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「今ある家電のどれ一つとして大企業が生み出したものはない」大企業よりスモールビジネスが強い納得の理由

プレジデントオンライン / 2024年8月4日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Olekcii Mach

変化の激しい世界において、ビジネスを成功させるには何が必要か。起業家のポール・ホーケンさんは「製品やサービスを製造したり顧客の元に届けたりするのに、いかにして『違い』を創造できるかが成功への鍵となる。市場の声に耳を傾けて即座に対応できるスモールビジネスが競争優位に立つことは間違いない。大企業なら何もかもわかっていて答えもすべてお見通し、という誤った考えがはびこっているが、実のところはその正反対である。大企業がスモールビジネスから学ぶことは多い」という――。

※本稿は、ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■規模はもはや優位性にはならない

工業化社会における統制の取れた中央集権の製造プロセスは、規模の大きさを必要とした。そしてこの規模の大きさは、同時に画一性を求めた。マス・マーケットの誕生である。

ある本によれば、工業化社会の始まりは次のようなものだった。

ある職工が、ふと気づいた。もう羊を飼う必要はない。糸なら買えばいい。おかげで職工は土地に拘束されることなく、織物の生産に没頭できるようになった。

近代の工業化というものは社会全体が同じ製品を求めること、少なくとも、買いたいという誘惑に駆られることがその出発点である。

そのため、近代企業は生産手段の標準化のために生まれたといえる。企業の持つ窮屈な制限やしきたり、官僚制、マーケティング・スキーム(計画)はすべて、均一の商品を大量に生産する目的に由来する。

消費者サービスの低下は、ひとえに「顧客は企業の都合に従うべきである。逆ではない」という企業サイドの思いが原因だ。

こんにちのマス・マーケットと大量生産からの移行の流れは、万人に受け入れられるビジネスが難しくなったということを意味する。これまでと違い、ワンサイズで全員を満足させることはできない。個々の製品・サービスごとに明確な違いが必要だ。

■製品やサービスの「違い」をいかに創造するか

グレゴリー・ベイトソンはかつて、情報を構成する主要な要素を「違いを作る違い」と定義した。

商品を、物質的なモノではなく、含有する情報量が重視される経済においては、製品やサービスを製造したり顧客の元に届けたりするのに、いかにして「違い」を創造できるかが成功への鍵となる。

この傾向はスモールビジネスにとって有利だ。少なくとも、機敏で、かゆいところに手が届き、市場の声に耳を傾けて即座に対応できるビジネスが競争優位に立つことは間違いない。

起業家はフットワークが軽いので、よりたやすく高度に情報化された製品を生み出すことができる。この情報が品質そのものなのだ。スモールビジネスは素早く考え、高速で変わることができる。

社内コミュニケーションも良好だ。おかげで、自社の製品・サービスを、より小さなターゲット市場に向けて仕立てることができる。

ビジネスをやるからにはお金を儲けなければならないが、何より優先するべきなのは、人が「欲しい」と思う製品・サービスを提供することだ。想像力と創造性が、これまで工業化社会で定石の「競合相手を打ちのめす攻撃性」よりも必要性を増している。

ビジネスでつながるイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■情報化社会相手へのギアチェンジはゼニカネで解決できない

大企業は自らのビジネス体質を、マス・マーケット相手から、情報化社会相手へとギアチェンジするのに遅れを取った。理由は、ギアチェンジに必要なものを「買う」ことができなかったからである。お得意の金でカタをつけることができなかったのだ。

マス・マーケット相手の製品・サービスの場合は、要素分解し、一つひとつを単位あたりのコストへと数量化できた。このやり方は大企業の風土にマッチした。

しかし、企業目標が、情報を重視し、社員がデザイン・マインドにあふれ、より良い製品作りに努力を惜しまず、環境への配慮もするという方向にギアチェンジすると、社員の経営への積極的な参加やアイデアによる貢献が求められる。

こうなると工場、機械、ライセンスといったもののときのように、ゼニカネで解決できるものではなくなるのだ。

数年前のことだ。さる大手シンクタンクに勤務する友人が、大手焼き菓子メーカーのコンサルティングをした。依頼内容は次のようなものだ。

「より軽く、健康的な食品、すなわち、塩分、油脂、砂糖、いずれも少なめという好みは一時的な流行か、それともほんものか」

ほんものです。数カ月後、友人は報告書でそう結論した。人々は本当により気持ち良い暮らしを求め、より長生きしたいと願っています。

報告を受けたくだんの会社は現在もまだこの新しく仕入れた知識をいかに商品化するかを検討中である。大企業だからこういう悠長な時間もお金もある。

のんびり会議をしている間にもキャッシュを稼ぎ出してくれる製品群や有名なブランドを持っているのだからいい気なものだ。

■スモールビジネスなら自分専用のニッチな市場を作れる

起業家はそもそもコンサルティングを依頼する必要などない。自分の胃袋に相談すれば、答えはすぐ出る。行動するのに何の稟議も会議もいらない。

スモールビジネスは、大企業のレーダーの下をかいくぐって自分専用のニッチな市場を作り上げられる。

P&Gにしてみれば、「たかが1000万ドルぽっちの小さい」市場のために自分の大きな図体を縮めて取り組む気になるはずがない。ぼくの会社スミス&ホーケンの今年の売上高は3000万ドルだ。

スモールビジネスとしてはまずまずの大きさかもしれないが、それでもまだ、大企業が自分も手を出してみようという気になる規模には達していない。

大企業なら何もかもわかっていて答えもすべてお見通し、という誤った考えがはびこっている。実のところはその正反対なのに。

いいかい、大企業はただ大きい、というだけの話なんだ。それを忘れてはいけない。非効率的、非生産的、非革新的だ。いたずらに検討と会議を重ねるだけで、大企業はスモールビジネスの足元にも及ばない。

ゼネラル・エレクトリック・クレジット社T・K・クィン前会長がかつてこう言った。

「いまある家電のどれ一つとして、大企業が生み出したものはない。洗濯機、電子レンジ、ドライヤー、アイロン、電灯、冷蔵庫、ラジオ、トースター、換気扇、電気座布団、電気カミソリ、芝刈り機、冷凍庫、エアコン、電気掃除機、皿洗い機、ホットプレート」

■大企業内起業ブームに隠れて根っこにある「遅さ」

エリュウホンのボストンの第一号店にふらりと立ち寄ってみた。会社は急速に成長まっしぐらの時期だ。

某スーパーマーケットチェーンのお偉いさんたちが四人、店の床面積を測っていた。キャッシュレジスターの中身も見て、ノートにつけていた。

スーパーの買い物かごに入れられた食料品
写真=iStock.com/Nodar Chernishev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nodar Chernishev

要するに、床面積あたりの売上を出したいようだ。実はうちの店、食品業界では驚異的な金額を叩き出していた。お偉いさん直々に、わざわざお運びいただき、ご苦労さまです。

さる大手シリアルメーカーはわが社の関係会社の名前を広告スローガンに添え、自社のコーンフレークの市場地位を足固めしようとした。

別のシリアルメーカーはぼくたちのロゴとパッケージ・デザインを借用し、ろくに挨拶もしなかった。大企業のやることなんて、しょせんこんなものだ。

組織における宿命的な体質は、「遅さ」。逃れられないほど体質化してしまっている。

昨今、企業内起業家精神をもてはやすのが流行りだ。これは現在の大企業のビジネスを再構築し、活性化するものとされているが、大組織の根っこにある「遅さ」を忘れている。

起業家精神は何よりもまず、静的に、止まった状況に変化を生み出す。変化に乏しく、「止まった」状況は、政府、大企業、教育機関など、いわゆる大きな組織に多く見られる。

■組織的行動は変化を検証する

本来、起業家的行動と組織的行動は共に必要なものだ。互いを補完し合う。起業家精神は変化を生み出す。組織的行動は変化を検証する。

この点について、ゼロックス・パロアルト研究所(PARC)の事例を見てみよう。同研究所はゼロックスによって設立された、シリコンバレーの調査機関である。

未来の情報アーキテクチャー(構造体)を見極める、そしてそれに基づいた未来のオフィスを発明することを目的とする。

スタンフォード大学の近くに位置するPARCは、当時芽生えたばかりのIT分野に集う俊英たちが続々吸い寄せられてくる魅力に満ちていた。1974年、PARCは最初のパソコン「ジ・アルト」を発明した。

ラリー・テスラーと同僚はグラフィック・スクリーン、文字フォント、アイコン、重ねられるウィンドウ、ポップアップウィンドウ、お絵かきに使うペイントプログラム、そして、マウスを創り出した。

あなたはいま、アップルコンピュータの有名なマッキントッシュを思い浮かべたかもしれない。でも、Macではない。Macになってもおかしくなかったのだが……。そう、いまからそのあたりの秘話を話そう。

■ビジョンに沿って、Macを創ったジョブズ

スティーブ・ジョブズがゼロックスPARCを訪ねたのは1979年のこと。彼はアルト・コンピュータにマウスがついているのを目にした。

ラリー・テスラーの言葉を借りれば、ジョブズは「何か叫びながら、部屋中を飛び跳ねて回った」。ジョブズは「どうしてこれで何かしないんだい?」と繰り返した。

つまり、こういう意味だ。「君が何かしないんだったら、ぼくがやってしまうぜ」

PARCスタッフの、パソコンを作って売り出そうという具申にもかかわらず、ニューヨーク州ロチェスターのゼロックス本社は、そんなリスクを冒すことはできないと突っぱねた。

ゼロックスの重役たちにとって、ちっぽけなマシンごときに「賭ける」ことなどできなかった。自分たちのいる世界の「外」は、見えていなかった。

テーブルの上のiMac
写真=iStock.com/Armastas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Armastas

スティーブ・ジョブズにとって、そのMac風のマシンこそが賭けるべき対象だった。楽しく、幼稚園児からプロの作家まで、あらゆる人にとって使いやすく、みんなが欲しくなるコンピュータ。これが答えだった。ジョブズは人を見ていた。

ゼロックス本社は組織を見ていた。仮にそのときゼロックスがマーケット・リサーチをしていたとしたら、まず間違いなくコンピュータの開発を控えるような結果が出たはずだ。

当時コンピュータの「マス・マーケット」など存在していなかったのだから。しかし、そもそもそんなマーケットなど、存在し得たんだろうか?

人はコンピュータそのものを知らなかった。コンピュータと聞いて連想するのは、せいぜい宇宙ロケットのプログラムや航空機チケットの予約システムくらいだった。

しかし、スティーブ・ジョブズには未来がくっきり見えていた。そのビジョンに沿って、やがて彼はMacを創ったのである。

■スモールビジネスは変化と差異が命

ここでしばらく経済を横に置いて、生物生態系、エコシステムをイメージしてほしい。二つの生態系が出会う場所――森林と平野のように――では、いずれの系にも属さない小さな場所がある。

植物も動物も、独自の生態系になっている。境界地域である推移体(エコトーン、ecotone)では、そこでしか生きられない、既存の価値では規定できない辺境の種が生息している。

動物の餌になるわけでも、朽ちた後、腐植土として森林の土壌に還るわけでもない。あたかも、二つのより大きな生態系から恩恵を受けているかのように生きている。

ところが、二つの生態系のうちの一つが突然、たとえば疫病の流行や気候の急速な変動などでダメージを被ったら、境界全域が生態系のバランスを保つような働きをする。

以上、本来はもっと長い話を単純化して述べた。大事なのは次のことだ。

「変化、意味ある変化は常に辺境、境目から生まれる」

経済も同じだ。経済の革新は多くがカルチャーの境目からやってくる。起業家精神の発露によってもたらされる成長、ぼくはこれを「内なる差異化」と呼んでいる。

MIT(マサチューセッツ工科大学)のリサーチャー、デビッド・バーチは、大組織が小さくなることから連想して「原子化」と呼んでいる。

「フォーチュン500」企業たちがタフな国際市場の中で石油、鉄鋼、車、コンピュータといった品目で厳しい戦いをしているのと同時に、他方ではますますスリムになり、より競争力を高めている人たちがいる。

ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

数百万ものスモールビジネスだ。彼らは、大企業からのスピンオフ(独立)、在宅ビジネス、専門サービス、小ぶりの商店、デザイン会社、独自技術を生かした専門下請け工場などだ。

この大と小の共存共栄こそが、経済と文化が健康を保つ秘訣になっている。いつの世にもスモールビジネスが新しく生まれる理由はまさにここにある。

大企業は安定と画一性を基にするが、スモールビジネスは変化と差異が命だ。この変化の激しい世界において、大企業がスモールビジネスから学ぶことは多い。

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ポール・ホーケン(ポール・ホーケン)
起業家、作家、活動家
環境の持続可能性およびビジネスと環境の関係を変えることに人生を捧げている。経済活動が生態系に与える影響について執筆活動を行い、経済発展、産業エコロジー、環境政策について各国の首脳やCEOにコンサルティングを行っている。本書『ビジネスを育てる』は、ホーケンがホストを務め制作したPBS(公共放送サービス)17部構成シリーズの基礎となった。115カ国でテレビ放映され、1億人以上が視聴した。著書に『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』『リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』(ともに山と溪谷社)、『祝福を受けた不安 サステナビリティ革命の可能性』(バジリコ)、『サステナビリティ革命 ビジネスが環境を救う』(ジャパンタイムズ)ほか。

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(起業家、作家、活動家 ポール・ホーケン)

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