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報告書が山積みなのに見もしない…パソコンのない時代に松下幸之助が「ムダな書類」を仕分けしたシンプルな方法

プレジデントオンライン / 2024年8月6日 8時15分

中曽根首相(当時)と会談する松下幸之助=1983(昭和58)年3月26日、首相官邸 - 写真=共同通信社

パナソニック創業者の松下幸之助は、どのような働き方をしていたのか。PHP理念経営研究センターの編著書『松下幸之助 感動のエピソード集』(PHP研究所)より、一部を紹介する――。

■幸之助が自転車置き場でしていたこと

電池式のナショナルランプが普及しつつあった昭和初期のことである。

幸之助が訪れるというので、四国のある代理店の主人が船の着く桟橋へ迎えに出た。改札口から見ていたが、タラップを下りてくる大勢の人の中では、小柄な幸之助をなかなか見つけられない。

ようやく見つけ出して合図を送ると、幸之助もそれにこたえた。ところがそれからいつまでたっても、幸之助は姿を現わさない。不審に思った店主は幸之助を探し始めた。

なんと、幸之助はもう日没が迫っているというのにひとり、桟橋横の自転車置き場で、無灯火の自転車が何台、電池ランプつきが何台と、一所懸命にその数を調べていた。

■「血の小便」を出したことがあるか

系列の代理店、販売会社の社長懇談会が開かれたときのことである。

一人の社長が切々と訴えた。

「最近、商売が思わしくなく、儲からなくて困っています。何かいい方法がないものでしょうか」

その会社は、40年にわたって、松下電器の代理店として実績を上げてきた会社であった。幸之助は尋ねた。

「あなたは、お父さんの店を引き継いで、すでに二十数年になりますな。現在では4、50人の社員を使っておられる。この不況の中で利益が上がらないというのも一面無理からぬことかと思います。しかし、あなたはこれまで、小便が赤くなるほど心配されたことがありますか」

「いえ、私には、まだそういう経験はございません」

そこで幸之助は、こんな話をした。

「それはいけませんな。あなたのお店がうまくいっているのなら、なにも小便を赤くすることはありません。しかし、40年も続いているお店が、あなたの代になって、非常にむずかしい事態に直面している。そんなときに、まだ小便が赤くなるほど心配もしないうちから、儲からないからなんとかならんかと訴えるのは、間違っているのではないですか。

かりにも、4、50人の社員の将来というものを背負っている社長としては、決して十分尽くした態度とは言えないと思います。今日のようなむずかしい環境の中で小便が赤くなるほど心を労せずして、商売を発展させ、4、50人の人たちの安定をはかる道は、そうあるものではありません。

世の中はそれほど甘くはないと思います。ですから私はここで、製品を安くしましょうとか、メーカーとしてなんとかしましょうなどと言うことはできません。それこそ、あなたご自身が、まず、どうしたら利益を上げることができるか、小便が赤くなるまで真剣に考えていただきたい。そうすれば道は必ず見つかるはずです」

■問われていたのは「トップの姿勢」

この真剣な幸之助の直言は、半年後、その社長からのこんな報告となって実を結んだ。

「松下さん、ほんとうにありがとうございました。あれから私は、会社に帰ってすぐ全社員を集め、松下さんからこういうことを言われた。だから自分はきょうから生まれ変わって仕事をするからみんなも協力してほしいと宣言して、毎日の仕事に打ち込みました。

仕事がすんでから小売店を2、3軒ずつまわって商品の陳列を直したり、掃除を手伝ったりすることも日課に加えました。おかげで、社員も小売店の人たちも熱心に仕事を進めてくれるようになり、業績も好転してうまくいっています。安心してください」

*「血の小便」とは時代性のある過激な表現だが、幸之助の言わんとするところは、商売は決して簡単ではないということ。トップが全身全霊で臨む姿勢が根本にあってこそ、活路は開けるのではないだろうか。

■きみたちは「とどめ」をさしたかね

昭和20年代後半、松下電器東京特販部は、生産販売を始めたばかりの電気冷蔵庫を、当時日本一と言われていたデパートに納入すべく懸命の努力を重ねていた。

当時、そのデパートの電気器具売り場では、電気冷蔵庫も舶来品嗜好(しこう)から外国製品が各種各様に雛壇(ひなだん)に並び、国産品は末席に展示されていた。

日本一のデパートの売り場に展示されることが、東京全域の販売店に対して、ナショナル冷蔵庫拡売の決め手になるともなれば、東京市場拡大のためにはそのデパートへの納入が焦眉(しょうび)の急であった。

努力の甲斐あってようやく話が決まり、納品が無事完了して、特販部が喜びに沸きたっていたときである。たまたま幸之助が上京、銀座にあった特販部に立ち寄った。責任者から改めて納入成功の報告を受けた幸之助は、「それはよかったな。ご苦労だった」と部員をねぎらったあと、こう続けた。

「しかし、物事はね、とどめをさすこと、これが絶対肝心なことやで。きみたちはとどめをさしたかね。さしとらん。実は、今私は、そのデパートに寄って、売り場を見てきたんやが、仕入部に納品したことで満足しとったらあかん。仕入部に納品できたかて、その商品を電化製品売り場の冷蔵庫コーナーの人目によくつくよい場所に展示してもらい、販売促進につながる姿にしなければ、ほんとうにそのデパートに納入したことにはならん。今のところはまだ肝心のとどめがさされておらん」

幸之助は上京するなり、東京の主要マーケットを歩き、そのあとで特販部に立ち寄っていたのである。

銀座の町並み
写真=iStock.com/PhotoNetwork
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PhotoNetwork

■神さんはうまいことデザインしはるな

昭和30(1955)年ごろ、テレビの新製品を出すに先立って、役員会が開かれた。テレビ事業部の担当者が、5、6台のテレビを持ち込み、検討が始まった。みな新しいデザインの新製品である。重役のひとりが、1台のテレビを見るなり言った。

「なんや、この仏壇みたいなデザイン!」

担当者にも言い分がある。

「テレビというのはブラウン管がありますから、それに制約されて、あとはつまみと若干の飾りだけで、どうしても同じようなデザインになってしまいます」

聞いていた幸之助が、ふいにこんなことを言いだした。

「地球の人口は今何人や」

「……」

「25、6億人おるのとちがうか。それがみな違った顔をしてるわな。これだけの同じような大きさの中で、部品もみな同じやけど、顔はみんな違うで。神さんはうまいことデザインしはるな」

“神さんのデザイン”という言葉に、頭を殴られたようなショックと恥ずかしさを覚えて事業部に戻った担当者は、さっそく改めての検討を開始した。

■お客様は必ずしも「説明書どおり」に使わない

ミキサーの商品試験に幸之助が立ち会ったときの話である。

担当者が、コップ一杯の水にリンゴ一個を使い、説明書どおりの分量でジュースをつくった。それを試飲したあと、幸之助は、みずから水量を半分にしてジュースをつくり始めた。

「社長、それは困ります。その水量での実験はやっておりませんし、説明書にも書いておりません。お客様にも説明書どおりでの使用をお願いしています」

「しかし、きみ、お客様は必ずしも説明書どおりではなく、いろんな方法でお使いになるものだ」

幸之助は、濃いジュースや薄いジュースをつくり、舌触りを確かめてから言った。

「これなら発売してもええな」

■幸之助は「事務の合理化」をどう進めたか

昭和39(1964)年7月、熱海で行なわれた販売会社代理店社長懇談会(通称、熱海会談)のあと、幸之助は会長でありながら、営業本部長代行として第一線に復帰し、経営の改革にあたっていた。そんな朝、突然、「今、事業部や営業所から取っている報告書、あるいは本社から出している定期的な通達を全部持ってきてほしい」と指示した。

PHP理念経営研究センター『松下幸之助 感動のエピソード集』(PHP)
PHP理念経営研究センター『松下幸之助 感動のエピソード集』(PHP)

書類は会議用の机の上に山積みにされた。しかし、1日、2日たっても幸之助は何も言わない。集めた書類を見る様子もない。

3日目に経理課長が、「これを返していただかないと仕事にならないので困ります」と言ってきた。幸之助は、「そうか。持っていきなさい」と、見もしないで返した。それからさらに日を経るうち、何人かが書類を取りに来た。が、20日たってもだれも来ない部署も多かった。

20日目の朝、幸之助は、「この書類はきょうかぎり廃止や」と言った。「20日間も見ないですむ書類を、なんで集めたり出したりしているのか。もうやめや」

幸之助は、委員会をつくって評定したりすることなく、実際に即したやり方で一気に事務の合理化をはかったのである。

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PHP理念経営研究センター 松下幸之助が提唱した“理念に基づく経営のあり方”を探求するために設立された研究機関。企業をはじめとする各経営体が、いかに各自の経営理念に基づく良好な経営を行なうか、すなわち“経営理念”実現の手法を模索し、理念経営についての理論研究や調査を推進し、企業等の組織の経営力向上のためにさまざまな提言活動をしている。

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(PHP理念経営研究センター)

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