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なぜ「ドミノ・ピザ」は後発でも拡大できたのか…「ありふれた」商品に違う光を当てて復活させる驚きの方法

プレジデントオンライン / 2024年8月5日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jokuephotography

既存ビジネスに後発で参入して成功するにはどうすればいいか。起業家のポール・ホーケンさんは「あなたがビジネスを始めるならOKラインを上げる人になるべきであって、後から追いかける人になってはいけない。顧客の観点から、商品やビジネスの仕組みを念入りに観察し、『この点は改善できる』と思うリストをすべて書き出して実行するといい」という――。

※本稿は、ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■次にやるべきビジネスが「銀行」である理由

ある取材で、「次やるとすればどんなビジネスを?」と聞かれたので、「銀行」と答えた。

あなたがどう思っているかわからないが、少なくともぼくは、行き届いたサービスを提供してくれる大きな銀行を知らない。同じ窓口担当が3カ月以上いた試しがないし、心の底からぼくのことを信用してくれる銀行マンにお目にかかったことがない。

7年前、カール・シュミットはユニバーシィティ・ナショナル・バンク(UNB)をパロアルトで開業した。

UNBで口座を開くためには、すでに口座を持っている顧客からの推薦が条件だ。あるいは、徹底的な信用調査を受ける必要がある。ただし、一回この洗礼を受けて口座を開設したのちは、高い信用を勝ち取ることができる。

通常、銀行から電話がくるのは小切手が不渡りを出してしまったときくらいだが、UNBはこまめに連絡をしてくれる。行内のテーブルの上にあるペンは鎖でつながっていない。ロビーでは無料の靴磨きサービスが受けられるし、トイレは快適。

夏にはワラワラスイートオニオンと呼ばれる、辛味がまったくなく、とっても甘くてジューシーな玉ねぎが配られる。もちろん、無料だ。

時期がきたら「玉ねぎが届いてますよー」と電話連絡が入る。行員は顧客の顔と名前を覚えている。顧客は顧客で時に行員にちょっとしたプレゼントをあげたり、何かと相談に乗ってもらっている。離職率はごくわずかだ。

■失われたものを再び創造して取り戻す

さて、カール・シュミットがしたことは取り立てて新しいことではない。失われた何かを再創造しただけだ。すなわち、顧客のことを知っている銀行。

スミス&ホーケンの旗揚げ時、ぼくはこう宣言した。

「当社は英国スタイルの園芸道具を北米の園芸愛好家向けに提供する。手で鍛造された短い柄の鍬と熊手、北米ではあまりまだなじみのない商品ラインだ。現在の金物店や園芸店の流通システムはコスト高かつ非効率だから、直販でカタログ販売する」

アメリカ人は鍬や熊手を庭仕事に使わない。ショベルを好む。ぼくたちが売るのは短い柄だが、アメリカ人は長い柄が好みだ。

庭仕事を手伝う子供
写真=iStock.com/Zinkevych
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zinkevych

彼らは価格が安くて大量生産され、かつ寿命の短い道具に慣れきってしまっていた。スミス&ホーケンの商品はどれも長持ちする。一生モノと言っていい。

……とはいえ、このビジネスプランがうまくいく証拠なんてものは、かけらもなかった。スミス&ホーケンがビジネスとして成り立ち、ましてや成長できるなんてものを証明できなかった。

それどころか、先行して同じような園芸道具の販売を始めた2社は倒産してしまっていた。そのうちの1社、ブルドッグ社は商標の訴訟で、敗れていた。法的には相手の会社が自分では使う気もないのに「ブルドッグ」商標を持っていた。

■良質の道具は、開拓時代から第二次世界大戦までは生活の一部

最も重要な点は、アメリカの園芸愛好家たちが英国スタイルの園芸道具に興味を持ってくれるという何の証拠もなかったことだ。

ウィルキンソン、スピアー&ジャクソン、ジェックス&カテル、スタンリーといった英国の企業が北米市場に進出しようと試みたが、いずれも失敗していた。そのうちの1社など、倉庫を建設さえした。別の会社は米国の園芸道具会社を買収した。結果は出なかった。

さらに、これまでどの会社も園芸道具のカタログ通販で成功した試しがなかった。うまくいったのは、わずかに種や球根、苗といった商品だった。

金物店やガーデンセンターで買うことが当たり前の人たちに、どうやればカタログ通販で買おうという気にさせられるだろう。

「実際に道具を持ち上げたり手触りを感じたりしてから買いたい」。園芸道具を買う人はそう思っているはずだ。

市場調査がゼロックスの重役たちに「家庭用コンピュータを無視せよ」という意思決定へお墨付きを与えたように、このときもしぼくが市場調査をやっていたら、「そんなのはやめて、元の書く仕事で生計を立て給え」とアドバイスされたはずだ。

ラッキーなことに、ぼくは市場調査するだけのお金を持ち合わせていなかった。

スミス&ホーケンは、その分野で失われた何かを根っこにして創業した。だから顧客から支持され、成長できた。良質の道具は、開拓時代から第二次世界大戦までは生活の一部だったのである。失われたものにも、いまだニーズはあるのだ。

■「ありふれ」に違う光を当て、育ててみよう

日常の中にある、つまらない、取るに足りない類の商品に違う角度から光を当て、生き返らせてみよう。たとえば、ハンバーガー。この世の中、どうしてこうもひどいハンバーガーがはびこっているんだろう。

適切なレシピと、新鮮なフライドオニオンがあれば、行列のできるハンバーガーショップを作るなんてわけないはずだ。言い換えると、商品にまとわりついている余分なものを削ぎ落として、「本質」を浮き彫りにするのである。

1970年代半ばのことだ。ラッツアリ・フューエル社(サンフランシスコ)のコンサルティングをした。同社はメスキート炭(メスキートと呼ばれる木材から作られる一種の木炭)の市場拡大に奮闘するも、芳しい成果は得ていなかった。燃料として販売していたのだ。

しかし、メスキート炭は、ただの燃料以上のものだ。1700度まで加熱できる。通常のチャーコール・ブリケット(成形された炭)なら700度だ。だから時間をかけず一気に肉を焼ける。風味を損なわず、かつ、メスキート独特の香りを加えることができる。

そこでぼくはラッツアリ社に、パッケージを変えることで、ありふれたほかの燃料と差別化することをアドバイスした。メスキート炭を、燃料ではなく、調味料として売る。

ラッツアリ社はメスキート炭を調味料として販売した第一号になった。大繁盛した。

韓国系移民たちがニューヨークでやったのは、ビルのコーナーの八百屋を引き継ぐことだった。既存店のオーナーたちはやる気を失ってしまっていた。韓国人たちは新鮮で魅力的なディスプレイにし、品質が良く、お手頃価格で提供する店へと模様替えした。

スミス&ホーケンはどうか。創業期に扱っていた商品はいずれもあまりにありふれたもので、ほかの会社(卸やメーカー)は無視するか、まじめに考えていないものばかりだった。

手で使う道具は死んだ、あるいはほとんど成長の見込みのない市場だ。熊手や鍬、スコップはあまりにも平凡で、誰の興味も惹かない。そこでぼくたちは、それらの道具の形、重さ、デザイン、使い方についての説明から始めた。

カタログに道具の由来(いかにして、誰によって発明されたのか)を掲載した。スチール(鋼)製の熊手や鍬は輸入元の英国で発明されたものだから簡単だった。

魅力的で面白い情報を提供することができたら、自分たちの売っている道具とほかとの違いや素晴らしさがきっとわかってもらえる。そう信じていた。

■OKラインを引き上げろ

競合を意識する必要はない。商品やビジネスの仕組みを念入りに観察する。競合ではなくあくまで顧客の視点から、「この点は改善できる」と思うリストをすべて書き出してみよう。

この実行の積み重ねによって、毎年ビジネスのOKラインのバーを引き上げることが可能になる。

あなたはOKラインを上げる人になるべきであって、後から追いかける人になってはいけない。競合の後追いをビジネスの出発点にすると、努力のすべてが競合のすることへ集中することになる。

わが道を行く戦略はこうだ。一つの指標(ザ・スタンダード)を設定し、未来を見据える。そして創造のエネルギーすべてを新たな成長に投入する。

毎日の生活の中で、OKラインが引き上げられた事例はいくらでも見つけることができる。たとえばレストラン。いまどきの食事は新鮮でなければならない。冷凍ものでも、電子レンジでチンでも、調理済みのものでも、ダメだ。

通信販売の世界で、フリーダイヤルの電話番号のない店はない。ドミノ・ピザが宅配を始めたことでOKラインを上げた。おかげでピザ屋はみな、宅配することが当たり前になった。

宅配ピザの香りを嗅ぐ女性
写真=iStock.com/vadimguzhva
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vadimguzhva

スミス&ホーケンでは保証制度OKラインを上げた。うちの商品は、従来品と比較して価格が20~30パーセント高い。しかし、既存商品がすぐ壊れてしまうことを思えば、長持ちするので、コストというより投資といえる。

手作業の道具は、これまでの業界常識では、使い捨てが当たり前だった。もちろん、製品保証などない。スミス&ホーケンは無期限の保証をした。無条件保証をし続けた結果、ぼくたちは最も低コストの提供者となった。

また、ぼくたちはサービス面でもOKラインを引き上げた。ほかのカタログ業者たちだけではなく地元金物店も競合だとわかっていたので、できる限りのサービスを心がけた。

注文はすべて24時間以内に発送した。顧客の玄関まで届けたし、不良品が出た場合も、同じく玄関まで取りにうかがった。

■ビジネスの奥底にある可能性を開く

仮に片方を「なし」にしたらもう一方が良くなるような、二つの互いに関連し合うビジネスを見つけてみよう。

チャック・ウィリアムズが「ウィリアムズ・ソノマ」を、まさにこのやり方で始めた。

20年前、料理道具は金物店か百貨店で買うものだった。ウィリアムズ・ソノマは創業の頃、良質の料理道具「も」置く金物店っぽい顔をしていた。

やがて金物類の扱いをやめ、料理道具オンリーにした。コピー業者が多く出たが、いまやウィリアムズ・ソノマはその世界で追随を許さないリーダーとして君臨している。

スミス&ホーケンも同様の戦略をとった。園芸店は道具、備品、書籍、装飾品などを重要視していなかった。特にぼくたちが市場参入する直前など、園芸店はあたかもファストフード店のようなマインドになってしまっていた。

たとえばこんな具合だ。植物をモノのように扱い、植物の色を「売り」にしたりしていたのである。「今年の流行色はこれ」みたいなノリで。これだと毎年植物を変えなければならない。

園芸ビジネスにおける「丈夫で長持ち」という側面がなおざりにされたのである。商品に注ぐ努力も、顧客に注ぐ情報やアドバイスもお寒い限り。

そこでぼくたちは園芸ビジネスの池で泳ぐ醜いアヒルの子を抱き上げ、面白いものに変えたのである。

1ダースもの国々を訪ね、道具、テラコッタ(粘土を成形して乾かし、その後高温で焼いたもの)、書籍、器具、機械、機器など、庭を楽しく、働きやすく、目にも楽しいものに変えてくれる商品たちを探し歩いた。

やがて園芸店から、ぼくたちの商品を扱わせてほしいとの依頼が何百とくるようになった。当然のことだよね。

■古びたビジネスのお色直し

ビジネスも、古い家のように、時に一部が剥がれ落ちたりする。こうなる理由は、ある種のビジネスが成熟し、成長の見込みがなくなったから。

あるいは、大きな全国チェーン店やディスカウント店の進出で脇に追いやられたとき。商品ラインがあまりにありふれた平凡なものになったとき。

ダイナーやドライブインといった業種は60年代、70年代の遺物であり、アナクロニズムの権化だ。ファストフードやコンビニに追いやられてしまった。ところがまた復活した。

車まで注文を聞きに来てくれるスタッフ(カーホップ)、輝くジュークボックス、シェイク、ダブル・フライといったおなじみの食べ物。これらの「懐かしい」演出のおかげだ。

ぼくは、時代遅れだが行き届いたサービスの金物店は必ず受けると確信していた。場所は、古い家々が立ち並び、ボートの艇庫があるようなエリア。

そういうところに住む人は、自分の手を使って働くのが好きだから。オールド・ニューヨーク・ブリューイングは自分の醸造所の中にレストランを造った。英国やドイツでは昔からよくあるやり方だ。

スミス&ホーケンの小売店で少しずつ試しているのは、フルサービスの園芸の再創造(リ・クリエイト)だ。植物の世界は複雑なので、おそらく何年もかかるだろうが、大規模な栽培者からではなく、比較的小さめのところがいいと、丁寧に探した。

条件は、健康的な種を育ててくれる栽培者。たとえば、かぐわしい香りのバラ、甘い香りのクレマチス、きれいに揃ったラベンダーなどを提供してくれる。

ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ポール・ホーケン『ビジネスを育てる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

こういった栽培者たちは現在、近代化と便宜至上主義(コンビニエンス)の流れによって脇に追いやられてしまっている。

ビジネスを育てるプロセスの中で、ぼくたちは自分たちと顧客の両方を教育していった。

当時支配的だった一年こっきりの単年生育や色の鮮やかさ志向を、何年もじっくり育てる多年生植物、そしてそれと繊細に溶け込む景観作りの園芸に変えようとしたのだ。

これは国にさかのぼる園芸のやり方だが、時を超えた魅力を放っていると思う。

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ポール・ホーケン(ポール・ホーケン)
起業家、作家、活動家
環境の持続可能性およびビジネスと環境の関係を変えることに人生を捧げている。経済活動が生態系に与える影響について執筆活動を行い、経済発展、産業エコロジー、環境政策について各国の首脳やCEOにコンサルティングを行っている。本書『ビジネスを育てる』は、ホーケンがホストを務め制作したPBS(公共放送サービス)17部構成シリーズの基礎となった。115カ国でテレビ放映され、1億人以上が視聴した。著書に『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』『リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』(ともに山と溪谷社)、『祝福を受けた不安 サステナビリティ革命の可能性』(バジリコ)、『サステナビリティ革命 ビジネスが環境を救う』(ジャパンタイムズ)ほか。

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(起業家、作家、活動家 ポール・ホーケン)

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