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「電車はこれが一番便利」となっても不思議ではない…交通系電子マネーの絶対王者Suicaの"意外な強敵"

プレジデントオンライン / 2024年8月7日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/aozora1

現金からキャッシュレス決済へのシフトが進んでいる。金融アナリストの高橋克英さんは「クレジットカードのタッチ決済の導入が公共交通機関で進んでいる。大阪・関西万博を控えた関西をはじめ、首都圏でも東急電鉄や東京メトロが実証実験を開始した。JR東日本のSuicaの脅威になるかもしれない」という――。

■「新札をまだ見たことがない」現金離れの実態

今年7月、2004年以来、20年ぶりにデザイン変更がされた紙幣が発行された。新たな紙幣は、1万円札が「近代日本経済の父」と呼ばれる渋沢栄一、5千円札は津田塾大学の創設者である津田梅子、千円札は細菌学者の北里柴三郎の肖像が採用されており、すでに手にしたり利用した読者の方も多いだろう。

一方で、通勤・通学ではSuicaなど電子マネー、コンビニや食事、買い物ではPayPayなどQRコード決済やクレジットカード利用なので、現金を利用する機会がなく、新札をまだ手に入れていない読者の方もいるかもしれない。

実際のところ、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にするという政府目標もあり、経済産業省によると、2023年のキャッシュレス決済比率は、前年比3.3%増加の39.3%(126.7兆円)に達しており、右肩上がりで成長を続けている。

キャッシュレス決済額の内訳では、高額決済が多く広く普及しているクレジットカードが83.5%(105.7兆円)と大勢を占めている。その他、QRコード決済が8.6%(10.9兆円)、電子マネーが5.1%(6.4兆円)、デビットカードが2.9%(3.7兆円)となっている。

■「QRコード決済」が電子マネーを上回る状況

あらためて、「電子マネー」とは、利用する前に現金をチャージして使う決済サービスを指す。代表的な電子マネーには、交通系では、Suica、PASMO、ICOCAなどがあり、小売流通企業では、楽天Edy、WAON、nanacoなどがある。

QRコード決済は、スマホの決済アプリと、QRコードを利用した決済方法であり、コードを読み込むことで、利用者の決済アプリに登録したクレジットカードや銀行口座、電子マネーなどから支払いが行われる。代表的なQRコード決済には、PayPay、楽天Pay、au PAY、d払いなどがある。

注目すべきは、QRコード決済が、電子マネーを上回る状況が2年連続で続いている点だ。ポイント経済圏と連動したPayPayなどQRコード決済業者によるキャンペーンが功を奏しているといえる。

■コンビニなどで拡大する「タッチ決済」

現金からキャッシュレスへのシフトが進み、キャッシュレス決済間の競争が激しくなり、QRコード決済が電子マネーを逆転するなか、電子マネーにはさらに分が悪い動きが広がりつつある。

それがクレジットカードなどによるタッチ決済だ。

タッチ決済は、タッチ決済対応カード(クレジット・デビット・プリペイド)または、同カードが設定されたスマートフォン等を、店頭の専用端末にタッチするだけで、完了する支払い方法だ。サインも暗証番号の入力も不要であり、ビザをはじめ、マスターカード、JCB、アメックスなど各社が世界中で普及に力を入れている。

端末に差し込み暗証番号などを入力する従来型のクレジットカード決済や、スマホアプリを立ち上げるQRコード決済よりも早く、電子マネーと大差なくワンタッチで完了することから、コンビニ、ファストフード店、スーパー、飲食店、ドラッグストア、書店、百貨店、商業施設など、日常生活における利用機会が急速に拡大している。

また、タッチ決済は、国内外で展開されている国際標準のセキュリティ認証技術を活用した決済方法であり、いつものカード利用と同様の安心さも備えている。なお、一定金額(原則1万円)を超える支払いは、カードを挿し暗証番号を入力するか、サインが必要となる。

クレジットカードのタッチ決済
写真=iStock.com/Kiwis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kiwis

■公共交通機関でも急速に導入が進む

実はこのタッチ決済は、店舗などの利用にとどまらず、公共交通機関での導入(「タッチ決済乗車」)も急速に進んでいる。

「タッチ決済乗車」では、電車はバスなど公共交通機関の乗降時にタッチ決済に対応したカード(クレジット、デビット、プリペイド)、同カードが設定されたスマホなどを専用決済端末にかざすだけで即座に料金の支払いが完了するサービスだ。

国内外問わず、タッチ決済に対応したカード保有者が利用できることから、増加するインバウンドの決済ニーズにも応えることができる。国内では、Suicaをはじめ交通系電子マネーが独占状態だが、Suicaなど電子マネー決済と違い、「タッチ決済乗車」では、事前のチャージを必要としない点も強みである。

国内では、三井住友カードとビザ・ワールドワイド・ジャパンが先駆者として「タッチ決済乗車」の普及に努めているが、2024年6月には、クレディセゾンも、ビザ・ワールドワイド・ジャパンとともに、公共交通機関向けのタッチ決済事業に参入すると発表した。クレディセゾンはサービス導入を希望する公共交通機関、決済事業者に向けたキャッシュレス導入の支援を行うとしており、2024年夏より決済事業者であるモバイルクリエイト(大分市)、年内よりルミーズ(小諸市)と路線バスなどで実証実験の開始を予定している。

■大阪・関西万博が起爆剤になる可能性

欧州など海外ではクレジットカードによる「タッチ決済乗車」が普及している地域もあるなかで、インバウンドにとって、わざわざSuicaやPASMOなど日本国内限定の交通系電子マネーを手に入れて利用するのは、使い勝手も分からず煩わしいものだった。しかし、ビザやマスターカードなど母国にてすでに利用しているクレジットカードで日本の公共交通機関を利用できれば、利便性は飛躍的に高まることになる。

こうしたなか、2025年に大阪・関西万博を控えていることもあり、大阪メトロに続き、2023年11月には、近畿日本鉄道、阪急電鉄、阪神電鉄の関西の大手私鉄3社が、2024年内にタッチ決済に対応した改札機を全駅に整備することを発表。2021年から導入を進めている南海電鉄も含めると、交通系電子マネーICOCAを擁するJR西日本を除く、関西の主要な私鉄や地下鉄に「タッチ決済乗車」が導入されることになる。

JR西九条駅で行われた大阪・関西万博をPRするイベントで、開幕まで「365日」を示すカウントダウン時計とポーズをとる公式キャラクター「ミャクミャク」=2024年4月13日午前、大阪市
写真=共同通信社
JR西九条駅で行われた大阪・関西万博をPRするイベントで、開幕まで「365日」を示すカウントダウン時計とポーズをとる公式キャラクター「ミャクミャク」=2024年4月13日午前、大阪市 - 写真=共同通信社

なお、2024年5月には、熊本県内で路線バスや鉄道を運行する5つの事業者が、Suicaなど交通系電子マネーによる決済を2024年内に廃止し、クレジットカード等の「タッチ決済乗車」を導入すると発表している。元々、四国や東北の一部などで交通系電子マネーが利用できない地域があった。読み取り端末の設置コストや事前チャージが必要な点がネックとなり、この先も、大都市圏を除く地方においては、交通系電子マネーを廃止したり、縮小する動きが続くことも考えられよう。

■東急電鉄や東京メトロが実証実験を開始

首都圏では、2024年5月、東急電鉄が、世田谷線を除く東急線全駅でタッチ決済乗車に対応した改札を設置、後払い乗車サービスの実証実験を開始している。他にも、東京メトロ、西武鉄道などで、タッチ決済乗車の実証実験の開始が発表されている。

もっとも、首都圏では、JRだけでなく多くの私鉄や地下鉄が、相互乗り入れをしており、他社線への乗り換えも頻繁にある。SuicaやPASMOでは、JRや私鉄、地下鉄の乗り換えを1枚のICカードやスマホでできても、タッチ決済乗車では対応できていないのだ。

こうしたなか、2024年5月、京浜急行と都営地下鉄は、三井住友カードやビザ・ワールドワイド・ジャパンなどとともに、羽田空港と都心間において、首都圏で初となる「タッチ決済乗車の相互利用」の実証実験を2024年内に開始すると発表しており、首都圏でも相互乗り入れに対応したタッチ決済乗車は、普及していきそうだ。

■交通系電子マネーの絶対王者Suica

勢いに乗る「タッチ決済乗車」だが、あくまで、該当するクレジットカードを保有することが大前提となる。クレジットカードには、事前審査があり、給与所得や金融資産の有無や延滞履歴などでクレジットカード審査が通らない人や、学生や子供など対象外で持てない人も存在することになるため、公共交通機関において「タッチ決済乗車」だけになることはない。しかしながら、その利便性から、SuicaやICOCAなど交通系電子マネーを押しのけ、短期間で主役の座を奪う可能性は十分にあろう。

こうした動きに対抗するかのようにSuicaを擁するJR東日本グループも矢継ぎ早に新たなる施策を展開している。2024年5月には、デジタル金融サービス「JRE BANK」を開始した。JR東日本では、銀行を持つことでSuicaやJREポイントの魅力を高め、グループ全体の収益の多様化と拡大を目指している。

また、2024年6月には、JR東日本は、「Suicaアプリ(仮称)」を2028年度に投入すると発表している。「Suicaアプリ」では、鉄道・交通、移動と一体のチケットサービス、金融・決済、生体認証、マイナンバーカード連携、タイミングマーケティング、健康、学び、物流、行政・地域サービスとの連携などを順次盛り込んでいくという。

JR東日本では、Suicaアプリなどによる「Suica経済圏」の拡大により、モバイルSuicaの発行枚数を2022年度末の2030万枚から2027年度には、3500万枚に増やす目標を掲げている。

路上でスマホを使用する人の手元
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

■選択肢が増えるのは悪いことではない

首都圏での公共交通機関利用にあたって、Suicaは絶対王者であり、銀行の設立やアプリの導入により、Suica経済圏の強化を図っているものの、急速に広がりつつあるクレジットカードなどによる「タッチ決済乗車」により、一気に主役の座を奪われてしまう可能性もでてきた。

もっとも、JR東日本にとって、Suicaという名の電子マネーは決済手段の1つに過ぎず、既にあるSuica機能付きのビューカードなど自社ブランドによるクレジットカードをそろえているのも事実だ。今後の展開として、JR東日本自身もこうした自社発行のクレジットカードによる「タッチ決済乗車」を増やすことで、引き続き公共交通機関での決済シェアを維持することも考えられよう。

いずれにせよ、通勤・通学者など、公共交通機関の利用者にとって、交通系電子マネー以外の選択肢が増えることは、決して悪いことではない。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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