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「TODOリスト、なんとかの10か条」は大ウソ…成功した起業家が指摘するビジネス書が犯した最大の罪

プレジデントオンライン / 2024年8月3日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/amnarj2006

仕事の問題解決に必要なことは何か。起業家のポール・ホーケンさんは「ビジネスに定石はなく、問題は常にあることが当たり前である。巷にあるビジネス書の最大の罪はTODOリスト、なんとかの10か条など『確かさ』を金科玉条にしてしまったことだ。本書の読者にぼくが伝えたい原理原則はたった一つ、『自分の頭で考えよう』ということだけである」という――。

※本稿は、ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■問題が常にあることが当たり前

数年前の秋の土曜日のこと。秋の行楽シーズンを楽しむ人出でにぎわう世の中を横目に、ぼくは一人、オフィスで仕事をしていた。いまとなっては何だったのか忘れたが、ある問題の解決に取り組んでいた。

その問題は、当時ぼくが課題としていた数百のうちの一つだ。

ぼくはいつものやり方で取り組もうとした。解決し、二度と再発しないようにするには。

何年もの間、ぼくはまるで「永遠の解決」という名前のうさぎを追い狙う猟犬のような姿勢で問題に取り組んできた。

いま少し熱心に、いま少し長く、いま少し創造的に取り組めば「うさぎ」を捕まえることができる。そして完璧なビジネスができるようになる。そう信じていた。

ビジネスの悟りを開き、暗闇の中から光あふれる至福の世界に飛び出ることができる。月曜の朝がいつも楽しみで満ちるようになる。

ぼくは間違っていた。

たしかにその日、ぼくは悟りを開いた。天啓を得た。ただ、それは思い描いていたものとはまったく正反対の内容だった。その美しい午後、まさに真実に目覚めたんだ。

「問題が解決し、すべてなくなることはなく、逆に、問題が常にあることが当たり前なのだ」

実のところ、問題があるということは、その会社が学び盛りのステージにあることの証左なのである。この新事実に出会って、ぼくは自由になった。

■ハチャメチャを愛してその中に飛び込めるか

どうして誰かもっと早く教えてくれなかったの、と思った。これまでのぼくの問題解決へのアプローチを、愚かだなあ、と誰かが見ていたかもしれない。こう囁き合っていたはずだ。

「見たか? ポールのやつ、やり方わかんないんだぜ」

月曜の朝、ぼくは社員をおもむろに見回した。「問題は常にある」ということを、彼らはすでに知っていた。知らないのはぼくだけだった。

読者の皆さんにはぼくと同じ過ちを繰り返してほしくない。最初に知っておこう。

「問題は常にある」

問題があるからこそ、そこにチャンスがある。

問題はチャンスが姿を変えているだけなのだ。

同じく、ハチャメチャな状況というのもチャンスの山だ。好んでハチャメチャの中に首を突っ込もう。ハチャメチャを愛そう。逃げず、自ら愛してその中に飛び込むことこそがハチャメチャを解決する唯一の方法なのだから。

人は、小さな問題ですら、できれば逃げたいもの。まして問題てんこ盛りの状況など、とんでもないと考えるのが普通だ。生活はきちんとしていて、予測可能であってほしい。

そう考えるのが人情というもの。ビジネスパーソンも例外ではない。秩序こそが成功の道、そう習った。折り目正しさと正確さ。家事や簿記ならそれもいいだろう。

■精神分析家が患者「を」世界「に」適合させるのをやめたワケ

創業したばかりのビジネスはいかなる予想、予測、パターンも当てはまらない。粗削りで、驚きの連続、予想もしない結末ばかりだ。しかしよく考えてみればこの世の中すべて同じで、ビジネスの世界だけが例外ではない。

さる著名なユング派精神分析家が、自らの豊富な臨床経験を振り返っていわく。

患者はみな、問題のオンパレードでやってくる。友人と思っていた人が実は友人じゃなかった。仕事がつまらない。都会の生活は難しい。健康状態が悪い。毎日がつらい。

はじめの頃、分析家は自分の仕事を「患者が世界に適合するように手助けすること」と考えていた。経験を経て、分析家は患者のほうが正しいことに気づいた。世界はそんなに良いものではない。

結婚は当てにならない。子どもたちは不良だ。学校はまるで刑務所だ。大気は汚染されている。街行く人は意地悪だ。これらすべてを要約すると。

人生は、難しい。

この「発見」後、分析家は患者の扱い方を変えた。かつてのように、患者「を」世界「に」適合させることをやめた。代わりに患者が自分の感受性の豊かさに気づくよう手助けし、世界ではなく患者たちのほうがまともなのだということを理解してもらった。

自分たちの環境への感受性を鈍らせるのではなく、逆に研ぎ澄ませば澄ますほど、犠牲者としてただ嘆いていたときより問題への対処がうまくできるようになる。

分析家は確信した。答えは、世界に対して受け身で適合するのではなく、チャレンジしていくことだったのだ。

ビジネスが問題やとんでもない混乱にぶつかったときこそ、真正面から向き合おう。ごたごたの中に、キラリと光る宝を発見できるはずだ。混乱も、逃げず向き合えば広がりが止まるし、最後は友人のように味方になってくれる。

光が差す出入り口に向かって立っているビジネスマンの後ろ姿
写真=iStock.com/Yuri_Arcurs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuri_Arcurs

■良いビジネスは面白い問題をはらんでいる

こんにち巷にあるビジネス書の犯した罪のうち最大のものは、「確かさ」を金科玉条にしてしまったことだ。

チェックリスト、TODOリスト、原理原則、なんとかの10か条、これだけやればOKという秘訣集、などなど……。これらを実行すれば、経営に「確かさ」が生まれる、とする。ウソだ。本書の読者にぼくが伝えたい原理原則はたった一つ。

「自分の頭で考えよう」

これだけ。手軽で簡単な答えに飛びつくのはやめよう。ビジネスに定石はない。ないからこそ努力が必要で、努力した分だけ報われるのである。

「問題の本質」について天啓が閃いた数日後、さらに重要な気づきを得た。問題が常につきまとうものであるなら、では、良いビジネスと悪いビジネスの違いって、何なのだろう?

答え。

良いビジネスは面白い問題をはらんでいる。

悪いビジネスの問題はつまらない。

良い経営とは「技」である。問題を面白いものにし、解決に取り組むことで社員が生き生きと働き、健康的になる。まるでお宝が交ざった福袋のように。

ところが、悪い経営ではこうなる。社員は問題を避け、書類にして机のファイルへ投げ込んで知らぬ顔。良い問題は元気をくれる。悪い問題は気力を奪う。

■ぬるい空気では、優秀な人材は外へ流れてしまう

良い問題は良い商品を求めてやまない。

数え切れないチャンスを運んでくれる。地域に寄与する。日曜午後ともなれば顧客が会社見学に訪れる。あなたを手助けしてくれる人が現れる。あなたより賢い人が社員に集まる(珍しいことではないだろう?)。競合他社はあなたの会社に肩を並べる好敵手だ。

悪い問題は悪い商品をもたらす。顧客の目には悪意がこもる。銀行の負債はとんでもない額に上る。オーバーワーク。給料が安いという不満。社員は会社に愛情を持てない。結果、だらけきった社員たち。

オーナー、経営者としてのあなたの仕事は発生する問題すべてを解決することではない。そうではなく、発生する問題が魅力的な会社にすることだ。そうすれば、賢くてずば抜けた力を持った人が応募してくれるようになる。問題の解決は彼らがやってくれる。

ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

とはいえ、問題があまりに多くても、会社にとってはじわじわとボディブローのように効いてくる。一方、会社がぬるい空気で問題がほとんど起こらない場合でも、優秀な人材は外へ流れていってしまう。後に残るのは官僚組織、ということになりかねない。

常に問題というものはあるのであり、問題を良いものにするのは自分自身のパワーだと理解すれば、あなたは問題を家に一切持ち帰る必要がないだろう。あなたは問題を、問題の好きな場所、すなわち会社に置いておけばよいのである。

問題はそれだけで解決するはずだ。

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ポール・ホーケン(ポール・ホーケン)
起業家、作家、活動家
環境の持続可能性およびビジネスと環境の関係を変えることに人生を捧げている。経済活動が生態系に与える影響について執筆活動を行い、経済発展、産業エコロジー、環境政策について各国の首脳やCEOにコンサルティングを行っている。本書『ビジネスを育てる』は、ホーケンがホストを務め制作したPBS(公共放送サービス)17部構成シリーズの基礎となった。115カ国でテレビ放映され、1億人以上が視聴した。著書に『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』『リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』(ともに山と溪谷社)、『祝福を受けた不安 サステナビリティ革命の可能性』(バジリコ)、『サステナビリティ革命 ビジネスが環境を救う』(ジャパンタイムズ)ほか。

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(起業家、作家、活動家 ポール・ホーケン)

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