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「みどりの窓口」に行かないとできないことが多すぎる…JRが「ネットですべて完結」を実現できない根本原因

プレジデントオンライン / 2024年8月5日 14時15分

2019年9月、新宿駅の「みどりの窓口」 JR東、駅窓口削減を凍結 - 写真提供=共同通信社

JR東日本が進める「みどりの窓口」の削減はうまくいくのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳さんは「現時点で『えきねっと』や『話せる指定席券売機』などでは業務を代替することはできない。システム構築に長けたIT企業と提携するなど、抜本的な改革が必要だろう」という――。

■なぜ「みどりの窓口」が大混雑しているのか

ここ最近、首都圏を中心にJR東日本の駅に設置されたみどりの窓口に長蛇の列が発生している。

ゴールデンウイークなどの大型連休や新幹線の運休に伴う振替などで多数の利用者がJRのきっぷを購入しようとみどりの窓口に押し寄せた。

同社は2021(令和3)年からみどりの窓口の閉鎖を進めており、またそのまま残されたみどりの窓口でも係員のいる窓口の数が減らされている。それゆえ、各地でみどりの窓口の大混雑が発生しているのだ。

たとえば4月は学生らにとって入学、進級の季節でもある。新年度最初の通学定期券は指定席自動券売機や多機能券売機では購入できず、みどりの窓口で通学証明書を係員に提示しないと購入は不可能だ。ただでさえ混んでいたみどりの窓口がさらに混雑することとなった。

そもそも、なぜみどりの窓口に行かなくてはならないのか。理由は大きく分けて2つある。

ひとつはJR東日本の指定席インターネット予約サービスの「えきねっと」のように、チケットレスで乗車可能な列車は自社を中心とした新幹線や在来線の特急列車だけとなっているからだ。

他のJR各社の指定席を「えきねっと」でも予約可能だが、指定席自動券売機で受け取る手間が生じる。予約から購入までをみどりの窓口に赴いて一度に済ませたいという利用者の心情は理解できる。

■チケットレスサービスは各社が個別に展開

これは全国一元化されていた国鉄を分割民営化した弊害だと言ってよい。

実は全国の新幹線や特急列車の指定席はJRグループの「鉄道情報システム」が一元化して管理している。一方でチケットレスサービスは「えきねっと」、JR東海の「エクスプレス予約」「スマートEX」、JR西日本の「e5489(いーごよやく)」などとJR各社が個別に展開しており、利用者が戸惑うのは無理もない。

もうひとつは、学生であるとか会員であるといった具合に、一定の条件で金額が割引となるきっぷを購入する際に証明書や会員証をみどりの窓口の係員に提示しなくてはならないからだ。

証明書や会員証に貼られた写真を指定席券売機や自動改札機の顔認証機能で照合する機能があればみどりの窓口に行かなくても済み、チケットレス化も視野に入る。だが、まだ実証実験の段階で実用化はもう少々先だ。

■なぜ混雑しているのに「みどりの窓口」を閉鎖するのか

今年3月下旬~4月上旬にかけての混雑を受け、JR東日本は5月8日になってみどりの窓口の閉鎖を一時中止すると発表した。同社が2021年に立てた計画では、当時首都圏に231駅、首都圏以外に209駅と合わせて440駅に設置されていたみどりの窓口を2025(令和7)年までに首都圏、首都圏以外とも70駅程度ずつの計140駅程度に減らす予定であったという。

5月8日に発表の時点でみどりの窓口は209駅に設置されているそうで、ずいぶん少なくはなったものの、差し当たりこれ以上数を減らすことはない。

6月4日になってJR東日本はみどりの窓口が閉鎖された川口駅や北朝霞駅など計6駅について利用者の多い日に臨時に復活させると発表した。残る4駅は、南越谷駅、川越駅、久喜駅、北千住駅であると7月4日に公表されている。

7月4日にはさらに、みどりの窓口はあるものの、窓口の数が減らされた蒲田駅や登戸駅、武蔵溝ノ口駅、郡山駅、仙台駅、長野駅など計44駅では利用者の動向に応じて窓口が増設となることも発表となった。

JR東日本がみどりの窓口の閉鎖や窓口の削減を進めた理由は人件費の節減で、2021年当時の報道によれば25億円を見込んでいたそうだ。

■長距離きっぷの8割はネットから

国土交通省の「鉄道統計年報」によると、同社が鉄道事業において2021年度に要した営業費は減価償却費、諸税を含めて1兆4890億円で、給与の総額は2330億円であった。

25億円自体は営業費全体の0.2パーセント、人件費全体の1.1パーセントとわずかだが、節減には意味はある。同社を含めて鉄道事業には人件費を含めた固定費の割合が9割前後と極めて高く、輸送需要が減少して変動費が減ったとしても営業費の節減には貢献しないからだ。

今後縮小傾向にあると予想される鉄道事業を今後も持続させるためにも必要と同社が判断したのもある程度は理解できる。

原宿駅の自動改札機
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

もちろん、みどりの窓口の数を少なくするからには各種自動券売機、特に指定席券売機の機能の向上、インターネットによるチケットレスサービスの拡充が必要で、JR東日本は実際に取り組んできた。

2020(令和2)年度の時点で100kmまでの近距離のきっぷはSuicaといった交通系ICカードでの乗車が大多数を占め、101km以上の長距離のきっぷも全体約80パーセントが各種自動券売機やチケットレスサービスで購入されたものだという。

こう言うとJR東日本は怒るかもしれないが、利用者も別に好きでみどりの窓口を利用しているのではない。各種自動券売機やチケットレスサービスでは対応できない取り扱いが存在するため、みどりの窓口での行列に並ばざるを得ないケースも生じているのだ。

■みどりの窓口に行かないとできないこと

したがって、

・みどりの窓口でないとできない取り扱い
・「指定席券売機」で可能な取り扱い
・チケットレスサービスで完結する取り扱い

について知っておくだけでもみどりの窓口の混雑は緩和され、利用者にとっても同社にとってもよい結果をもたらすに違いない。JR東日本からの回答を以下にまとめてみよう。

まず、みどりの窓口に赴かないとできない取り扱いは次に挙げる事例だ。

1.レール&レンタカー等の割引きっぷの発売 等
2.一部乗車券類の払いもどし・乗車変更
3.定期券の払いもどし・区間変更

いま示した3項目は代表的な事例で、ほかにもあるという。「等」や「類」が何かが気になるが、実を言うとあまりに多くて載せきれない。

JR東日本では基本的に他のJR旅客会社5社のきっぷもほぼすべて取り扱っており、たとえばJR6社から発売となっている割引きっぷとなると市販の時刻表で30ページ近くを費やして紹介されるほどだ。

この点がそもそもみどりの窓口の業務が複雑となる問題だと筆者は考えるのだが……。

その点は置いておいて、駅に行く目的が「割引きっぷの購入」「乗車券や定期券の払い戻しや乗車変更」であればはなはだ遺憾かもしれないがみどりの窓口を目指すのが無難だと言える。

■「話せる指定席券売機」では代替不可能

まず事例1について、割引きっぷのうち、ジパング倶楽部等の割引きっぷの購入は各種自動券売機のうち、オペレーターがリモートで対応する「話せる指定席券売機」でも対応可能だ。事例2、事例3の取り扱いもやはり話せる券売機でみどりの窓口と同様に対応できるという。

それでは、その話せる指定席券売機がどこにあるのであろうか。JR東日本のホームページ「駅を検索」上で最も見つけやすい「路線図から検索」からも「設備の一覧から検索」からも探せない(2024年6月13日現在)。

同社に問い合わせたところ、2024年4月1日現在で92駅に設置されており、うち首都圏は60駅、首都圏以外は32駅なのだそうだ。ただし、92駅の一覧のようなものは示されなかった。

首都圏の主な駅を筆者が探したところ、2024年6月14日現在で山手線では高田馬場駅、巣鴨駅、京浜東北・根岸線ではさいたま新都心駅、南浦和駅、川口駅、王子駅、大井町駅、磯子駅、中央線では四ツ谷駅、荻窪駅、埼京線では戸田公園駅、常磐線では北千住駅、我孫子駅、総武線では稲毛駅、京葉線では海浜幕張駅にそれぞれ設けられている。

JR常磐線・双葉駅の券売機
JR常磐線・双葉駅の券売機(写真=Mister0124/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

率直に言ってみどりの窓口よりも数が少ないので、住まいや通勤、通学先の最寄り駅という理由でもない限り、みどりの窓口に行ったほうがよい。

■みどりの窓口に行かなくても済む5事例

次は各種券売機のなかでも最も機能が充実した「指定席券売機」で取り扱い可能な事例、言い換えればみどりの窓口に行かなくても済む事例を紹介しよう。JR東日本によると次の5事例だ。

1.新幹線や在来線特急列車の指定席特急券の発売
2.定期券の新規/継続発売
3.株主優待割引きっぷの発売
4.えきねっと等でご予約された乗車券類の受け取り
5.一部乗車券類の払いもどし 等

JR東日本は「指定席券売機でできること」と題したWebサイトを用意して告知に努めている。それでは各事例を補足していこう。

事例1では乗車日、区間、金額が同じであれば指定席の変更もできる。

「一部の新幹線特急券では乗車日や区間の変更も可能」というのがややこしい限りだ。基本的に乗車日、区間、金額のいずれかが変わるときはみどりの窓口に赴いたほうがよい。

事例2では、カードタイプのSuicaまたは磁気タイプの通学定期券を新規に購入する場合は通学証明書または通学定期券購入兼用証明書を係員に提示する必要がある。

12歳未満または小学生のこども用の定期券は通学、通勤とも新規はもちろん、継続時にもみどりの窓口に赴いてこどもであることを示す証明書を提示しなくてはならない(※1 今年4月からの変更点については文末に記載した)

■新幹線の運休時の払い戻しのやり方

事例5は注意が必要だ。「一部乗車券類の払いもどしは可能」としながらも、先に示したJR東日本の「指定席券売機でできること」では、「払いもどしできない事例」が多数載っている。

主なものを示すと、乗車日当日の乗車券、在来線の特急券など、ジパング倶楽部などの割引きっぷ、運休・事故等により払いもどしの対象となったきっぷだ。

最後の事例(運休・事故等により……)は実は「指定席券売機」でも対応してくれるのだが、本来手数料なしで済むところ、規定の手数料(最低220円、最高券面金額の30%)を取られてしまうので、不可能という扱いとしている。

蛇足ながら、払いもどしできる期間は長く、運休が発生した日の翌日から数えて1年以内となっている。7月22日に発生した東海道新幹線の運休時のように、その当日やその翌日に生じた、みどりの窓口の長い長い列に並ばずに払いもどしできるということだ。

※1 実は今年の4月1日から通学証明書に関する要件が緩和され、モバイルSuicaタイプの通学定期券であればアプリ上で通学証明書等の画像をアップロードして購入できるようになった。しかも、通学証明書等の画像のアップロードは入学時だけでよい。
【モバイルSuicaでの通学定期券の購入方法】

カードタイプのSuicaや磁気タイプの通学定期券もネットde定期と言ってインターネット上で申し込み、駅の指定席券売機で受け取り可能なサービスがあり、通学証明書等の提示はやはり入学時だけで購入できる。けれども、なぜか通学証明書等の提示は申し込みの際ではなく、受け取りの際となっているため、新規購入時だけはみどりの窓口に行かないと受け取れない。
【ネットde定期】

■使用エリアに注意が必要なチケットレスサービス

最後にチケットレスサービスについて、JR東日本は次の3つのサービス名を示した。

1.新幹線eチケットサービス
2.タッチでGo!新幹線
3.在来線チケットレス特急券サービス

1は、新幹線特急券と同じ区間の乗車券とがセットになったものだ。

インターネットのきっぷ購入サイトのえきねっとで購入し、Suicaなどの交通系ICカードまたはスマートフォンのアプリであるモバイルSuicaに紐付けると自動改札機をタッチするだけで利用できる。

2は、新幹線の自由席がSuicaまたはモバイルSuicaにチャージした残額で利用できるサービスを指す。Web上で登録しておくことが必要だ。

3は、1の新幹線eチケットサービスの在来線版と言ってよい。

京都駅に停車中の新幹線
写真=iStock.com/Yongyuan Dai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yongyuan Dai

いま取り上げた1~3のサービスの範囲は、1が東北・北海道、上越、北陸、山形、秋田の各新幹線で利用可能。ただ2は1のうち、北陸新幹線が東京―上越妙高間のJR東日本エリアだけとなっている。

3はJR東日本エリア内の特急列車のほか、JR北海道の一部の特急列車も含まれる。

JR東日本エリアを中心にその周辺の新幹線、特急列車しか利用できない点には注意が必要だ。

■JR東海「EX-ICカード」を使う上で気をつけること

さて、首都圏のJRと言えば、東海道新幹線を展開するJR東海も含まれる。JR東海でJR東日本のみどりの窓口に相当するのは「きっぷうりば」だ。きっぷうりばに赴かなくてはできないことは基本的にJR東日本と同じだと言ってよい。

JR東海のチケットレスサービスについても触れておこう。

同社発行の「EX-ICカード」によるエクスプレス予約、または交通系ICカードをアプリに登録する「スマートEX」がある。

JR東日本の在来線を「交通系ICカード」、東海道新幹線を「EX-ICカード」という具合に利用して両者を乗り継ぐ際も、乗り換え口の自動改札機で2枚同時にタッチすれば“一部”を除いてスムーズに進む。

一部とは「モバイルSuica」と「EX-ICカード」との組み合わせを指す。両者を重ねてタッチして乗り換えることはできない。筆者も経験があるが、係員のいる改札口に行くと手続きをしてもらえる。

■解決法は「QRコード」、「JRコンシェルジュ」

以上、現状の説明だけで大変な文字数となってしまって恐縮だ。解決策はなかなか難しい。

そのなかで、割引きっぷ、新幹線や特急列車のきっぷ、定期券はQRコード化してアプリ上で表示または自動券売機で印字して乗車できればよいと筆者は考える。

いまはバラバラなこれらのきっぷが1本の柱にまとめられるし、きっぷに記録される情報量が増えるので、多種多様な割引きっぷの形態や利用者一人ひとりの属性に合わせた設定が可能となるのではないだろうか。

もう一つ、JR東日本にJR東海という具合にJRどうしで異なる会社の連携もさらにシームレス化を進めていかなくてはならない。

チケットレスサービスの統合は難しそうだが、ならば利用者の代わりに各社のシステムを横断的に行き来して、多少の手数料を徴収してもよいから利用者にとって最適なきっぷを瞬時に手配する「JRコンシェルジュ」といったサイト(アプリ)の立ち上げをどこか意欲のあるIT企業なり旅行会社が声を上げてもらえないだろうか。

システム上の工夫で、利用者がみどりの窓口に赴く手間を省く代行サービスも提供してくればなおよい。この先、インバウンドの人たちはますます増えると思われる。いますぐ手を付けておくべきであろう。

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梅原 淳(うめはら・じゅん)
鉄道ジャーナリスト
三井銀行(現三井住友銀行)に入行後、雑誌編集の道に転じ、「鉄道ファン」編集部などで活躍。2000年からフリーに。

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(鉄道ジャーナリスト 梅原 淳)

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