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名刺にFAX番号を書くのは日本人だけ…海外紙が報じた「働き者の日本人がどんどん貧乏になっていく理由」

プレジデントオンライン / 2024年8月2日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■なぜ日本経済は「世界4位」に転落したのか

世界第3位の経済国だった日本だが、昨年、ドイツに抜かれて4位となった。内閣府が2月に発表した名目GDP(国内総生産)はドル換算で4兆2106億ドルとなり、ドイツの4兆4561億ドルを下回った。

原因にはもちろん円安や国内消費の伸び悩みなどが複合的に影響しているが、海外メディアが揃って指摘しているのが日本の労働生産性の低さだ。国民1人あたりの労働時間あたりGDPは、アメリカの3分の2を割り込む。

結果として、賃金が伸びない。OECDのデータによると、1991年から2022年までの賃金の伸び率は、アメリカで150%となった一方、日本はわずか3%に留まった。

海外各紙は、日本の細やかな仕事ぶりを称えつつも、課題を指摘する。「Karoshi(過労死)」が生じるほどの長時間労働の習慣や、いまだにFAXを使う紙ベースの業務、そしてオフィスに長時間いることが良しとされる職場文化などだ。

もちろん、伝統を重視する姿勢こそが日本の魅力である、との意見も海外紙の読者からは聞かれる。だが、細やかな仕事ぶりに定評のある日本といえど、国際的競争力を維持するためには、旧式の方法論を捨てる時が来ているのかもしれない。

■「テクノロジー先進国」の日本に潜む非効率

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は6月に公開した動画で、日本の先進性を取り上げている。動画は、「日本はしばしば、イノベーションの国として見られている」と断言しており、「新幹線から、ロボット工学の開拓まで」をカバーする、先進技術の国になっていると評価する。

動画は、「多くの人が、この国が現代的なテクノロジーの最前線であると考えているのも、何も不思議なことではない」と続ける。しかし、その一方で、古い技術や伝統的な慣習に依存していることが経済の足かせとなっている、とも指摘している。

日本の労働生産性は、アメリカの約3分の2、ドイツの約4分の3に過ぎない。OECDがまとめた労働時間あたりGDPは、アメリカが74ドル、ドイツが68.5ドルに対し、日本は48ドルに留まる。

■「フロッピーを使うエリート官僚」を報じた米紙

生産性の足かせになっていると指摘されているのが、新技術への移行の遅さだ。

象徴的な出来事として、日本の官公庁においてフロッピーがつい近年まで使われていたことが、海外でも報じられた。河野太郎デジタル大臣が、およそ1900種におよぶ手続きでいまだフロッピーが使われていることを問題視し、フロッピーを撲滅する“戦争”を宣言したことはあまりにも有名だ。

“戦争”は、河野氏の勝利に終わった。ワシントン・ポスト紙は7月、「日本のデジタル関連省庁は先月、フロッピーディスクとの戦いに勝利したと発表した」と報じている。

もっとも、日本だけが例外的にフロッピーを使っていたわけではない。2015年にはノルウェー医療界で、2016年にはアメリカの核開発プログラムで、それぞれフロッピーが使われていたと同紙は述べている。ボーイング747-400型機に至っては2020年まで、重要なアップデートをフロッピー経由でインストールしていたという。

フロッピーディスク
写真=iStock.com/webclipmaker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/webclipmaker

とはいえ、やはり同紙は、「それでも、日本の古めかしい技術への依存の長さは際立っている」と指摘する。

■FAXはすでに「骨董品」…名刺のFAX番号がジョークのネタに

FAXが現役で使用されていることも、日本の生産性の停滞の象徴となっている。日本経済に詳しい経済学者のイェスパー・コール氏は、日本の労働生産性の低さについてウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「こんな昔ながらのジョークがあります」と切り出す。

「(ある人物が)日本の企業で働いていると、なぜ分かったのでしょうか? 答えは、『名刺を見ると、そこにFAX番号が載っていたから』です」

電子メールが浸透した今、欧米の先進国では、FAXはすでに骨董品の扱いだ。

FAXを使用する手元
写真=iStock.com/piyaphun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piyaphun

FAXと並び、印鑑(ハンコ)も独特な風習だ。古い時代には個人を証明する優秀な手法だったが、電子取引が増えた現在も、物理的な紙を印刷してそこに押印している。諸外国から観れば、電子署名などのテクノロジーが発達したいまも、昔ながらの形式にこだわっていると見えるようだ。

コール氏は、「日本人は非常に几帳面なのです」と指摘する。「ハンコが枠線に触れると無効になるため、書類を一から書き直さなければならないのです。これは日本のプロセス指向の美しさでもあり、同時に、むず痒い点でもあります」

■なぜ効率化が遅れてしまったのか

FAXやフロッピーやつい近年まで現役で使われ、いまだ印鑑が求められる現状に、海外は首をかしげる。新幹線が主要都市を結び、公共のトイレにまで洗浄便座が普及しているほどの技術先進国・日本でなぜ、効率化が遅れているのか。

原因の一端として、「形式」の重視が変革の足かせになった可能性は否定できない。すでに浸透しているFAX連絡やフロッピーでの提出が「正規の」手続きである、との考えが現場に根付いており、転換の必要性を見失っていた可能性があるだろう。

また、テクノロジーの採用の遅さは、慎重さを追求しすぎるあまりの副作用だとする捉え方もあるようだ。カリフォルニア大学サンディエゴ校で日本ビジネスを教えるウルリケ・シェーデ教授は、ワシントン・ポスト紙に、「安全第一」の考え方が日本のモットーのようになっていると指摘する。

「(日本では)一般的に、物事が100%証明されないと展開できないのです」と彼女は言う。「ミスやデータ漏洩、データの紛失などは、すべて大きな代償を伴います。アメリカ人であれば、進歩のためであれば、そのようなコストを許容します。ですが、日本人はそうではないのです」

■長時間労働をやめられない日本人に向けられた視線

テクノロジーとは別に、労働生産性の向上が停滞している理由として、労働倫理の問題が横たわる。米CNBCニュースは、日本では長時間労働が一般的であり、これが労働者の疲労を引き起こし、生産性を低下させていると論じる。

記事は、日本の労働文化には「過労死」(karoshi)という言葉が存在するほど、長時間労働が一般的になっていると紹介している。2016年の政府調査によれば、日本の企業の約4分の1が従業員に月80時間以上の残業を求めており、その多くは残業代が支払われていない。

外は夕暮れ、自席で伸びをする女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

また、オンライン旅行予約サイトのエクスペディアの調査によると、日本の有給休暇取得率は63%に留まり、調査対象の世界11カ国中最も低い。他の10カ国は、100%を上回った香港を筆頭に、どの国も少なくとも有給休暇の86%を消化している。こうした状況においてなお、休み不足を「感じていない」と感じている人々の割合は日本で47%おり、11カ国中トップとなった。勤労に対する日本人の意識の高さを物語る。

東京の人材サービス会社であるスタッフ・サービスが2023年7月に実施した調査では、日本の従業員のうち、年間有給休暇を全て使い切る人は19%未満であることが明らかになった。特に43歳から52歳の世代では16%にとどまっている。43.7%は、休暇申請をする際に居心地の悪さを感じると答えている。

香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙は、日本では仕事を休んだ日に、オフィスで働いている日以上に気が休まらない、と述べる人さえいると報じる。

■2040年ごろには新興国に追いつかれるとの予測も

日本経済の弱体化については、すでに20年以上前から海外で指摘されている。国際通貨基金(IMF)は2003年の報告書『Japan's Lost Decade(日本の失われた10年間)』の中で、日本の経済停滞の原因を多角的に分析している。1990年代初頭のバブル崩壊を皮切りに、株価や土地の価格が暴落。銀行システムと企業の会計に問題を残した。

2010年代に入っても回復の光は見えず、「失われた10年」と呼ばれた空白期間は、ついに「失われた20年」と呼ばれるようになる。2024年現在、いまや「失われた30年」と呼ばれる。少子高齢化社会の不利を補う先進的な技術を導入すべきところ、FAXに象徴されるように既存技術への依存が続いた。

2024年3月、経済産業省がまとめた資料『第3次中間整理で提示する 2040年頃に向けたシナリオについて』(PDF)では、危機的なシナリオが描かれている。従来通りの考え方ややり方を維持するだけでは、2040年ごろに日本は「新興国に追いつかれ、海外と比べて『豊かではない』状況に」となり、「社会の安定性すら失われる可能性」があるとする厳しい見通しだ。

同資料は、国内投資とイノベーションを重視し、所得向上の好循環につなげることで、「人口減少下でも、一人一人の所得が増え、可処分時間が増加」し、「豊かな社会を実現できる」と論じる。

「失われた30年」のきっかけとなったバブル崩壊自体は、日本の労働生産性と直接的な関連はない。しかし、少子高齢化社会を見据えて古い手続きや技術を切り離し、より生産的なテクノロジーの導入を進めてこなかった点は反省材料となりそうだ。

■英BBC「日本は未来だったが、過去から抜け出せずにいる」

英BBCは昨年1月、「日本は未来だったが、過去から抜け出せずにいる」と題する記事を掲載した。東京特派員のルパート・ウィングフィールド=ヘイズ記者が著したこの記事では、日本がかつては未来を象徴する国であったが、現在は過去の慣習や技術に縛られていることが指摘されている。

ヘイズ氏は「ここは世界第3位の経済大国だ」と称え、「平和で豊かな国で、世界一の長寿、世界一低い殺人率、政治的対立の少なさ、強力なパスポート、世界一の高速鉄道網である新幹線がある」と、日本で実感した生活水準の高さを語る。そのうえで、鋭い視点で不合理を指摘している。

免許の更新手続き一つを取っても、日本の官僚主義を感じたという。日本で運転免許の更新といえば、免許センターへ出向くことが常識のようになっており、さらには優良運転者でも30分、一般運転者では1時間の講習を受ける必要がある。

この講習は形骸化しており、多くの参加者が眠ってしまうほど退屈なものである、と同記事は指摘する。ある受講者は、退職した交通警察官の受け皿として用意された雇用創出策である、との私見を漏らしたという。

夕日に染まる都心
写真=iStock.com/worldtravelerphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/worldtravelerphoto

■至る所で非効率な「官僚主義」が根付いている

アメリカやイギリスでも免許の更新という考え方はあるが、高齢者や違反者を除き、多くは免許センターへ出向く必要すらない。州にもよるが、オンラインや郵送で手続きを完結できるのが一般的だ。当然、基本的に講習を受ける必要はない。

日本の講習システムは、交通安全の啓蒙になっている側面があるため、まったくのムダとは言い切れない。だが、諸外国の仕組みと比較すると、免許センターへ通うことが当然のようになっていることなど、非効率が目立つのも事実だ。

FAXやハンコから、現場に足を運んでの免許更新まで、職場や日常生活の至る所に非効率なプロセスが潜む。労働生産性を高め、国際競争力を上げ、ひいては賃金を向上するうえで、国や企業のレベルで変革すべき点は多いだろう。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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