「お金がありすぎることは、足りないより悪い」ビジネスで成功するために胸に刻むべき"たった1つ"の原理原則
プレジデントオンライン / 2024年8月2日 15時15分
※本稿は、ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■お金がありすぎることは、足りないより悪い
お金については、まずはぜひ頭に入れておいてほしいことが一つある。それは、「スモールビジネスにとって、お金がありすぎることは、足りないより悪い」という金言だ。
スモールビジネスにとって最大の問題は資金不足である、という昔からある言い伝えには賛成できない。ビジネスにとって――規模が大であれ、小であれ――最大の問題は想像力の欠如であって、資金じゃない。創業間もない企業がイージーに資金を手に入れられることは、創造性をスポイルする悪しき影響を及ぼす。
お金持ちの企業はコンサルタント、弁護士、賢い会計士、広告代理店、市場調査、などなどを簡単に雇ったり手に入れたりできる。
そういうわけにはいかないお金のない企業は夢見たり、想像したりする。そして、それが重要なのだ。ハングリー精神は物事が正しい方向へ進むように加速してくれるのである。
ベン&ジェリーはアイスクリーム・ビジネスを乏しい資金で始めた。だから市場での自社のイメージを戦略的に作り上げるという芸当はできなかった。選択肢のない中、ベン&ジェリーは等身大でいくほかなかった。
そう、ありのままの姿、すなわち「ぼくたちはアイスクリームを売っているんです」という姿を見せるしかなかった。彼らのメッセージはストレートだった。ベンの表現を借りれば「南部気質丸出し」。
いまになって振り返ってみると、誰か外部の力を借りてイメージを作ることができなかったのは、逆にベン&ジェリーの大きな財産になっている。武骨さが、品質と信頼を連想させるから。
ぼくの会社、スミス&ホーケンを見てみよう。ぼくたちはベン&ジェリーよりはいくらか多く資金を使えたが、しかし、カタログを制作するのにデザイナー、写真家、コピーライター、コンサルタントなどを雇う余裕はなかった。
自分たちでやるか、あるいはカタログなしで済ませるか、二択だった。出発がこんなだったので、その後も軸がぶれることなくいけた。そして社外へ下請けに出していたら手にすることはできなかったであろう、新しいことを学ぶことができた。
■自前主義の強み
この「自前主義の強み」に気づいたのは、その数年後、友人が新しくカタログ会社を立ち上げたときだ。彼は創業キックオフを伝えるメールカタログを50万部用意した(ぼくたちスミス&ホーケンは487部)。友人は、カタログ作成をダラスの大手企業に発注した。
![オンラインで買い物をする人](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/7/1200wm/img_b76911ce5b60827a724eebe76c79b4ea334639.jpg)
ある日、ランチを共にしながら、コストはいくらかかったのか訊いてみた。制作費だけで10万ドル。点心を喉につまらせたぼくを気遣いながら、彼は訊いた。
「君の会社はいくらかけたんだい?」
この時点で、スミス&ホーケンのカタログは100万部の購読者に成長していた。ぼくは彼に、まだまだコストダウンは可能だよ、とアドバイスした。
友人は写真に2万5000ドルかけていた。ぼくの会社は4000ドル。コピーライティングに1万2000ドル。うちは自分たちで考えた。カタログレイアウトとデザインに2万5000ドル。
うちの社内デザインチームは6000ドル。タイポグラフィに1万5000ドル。うちは2700ドル。スタイリストに5000ドル。ぼくはカタログのスタイリストって、一体誰がどんな仕事をするんだい? と質問した。
以上、トータル8万2000ドルを友人は支払っていた。一方うちは1万2700ドル。
■自分で学んで向上する絶好のチャンスを逃している
友人の会社が現在店じまいしているのは決して偶然じゃない。お金を潤沢に使えたからスタートダッシュは見事だったかもしれない。しかし、だからこそ彼は躓いた。自分で学んで向上する絶好のチャンスを手にしそこなったのだ。
政治家はスモールビジネスを支援したがる。起業家にとってみれば、お金はないよりあったほうがいいので一見ありがたく思える。しかし、ぼくはこの傾向が、逆に「お金さえあれば問題はすべて解決する」という危険な考えを助長しはしまいかと懸念している。
スモールビジネスにとってお金のあることは決して雇用創出やイノベーションに結びつきはしない。逆に妨害になったりする。
お金ですべてが解決するのであれば、スモールビジネスの出番などないことになる。資金が潤沢にある大企業がすべてをやればいいのだから。
起業家が関わる以上、スモールビジネスは、お金では解決できない類の問題に取り組むからこそ、この世に生まれたと言っていいのだ。
■「伝説」に惑わされてはいけない
ビジネスの世界に慣れ、銀行家たちと付き合いが始まり、いっぱしの企業人になると、あなたは次のことに気づく。
「ビジネスに終わりはない」どこまで行っても、ゴールはないのだ。
そして、誰よりもビジネスが上手な賢人という人も、この世には存在しない。
仮にあなたが大成功して、ビジネス界の王者になったとしよう。その場合でも、調べてみれば似たような業績を上げた人はいくらでもいるものだ。
ぼくたちはみな、似たりよったりなのである。
やがてあなたに「貴重な」アドバイスをくれる人が出てくる。耳寄りの知識を伝授しに来る人も近づいてくるだろう。世界を股にかけた人脈を誇る人も寄ってくるはずだ。なるほど、彼らは大きなリムジンに乗っている。オフィスは立派、銀行口座もケチのつけようがない。
しかし、一皮むけば、メッキは簡単に剥がれる。ビジネス雑誌『フォーブス』が記事にするような賢い経営者の知恵というものも、衣を脱がせば、何のことはない、生活の中でどこにでも転がっている知恵をまとめたものに過ぎない。
成功した経営者はやるべきことをきちんと実行した。それだけ。
そこに「誰も知らないとっておきの成功の秘密」など、ない。びびることはないのだ。
ビジネスの世界は相当複雑で、しかも高速に変化している。だから、大企業トップは日替わりのように代わる。多くのトップはどっしり椅子に座るというより、かろうじてぶら下がっている、というほうが正しい。
■大企業の業務システムが常にぐらついている理由
少し前、大手化学メーカー、ユニオン・カーバイド社の副社長と話す機会があった。彼はこう言った。
「うちの経営幹部の誰一人として、大企業をマネジメントする方法なんて知らないんだ」この数年後、インド・ボパールの大惨事が起きた。
赤ん坊でもわかる程度の問題すら、幹部たちの手に負えないありさま。これというのも、企業組織の複雑さが原因である。
大企業の業務システムはぐらついている。主な原因は、たとえスーパーコンピュータであっても解けない。なぜなら、問題の多くの根っこは、人に関するものだから。そしてこのことは往々にして忘れられがちだ。
「フォーチュン500」のような大企業に限らず、それより比較的小さい企業であったとしても例外ではない。大企業の運営の複雑さから見れば、アレクサンダー大王の偉業など、まるで子どもの遊びに見えてしまうほどだ。
![ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/0/1200wm/img_000ccf3a68c8e911a64bbbca3386182b177552.jpg)
新聞や雑誌に掲載されている全知全能な経営の神様といった物語は忘れてしまおう。読者の夢をくすぐるためだけに書かれているのだから。騙されてはいけない。
大企業に比べ、スモールビジネスの経営者は日常オペレーションのコントロールが比較的自分の掌中にある。
ところが会社が大きくなるにつれ、起業家は徐々に「会社(corporation)」の語源(corpus)が身体(body)を意味することに、「なるほどなあ、たしかになあ」と気づき始める。
ビジネスが大きくなると、会社自身が生命を持ち始めるのである。そして創業者は会社と自分との間に距離を感じ始める。
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起業家、作家、活動家
環境の持続可能性およびビジネスと環境の関係を変えることに人生を捧げている。経済活動が生態系に与える影響について執筆活動を行い、経済発展、産業エコロジー、環境政策について各国の首脳やCEOにコンサルティングを行っている。本書『ビジネスを育てる』は、ホーケンがホストを務め制作したPBS(公共放送サービス)17部構成シリーズの基礎となった。115カ国でテレビ放映され、1億人以上が視聴した。著書に『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』『リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』(ともに山と溪谷社)、『祝福を受けた不安 サステナビリティ革命の可能性』(バジリコ)、『サステナビリティ革命 ビジネスが環境を救う』(ジャパンタイムズ)ほか。
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(起業家、作家、活動家 ポール・ホーケン)
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