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朝日新聞も「全国紙」から脱落するのか…社長ゆかりの地「九州・静岡」が夕刊廃止に至った厳しすぎる現実

プレジデントオンライン / 2024年8月2日 11時15分

朝日新聞東京本社、2015年3月20日撮影、東京都中央区築地5-3-2 - 写真提供=共同通信社

■「紙の新聞は本当にもうダメなんだな」

朝日新聞社が10月1日から、福岡・山口など3県で夕刊の発行を休止する。同社が8月2日朝刊で、読者に知らせた。段階的に夕刊発行を縮小してきたが、今回は西部本社(北九州市)を構える福岡県も対象で、「紙離れ」や「部数減」を象徴する事態といえる。6月に就任した新会長・新社長は共に同本社に縁深いが、会社決算も冴えない中、暗いニュースからの出発となった。

「ちょっと劇画的に表現するならば『セイブよ、お前もか』というところでしょうか」

男性社員Aは西部本社の夕刊休止について、こう表現した。男性は以前、社内で「セイブ」と呼ばれる西部本社で仕事をしており、夕刊発行業務にもついた経験があるという。同僚らと議論を重ね、何とか読まれる紙面を作ろうと載せるネタを選び、レイアウトにも気を配った。そんな思い出話を披露した後、男性Aは「紙の新聞は本当にもうダメなんだなと実感しますね」と肩を落とした。

■東海3県、北海道、そして九州・山口も…

男性Aの言葉通りに、朝日新聞社は夕刊発行の縮小を続けている。

同社サイトや朝日新聞デジタルによると、昨年5月1日から愛知、岐阜、三重の3県で夕刊を休止(昨年4月時点の3県での販売部数は約3万9000部)。続いて今年4月1日から、北海道でも夕刊をやめている。

北海道での休止については、「新聞用紙など原材料が高騰し」「経費が増加」していることなどを理由として列挙。「北海道では朝刊のみ購読を希望される方や、本社のデジタルサービスを利用する方が増えています」とも説明する。

福岡など3県での夕刊休止は、これらに続く流れとなる。

2日朝刊の記事によると、今回の夕刊休止は福岡・山口・静岡の夕刊が対象。北海道と同じく、「原材料の高騰」などを理由としている。朝日新聞関係者によると、3県合計の休止部数は4万部超だという。

■朝日はデジタルシフトを強調するが…

日本ABC協会「新聞発行社レポート 半期 2023年7月~12月平均」によると、朝日新聞の夕刊販売部数は約105万部。今年分の調査では、この105万部から北海道分と今回の3県分の休止が反映される。読者が夕刊購読を止める減少分も加味すると、100万部の大台を切ることは間違いない。

一方、ライバル紙とされる読売新聞社は、朝日よりも夕刊発行を維持している。同社サイトによると、北海道での一部や、朝日がやめる福岡や山口の一部、静岡、沖縄(福岡・東京からの空輸)でも、朝刊と夕刊の「セット版」を続けている。

これには部数1位として紙へのこだわりを見せる読売と、早めにデジタルシフトした朝日の経営戦略の差がありそうだ。しかし、後述するように朝日のデジタル戦略は成功しているとは言いがたい。

その前に改めて、新聞業界全体の部数推移を確認しておこう。

日本新聞協会が毎年10月時点でまとめている新聞発行部数によると、2021年・約3302万部→2022年・約3084万部→2023年・約2859万部。たった3年間で、443万部もなくなっている。

朝日の夕刊の部数減は先にチェックしたが、朝刊部数はどうなのだろうか。角田克社長が「発信に注力しています」とする朝日新聞デジタル(朝デジ)の有料会員数を共に確認したい。

■紙の落ち込みをデジタルでカバーできていない

同社は原則4月と10月公表で、朝刊と朝デジ有料会員数などの数字を含む「朝日新聞メディア指標」を出している。

2023年3月の朝刊部数は376.1万部、同年3月末の朝デジ有料会員数は30.5万
2024年3月の朝刊部数は343.7万部、同年3月末の朝デジ有料会員数は30.6万

角田氏は「デジタルも紙も、どちらも朝日新聞」としているが、現状では紙の落ち込みをデジタルではカバーできていない。朝日新聞社は朝デジ以外にも、ハフポストやwithnewsなどグループを含めると多数のデジタルメディアを抱えるが、部数減を補うほど大きな収益源には育っていない。

こうした状況下で決算もパッとしない。

2023年3月期連結決算は、売上高が前年比2.0%減の2670億3100万円で、営業赤字が4億円超。2年ぶりの営業赤字となった。今年5月末に発表した2024年3月期連結決算では、57億8100万円の営業黒字を確保したものの、売上高は同0.8%増の2691億1600万円にとどまっている。

日本の上場企業で初めて5兆円を超える営業利益を出したトヨタ自動車に象徴されるように、5月には各社の好決算が発表された。こうした状況と比較すると、朝日新聞社の決算内容はいかにも寂しい。

■現会長、社長は西部本社管内でキャリアをスタート

かつてのように稼げる会社への転換を目指し、朝日は6月、トップ人事を行っている。中村史郎氏が社長から新会長になり、先にも名前を出した角田氏が専務から新社長に昇格する新体制をスタートさせた。

同社は東京、大阪、西部、名古屋の4カ所に本社を構える。所属した東京本社での部署から中村氏は政治部系、角田氏は社会部系と目されているが、奇(く)しくも両氏には共通点がある。共に九州・山口・沖縄の9県をカバーする西部本社管内の地を初任地としている。

1986年4月に入社した中村氏は佐賀、その3年後1989年4月に入社した角田氏は山口が振り出しだ。ちなみに角田氏は、99年5月から静岡で勤務していたこともある。かつて自ら記事を書いていた山口・静岡両県の夕刊を休止することに、角田氏はどのような感想を持っているのだろうか。

ベテラン男性社員Bによると、中村・角田両氏に代表されるように、「セイブ(西部本社)は人材供給面も含め、社内で小粒ながら独特な存在感があった」。

記者会見インタビュー
写真=iStock.com/microgen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/microgen

■東京から遠いからこそ、優秀な記者が発掘されてきた

本社間のヒエラルキーでトップに君臨するのは、もちろん東京本社だ。大阪本社は創刊の地で、同社が主催する「全国高校野球選手権大会」(夏の甲子園)が開かれる地域でもある。東京に次ぐ部数を誇ることもあり、独自の求心力を維持してきた。その反面、優秀な記者を大阪本社管内に囲って東京に出そうとしない、出しても戻そうとするなどの弊害もあったという。

他方、名古屋本社は距離の近さから東京の影響を強く受けてきた。地元紙の中日新聞が牙城を築き、特ダネ・独自ダネの獲得に苦労する記者は目立ちにくかった。

この点、西部本社は東京から遠い上に、特に福岡や山口で朝日新聞は一定の部数を確保してきた。読者の支えを受けた記者は活躍しやすい上、大阪のような人材囲い込み傾向もなく、力がある記者は東京に出られた。中村氏は佐賀から直に東京の政治部に、角田氏は山口から、西部本社の社会部を経て、東京本社の同部に異動している。

男性Bはこうした解説を披露したが、「近年、本社をまたいだ異動も増えたし、セイブの独自性も薄くなっています」とも付け足した。

福岡の夕刊休止にも増して、男性Bが気にするのは、朝日が「全国紙の看板」をどうしていくのかだ。

■朝日も全国紙ではなくなる未来が訪れるのか

この発表の少し前、競合の毎日新聞社は7月17日、9月末で富山県内での新聞の配送を休止すると発表した。全国の都道府県で毎日新聞の配送休止エリアが生じるのは、富山が初。同社は取材体制は維持していくとするが、SNSでは「もう全国紙じゃない」などの反応が出ていた。当日に届かない県があったら、それはもう全国紙とはいえないと、筆者も考える。

男性Bによると、朝日新聞社内でも一定数からは、「全国紙の看板にこだわるべきでない」とする意見があるという。特に近年、同社は記者を編集部門からビジネス部門に配置転換する措置を進めてきた。当然、編集局一強が変わり、ビジネス部門の存在感が高まる。

こうしたビジネスパーソンが「部数の少ない地方で、紙の新聞を配り続ける意味は何か」と問うた時、「朝日は全国紙であるべきだから」の答えでは納得されにくい。今後は、経営の重しとなっている地方拠点のさらなる削減に加え、配送休止まで踏み込みたいビジネス部門と、全国紙にこだわりたい記者(編集局)のせめぎ合いがより鮮明になっていくだろう。

毎日新聞が配送休止を決めた富山県内の発行部数は、朝刊のみで推計約840部と報じられている。朝日も数年以内に、どこかの都道府県で毎日と同じ決断をしても何ら不思議ではない状況にありそうだ。

(ジャーナリスト 鈴村 隆)

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