアメリカ市場を切り拓いていた。

アメリカに長期間滞在していると、かゆいところに手が届かず、もどかしい状況によく遭遇する。あらゆる商品の袋は開けにくいし、トイレットペーパーには切れ目が入っていない。シャワーは壁に固定されていてお湯をあてたい場所に届かないし、コンビニではレジ係が休憩中でレジに長蛇の列ができることもある。日本人がアメリカへ行くと、あらゆる「小さな不便」に直面するのだ。

そんな「小さな不便」は、日米の「働くこと」に対する意識の違いが反映されているように思う。アメリカでは働く人がみな、「楽しく働く」ことを重視しているように見えた。誰もがどこかの従業員なので、過度なサービスは提供しない代わりに、相手にも求めない。良い意味でも悪い意味でも、働く人を中心に店や会社が回っているように感じるのだ。

対して日本では、「お客さまは神様」という言葉があるように、いかに顧客ニーズに応えるかが市場の競争原理のひとつになっている。ときに働く側に負担をかけることもあるものの、誰もが顧客側に回れば、より質の高い商品やサービスを受けられる。

セカンドストリートがアメリカで躍進を続けているのは、「小さな不便」のスキマにピタリと入り込み、「日本人らしい」サービス形態を無理なくローカライズさせることができたからだろう。

■ゲイシャ、フジヤマだけじゃない…日本企業の本当の強み

菊地さんは言う。

「日本からアメリカに進出する店を見ていると、『日本らしさ』を強く演出しすぎていると感じることがあります。しかし、どこの国でも現地に合わせることが重要だと、私たちは考えています。たとえばラーメン店でも、日本の味をそのまま持ってくると、現地では日本人にしか受けないんです。現地の人にとってはちょっと脂っぽすぎたり、しょっぱすぎたりする。現地に調和しつつ、現地になかなかなくて、潜在的に顧客が望んでいるものをお届けすることが大事なのではないでしょうか」

日本が海外から求められるものは、「ゲイシャ」や「フジヤマ」、「アニメ」や「ラーメン」だけではない。日本人の文化や特性、習慣などが、思いがけず海外需要にマッチすることがある。企業努力として当たり前のように培ってきた技術やサービスでも、海外のニーズにぴたりとはめることができれば、世界シェアを狙える余地は、まだあるのかもしれない。

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宮﨑 まきこ(みやざき・まきこ)
フリーライター
立命館大学法学部卒業。2008年より13年間法律事務所勤務後、フリーライターとして独立。静岡県在住。

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(フリーライター 宮﨑 まきこ)

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