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「確トラ」を阻止したいGAFAM対ハリス嫌いのイーロン・マスク…米巨大IT企業で"仲間割れ"が起きているワケ

プレジデントオンライン / 2024年8月1日 16時15分

2024年7月24日、米国連邦議会下院本会議場で行われたイスラエルのネタニヤフ首相の演説を見ているイーロン・マスク - 写真提供=CQ Roll Call/ニューズコム/共同通信イメージズ

■24時間で120億円超の寄付金を集めた新候補

バイデン大統領の電撃的な撤退表明で、11月の大統領選は、カマラ・ハリス副大統領対トランプ元大統領の対決構図がほぼ確実となった。

ついにアメリカで史上初の女性大統領誕生か? と世界の注目が集まっている。

カマラ・ハリスとはどんな人物なのか。現在59歳、サンフランシスコ市郡地方検事、カリフォルニア州司法長官、上院議員を経て前回大統領選で副大統領に就任した。インド系とアフリカ系の血を引く初の女性副大統領でもある。検事時代はDV被害者の救済などに力を注ぎ、また法廷闘争での経験から、スピーチは「これまでのどんな政治家よりもシャープで相手に切り込む力がある」との定評がある。

彼女が出馬表明してから24時間で、日本円で120億円超というこれまでの記録を塗り替える多額の寄付を集めたことも大きなニュースになった。

トランプ氏とハリス氏、2人の候補者はどんな人から支持を受け、誰から寄付を受けているのか? 広大なアメリカで票を得るためには、多額の献金がモノをいう。金の流れを知れば、おのずと大統領選の構図が浮かび上がってくる。

■3カ月しかないのに選挙資金を集められるのか

「カマラに勝ってほしいが、どれだけお金を集められるかが気になる」

筆者にそうコメントしたのは、ニューヨークのロックフェラー・センターでテイクアウトのランチ片手にオフィスに戻る途中の男性だ。

リベラルが強いニューヨークでは、長い間バイデン大統領の高齢問題で悶々としていたが、突然ハリス氏が立ったことで、停滞していた水が突然流れ始めたように、新たなエネルギーが醸成されている。街で話を聞いた民主党支持者は、ほとんどが彼女に投票すると言っていた。

しかし、ハリス氏がそう簡単にトランプ氏を倒せるとは誰も思っていない。彼女がいったいどんな人物でどんな政策を実現するのか、それを全米の多様な人々に知らしめ、投票を促すためにはとにかくお金がかかる。お金がなければ、どんなに良い候補者も勝つことができない。支持者はその調達が今から間に合うのかを懸念しているのだ。

ハリス氏の背後にはどんな有力者が控えているのか、今から見ていこう。

■財団トップやビル・ゲイツ氏の元妻が支持表明

有力者の中で、最初にハリス氏への支持を表明したのは「オープン・ソサエティー財団(OSF)」トップのアレックス・ソロス氏だ。父ジョージ・ソロス氏は長年民主党支持の慈善家として知られ、今年も自身のスーパーPACから、日本円で20億円以上を民主党候補に寄付している。

ちなみにスーパーPACとは、日本語に訳すと「特別政治活動委員会」。アメリカでは企業が直接政党や政治家へ献金することは禁じられているため、PACという団体を通じて献金している。献金の上限がないスーパーPACは、特定の政治家に紐づかないことが原則だ。しかしそれも表向きで、無尽蔵のお金が有力候補の選挙運動に流れ込む仕組みになっている。

ソロス氏に続いて支持表明したのは、メリンダ・フレンチ・ゲイツ氏。ビル・ゲイツ氏の元妻で、保有資産は1兆7000億円といわれる。彼女が特定の大統領候補への支持を公言するのはバイデン氏が初めてだったが、候補者交代で改めてハリス氏を推薦したことで、大きなニュースになった。

「最高裁や州議会が女性の中絶の権利を取り上げようとする中、カマラは全米を駆け巡り、女性の人権を訴えてきました。また有給休暇、育児、高齢者介護などを、誰もがより安く利用することができるよう戦っている」

そうコメントし、ハリス氏が大統領になることがアメリカ人にとってどれほど重要かを訴えた。

■ネトフリ創業者、ジョージ・クルーニー、ビヨンセも

続いて支持を表明したのは、ネットフリックス共同創業者のリード・ヘイスティングス氏。ハリス氏を支援するスーパーPACに11億円相当を寄付した。

そのほか、世界で最も知られる独立系投資銀行アドバイザリー会社「エバーコア」の創業者、ロジャー・アルトマン氏や、ビジネス系SNS大手「リンクトイン」の創業者で会長レイド・ホフマン氏らも支持を表明している。また彼を含め、シリコンバレーの100人以上の投資家も、「VCforKamala」のキャッチフレーズで、カマラへのサポートを約束する文書を発表している。

ビジネス界だけでなく、ハリウッドも動き始めた。民主党の資金集めにも大きく貢献しているジョージ・クルーニー氏は、バイデン氏が撤退表明するやいちはやくハリス支持の立場を明らかにした。スーパースターのビヨンセも、自身の楽曲「フリーダム」をハリス氏が集会の登場曲として使用することを許可し、暗に支持を示している。

さらに、チャーリー・XCXとオリビア・ロドリゴという、Z世代に絶大な人気を誇る2人のアーティストもハリス支持を宣言。高齢のバイデン氏は若い世代には絶望的に不人気だったが、こうした若いインフルエンサーは若者の投票意欲を掻き立てるだけでなく、草の根の寄付金活動の大きな力となるはずだ。

■シリコンバレーの経営者らは「トランプ詣で」

一方対照的なのが、トランプ氏を支持するテック・ビリオネアたち。その代表は世界長者番付2位のイーロン・マスク氏だ。

イーロン・マスク氏はトランプ氏銃撃事件の直後、彼への全面的な支持を表明。毎月70億円もの運動資金を提供すると宣言して大きなニュースとなった。

実はこの話には後日談があり、ハリス氏が立候補した直後に「個人崇拝カルトには寄付できない」と、支援を取りやめるような発言をした。だが実際には自身が設立したスーパーPACにはお金を入れており、「一体どちらの味方なのか」とSNSで炎上している。

銃撃事件で半ば神格化されたトランプ氏の圧勝を信じて金を出すと言ったものの、ハリス氏出馬で世論の風向きが変わったために、態度を変えたのではないかという見方もある。

マスク氏のみならず、シリコンバレーのIT企業経営者やベンチャー・キャピタリストらは今、こぞってトランプ氏の元に馳せ参じている。トランプ陣営の資金不足を救ったのは、こうしたテック・ビリオネアとも言われている。

彼らは仮想通貨やAIに関する規制を推し進める民主党を嫌っていたが、次期民主党政権が超富裕層に対して高い税金を課す、通称「ビリオネア・タックス(億万長者税)」を打ち出すと、規制緩和のために相次いでトランプ氏へ接触しているのだ。

■「アメリカンドリームを体現した男」を熱心に支援

こうした巨大IT企業経営者らの支援で急速に頭角を現しているのが、トランプ氏が指名した副大統領候補のJ・D・ヴァンス上院議員である。

ヴァンス氏はオハイオ州の貧しい家庭で育ち、軍隊で4年間勤めた後、自力でイエール大学を卒業して弁護士になった。その頃彼は自伝的な小説『Hillbilly Elegy』(邦題:ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち)を発表、ベストセラーになり映画化もされたほどだ。アメリカンドリームそのものの生い立ちが、トランプ支持者に強く響いている。

共和党の副大統領候補に指名されたJ・D・ヴァンス上院議員
共和党の副大統領候補に指名されたJ・D・ヴァンス上院議員(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

ところが彼はなぜかその後IT業界に入り、ベンチャー・キャピタリスト(VC)となる。その時メンターとして彼を育てたのが、決済サービス「ペイパル」の創始者ピーター・ティール氏だった。トランプ氏の政策顧問を務め、「シリコンバレーの影の仕掛け人」との異名をとるティール氏が24億円もの選挙資金を注ぎ込んで、2022年ヴァンス氏を上院議員に当選させた。

今回、ヴァンス氏の副大統領候補擁立を強く後押したのは、マスク氏とやはりVCのデヴィッド・サックス氏といわれている。その後、有力なVC企業「アンドリーセン・ホロウィッツ」の共同設立者2人もトランプ支持を表明した。

トランプ氏に献金し、身内ともいえるVC出身者を副大統領に据える。それによって第2次政権での発言権を高める意図があることは明白だ。

■シリコンバレーの覇者はオタクから「マッチョ」へ

ところでシリコンバレーといえば、その土台を作り上げたマイクロソフトのビル・ゲイツ氏や、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏などを思い浮かべるのではないだろうか?

彼らのような、英語で「nerd(ナード)」と呼ばれるテック・オタクは今でもたくさんいて、多くが中道から左派だ。

しかしシリコンバレーを牛耳るのは、今やVCを中心とするテック・ビリオネアだ。仮想通貨やAIなどに唸るような巨額の金が注入されるようになった今、シリコンバレーはかつての金融業界のような、一攫千金のアメリカンドリームをめざすエリート男性が集まる場所に変化しつつある。

夕日に染まるサンノゼ
写真=iStock.com/SpVVK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SpVVK

彼らが求めるのは金や権力だけではない。筋肉を鍛えてマッチョになり、高級車を乗り回し女を手に入れる――それが新たなシリコンバレーの文化だという人もいる。しかもスタンフォードやMITなど一流大出身の白人男性を中心とした学閥社会で、人種差別や女性蔑視もひどいという批判の声も少なくない。

こうした価値観は「toxic masculinity(有害な男らしさ)」と呼ばれる。トランプ元大統領はその代表格と言われてきたが、そのDNAは副大統領候補のヴァンス氏にも受け継がれたようだ。

■「ハリスは孤独で惨めなキャットレディ」と発言

実際に、

「トランプ銃撃事件が起きたのは、シークレットサービスに女性を雇ったせいだ」
「ハリスは子供がいない孤独で惨めなキャットレディ(猫を飼っている一人暮らしの女性という意味)」

と、トランプ氏顔負けの女性蔑視の炎上発言を繰り返している。

またトランプ氏はしばしば独裁者願望を口にするが、前出のティール氏も「私はもはや、自由と民主主義が両立するとは思っていない」「企業が政府より優れているのは、CEOの独裁だからだ。政府も同じように運営したほうがいい」などと発言している。テック・ビリオネアとトランプ氏の相性がいいのも納得できる。

一方、テック・ビリオネアとは対照的に、大企業は目立った動きを見せていない。過去40年間、大企業といえば共和党支持と相場が決まっていた。減税と規制緩和という共和党の基本的な立場が、大企業にとっては都合がいいからだ。

しかし、トランプ政権の誕生でその関係は激変した。石油会社出身のティラーソン国務長官や、銀行家のムニューシン商務長官、さらに財界のアドバイザーらが顔をそろえた。彼らによって実現した大幅な減税は、大企業に莫大なメリットをもたらした。

ところがトランプ政権はアメリカ・ファーストの保護貿易主義と、厳しい移民排斥を打ち出した。自由貿易を好み、雇用確保のために移民を受け入れたい大企業とは、ソリが合わなくなった。

そこにとどめを刺したのが、トランプ氏の態度や発言である。

■GAFAMは民主党とハリス氏に多額の献金

2017年にバージニア州で起きた暴動事件で、トランプ氏が「白人至上主義者も良い人たちだ」と発言したために、ペプシコやディズニーのCEOらがアドバイザーを一挙に辞任。2020年のブラックライブスマター運動では、支援を拒否するトランプ政権や共和党と対立した。そして2021年1月の議会襲撃をきっかけに、多くの大企業がトランプ氏への献金をとりやめた。

消費者の支持を得たい企業にとって、差別反対、人権重視の立ち位置は必須だ。しかしトランプ氏が当選すれば、双方はお互いが必要となる。大企業としてはどちらの政権が勝ってもいいように、中立的な立場をとることは当然だろう。

ではシリコンバレーから世界企業となったGAFAは、ハリス氏、トランプ氏どちらに寄付しているのだろうか?

お伝えしたように、候補者への献金はスーパーPACを通じて行われるので、詳細は明らかではない。しかし、ワシントンD.C.を拠点とする非営利団体で、選挙資金やロビー活動に関するデータを追跡・公表している「オープンシークレッツ」のサイトで、ある程度の情報を得ることができる。

それによれば、GAFAの中でもグーグル、アップル、メタは、圧倒的に民主党とバイデン氏(ハリス氏含む)に寄付している金額が多い。アマゾンも民主党寄りだが、他社に比べると共和党とトランプ氏への寄付の割合が高い。

他の大手テック企業を見ると、マイクロソフトも圧倒的にハリス氏側に献金しており、エヌビディアも民主党寄りだ。元々中道左派のシリコンバレーの伝統がここにも表れているといっていいだろう。

■“ハネムーン”を過ぎても勢いを保てるか

こうして比べると、人権を重視し社会正義を守り、女性や若者に支持されるハリス民主党と、対照的にビジネス優先の白人男性が推すトランプ共和党というコントラストがはっきりしてくる。

この違いはすでに世論調査にも表れている。CNN(7月24日)によると、全体の支持率はトランプ氏がわずか3ポイントのリードで両者拮抗しているが、女性に絞るとハリス氏が5ポイントのリード。また18~34歳の若者はトランプ氏の7ポイントリードから、ハリス氏の4ポイントリードに逆転した。

人種で見ると、黒人はハリス氏が47ポイント差から63ポイント差まで大幅にリードを広げ、ヒスパニックはトランプ氏の9ポイントリードから、ハリス氏の2ポイントリードに逆転している。

激戦州での女性と若者、マイノリティの票の行方が結果を左右するといわれる今回の選挙。今のところハリス氏の出だしは好調だが、ハネムーンと呼ばれる時期が過ぎてもこの勢いをキープできるのか、今後どれだけの資金が確保できるかにも注目したい。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。

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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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